小松法律事務所

支援措置申出が面会交流妨害目的とは認められないとした高裁判決要旨紹介


○「支援措置申出による面会交流妨害に損害賠償を命じた地裁判決要旨紹介」の続きで、その控訴審である平成31年1月31日名古屋高裁判決(判時2413・2414号○頁)要旨を紹介します。

○事案の概要は、1審原告A(被控訴人、控訴人)が、1審被告元妻B(控訴人、被控訴人)が、虚偽の事実を申告して、住民基本台帳事務における支援措置の申出を行って転居し、1審原告と長女Eとの面会交流を妨害するとともに、1審原告の名誉・信用を毀損したなどと主張して、損害賠償を求めたところ、請求が一部認容され、双方が控訴したものです。

○控訴審判決は、本件支援措置申出が要件を欠くものとは認められないこと、E及び1審被告の心身の状態の悪化を防ぐことが動機であったことを考慮すれば、1審被告が、1審原告とEの面会交流を妨害する目的で、本件支援措置申出をしたものと認めることはできないとし、原判決中被告ら敗訴部分を取り消し、上記敗訴部分に係る原告の請求を棄却しました。

○その理由概要は以下の通りです。
・支援措置の対象とされている配偶者からの暴力とは、DV防止法1条1項に規定する配偶者からの暴力(身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)であり、支援措置に被害者要件とは、DV防止法1条2項に規定する被害者(同条1項にいう配偶者からの暴力を受けた者)であることであり、1審被告Bは、平成25年7月4日にD署を訪問した際、被害歴は3年くらい前から、被害頻度は2日に1回であると申告し、1審原告も、平成23年頃に1審被告Bの態度に立腹し、1審被告Bの尻を足で押したとして有形力の行使を認めており、1審被告Bが、DV防止法1条1項にいう暴力(身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)を受けた者であると一応認めることができ、本件支援措置申出の当時、1審被告Bが被害者要件を欠くものであったとは認められない。

・支援措置の危険性要件とは、身体的な暴力を受けるおそれがあることに限られるのではなく、身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動により、その生命又は身体に危害を受けるおそれがあることを意味するものと解するのが相当であり、1審原告と1審被告Bは、本件支援措置申出の当時、Eの監護権及び面会交流を巡って激しい紛争状態にあり、1審原告の言動により、Eの当時の心身の状況は不安定となり、入院を要する等心身に有害な影響を及ぼしており、監護していた1審被告Bも心労が重なり、心身が不調で、このままでは限界であると感じていたことなどが認められ、本件支援措置申出の当時において、1審原告からの身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動により、1審被告Bがその生命又は身体に危害を受けるおそれがなかったとまで認めることはできず、したがって、本件支援措置申出の当時、1審被告Bが危険性要件を欠くものであったとは認められない。

・本件支援措置申出の当時、1審被告Bにおいて、支援措置の危険性要件がないことを認識していたにもかかわらず、あえて本件支援措置申出をしたと認めることはできず、また、面会交流は、子の利益を最も優先して考慮して定められなければならないものであるから(民法766条参照)、監護親において、面会交流が子の福祉を害すると考えて、その実現を妨げる行為を行った場合、当該行為が直ちに不当なものになると認めることはできず、E及び1審被告Bの心身の状態の悪化を防ぐことが本件支援措置申出を行った動機であることを考慮すれば、1審被告Bが、1審原告とEの面会交流を妨害する目的で、本件支援措置申出をしたものと認めることはできない。

・国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであり(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁参照)、D署長が本件意見を付したことが同条項の適用上違法であるというためには、D署長が、本件意見を付するに当たり、1審原告に対して負担する職務上の法的義務に違背したというのでなければならない。

・支援措置を定めた住民基本台帳法及び住民基本台帳事務処理要領の趣旨は、DV防止法1条1項に規定する配偶者からの暴力及びこれに準ずる行為の被害者の保護のため、加害者が、住民基本台帳の閲覧等の制度を不当に利用してそれらの行為の被害者の住所を探索することを防止し、もって被害者の保護を図ることにあり、専ら、被害者に対する関係での関係機関や警察署等の行為規範を定めたものであり、同法及び同事務処理要領において、加害者側の事情の調査等を行うことは求められておらず、加害者とされる他方配偶者に対して、関係機関や警察署等が職務上の法的義務を負うことは想定していないというべきであり、当該申出者が支援措置の要件に該当するとの警察署等の意見についても、その意見が付されたからといって、直ちに加害者とされる他方配偶者の権利又は法的利益を侵害することになるものではなく、支援措置の必要性の判断は、当初受付市町村の長が行うものであるから(同事務処理要領)、警察署等が、住民基本台帳事務における支援措置申出書の「相談機関等の意見」欄に支援措置の意見を付するに当たり、加害者とされる者に対して、何らかの職務上の法的義務を負担するとは認められず、D署長が本件申出書に本件意見を付したことが、違法であるとは認められない。

以下、控訴審判決の事案と一審判決の概要記載部分のみ紹介します。

*******************************************

主   文
1 1審被告らの各控訴に基づき,原判決中1審被告ら敗訴部分を取り消す。
2 上記敗訴部分に係る1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 1審原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じて,1審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 1審原告

(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)1審被告らは,1審原告に対し,連帯して330万円及びこれに対する1審被告愛知県については平成28年8月7日から,1審被告Aについては同月20日から各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。

2 1審被告B
 主文第1項及び第2項と同旨

3 1審被告愛知県
 主文第1項及び第2項と同旨

第2 事案の概要
1 1審原告は,平成18年9月21日に1審被告Bと婚姻し,両者の間には,平成19年に長女であるE(以下「E」という。)が出生したが,1審被告Bは,平成24年12月27日にEを連れて1審原告肩書住所地を出て別居を開始し,平成30年9月25日に1審原告と裁判離婚し,同裁判においてEBの親権者と定められた。
 本件は,1審原告が,元妻である1審被告Bと,1審被告愛知県に対して,次のとおり330万円及び遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

(1)1審被告Bに対する請求
 1審被告Bに対する請求は,1審被告Bが,Eに係る確定した面会交流審判に基づいて,1審原告に対してEの学校行事への参加や,Eに対する手紙や贈り物の送付を許す義務を負っていたにもかかわらず,これを免れるために虚偽の事実を申告して,住民基本台帳事務における支援措置(以下「支援措置」という。)の申出(以下「本件支援措置申出」という。)を行い,1審原告に住民票等の閲覧等を困難にさせた上で転居し,1審原告とEの面会交流を妨害するとともに,1審原告の職場(愛知県C市役所)における名誉・信用を毀損し,これらが1審原告に対する不法行為及び債務不履行に当たると主張して,1審原告が,1審被告Bに対し,不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計)及びこれに対する不法行為の後であり催告の後の日である平成28年8月20日(1審被告Bに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の1審被告愛知県との連帯支払を求めるものである。

(2)1審被告愛知県に対する請求
 1審被告愛知県に対する請求は,1審被告Bによる本件支援措置申出について,愛知県D警察署長(以下「D署長」という。)が,支援措置の要件を満たしていないことを認識し得たにもかかわらず,1審被告Bが支援措置の要件を満たす旨の「相談機関等の意見」(以下「本件意見」という。)を付し,その後もこれを撤回しないことが,国家賠償法上違法であると主張して,1審原告が,1審被告愛知県に対し,国家賠償法1条1項に基づいて,上記(1)と同様の330万円及びこれに対する違法行為の後の日である同月7日(1審被告愛知県に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで同割合による遅延損害金の1審被告Bとの連帯支払を求めるものである。

2 原審の判断
(1)1審被告Bに対する請求について,1審被告Bが,本件支援措置申出を行うに当たり,支援措置の要件のうち,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下「DV防止法」という。)1条2項に規定された被害者であることの要件(以下「被害者要件」という。)を欠いていたとはいえないが,暴力によりその生命又は身体に危害を受けるおそれがあることの要件(以下「危険性要件」という。)を欠いており,1審被告Bにおいてそのことを認識していたにもかかわらず,専ら1審原告との面会交流を阻止する目的で本件支援措置申出を行うという目的外利用をしたと認められるから,1審被告Bが本件支援措置申出を行ったことは不法行為に当たるとして,1審被告Bに対し,1審原告の職場における信用低下等についての慰謝料50万円,弁護士費用5万円の合計55万円及びこれに対する平成28年8月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,1審被告愛知県と連帯して1審原告に支払うよう命じた。

(2)1審被告愛知県に対する請求について、愛知県D警察署員(以下「D署員」という。)は,本件支援措置申出が危険性要件を満たしているかどうかについて,目的外利用の可能性を疑うべき端緒も十分にあり,更なる事実確認が必要な状態であったにもかかわらず,これを行わず,確認をしていれば支援措置の要件があるとの心証を得られないことは明白であったから,D署長には,D署員の上記調査義務懈怠を看過して本件意見を付記した注意義務違反があるとして,1審被告愛知県に対し,1審原告の勤務先における信用低下等についての慰謝料及び弁護士費用として,上記(1)と同額及びこれに対する平成28年8月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,1審被告Aと連帯して1審原告に支払うよう命じた。 
そこで,1審原告及び1審被告らが各別に控訴した。


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