小松法律事務所

別居中の夫から妻への未成年者面会交流を認めた家裁審判紹介


○別居中の夫婦間で、申立人(夫)が、未成年者を監護養育している相手方(妻)に対し、未成年者と面会交流することを求めた事案において、子の利益の観点からは、申立人と未成年者との面会交流を認めるのが相当であるとした平成30年8月22日千葉家裁松戸支部審判(判時2427号23頁<参考収録>)全文を紹介します。

○当初、申立人夫が、未成年者を連れて別居し、その後、相手方妻が未成年者監護者妻指定と未成年者引渡の審判手続を経て、申立人夫がこれに従い、未成年者を相手方妻に引き渡した経緯があるため相手方妻は未成年者の再度連れ戻しを警戒して申立人夫の面会交流を拒み、申立人夫が面会交流の調停を申し立てるも妻が同意せず審判に至った事案です。

○相手方妻は、調停手続き中に相手方妻代理人弁護士事務所で試験的に面会交流を実施した際、相手方の申入れに反して面会交流開始後すぐに未成年者に昼食を食べさせたことや,事前に相手方の了承を得ることなく未成年者にお守りを贈ったことから信頼関係が失われたとして、面会交流調停は不成立となっていました。

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主   文
1 相手方は,申立人に対し,次のとおり,申立人と未成年者を面会交流させなければならない。
(1)頻度 月1回,第2週の▼曜日から◆曜日までの日のうち当事者間の協議により定める日。ただし,当事者間の協議が調わない場合は,第2●曜日とする。
(2)各回の面会交流時間 5時間とし,具体的な時間帯は当事者間の協議により定める。ただし,当事者間の協議が調わない場合は,午前10時から午後3時までとする。
(3)未成年者の引渡方法 相手方は,面会交流開始時に,引渡場所において未成年者を申立人に引き渡し,申立人は,面会交流終了時に,引渡場所において未成年者を相手方に引き渡す。なお,引渡場所は,当事者間の協議で定めるが,協議が調わない場合は,D駅東口ロータリーとする。
(4)代替日 未成年者の病気や幼稚園及び学校の行事等のやむを得ない事情により,上記(1)に従い定められた日程で面会交流を実施できない場合には,当事者双方は,協議により代替日を定める。なお,協議が調わない場合は,第3●曜日,第4●曜日の順に代替日とする。
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 申立人と未成年者が面会交流する時期,方法などにつき,審判を求める。

第2 事案の概要
 本件は,別居中の夫婦間において,申立人(夫)が,未成年者を監護養育している相手方(妻)に対し,下記の要領で,未成年者と面会交流することを求める事案である。
       記
1 頻度 月1回,第2●曜日
2 各回の面会交流時間 午前10時から午後5時まで
3 未成年者の引渡方法 相手方又は相手方が指定する者は,午前10時にD駅東口ロータリーにおいて,申立人に未成年者を引き渡し,申立人は,午後5時に同所において,相手方又は相手方が指定する者に未成年者を引き渡す。
4 代替日 第2●曜日に面会交流が実施できなかった場合は,第3●曜日,第4●曜日の順に代替日とする。

第3 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,次の事実が認められる。

(1)申立人(昭和56年○○月○○日生)と相手方(昭和61年○月○○日生)は,平成24年3月14日に婚姻し,平成25年○月○○日に未成年者をもうけた夫婦である。

(2)同居中,未成年者の世話は,相手方の就職前は相手方が主に行い,未成年者が1歳○か月になり相手方が就職した平成26年10月以降は,未成年者の保育園登園前は主に相手方が,降園後は主に申立人が世話を行っていた。相手方は,平成28年4月頃,勤務時間を短縮し,未成年者に夕食を食べさせたり入浴をさせたりなどの降園後の世話も自ら行うようになった。

(3)申立人は,平成28年4月中旬頃から,未成年者を連れて相手方と別居する計画を立て,同年5月18日,当時2歳○か月であった未成年者を連れて当時の自宅を出る形で,相手方と別居した。

 同年8月25日,申立人宅の近隣住民から児童相談所に対し「申立人らが転居してきてから,たびたび子どもの泣き声と男性の怒鳴り声が聞こえていた。今日も早朝から子どもの泣き声と男性の怒鳴り声が聞こえる。」との通告があったため,翌日,児童相談所職員が事前連絡なしに申立人宅を訪ねたが,室内や親子の様子から一時保護措置をとるまでの重篤性や緊急性はうかがわれなかった。

また,上記通告の同日,家庭裁判所調査官が後記(4)の審判事件の調査のために申立人宅を訪れたところ,申立人宅には未成年者の使いやすさや安全,健康に配慮した工夫がなされており,未成年者の身なりには清潔感があり,外見上,健康状態の問題はうかがえず,申立人の未成年者に対する関わりは,指示的,禁止的なものが散見されたが一方通行にはなっておらず,未成年者は緊張場面では申立人を頼り,申立人に自然に触れ合って甘える様子が観察された。

なお,申立人が未成年者を監護養育していた期間中,申立人は,相手方に対し,未成年者の所在を告げることなく,相手方との面会交流も実施されなかった。

(4)相手方は,未成年者の監護者を相手方と指定し,申立人に対し,未成年者を相手方に引き渡すよう命ずることを求めて審判を申し立て(横浜家庭裁判所横須賀支部平成△△年(□)第△△△号,同第▲▲▲号),同年11月9日,相手方の申立てを認める審判がなされた(以下「前件審判」という。)。これに対し,申立人が抗告したが(東京高等裁判所平成△△年(◎)第▽▽▽▽号),平成29年2月21日,抗告が棄却されて前件審判が確定した。

(5)申立人は,平成29年3月13日,相手方に対し,未成年者を任意に引き渡した。以降,相手方が,相手方肩書住所地において未成年者を監護養育している。未成年者は,現在,幼稚園に通園している。

(6)申立人は,平成29年3月18日,面会交流調停の申立て(千葉家庭裁判所松戸支部平成◇◇年(□■)第◇◇◇号。以下「本件調停」という。)をした。

(7)本件調停手続中である平成29年4月21日,同年5月29日,同年6月27日,同年9月19日,同年11月7日,同月17日及び平成30年1月18日,いずれも相手方手続代理人の事務所において,相手方が衝立越しに様子を窺える状態で,各回約2時間の面会交流が実施されたほか,平成29年○月○○日には申立人が未成年者に誕生日プレゼントを渡すために約15分間の面会交流が行われた。

 相手方は,申立人が平成30年1月18日の面会交流の際,相手方の申入れに反して面会交流開始後すぐに未成年者に昼食を食べさせたことや,事前に相手方の了承を得ることなく未成年者にお守りを贈ったことから信頼関係が失われたとして,同日後の本件調停の期日において面会交流に応じられない旨を述べた。その後,面会交流は実施されていない。

(8)本件調停は,平成30年4月10日,不成立となり,本件審判手続に移行した。


(1)面会交流の可否について

 面会交流を実施すべきか否かについては,非監護親と子との関係,子の心身の状況,子の意向及び心情,監護親と非監護親との関係その他子をめぐる一切の事情を考慮した上で,子の利益を最も優先して判断すべきである(民法766条1項参照)。

 相手方は,連れ去りのおそれがあること,申立人が面会中に未成年者に対し不適切な関わり方をするおそれがあること,申立人が面会交流中の昼食時間や贈り物に関する相手方の申入れに従わず,相手方からの離婚調停における関係修復の可能性に関する問いかけに真摯な対応をしなかったり,相手方の主張する婚姻費用を支払わなかったりしたなどの経緯により信頼関係が破壊されたこと等を理由として,面会交流は認められるべきではないと主張する。

 前記認定事実のとおり,申立人が相手方に何ら説明なく未成年者を連れて計画的に相手方と別居し,未成年者を同居中の主たる監護者であった相手方及び住み慣れた生活環境から引き離した上,未成年者の所在を相手方に告げず,面会もさせなかったことは不当である。

 しかし,前記認定事実(2)のとおり,申立人も同居中から一定程度未成年者の世話を分担していたことも踏まえると,監護者が指定されていない状況下において、申立人が別居に当たり未成年者を連れて自宅を出たこと自体の違法性の程度が極めて高いとまではいえず,申立人が,前件審判の確定後,任意に未成年者を相手方に引渡していることも考慮すると,相手方が未成年者の監護者に指定されている現時点において,申立人が面会交流の際に未成年者を連れ去る具体的なおそれがあるとは認められない。

 また,前記認定事実(3)のとおり,申立人の未成年者に対する関わりは,指示的,禁止的なものが散見されたほか,児童相談所に通告された状況があったことからすれば,申立人の未成年者に対する関わり方には不適切な面もあったことがうかがわれるものの,他方,申立人が未成年者を監護していた期間中,未成年者の健康状態に問題はみられず,申立人が未成年者の安全,健康に配慮した工夫をしていたことや,申立人と未成年者が良好な関係にあったことに加え,本件調停申立て後の面会交流において,申立人が未成年者に対し不適切な関わりをしたと認めるべき事情もなく,相手方も未成年者が申立人と会うことを楽しみにしていると述べることがあったことからしても,面会交流の限られた時間の中で,申立人が未成年者に対し不適切な関わり方をするおそれがあるとは認められず,申立人と未成年者の面会交流を禁止又は制限すべき事由があるとは認められない。


 その他,相手方が申立人との信頼関係が破壊されたとして指摘する事情のうち,昼食時間に関する申入れに従わなかったことやお守りを贈ったことについては,申立人は,既に昼食を広げてしまった状態で,未成年者が食べたがったためである旨及びクリスマスの面会交流が実施されなかったことから,事前に了承を得ていたクリスマスプレゼントの代わりにお守りを渡した旨を述べており,これらの説明には一応の合理性が認められるから,申立人が何ら合理的な理由なくあえて相手方の申入れに従わなかったものとまで認めるに足りない上,そもそも面会交流実施の可否に関わるような重大なルール違反とまでいえず,相手方が主張するその余の事情については面会交流実施の可否に直接関係しない。

 そして,本件調停申立て後の面会交流の状況その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,子の利益の観点からは,申立人と未成年者との面会交流を認めるのが相当である。

(2)面会交流の具体的内容について
 本件においては,本件調停申立て後,当事者間の協議により一定の面会交流が実施されてきた経緯があるものの,相手方が,申立人との信頼関係が破壊されたなどとして平成30年1月18日以降,面会交流の実施を拒んでおり,本件審判手続移行後は面会交流の禁止,制限を主張していること等に照らすと,面会交流の確実な実施のためには,申立人と相手方との協議が調わず,任意に面会交流が履行されない場合に備えて,相手方がすべき給付の内容を特定すべきである。

そして,申立人と未成年者の関係,申立人が未成年者を監護していた期間の監護状況,本件調停申立て後の面会交流の状況,未成年者の年齢及び生活状況,相手方の監護態勢その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,主文掲記のとおり,面会交流の実施要領を定めるのが相当である。


なお,相手方は,面会交流時に未成年者に与える飲食物につき相手方の指示に従うことや,面会交流に申立人の親族を参加させないこと等の制限を付すべき旨を主張するが,前記に検討したところに照らせば,このような詳細な条件を付さなければ申立人と未成年者との面会交流が安全に実施できないとは認められない。

3 よって,主文のとおり審判する。
平成30年8月22日 千葉家庭裁判所松戸支部 裁判官 清水淑江

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