小松法律事務所

父と生活する小学5年生について母を監護者と指定した家裁審判紹介


○申立人母が、別居中の相手方父に対し、申立人と相手方の子である未成年者ら(長男及び長女)の監護者の指定及び相手方宅において相手方が監護している長男の引渡し及び審判前の保全処分を申し立てました。長男・長女は双子で長女は申立人母と生活していますが、長男は父と生活しており、長男については父から母への引渡を求めました。

○これに対し、長男及び長女については、いずれも小学5年生であり、いまだ日常生活において身の回りの十分な世話を必要とする年齢であるといえ、相手方においては、単独監護の経験は極めて乏しく、相手方父は、長男が相手方宅へ転居した後も、長男の身の回りの監護をほとんど父方祖母に任せており、その依存度は非常に高く、仮に父方祖父母のいずれかが健康上の問題を抱えた場合には、相手方の現在の監護態勢の維持が難しくなるなど、監護に不足が生じる可能性があり、長女のみならず長男についても、申立人が引き続き監護養育することが未成年者らの福祉に沿うものとして、未成年者らの監護者をいずれも申立人と指定し、長男については申立人に引き渡すことが相当であるとして、申立人の申立てを認容した平成31年1月11日大阪家裁審判(判タ1478号97頁)全文を紹介します。

○審判前の保全処分についても申立人母に対して、未成年者長男を仮に申立人母に引き渡すよう命じる旨の審判をして、申立人母は、相手方父に対し、任意の引渡しを求めましたが、未成年者長男が強く抵抗し、長男の引渡しを受けられなかったようです。

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主   文
1 未成年者らの監護者をいずれも申立人と指定する。
2 相手方は,申立人に対し,長男を引渡せ。
3 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 主文1及び2同旨

第2 当裁判所の判断
1 本件記録(当庁平成30年(家イ)第943号乃至同第945号事件記録を含む。)並びに当庁平成30年(家ロ)第10003号及び当庁平成29年(家イ)第4443号各事件記録によれば次の事実が認められる。
(1)別居に至る経緯
ア 申立人(昭和47年*月*日生)と相手方(昭和44年*月*日生)は,平成16年6月6日に婚姻し,平成19年*月*日に長男及び長女をもうけ,相手方肩書住所地のマンション(以下「相手方宅」という。)で同居して生活していた。

イ 平成29年7月4日,申立人は,自宅の子ども部屋においてあったお菓子の箱を,相手方が子らに買い与えて間もないものであるとは知らず,長期間放置されているものと誤解してゴミ箱に捨てた。これに対し,長男は腹を立てて癇癪を起した。申立人は,ゴミ箱からお菓子の箱を取り出して長男に渡したが,長男の機嫌は直らなかった。

長男の泣き声を聞いた相手方が,申立人に対し,お菓子の箱を申立人の顔あたりに差し出し,お菓子を捨てたことを長男に謝るように言ったが,申立人は謝らず,もみ合いとなって,相手方が申立人を3回ほど殴った。申立人が警察に通報し,警察官が臨場したが,申立人,相手方ともに被害届は提出しなかった。申立人は,同日から3日間程度,単身でホテル及び申立人の両親宅(以下「母方祖父母宅」という。)に宿泊した。

 申立人は,いったん相手方宅に戻ったが,平成29年8月20日,未成年者らを連れて,未成年者らの小学校の校区内(相手方宅から直線距離で400メートル程度の場所)にある申立人肩書住所地所在の賃貸マンション(以下「申立人宅」という。)に転居した。

ウ 長男は,平成29年9月頃の午後9時か午後10時頃,申立人宅を出て相手方に会いに行こうとしたが,探しに来た申立人に見つかって申立人宅に連れ戻された。また,長男は,平成30年1月頃の午後10時頃,申立人及び長女が寝たのを見計らい,相手方に会うため,自転車で相手方宅に向かった。長男については,同日以降,相手方宅において相手方が監護している。

(2)未成年者らの監護状況
ア 同居中の監護状況
 未成年者らの幼少期の平日は,相手方の帰宅時間が遅く,専業主婦であった申立人が未成年者らの身の回りの世話のほとんどを行い,必要に応じて申立人の母(以下「母方祖母」という。)が未成年者らの監護を補助した。相手方は,休日に,未成年者らのおしめを取り替えたり,未成年者らと遊んだりするなどして監護に関与したほか,洗濯,ゴミ捨て,風呂掃除等を手伝った。

 申立人は,平成28年8月からパートを始め,平成29年6月からは不動産業を営む会社で正社員として勤務するようになったが,申立人が仕事をするようになった後も,平日の未成年者らの身の回りの監護は,主として申立人が行った。相手方は,主として休日に,未成年者らをレスリング教室や塾に連れて行ったり,小学校3年生以降は,長男をラグビーに連れて行くなどして,未成年者らの監護に関与した。
 申立人は,未成年者らの監護養育に当たり,特に食事の内容(栄養バランス,量,食品添加物の不使用等),健康,教育や学習の方法等に配慮していた。

イ 長男の現在の監護状況
(ア)生活状況
 相手方は,平成30年1月以降,相手方の母(昭和16年*月生,以下「父方祖母」という。)の補助を受けて長男を監護しており,父方祖母がEの自宅に帰省する日を除き,平日の炊事,掃除,洗濯等,長男の身の回りの世話は主として父方祖母が担当している。相手方宅は3LDKのマンションで,調査官が家庭訪問をした際(平成30年7月18日),室内は清潔で整頓されていた。

 相手方の平日の帰宅時間は午後9時頃であり,相手方は,主に休日,長男のラグビーの練習に同行するなどして長男の監護に関わっている。
 父方祖母は,相手方の父(昭和12年*月生,以下「父方祖父」という。)の定年退職後,父方祖父と2人でF内において農業を営んでいたが,長男が相手方宅に来た平成30年1月頃から,相手方宅で生活し,月に1,2回程度Fの自宅に帰省するようになった。父方祖父母に健康上の問題はなく,父方祖母は,長男が高校生になるまで,Fの自宅と相手方宅を行き来し,長男の監護を補助する意向である。

(イ)通学状況
 長男は,公立小学校の5年生である。通学状況は良好で,小学校4年生以降,発熱で1日欠席したほか欠席はない。心身の状況,基礎的な生活習慣,学習状況のいずれにも大きな問題はない。相手方の学校との連絡状況も良好であり,提出物や集金にも漏れはない。
 平成29年度の夏休みが終わった頃,申立人から住所変更の連絡を受けた長男の小学校4年生及び5年生の担任教諭が,長男に様子を尋ねたところ,長男の表情が暗くなり,「離婚になったらと考えると嫌や。」等と言って泣いた。

(ウ)長男の心情
 長男は,家庭裁判所調査官調査における面接において,家族みんなで生活することを希望していると述べたほか,申立人宅を出た後,申立人に対して,家族全員で住めないのであれば相手方と住みたいと伝えたことがあると説明した。

ウ 長女の監護状況
(ア)生活状況
 申立人は,申立人宅において,長女と二人で生活し,長女を監護している。申立人宅は3LDKの賃貸マンション(家賃8万円)で,家庭裁判所調査官が家庭訪問をした際(平成30年7月18日)には,室内は清潔で整頓されていた。
 申立人の就業時間は月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時又は午前8時45分から午後4時30分までで,基本的に土曜日及び日曜日が休みである。通勤時間は約10分で,収入は月額17万円(手取額15万5000円)である。申立人には,申立人宅を賃借する際に母方祖母から借り入れた42万5548円の他に負債はなく,心身の状況に大きな問題もない。

 申立人は,平日は勤務時間の前後に炊事,掃除,洗濯等の家事を行っており,休日は長女と過ごすほか,月に1,2回程度,午後1時から午後3時頃まで趣味のバトミントンの練習に行っている。
 月に1回程度,母方祖母が申立人宅に来て,家事や長女の習い事の送迎を補助している。

(イ)通学状況
 長女は,長男と同じ公立小学校の5年生である。通学状況は良好で,小学校4年生以降,発熱で1日欠席したほか欠席はない。心身の状況,基礎的な生活習慣,学習状況のいずれにも大きな問題はない。申立人の学校との連絡状況も良好であり,提出物や集金にも漏れはない。

(ウ)長女の心情
 長女は,家庭裁判所調査官調査における面接において,今後について特に希望はないが,申立人宅で,申立人と二人になるのだと思う,長男が相手方宅に移動してから生活に変化はなく,困ったこともない,父と会うことはいいことだと思うと述べた。

(3)面会交流の状況
ア 申立人及び相手方は,本件調停の第1回調停期日において,本件調停が成立,取下げ又は審判確定により事件が終局するまでの間,長男及び長女の面会交流につき,下記のとおり実施することを合意した。
(ア)面会交流の開始月は平成30年5月以降。
(イ)長女の面会交流の日時及び方法は,各月の第1及び第3土曜日とし,午後5時に申立人は申立人宅マンション前で相手方に長女を引渡し,相手方は午後8時に申立人宅マンション前で,申立人に長女を引渡す。
(ウ)長男の面会交流の日時及び方法は,各月の第2及び第4日曜日とし,午前9時に相手方は相手方宅マンション前で申立人に長男を引渡し,申立人は,午後8時に相手方宅マンション前で相手方に長男を引渡す。
(エ)面会交流の日時を変更するときは,当事者双方の代理人を通じて協議する。

イ 実施状況
 上記ア記載の合意後の面会交流の実施状況は別紙のとおりであり,相手方と長女との面会交流は比較的円滑に実施されているが,申立人と長男との面会交流は円滑には実施されていない。
 長男は,休日の過ごし方として,ラグビーの練習や試合(基本的には土曜日の午後及び日曜日の午前で,それ以外の土,日曜日や祝日に,不定期に試合や練習がある。),相手方との休日,友達を遊ぶことを優先的に考える傾向にあり,申立人との面会交流には消極的である。また,そのために,相手方から申立人に対して日程や時間の変更の申入れが頻繁にあり,長男が申立人宅に来たが,申立人の勘違いにより申立人が不在であったため面会が実現しなかったこと(平成30年6月24日),長男が申立人宅に来たが,すぐに遊びに出掛けて戻らないこと(平成30年7月8日,同年10月14日,同年11月25日,同年12月9日等),面会交流の実施日に長男が申立人宅に行かなかったこと(平成30年7月22日,同年10月28日等)があった。

(4)本件申立て
 申立人は,平成30年1月17日,相手方に対し,本件各審判(未成年者らに係る子の監護に関する処分(未成年者らの監護者の指定及び長男の引渡し))及び審判前の保全処分(当庁平成30年(家ロ)第10003号)を申し立てた。当庁は,平成30年2月28日,本件各審判事件を調停に付したが(当庁平成30年(家イ)第943号乃至同第945号。以下,これらの調停を「本件各調停」という。),平成30年7月27日,本件各調停は不成立となり,本件審判手続に移行した。

 なお,申立人は,平成29年8月30日,当庁において,相手方に対し,夫婦関係調整調停(当庁平成29年(家イ)第4443号)及び婚姻費用分担調停(当庁平成29年(家イ)第4444号)を申し立てた。このうち,夫婦関係調整調停は平成30年11月14日に不成立となり,婚姻費用分担調停は現在係属中である。

2 検討
(1)上記認定のとおり,申立人と相手方との別居以前の主たる監護者は申立人であり,相手方の監護への関与は,休日を中心とする限定的なものであったといえる。そして,別居前の申立人の監護状況に大きな問題はない。
 長男及び長女については,いずれも小学校5年生であり,いまだ日常生活において身の回りの十分な世話を必要とする年齢であるほか,今後,精神的な自立が進む年代にある。そのような時期には,これまでの成長過程を踏まえた細やかな配慮を伴う監護を行うことが特に重要であるが,そのような監護は,これまでに未成年者らと十分な愛着関係を形成している主たる監護者においてより適切に行うことができると考えられ,特段の事情がない限り,申立人を監護者と指定することが相当である。

(2)まず,長女についてみると,申立人と相手方との別居後,相手方宅を出て申立人と同居して生活しているが,通学状況も含めた生活状況は安定しており,申立人と長女との関係も良好であって,その監護状況に大きな問題は見当たらない。よって,監護者を申立人と指定するのが相当である。

(3)次に長男についてみると,申立人と相手方との別居時,申立人が長男を連れて出たものの,長男は,平成30年1月4日,自ら申立人宅を出て相手方宅に転居しているという経緯がある。しかしながら,長男が相手方宅に自ら転居したのは,長男と相手方との面会交流が長男の希望どおりに実施されなかったことに対する不満や,可能なら従前のように家族4人で暮らしたいとの心情からであると考えられ,今後の生活について熟慮した結果の行動とはいえない。

 また,相手方の単独監護の経験は極めて乏しく,相手方は,長男が相手方宅へ転居した後も,長男の身の回りの監護をほとんど父方祖母に任せており、その依存度は非常に高い。父方祖母は,未成年者が高校生になる頃まで,父方祖父が暮らすFの自宅と相手方宅とを行き来して監護を補助したい旨述べているが,その年齢からしても,FとGとを月に1,2回行き来する身体的負担は小さくないと思われるし,仮に父方祖父と父方祖母のいずれかが健康上の問題を抱えた場合には,相手方の現在の監護態勢の維持が難しくなり,監護に不足が生じる可能性がある。

 さらに,現在,長男と申立人との面会交流は円滑に実施されておらず,相手方において,申立人と長男との母子交流を良好に維持することができているともいえない。他方で,現在相手方と長女との面会交流は比較的円滑に実施されており,申立人が監護者となった場合には,長男と相手方との面会交流が円滑に実施されることが予想される。 

 そうすると,長男が自ら相手方宅へ転居し,相手方との生活を希望する言動をしていること等を踏まえても,相手方による監護が,申立人による監護に比して,より未成年者の福祉に資するともいえない。

(4)以上によれば,長女のみならず長男についても,申立人が引き続き監護養育することが未成年者らの福祉に沿うものというべきである。
 ただし,特に長男については相手方との親和性が強く,申立人が監護者となったとしても,長男の希望に沿う程度の面会交流が実施されなければ,再び不満を募らせて自ら相手方宅に転居するおそれがある。申立人においては,長男の意向を尊重し,十分な父子交流がされるよう留意されたい。

3 結論
 よって,未成年者らの監護者をいずれも申立人と指定し,長男については申立人に引き渡すことが相当であるから,主文のとおり審判する。

別紙〈省略〉