小松法律事務所

父との長期休暇期間等年4回の宿泊付面会交流を認めた高裁決定紹介


○「父との長期休暇期間等年4回の宿泊付面会交流を認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和4年2月21日東京高裁決定(LEX/DB)を紹介します。

○相手方父が、離婚後に親権者として未成年者を監護養育している抗告人母に対し、千葉家庭裁判所がした前件審判で定めた面会交流について、宿泊を伴う面会に変更することを求めたところ、原審が、抗告人母に対し、毎年1月、3月、8月及び10月については宿泊付きの面会交流に変更を命じました。

○これに対し、抗告人母が抗告しましたが、抗告審の東京高裁決定も、宿泊付きであれ、日帰りであれ、面会交流の実施に支障があることを認めるに足りる資料はなく、前件審判の実施要領を新実施要領のとおりに変更するのが相当であるとした原審判は相当であるとして、本件抗告を棄却しました。

**************************************************

主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は,抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
1 抗告の趣旨

(1)原審判を取り消す。
(2)相手方の申立てを却下する。

2 抗告の理由
 抗告の理由は,別紙「抗告人準備書面(1)ないし(3)」に記載のとおりである。

第2 事案の概要(略称は,原審判のものを用いる。)
 本件は,相手方が,離婚後に親権者として未成年者を監護養育している抗告人に対し,当事者間の千葉家庭裁判所平成30年(家)第474号事件について,同裁判所が平成30年9月10日にした審判(前件審判)で定めた面会交流の実施要領(原審判別紙「実施要領」)のうち,第1項(面会交流の日時)に「毎月第1土曜日の午前10時から午後4時まで」とあるのを「毎月第1土曜日の午前10時からその翌日の午後4時まで」に変更することを求めた事案である。
 原審は,抗告人に対し,原審判別紙「新実施要領」(以下「新実施要領」という。)のとおり,毎年1月,3月,8月及び10月については宿泊付きの面会交流に変更したところ,抗告人がこれを不服として抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実等

 当裁判所の認定事実等(本件に至る経緯及び当事者の主張)は,以下のとおり補正するほかは,原審判の「第2 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。なお,原審判中の「当裁判所」はいずれも「千葉家庭裁判所」と読み替える。
(1)原審判3頁4行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「(8)前件審判確定後,令和元年11月を除いて,令和3年4月まで前件審判の実施要領に従って,相手方と未成年者は面会交流を行った。」

(2)原審判3頁5行目の「(8)」を「(9)」に,同8行目の「(9)」を「(10)」に,同9行目の「(10)」を「(11)」にそれぞれ改める。

(3)原審判3頁12行目末尾に改行の上,次のとおり改める。
「(12)抗告人は,原審における調停中の令和3年5月以降,相手方と未成年者との面会交流を拒んでいたところ,相手方は,本件が原審において審判に移行した後の同年9月14日,前件審判の実施要領に従った面会交流を求めて間接強制を申し立て,千葉家庭裁判所は,同月30日,抗告人に前件審判の実施要領に従って相手方と未成年者との面会交流を許すよう命じ,この義務を履行しないときは,不履行1回につき10万円を支払うよう命ずる決定をした(甲5)。この決定を受けて,同年11月以降,相手方と未成年者との面会交流が再開された(甲6,7)。」

2 検討
 当裁判所も,前件審判の実施要領を新実施要領のとおりに変更するのが相当であると判断する。その理由は,抗告理由を踏まえて原審判を以下のとおり補正し,後記3及び4のとおり,当審における当事者の補充的主張に対する判断を付加するほかは,原審判の「第2 当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)原審判4頁25行目の「即時抗告」から同5頁2行目の「照らして,」までを削る。

(2)原審判5頁11行目から12行目にかけての「本件においては,」から同14行目末尾までを「平成29年3月以降約2年間にわたって面会交流が実施されていないことを前提として,面会交流の再開直後からいきなり宿泊付きの面会交流を実施することは相当でないと判断したものと認められ,面会交流が再開されて相応の期間が経過した後に前件審判を見直すことは前件審判に反するものではない。」に改める。

(3)原審判5頁20行目から21行目にかけての「経過しており,」の次に「その間,令和3年5月から同年10月まで中断期間があったものの,相手方と未成年者との面会交流が実施されるとともに,」を加える。

(4)原審判6頁8行目の「ということ自体,」から同9行目の「いわざるを得ない。」までを「ということもできない。」に改める。

(5)原審判6頁22行目末尾に「非監護親と子との面会交流は,子が非監護親との交流を通じて,監護親だけでなく非監護親の愛情も確認し,両親との間で安定した親子関係を形成することを可能にするものとして,子の健全な成長にとって重要なものであり,子の利益に資するということができるから,」を加える。

(6)原審判6頁24行目の「なり得ないから,」を「なり得ず,」に改める。

(7)原審判7頁3行目の「未成年者は,」の次に「まだ小学生であり,」を加える。

3 当審における抗告人の補充的主張に対する判断
(1)抗告人は,宿泊付き面会交流を実施した場合,相手方が不特定多数の者が来集する場所に安易に出かけることが予想され,未成年者が新型コロナウイルスに感染するリスクがあると主張する。

 しかし,感染リスクがあることは日帰りの面会交流においても同様であるし,前述した面会交流の意義に照らすと,抽象的な感染リスクを理由として面会交流を実施しないことは相当ではなく,十分な感染対策を執った上で実施することが未成年者の福祉に適うものである。また,緊急事態宣言が発出されるなど具体的な感染リスクが高まったときは,その段階で間接交流に切り替えるなど面会交流の意義に照らした対応をすべきものである。

なお,抗告人は,令和4年1月3日の面会交流の際に,相手方が新型コロナウイルスに対する感染防止対策に配慮することなく,不特定多数の人が集まるショッピングモールに滞在したことを非難する。しかし,相手方が感染防止対策を講じていなかったと認めるに足りる資料はないし,ショッピングモールに滞在したのは,未成年者が他の場所への移動を拒んだことが原因であり(乙1の1・2),ショッピングモールの営業休止の要請がされていない状況で、ショッピングモールに滞在する行為が直ちに感染の危険を拡大するものではなかったことからすれば,相手方に非難されるべき点は認められない。
 したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。

(2)抗告人は,令和4年1月3日に実施された面会交流の開始時に,未成年者が面会交流をしたくないとの意思を示しているのに,相手方が未成年者の手を掴み,未成年者が「やめて」と言っても聞き入れず,同日の面会交流終了時にも,未成年者は相手方に手を掴まれて泣くなど,未成年者は,相手方に不信感を持ち,面会交流を拒否する意向を有していると主張する。

 確かに,抗告人提出の面会交流当時の会話の録音(乙1,2の各1・2)によれば,令和4年1月3日,未成年者が受渡し直後から面会交流を嫌がっていたことや相手方の母が未成年者を促すために未成年者に触ったことが認められる。しかし,相手方提出の面会交流当時の会話の録音(甲8,9の各1・2)によれば,相手方及び相手方の母は,未成年者に行きたい場所を尋ねても答えない中,受渡場所の店舗内にとどまり,未成年者に無理強いすることなく,冷静に対処し,最後には,それなりに落ち着いた面会交流が行われている。

未成年者は,同日の面会交流の途中で抗告人に架電していることなどに照らしても,抗告人の意向や心情に配慮していることがうかがわれ,同日の面会交流の状況を全体として見た場合,未成年者の様子から直ちに未成年者が相手方との面会交流について拒否的な心情を有しているとまで認めるのは相当でない。

 また,資料(乙3の1ないし4)によれば,抗告人は,令和3年12月の面会交流の終了時に,相手方及び相手方の母が未成年者とはぐれていたことを問題視していたことが認められ,そのため,令和4年1月の面会交流の終了時には,一人で受渡場所に先に行こうとする未成年者を,相手方の母が「こないだいなかったでしょ。だから怒られちゃったの。」と言って押しとどめていた(乙2の1及び2)ことが認められる。したがって,未成年者が相手方又は相手方の母に手を掴まれていたとしても,はぐれないようにするためであると認められ,相手方の未成年者に対する「実力行使」ではなく,相手方の監護能力が低いことを示すものではない。

 したがって,未成年者が面会交流について真に拒否的な心情を有しているとか,相手方らがむやみに実力行使に及んでいるなどということはできず,抗告人の主張は採用することができない。

(3)抗告人は,相手方が過去の交通事故の影響により片足が不自由であり,成長した未成年者に追いつくことができず,未成年者の安全に配慮して監護することができないから,宿泊付き面会交流を認めることはできず,日帰り面会交流についても,時間の短縮を考慮すべきであると主張する。

 令和3年12月の面会交流の終了時に,相手方が未成年者とはぐれていた点については,相手方が未成年者に追いつけなかったことが原因だとしても,未成年者は,受渡場所に向かおうとして急いでいたことがうかがわれるし,場所が受渡場所の店舗内であり,未成年者が8歳であったことからすれば,未成年者の安全に関わる事態ではなかったと認められる。このほか,相手方の片足が不自由であることから,宿泊付きであれ,日帰りであれ,面会交流の実施に支障があることを認めるに足りる資料はない。

(4)抗告人は,相手方が未成年者の食事や水分補給に配慮していないと主張する。
 しかし,資料(甲9の1・2)によれば,面会交流中,相手方が未成年者に「何か食べるかい。」と尋ねたり,相手方の母が「何か飲むとか,のど渇いたら言って。」と聞くと,未成年者が「のど渇いてない。」と答えたりしていることが認められ,相手方及び相手方の母が未成年者の食事や水分補給に配慮していることが認められ,抗告人の上記主張は採用することはできない。

(5)抗告人は,未成年者が相手方との面会交流に対し拒否的態度をとるようになったのは,相手方の下記〔1〕から〔4〕までの行動により,未成年者が動揺したことに原因があると主張する。

       記
〔1〕未成年者が幼稚園の年長時の運動会に,相手方が事前の了解なく参加し,幼稚園に対する迷惑行為を行った。
〔2〕未成年者の小学校の入学式に,相手方が無断で小学校に現れ,教員を巻き込んだトラブルになった。また,小学校の運動会においても,相手方が立入禁止区域に入り,同級生からからかわれた。
〔3〕面会交流時に,相手方が未成年者を叱責したり,大きな声を出したり,未成年者の体を掴んだりした上,未成年者に対し,抗告人の悪口を言った。
〔4〕未成年者が名前について,同級生から,■みたいであるとか,■とからかわれた。

 〔1〕から〔3〕までの行為については,相手方は,その経緯等について反論しているところ,原審において抗告人から主張されておらず,これを証する資料も提出されていない。また,前件審判確定から令和3年4月までは,基本的に月1回の面会交流が継続しており,〔1〕から〔3〕までの行為の翌月の面会交流に影響を与えたとは認められない。〔4〕の行為については,抗告人も命名に関与したと考えられ,相手方にのみ責任があるとはいえない。以上のとおり,〔1〕から〔4〕までの行為によって,未成年者が動揺し,その結果,相手方との面会交流を拒絶するようになったと認めることはできない。
 したがって,抗告人の上記主張は採用することができない。

4 当審における相手方の補充的主張に対する判断
(1)相手方は,毎月の面会交流について全て宿泊付きとすべきであると主張する。
 しかし,未成年者の年齢や別居後5年以上経過していることからすると,未成年者に過度の肉体的・精神的負担をかけないためには,相手方が種々主張する点を踏まえても,基本的に小学校が休みとなる時期についてのみ宿泊付きの面会交流を認めるのが相当である。したがって,根手方の上記主張は採用することができない。

(2)相手方は,宿泊付き面会交流の終了時間を午後2時ではなく日帰りの面会交流の場合と同様に午後4時とすべきであると主張する。
 しかし,未成年者の負担を大きくせず,翌日に対する影響を少なくするためには,宿泊付き面会交流の終了時間を午後2時とするのが相当であるから,相手方の上記主張は採用することができない。

5 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。
令和4年2月21日東京高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官 足立哲 裁判官 古閑裕二 裁判官 藤井聖悟