小松法律事務所

ハーグ条約実施法135条等で子の返還間接強制金支払を認めた家裁決定紹介


○「ハーグ条約実施法134条子の返還強制執行申立不適法とした最高裁決定紹介」の続きで、その第一審令和3年2月1日大阪家裁決定(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○母Xが、夫である父Yに対し、確定した令和2年9月11日大阪家裁のYに対する子らをフランスに返還を命じる終局決定に基づき子らをフランスに返還することと、返還をしないときは子一人につき1日当たり2万円の間接強制金の支払を求め、1万円の支払が認められました。

○父Yは、フランス国内での新型コロナウイルスの感染拡大や、子らが日本での生活を希望していることなどの事情から,Xの本件間接強制の申立ては権利濫用と主張しました。しかし、大阪家裁は、ハーグ条約実施法28条3項で、裁判所が子の返還に関する終局決定をするに当たっては,外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として子の返還申立てを却下してはならないとされ、また同法135条で確定した子の返還を命ずる終局決定に基づく強制執行については,子が16歳に達した場合のほかこれを制限する規定はないことなどを理由に、Xの申立は権利濫用にはならないとしました。

○この決定に対し父Yが執行抗告して大阪高裁は大阪家裁決定を取り消し、母Xの申立を却下しており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 上記当事者間の大阪家庭裁判所令和2年(家ヌ)第5号,同第6号子の返還申立事件の確定した子の返還を命ずる終局決定の正本に基づき,債務者は,子C及び子Dをフランス共和国に返還せよ。
2 債務者が本決定の告知を受けた日から14日以内に前項記載の債務を履行しないときは,債務者は,債権者に対し,上記期間経過の日の翌日から履行済みまで,子1人につき1日当たり1万円の割合による金員を支払え。
 
理   由
第1 申立ての趣旨

1 主文1項同旨
2 債務者が本決定の告知を受けた日から14日以内に前項記載の債務を履行しないときは,債務者は,債権者に対し,上記期間経過の日の翌日から履行済みまで,子1人につき1日当たり2万円の割合による金員を支払え。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。

(1) 大阪家庭裁判所は,当庁令和2年(家ヌ)第5号,同第6号子の返還申立事件において,令和2年9月11日,債務者に対し,子らをフランス共和国(以下「フランス」という。)に返還することを命じる終局決定をした(以下「本件終局決定」という。)。債務者はこれを不服として即時抗告したが,大阪高等裁判所は,令和2年12月8日,抗告棄却決定をし,同月9日,本件終局決定は確定した。

(2) 債権者は,令和2年12月10日,債務者代理人弁護士に対し,子らのフランスへの返還又は債権者への子らの引渡しを求めたが,債務者はこれらに応じていない。

(3) フランスのE司法裁判所は,令和2年11月23日に当事者間の離婚訴訟の判決において,当事者の離婚を言い渡し,子らに対する親権は当事者が共同行使すること,子らの常居所を債務者の住所に定めるほか,債権者の訪問及び宿泊の権利や養育・教育の分担を定めた。このうち,親権の行使,子の居所,訪問及び宿泊の権利,子の養育・教育の分担に関する判断は仮の執行力を有する(以下「フランスの離婚判決」という。)。
 債権者は,令和2年12月14日,フランスの離婚判決を不服として控訴し,控訴審に係属中である。

2 検討
(1) 当裁判所は,前記1の事実経過のほか諸般の事情を考慮し,本件申立てを相当と認め,債務者が本決定の告知を受けた日から14日以内に子らをフランスに返還する債務を履行しないときは,債務者は,債権者に対し,上記期間経過の日の翌日から履行済みまで,子1人につき1日当たり1万円の割合による金員の支払を命じるのが相当と判断する。

(2) なお,債務者は,フランスの離婚判決において子らの常居所は債務者の住所に定められこの点に仮の執行力があること,フランス国内において新型コロナウイルスの感染が更に拡大していることや子らが日本での生活を希望していることなどの事情から,債権者による本件間接強制の申立ては権利濫用である旨主張するので,この点について補足する。

 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約においては,一方の親が他方の親の監護の権利を侵害する態様で子を連れ去り又は留置した場合に原則として子をその常居所地国に返還しなくてはならないという考え方が採られ,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(以下「実施法」という。)は,子の常居所地国に迅速に返還するために必要な裁判手続等を定めている。

裁判所が子の返還に関する終局決定をするに当たっては,外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として子の返還申立てを却下してはならないとされ(実施法28条3項),確定した子の返還を命ずる終局決定に基づく強制執行については,子が16歳に達した場合のほかこれを制限する規定はない(実施法135条)。

これらの規定の趣旨に照らすと,債務者による子の不法な連れ去り又は留置後に,子の常居所地国において子の監護に関する裁判がなされ債務者が子の監護者と指定されその点に仮の執行力がある場合であっても,確定した子の返還を命ずる終局決定に基づく強制執行が制限されると解することはできない。


 新型コロナウイルスの感染拡大や子らが日本での生活を希望していることなどは本件終局決定及び抗告棄却決定に当たって考慮されており,債務者が主張するこれらの決定後の事情を踏まえても,本件間接強制の申立てが権利濫用であるとは認められない。

3 よって,主文のとおり決定する。
 大阪家庭裁判所家事第1部
 (裁判長裁判官 松井千鶴子 裁判官 八木香織 裁判官 大門全)