小松法律事務所

子を連れ出し父に対する母への監護者指定・子引渡認容高裁決定紹介


○「子を連れ出し父に対する母への監護者指定・子引渡認容家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の令和元年9月20日東京高裁決定(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○未成年者の養育環境について、監護者に指定した母の方が、比較的柔軟に勤務時間等を調整できること、家から徒歩3分の距離に相手方の弟夫婦が居住しており,同人らの監護補助も一定程度期待できること等から、相手方母の監護態勢下での監護養育が未成年者の福祉に重大な影響を与えるとは認められないとしています。

○連れ出した父について、相手方に無断で未成年者を抗告人実家に連れて行った後,同年11月3日に警察官からのメッセージを受け取るまでの間,相手方からの連絡を無視し続けて連絡を取っていない等の態度も問題視し、母を監護者に指定する原審審判を維持しています。

********************************************

主    文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
 
理    由
 (略称は,原審判の例による。)

第1 抗告の趣旨及び理由
1 抗告の趣旨

(1) 原審判を取り消す。
(2) 本件申立てをいずれも却下する。

2 抗告の理由
 別紙抗告理由書写し記載のとおり

第2 事案の概要
 本件は,別居中の夫婦である相手方(原審申立人。未成年者の母)と抗告人(原審相手方。未成年者の父)との間において,相手方が,抗告人に対し,未成年者の監護者を相手方と定め,未成年者を相手方に引き渡すことを求める事案である。
 原審は,相手方の上記各申立ては,いずれも理由があるとしてこれらを認容した。抗告人は,これを不服として本件抗告を提起した。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,未成年者の監護者を相手方と定め,抗告人に対し,未成年者を相手方に引き渡すよう命じることが相当であると判断する。その理由は,下記2のとおり原審判を補正し,下記3のとおり当裁判所の補足的判断を付加するほか,原審判「理由」中の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。

2 原審判の補正
(1) 7頁1行目の「A」の次に「(注:未成年者。自身が出たテレビ番組を見たいとの趣旨)」を加える。

(2) 7頁11行目の「確認できなかった」の次に「(なお,抗告人は,当審において,乙22及び23〔抗告人の弟と未成年者との会話録〕を新たに提出した。しかしながら,その内容は,抗告人の弟の誘導的な質問に対し,未成年者が肯定又は否定の返事のみをしているにすぎないもので具体性に乏しく,また,かかる資料が今になって提出された経緯も不自然であって,にわかに信用し難い。)」を加える。

(3) 7頁19行目の「「短日数乗務制度」」の次に「(勤務日数を従前の9割ないし8割程度に抑えることができる制度)」を加える。

(4) 7頁21行目の「泊付」の次に「(現地での滞在日数。以下同じ)」を加える。

(5) 7頁25行目の「ボーナス月」の次に「(7月及び12月)」を加える。

(6) 8頁3行目の「実家」を「申立人実家」に改める。

(7) 8頁8行目から9行目にかけての「勤務の軽減割合も6割まで拡大される予定」を「従前の「9割勤務」「8割勤務」に加えて「6割勤務」も選択できるようになる予定」に改める。

(8) 10頁14行目から15行目にかけての「未成年者と同じベッドで寝ている。」を「未成年者の隣で付き添って寝ることもある。」に改める。

(9) 13頁15行目の「しかしながら」の次に「,転校が一般的に子の福祉に反するとはいえない(現に抗告人も未成年者を東京の保育園から大分市内の幼稚園に転園させている。)上」を加える。

3 当裁判所の補足的判断
(1) 抗告人は,現在の監護態勢下においては,抗告人は原則午後5時過ぎに退勤し,抗告人の両親は常に自宅にいるのに対し,相手方が未成年者を監護する場合,相手方や相手方の母の勤務状況に照らせば,相手方や相手方の母が未成年者と十分な接触を図ることは困難であり,親又は監護補助者との接触時間が劇的に減ることになるから,このような監護態勢下で監護養育することは,未成年者の福祉に重大な影響を与えるなどと主張する。

しかしながら,同居中も,未成年者は遅くまで保育園に預けられ,長期間,抗告人の実家に預けられることもあった上,相手方は,現在利用している短日数乗務制度が令和2年度に利用できなくなる場合(運用後間もない制度のため,現時点では令和2年度に同制度を利用できるか否かは不確定である。)に備えて,あらかじめ年次休暇の繰越利用や地上勤務への配属替えも検討していること(甲11),相手方の母は,店長であるため比較的柔軟に勤務時間等を調整できることに加え,65歳となる令和2年6月以降は契約形態が変わり,時間的な余裕が増える見込みであること(甲12),申立人実家から徒歩3分の距離に相手方の弟夫婦が居住しており,同人らの監護補助も一定程度期待できること(甲13)等に照らせば,相手方の監護態勢下での監護養育が未成年者の福祉に重大な影響を与えるとは認められない。

(2) 抗告人は,抗告人の弟及び抗告人の陳述書(乙7,9)や写真(乙10)によれば,過去,複数回にわたり相手方が未成年者に手を上げたことは事実であり,抗告人は未成年者と一緒に帰省している間に虐待の疑いが生じたために,虐待から未成年者を守るべく抗告人実家に滞在しようとしたものであり,この抗告人の行為は,未成年者の利益・福祉に配慮を欠いたものではないなどと主張する。

しかしながら,前記認定事実(7)エのとおり,当審において提出された抗告人の弟と未成年者の会話録(乙22,23)を踏まえても,抗告人主張にかかる暴力の事実を認めるに足りない。加えて,抗告人は,平成30年11月5日ないし6日頃には,抗告人の弟からの話で相手方による虐待の可能性を疑い危機感を覚えた(そのために抗告人実家での滞在を急きょ延長した)というのであるから(乙9),まずもって,相手方に対し事実確認や抗議等を行うはずであるところ,同月24日に相手方らが抗告人実家を訪れた際も含め,そのような形跡はうかがわれない(抗告人が相手方による暴力の事実を明確に主張したのは,本件各調停事件の答弁書〔同年12月19日付け〕が最初であると認められる。)。また,抗告人は,平成30年10月31日に相手方に無断で未成年者を抗告人実家に連れて行った後,同年11月3日に警察官からのメッセージを受け取るまでの間,相手方からの連絡を無視し続けて連絡を取っていない。かかる経緯は,抗告人の上記主張とは整合せず,同主張はにわかに信用し難い。

(3) その他,抗告人が当審においてるる述べるところは,前記認定判断を左右するものではない。

4 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり決定する。
 東京高等裁判所第2民事部 (裁判長裁判官 白石史子 裁判官 角井俊文 裁判官 大垣貴靖)

 〈以下省略〉