小松法律事務所

別居父と未成年者の月1回3時間程度の面会交流を認めた家裁審判紹介


○別居中の夫婦間において、父である申立人が、母で未成年者ら(未成年者P3及びP4、平成27年生まれ双子で審判当時7歳で小学1年)を現に監護している相手方に対し、未成年者らとの面会交流を求め、その時期、方法等を定めるよう申し立てました。

○相手方母は、未成年者P3が申立人の行為に起因してPTSD再燃との診断を受けていること、申立人から生活の監視や精神的いじめ等のDVを受け、別居後も非開示を希望していた住所を探索されるなどし、当事者間に面会交流を実施するための協力関係を築くことが困難で、面会交流を認めるべきでないとの意向を示しました。

○これについて、未成年者P3は、診断書が前提とするPTSD様症状の存在ないしはその継続については疑義があり、申立人による未成年者P3自身に対する拳骨や、相手方に対する暴力が仮に事実であったとしても、それらが実際に危うく死ぬ又は重傷を負う出来事に該当するとは直ちに評価し難いうえ、実施された申立人と未成年者らとの面会交流の状況なども踏まえると、未成年者らとの面会交流をすることが子の利益に反する事情とすることは相当でないとして、面会交流の頻度は毎月1回、1回あたりの交流時間を3時間程度、具体的な日時、場所、方法については、当事者間の協議により定めるべきとした令和4年6月28日福岡家裁審判(LEX/DB)関連部分を紹介します。

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主   文
1 相手方は、申立人に対し、申立人が未成年者らと次のとおり面会交流することを許さなければならない。
(1)頻度及び時間
月1回、3時間程度
(2)場所
福岡県内
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 事案の概要

 本件は、別居中の夫婦間において、父である申立人が、母であり、未成年者らを現に監護している相手方に対し、未成年者らとの面会交流を求め、その時期、方法等を定めるよう申し立てた事案である。
 相手方は、未成年者P3が申立人の行為に起因してPTSD再燃との診断を受けていること、申立人から生活の監視や精神的いじめ等のDVを受け、別居後も非開示を希望していた住所を探索されるなどし、当事者間に面会交流を実施するための協力関係を築くことが困難であること等を理由に、申立人と未成年者らの面会交流を認めるべきでない旨の意向を有している。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

 一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1)申立人は昭和54年生まれの男性、相手方は昭和56年生まれの女性である。
 両者は平成25年9月26日に婚姻し、平成27年○月○○日に未成年者P3(以下「長男」という。)及び同P4(以下「長女」という。)をもうけた。

(2)当事者間の別居等
 当事者双方は、令和2年12月7日、相手方が未成年者らを連れて、東京都所在の当時の居宅を出る形で別居を開始し、以後、現在も別居している。
 なお、申立人は、遅くとも令和3年8月頃、肩書住所地に転居した。

(3)関連事件及び本件の申立て

         (中略)


2 面会交流の可否及び内容等
(1)別居親と子との面会交流の可否及び具体的内容を定めるにあたっては、別居親と子との関係や交流の状況、子の心身の状況、子の意向及び心情、同居親と別居親の関係や面会交流についての考え方、面会交流の実施が同居親に与える影響その他子をめぐる一切の事情を総合的に考慮し、子の福祉を最優先に考慮して判断しなければならない。

(2)面会交流の可否
ア 令和3年3月頃に行われた面会交流の状況(甲3、4)をみると、未成年者らは、総じて自然な笑顔を見せており、申立人との面会交流を楽しんでいた様子が認められる。また、未成年者らは、申立人からハグを求められた際には素直に応じ、抱っこをせがむ場面もあるなど、自然な身体接触も随所に見受けられ、未成年者らが申立人に親和していたということができる。
 このような面会交流時の状況からすれば、基本的に、申立人と未成年者らの面会交流を安定して実施し、父子関係を維持・形成することが、未成年者らの利益に適うものと認められる。

イ 他方,相手方は、申立人との面会交流の後、未成年者らが不安定となり、長男についてはPTSD再燃の診断を受けたなどとして、面会交流が未成年者らの心身の安定を害する旨主張する。 
(ア)長男については、本件診断書をみるに、担当医は、令和3年3月から1か月以上前には、フラッシュバックや悪夢の侵入症状、申立人に関する回避症状、過覚醒症状、申立人のことを話した後に失禁しやすくなるなどの認知の陰性変化といったPTSD様症状が持続してあったと想定した上、それが申立人との面会交流を契機に再燃した旨診断している。

 しかし、子の監護者指定、子の引渡し申立事件における調査において、相手方は、申立人と未成年者らの面会交流に関し、子の奪取の不安があるため消極であり、直近の申出も、ランドセルの引渡しと面会交流が交換条件であるかのような提案に違和感を覚えたので断った旨述べるにとどまる。面会交流への意向という趣旨でも、未成年者らの調査面接に当たっての配慮を求める事項という文脈でも、長男のPTSD様症状をうかがわせる異変について言及はなく、結局のところ面会交流が実施され、その際、ランドセルが受け渡されている。

 また、面会交流後の長男の状況について、診察時には、面会交流の後から、申立人に怒られたり叩かれたりすることのフラッシュバックがみられ、急に「ダディ嫌い」というようになり、母親がトイレに行っても後追いし、一人で眠れない、寝ても毎晩起きる、父親に怒られる悪夢を見る、何か怖いことが起きそうだと感じるなどの症状が続いており、徐々に軽快したものの、初診日の10月4日時点でもほぼ毎日一度は症状が続いている旨申告されているが、本件の答弁書においては、当日、血がにじむほど爪を噛んでいたほか、約1週間は夜中にうなされて起きる状況がみられた旨主張されていたにとどまる。

 このような手続過程と診療経過における長男の状況に関する説明の対比に加え、子の心情調査において申立人について質問された際にも、長男が声の調子や表情を特段変えることなく回答していた状況等に照らすと、本件診断書が前提とするPTSD様症状の存在ないしはその継続について、疑義があるといわざるを得ない。

 さらにいえば、長男自身に対する拳骨や、本件診断書の前提とする相手方に対する暴力が仮に事実であったとしても、それらが実際に若しくは危うく死ぬ又は重傷を負う出来事(いわゆる心的外傷的出来事)に該当するとは直ちに評価し難い。
 そうすると、本件診断書について、治療介入にあたりされた診断としての評価はさておき、これをもって長男との面会交流をすることが子の利益に反する事情とすることは相当でない。


(イ)長女についてみると、長女が、子の監護者指定、子の引渡し事件の調査時から、申立人による長男への拳骨を目撃した旨を一貫して述べており、心情調査においても長男への拳骨等を挙げて、面会交流に消極的な姿勢を示している点には留意しなければならない。

 もっとも、長女は、折り紙をしたという申立人との肯定的な思い出も挙げており、申立人を一方的に拒絶している訳ではない。調査報告書によれば、長女の不安を感じやすい気質を踏まえると、自らの体験に加え、父母の紛争下において、同居親の不安を察し、一連の発言をするに至ったものと考えられる。他方で、長男への拳骨の目撃が心的外傷的出来事への曝露に当たるとは評価し難いことは既に説示したところと同様であるから、長女の本件診療所における診療経過から、申立人との面会交流が長女の利益に反する旨の事情が認められるともいい難い。

ウ また、相手方は、申立人から生活の監視や精神的いじめ等のDVを受け、別居後も非開示を希望していた住所を探索されるなどしていることを理由に、申立人との間で面会交流実施のための協力関係を築くことが困難である旨主張する。

 確かに、前記認定のとおり、申立人が当時の自宅のリビングルーム等での私的な会話を複数回にわたり録音していたこと、別件の離婚調停に当時の相手方手続代理人事務所から電話会議により出頭した相手方を尾行するよう申立人が興信所に依頼していたことが認められ、これらは、夫婦間の信頼関係を阻害し、相手方において面会交流の実施に対する不安を抱かせる事情である。

しかしながら、これらはあくまで夫婦間の問題であって、父子関係そのものに直接影響を与えるものではない。申立人において、上記各行為が面会交流に関する相手方の不安を惹起し、面会交流の安定的な実施、ひいては面会交流前後の未成年者らの心身の安定にも悪影響を及ぼし得ることを自覚した行動が求められることは格別、それを超えて、面会交流そのものを禁止することが子の福祉に適うとの評価を導く事情であるとはいえない。

エ 以上の次第で、実施された申立人と未成年者らとの面会交流の状況を踏まえると、その後の未成年者らに関する診療経過等をもって、面会交流の実施が未成年者の利益に反するものということはできないから、申立人と未成年者らの面会交流を実施するのが相当である。

(3)面会交流の内容
 前記説示のとおり、面会交流の実施状況から窺われる父子関係に着目すれば、面会交流を安定して実施することが未成年者らの利益に適うものといえるが、当事者双方は、相互に他方当事者が調査会社を利用して自身の住居を探索したなどと非難し、相手方は、本件手続経過においてもDVを主張するほか、申立人を相手に、接近禁止等仮処分命令を申し立てるに至っている。当事者間の葛藤は激しく、根深いものとなっているといわざるを得ない。

このような状況に至る過程において、申立人が当時の自宅のリビングルーム等での私的な会話を複数回にわたり録音していたこと、別件の離婚調停に当時の相手方手続代理人事務所から電話会議により出頭した相手方を尾行するよう申立人が興信所に依頼していたこと等の事情が存在することに鑑みると、面会交流に起因する相手方の負担を軽減し、その不安を可能な限り和らげることが、面会交流を安定的に実施し、未成年者らが純粋に面会交流を楽しみ、交流が未成年者らの健全な心身の発達に資するものとするためには必要である。

 さらに、未成年者ら、特に長女は、前記認定説示のとおり、父母の葛藤下において、申立人との面会交流を不安に感じている面があり、そのような心情に配慮する必要もあるといえる。

 これらの事情その他本件記録上あらわれた一切の事情を考慮すると、現時点においては、面会交流の頻度は毎月1回、1回あたりの交流時間を3時間程度とした上、具体的な日時、場所、方法(適切な実施場所の選定や、子の受渡し等に際して第三者の援助を求めることを含む。)については、当事者間の協議により定めるものとするのが相当である。将来においては、交流の実施状況と未成年者らの受け止めを見極めながら、当事者双方の葛藤状態の推移等も考慮して、頻度や交流時間の拡充について協議することも想定され得るが、現時点においては、面会交流の安定した実現が優先されるものと考える。

 なお、電話やSNSを通じての間接交流については、未成年者らの年齢等に照らすと、利用する機器の選定・調達、管理、操作に少なからず相手方の協力を要し、本審判において定めることは現実的でない。

3 よって、主文のとおり審判する。
令和4年6月28日 福岡家庭裁判所 裁判官 坂口和史