小松法律事務所

父から母への未成年者面会交流申立を却下した家裁審判紹介


○申立人(父)と相手方(母)の離婚後、相手方が監護養育している未成年者と申立人との面会交流を拒絶しているとして、申立人が、未成年者との面会交流をする時期、方法等について審判を求めました。

○これについて、現時点において申立人が求める面会交流を認めることが子の福祉に合致するとは認め難く、かえって未成年者が両親の抗争に巻き込まれ、未成年者を父親である申立人と母親である相手方との間の複雑な忠誠葛藤の場面にさらし、その結果、未成年者の心情の安定を害するおそれが高いというべきであるとして、申立てを却下した平成27年8月7日仙台家裁審判(判時2273号111頁)全文を紹介します。

○その理由として、未成年者との面会交流についての申立人と相手方と長期の厳しい紛争・緊張状態継続と、申立人の相手方に対する「虐待者」「異常者」などととの相手方の心情を慮ることない強い非難継続、再三にわたる相手方や未成年者への連絡により、相手方が精神的に疲弊し、申立人に対する強い不信感や嫌悪感を抱いていることを挙げています。

*********************************************

主   文
本件申立てを却下する。

理   由
第一 申立ての趣旨及び実情

 本件は、申立人と相手方の離婚後、相手方(母)が監護養育している未成年者と申立人との面会交流を拒絶しているとして、申立人(父)が、未成年者との面会交流をする時期、方法等について審判を求めた事案である。

第二 当裁判所の判断
一 一件記録によると、次の事実が認められる。
(1)当事者及び離婚に至る経緯等

ア 申立人と相手方は、約2年間の同居期間を経て平成13年5月9日に婚姻の届け出をし、平成13年○○月○○日には長男cを、平成19年○○月○日に長女d(以下「未成年者」という。)をもうけた。

イ 申立人は、婚姻前から、相手方に対し、自分の思いどおりにならないと暴言を言ったり暴力をふるうことが度々あった。例えば、申立人は、平成16年5月2日、相手方の右目を手拳で殴り、右眼窩底吹抜け骨折の傷害を負わせたり、平成23年10月10日、相手方の足を蹴るなどの暴力をふるい、右頸部・右肘・左大腿・左膝・左下腿打僕の傷害を負わせたことがあった。こうしたことから、相手方は、申立人の暴力から避難すべく、警察等に相談しながら別居の準備を進め、同年11月4日、子らを連れて大阪市内の自宅を出て、仙台市内に転居した。相手方は、別居後から現在に至るまで、子らを監護養育している。

ウ 相手方は、平成24年1月13日、大阪地方裁判所において、配偶者暴力に関する保護命令の申立てをし、同月23日、保護命令が発令された。しかし、保護命令発令期間中である同年6月、申立人が相手方や子らに度々接触したことから、同年7月13日、仙台地方裁判所において、再び保護命令が発令された。ところが、申立人は、その後も同人の家族や知人等を通じて、相手方に対し,子らと面会交流させるよう働きかけるなどしたことから、平成25年1月11日にも再々度の保護命令が発令され、同年2月20日にはこれに対する即時抗告が棄却された。

エ 相手方は、平成24年3月1日、大阪家庭裁判所において離婚調停を申し立てたが不成立となり、同年10月6日、申立人を被告とし、大阪家庭裁判所において離婚等請求事件(以下、「離婚訴訟」という。)を提起した。同裁判所は、平成26年2月13日、離婚を認容し、末成年者らの親権者を相手方とし、離婚慰謝料を200万円の支払いを命ずること等を内容とする判決をした。

(2)面会交流の経過等
ア 申立人と相手方は、本件離婚訴訟係属中である平成26年1月頃、当時の各人の代理人弁護士を介して、未成年者との面会交流について話し合い、申立人が、毎週日曜日に30分間、未成年者と電話交流することを約束した。

イ 申立人は、同年3月23日、上記ア記載の電話交流をする時間になっても相手方から電話がかかってこなかったため、相手方の自宅を訪れたところ、相手方が110番通報をし、警察官が臨場する事態になった。相手方は、後日、警察署に対応を相談し、警察署内において警察官の立ち会いの下、申立人と未成年者との面会交流について話し合ったことがあった。

ウ その後、相手方は、弁護士から助言を受け、申立人の心情を考慮して、同人と未成年者との直接的な面会交流に応じることにし、弁護士を通じ、同年4月2日に面会交流させることを約束した。しかし、相手方は、当日になって、宮城県石巻市内の相手方の実家に帰ることになったとして面会交流の中止を申入れた。

申立人は、相手方を信用できず、相手方の意に反して同人の実家を訪れるなどし、警察官をも交えて面会交流の話し合いが行われた。結局、申立人と未成年者の面会交流は、4月5日に実施されたが、このとき、申立人は、相手方に対し、面会交流の約束を破った場合には「罰則」として金員を支払うように述べたこともあった。
 申立人は、この頃、仙台市内に居所をかまえた。

エ 相手方は、上記ウの面会交流後、申立人に対し、面会交流のルールについて公正証書を作成するべく、弁護士と相談するなどと述べたが、進展しなかったことから、申立人が、未成年者の登校に同道していた相手方に対し、弁護士から連絡がないことを度々問い質したり、電子メールを送信するなどした。

 その後、申立人と相手方代理人弁護士は面会交流について協議し、同月29日午後1時から午後5時頃まで(このとき、面会交流の終了時間について、申立人が、午後4時51分頃、相手方に対し、未成年者の意向で午後6時くらいに戻る旨の電子メールを送信し、相手方が午後5時45分までには送って来てほしい旨伝えたことがあった。)、同年5月10日午後零時から午後5時頃まで(このとき、面会交流中に未成年者が車内で嘔吐したことについて、相手方代理人が申立人に対して問い質したところ、申立人が相手方の養育を非難するようなことを述べたことがあった。)、同月25日午後零時から午後5時頃まで、申立人と未成年者の面会交流が行われた。申立人は、同日の面会交流後、相手方に引き渡す際、未成年者の希望に応じ、次回は宿泊付きの面会交流を希望する旨、相手方に伝えた。

 申立人は、上記のような面会交流が実施されている最中も、相手方に対し、「虐待」「異常者」等と記した電子メールを度々送信したり、大阪市内にあった当時の相手方代理人弁護士の事務所を訪れて面会交流中の約束について問い質したりしたことがあった。
 なお、相手方は、同年4月頃、仙台地方裁判所において、四度目の保護命令を申し立てたが、同年5月9日、申立人が相手方に対し生命又は身体に重大な危害を加えるおそれがあるとは認められないとして、却下された。

オ 相手方は、上記エの各面会交流後、未成年者が疲れてぐったりした様子であることや申立人が面会交流をめぐって相手方の意に反する言動を繰り返したこと等から、これ以上の面会交流には応じられないと考え、同人代理人弁護士を通じて、同月30日、申立人に対し、週末の面会交流を中止すると連絡した。さらに、同日深夜、未成年者がてんかん発作を起こしたこともあり、相手方代理人弁護士は、同年6月2日、今後は電話による交流も含めて保留すると通知した。

これに納得しなかった申立人は、同月から同年8月頃にかけて、度々相手方の自宅付近を訪れて未成年者の登校に付き添っていた相手方に接触したり電子メールを送信するなどして、未成年者との面会交流を強く求めたり、相手方代理人弁護士に強い口調で迫ったり、未成年者が利用する保育所の職員への声かけや小学校への架電などもした。

これに対し、相手方も度々警察に通報したり弁護士に相談し、当時の申立人代理人弁護士を介して相手方に待ち伏せ等の直接的な接触や関係機関への架電等を止めるよう忠告するとともに、同年7月3日、当庁において、申立人と長男及び未成年者との面会交流についての調停を申し立てた(当庁平成26年(家イ)第914、915号、以下「前件調停」という。)。

カ 相手方は、前件調停において、申立人が子らに執拗に面会交流を求めて付きまとうことに不安があるとして、申立人がこれらの行為を止めるかどうか半年ほど様子を見た後、面会交流のルール作りをしたいとの意向を示した。他方、申立人は、同年9月から毎週の電話交流及び宿泊付きの面会交流を求め、折り合いがつかなかった(なお、申立人は、前件調停の申立てを知り、当時の代理人弁護士を解任した。)。このため、相手方は、同年12月16日、前件調停を取り下げた。

 なお、申立人は、前件調停係属中も、相手方の自宅付近等を訪れて、未成年者に話しかけたり相手方に面会交流について直接話しをしたり、相手方代理人弁護士事務所に繰り返し架電したり、約束なく同事務所に赴き、インターホン越しに面会交流について強い口調で問い質したりしたほか、当庁に対して、相手方を「異常者」、「児童虐待者」と評する書面を提出したり、相手方代理人弁護士に対し、未成年者の待ち伏せや付きまとい等を予告するような書面を送付したりした。

 また、申立人は、前件調停終了後の同月31日から平成27年1月1日にかけて、相手方に対し、未成年者らにプレゼントを渡しに相手方の実家に行くなどと記した電子メールを度々送信し、相手方がこれを拒否する意向を示していたにもかかわらず、平成27年1月2日、相手方の意に反して相手方実家を訪れ、未成年者らに会わせるよう求め、結局相手方がこれに応じたことがあった。

(3)本件申立てに至る経緯及び本件審判等
ア 申立人は、平成27年1月5日、当庁において、未成年者との面会交流する時期、方法等について定める調停を申立てた(当庁平成27年(家イ)第四号(以下「本件調停」という。)。
 その一方で、申立人は、相手方の自宅付近を訪れ、登校途中の未成年者に声をかけたり、相手方の実家を訪れたり、相手方に対して未成年者らに話しかけることを予告する内容のメールを送信したりした。また、申立人は、本件調停においても、相手方に対し、虐待行為をやめろとか、児童虐待を働くような人間は人間として認める気はないなどと記載した書面を提出したり、春休みに面会交流を実施しろなどと述べたりした。

イ 本件調停は、早急な直接的な面会交流を強く求める申立人と現時点において面会交流には応じないとする相手方の意向が強く対立したため、同年2月16日不成立となり、本審判に移行した。

ウ 申立人は、審判移行後、相手方の自宅を訪れたり相手方にメールしたりすることはなかったが、未成年者や長男に度々話しかけたことがあったほか、相手方の実家を訪れたり、当庁に対し、今後も未成年者への声かけを続ける旨記載した書面や「児童虐待者b様」と題する書面を提出したり、ゴールデンウィークに面会交流をさせるよう強く求めたりした。また、審問においても、相手方は、子らと申立人を面会交流させたくないという申立人の意向を子らに押し付けるという虐待行為をしているとか嘘ばかり述べているなどと強い口調で繰り返して、相手方を非難した。

(4)申立人の状況及び意向等
ア 申立人は、現在は仙台市内に居所をかまえており、主に不動産収入を得て生活している。

イ 申立人は、未成年者との面会交流について、〔1〕毎週末(土曜日又は日曜日)は、午前10時から午後5時までの面会交流と、土曜日午前10時から翌日午後5時までの宿泊付面会交流を隔週で実施すること、〔2〕三連休以上の大型連休のときは、二泊3日で行うこと、〔3〕末成年者の春休みと冬休みには、二泊3日以上の宿泊付面会交流を二回実施すること、〔4〕未成年者の夏休みには、二泊3日以上の宿泊付面会交流を毎週実施すること(ただし、日にちの調整には応じる。)を求め、そのほか、未成年者を水泳教室等週一回の運動を習わせることを希望している。

(5)相手方の状況及び意向等
ア 相手方は、仕事をしながら生活保護を受給して、子らを監護養育している。なお、相手方は、現在まで、いわゆる住民票ブロックの措置を講じている。

イ 相手方は、平成24年12月、うつ状態との診断を受けており、現在まで投薬治療を続けている。

ウ 相手方は、離婚に至る経緯や未成年者の健康状態等には慎重な配慮が必要であるにもかかわらず、これを申立人が十分に理解していないこと、長男に対する暴力や心情に配慮しない言動を繰り返していること、申立人が自らの希望ばかりを優先しようとする態度であること等から、申立人との直接的な面会交流には応じられないとの意向を示している。

(6)未成年者の状況等
 未成年者は、現在7歳で小学校2年生に在籍している。同人は、平成23年10月頃、てんかん及び精神運動発達遅滞との診断を受けて、現在は、支援学級に在籍している。未成年者が六歳時に施行した発達検査では運動能力、精神能力ともに3歳レベルの発達段階にあり、体力が弱く、自分を取り巻く環境への変化に対応できずに情緒不安定になることがあるとの指摘や、自分の意思表示を他人へ伝える能力や環境に順応する能力が十分ではなく、てんかん発作を抑制するためには、未成年者にストレスが及ぼされるような環境の変化は避けるべきであり、より慎重な対応が望まれるとの意見が示されている。

 未成年者は、1歳11か月の頃初めててんかん発作を起こし、その後、平成23年2月からは消失していたものの、平成26年5月に再出現した。最近では、平成27年5月7日、6月5日にもてんかん発作を起こし、救急搬送されている。

二 当裁判所の判断
 離婚の際に未成年の子の親権者と定められなかった親は、子の監護に関する処分の一つとして面会交流を求めることができるところ、一般的には、子の福祉の観点からすれば、非監護親との適切な面会交流が行われることが望ましいが、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害するといえる特段の事情があるときには、面会交流は禁止・制限されなければならない。

 これを本件について検討してみると、未成年者との面会交流にかかる申立人と相手方との間の紛争状態は長期間にわたっており、高い緊張状態が続いている。また、申立人は、上記一(1)ないし(3)のとおり、申立人の希望どおりの面会交流をさせない相手方を「虐待者」「異常者」などと呼び、相手方の心情を慮ることなく強い言辞で非難し続けたり、相手方の意に反することを十分に認識しながら再三にわたって相手方や未成年者に話しかけたり、連絡を取ったりして、自らの希望を実現しようとしている一方、相手方は、上記一(1)ないし(3)のような従前の経緯やこれまでの申立人の言動等から、精神的に疲弊しているのみならず、申立人に対する強い不信感や嫌悪感を抱いている。

このように、申立人と相手方の相互の不信感は相当深刻であり、容易に解消できるものではない。申立人と未成年者との面会交流を実施するに当たっては、非監護親である申立人と監護親である相手方との協力関係を築くことが必要不可欠であるが、こうした状況においては、上記協力関係を期待することは極めて困難であり、また、面会交流を実施した場合には未成年者が葛藤に陥りやすい状況にもあるといわざるを得ない。これまで様々な関係者等の関与があったにもかかわらず実効的な意味をなさなかったことや申立人の言動等からすれば、適切な第三者や第三者機関の関与があったとしても円滑な面会交流は到底期待できない。

 さらに、これまでの申立人の言動等や従前行われた申立人と未成年者の面会交流が必ずしも円滑に実施されたとはいえないこと等からすれば、相手方が、申立人において、面会交流のルールを遵守しないのではないかとの疑いを抱くのも不自然不合理なことではない。これに対し、申立人は、自らの行為が相手方や未成年者らに与えている影響を十分に認識しているとは言い難い。こうしたことからすれば、申立人において、相手方の監護を尊重し、同人や未成年者の心身の状況、生活状況等に配慮した適切な面会交流を期待することも困難である

 以上のほか、本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、現時点において申立人が求める面会交流を認めることが子の福祉に合致するとは認め難く、かえって未成年者が両親の抗争に巻き込まれ、未成年者を父親である申立人と母親である相手方との間の複雑な忠誠葛藤の場面にさらし、その結果、未成年者の心情の安定を害するおそれが高いというべきである。
 よって、本件申立ては相当でないから、これを却下することとし、主文のとおり、審判する。(裁判官 竹内知佳)