小松法律事務所

子を連れ出した父に対する母を監護者指定・子引渡却下家裁審判紹介


○「親権妨害禁止仮処分で妻から夫への子の引渡を命じた地裁判決紹介」に関連した続きです。この地裁判決は、子の引渡請求の請求原因を親権妨害として地裁に子の引渡仮処分を求めたものです。今回は、家裁への監護者指定と子の引渡を求めた事案を紹介します。子の引渡請求は、親権妨害を理由とした地裁への提訴と、監護者指定を理由とした家裁への申立がありますが、家裁調査官も関与する家裁申立がきめ細かな検討が可能です。

○未成年者らの父である相手方が、同人らの母である申立人を自宅から閉め出した上、同人らを相手方の実家に連れて行き、そこで生活を始めたために、申立人と未成年者らが引き離されたとして、申立人(母)が、相手方(父)に対し、未成年者らの引渡しを求めるともに、未成年者らの監護者をいずれも申立人(母)に指定することを求めました。

○これに対し、申立人(母)は、平成27年春ころから、長男及び二男を自宅に残して、複数の男性と会うために夜間外出や外泊を繰り返していたことからすれば、そのころの申立人(母)による監護は、適切さを欠くものであったといわざるを得ず、現在の相手方(父)による監護は、申立人(母)の明確な同意なく開始されたものであるといえるが、申立人(母)の監護養育に看過できない問題があっての別居であると認められるから、相手方(父)による監護の開始に違法性があるとは認められず、相手方(父)を未成年者らの監護者と認めるのが相当であるとして、本件申立てをいずれも却下した平成28年5月31日奈良家裁審判(判タ1434号128頁)です。

○この審判は、抗告審平成28年8月31日大阪高裁決定で覆されており、別コンテンツで紹介します。

***************************************

主   文
1 本件申立てをいずれも却下する。
2 手続費用は申立人の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

1 未成年者らの監護者をいずれも申立人と定める。
2 相手方は,申立人に対し,未成年者らを引き渡せ。

第2 事案の概要
 本件は,未成年者らの父である相手方が,未成年者らの母である申立人を自宅から閉め出した上,未成年者らを相手方の実家に連れて行き,そこで生活を始めたために,申立人と未成年者らが引き離されたとして,申立人が,相手方に対し,未成年者らの引渡しを求めるとともに,未成年者らの監護者をいずれも申立人に指定することを求める事案である。

第3 当裁判所の判断
1 事実関係

 本件及び関連事件(当庁平成28年(家ロ)第××号)の各記録によれば,次の事実が認められる。
(1)申立人(昭和57年×月×日生)と相手方(昭和51年×月×日生)は,平成19年×月×日に婚姻し,平成20年×月×日に長男である未成年者C(以下「長男」という。)が,平成22年×月×日に二男である未成年者D(以下「二男」という。)が,平成25年×月×日に長女である未成年者E(以下「長女」という。)が生まれた。

(2)申立人は,結婚後,専業主婦となった。
 相手方は,○○に勤務する新聞記者である。

(3)申立人と相手方は,婚姻後,F市内の賃貸マンションで生活し,平成21年×月にG市内の賃貸マンションに転居した。そして,平成23年×月,同市内の分譲マンション(以下「自宅」という。)に転居した。

(4)相手方は,平成25年×月,○○に異動になり,F市に単身赴任した。

(5)申立人は,平成27年の春ころから,長女を実家に預け,就寝中の長男及び二男を自宅に残したまま,出会い系サイトで知り合った男性と会うために夜間外出及び外泊を繰り返すようになり,多いときには1週間に3回程度夜間外出をして男性と会っていた(申立人は,審問において,複数の男性と会っていた理由について,相手方が子育てに協力してくれなかったこと,相手方が夫や父として申立人の悩みに向き合ってくれないことに不満があったこと,及び相手方が忙しいと言いながらも浮気をしていたことなどが原因である旨述べている。)。

(6)相手方は,平成27年夏ころには,申立人が長男及び二男を自宅に残して夜間外出することに危機感を抱くようになった。
 同年×月,申立人と相手方が話合いをした際,相手方は,子育てに意欲が持てない旨述べた。

(7)相手方は,単身赴任中であり,申立人が頻繁に夜間外出することから,不測の事態があった場合に警察に対応を依頼するために,平成27年×月×日,G警察署にその旨相談した。G警察署の警察官は,申立人の行為は児童虐待であると判断し,相手方に対して,未成年者らの安否確認と申立人への事情聴取を行う旨述べたが,相手方が申立人への事情聴取を拒否したことから,申立人への事情聴取は行われず,同月×日に未成年者らの安否確認のみ行われた。
 G警察署は,同月×日,G子ども家庭センターに虐待通告した。

(8)平成27年×月,相手方が○○に異動したことにより,相手方の単身赴任が解消され,相手方は,申立人及び未成年者らと自宅で生活するようになった。

(9)申立人は,平成27年×月×日午後3時半ころ,相手方に対し,「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」というメールを送信した。
 相手方は,事態が極めて緊迫していると感じ,自宅に向かうとともに,申立人の父と相手方の父母に連絡して協力を求めた。相手方は,駆けつけた相手方の父母に未成年者らを預け,Hの実家で保護することを依頼し,相手方の父母は,未成年者らを連れて実家に戻った。そして,相手方は,駆けつけた申立人の父と今後の対応を協議した。申立人の父は,平成27年春ころから申立人の様子がおかしいことや申立人が長男及び二男を自宅に残して夜間外出していることなどをかねてより相手方から聞いていたため,未成年者らが相手方の実家で暮らすことに同意するとともに,申立人を申立人の実家に連れて帰ることを了承した。その後,相手方は,申立人に対し,今後,未成年者らは相手方の実家で暮らすこと,及び申立人は申立人の実家に帰ることなどを伝え,申立人は身の回りの荷物を持参して,申立人の父と一緒に実家に帰った。

(10)
ア 未成年者らは,平成27年×月×日以後,相手方の実家において,相手方及び相手方の父母と生活している。未成年者らは,現在の環境に十分適応して順調に発育しており,健康状態も良好である。

イ 相手方は,現在,○○に勤務しており,原則として月曜日から金曜日まで出勤し,午前9時ないし午前10時ころに家を出て,午後9時ないし午前零時ころに帰宅しているが,宿直勤務や出張等のために土曜日・日曜日及び祝日に出勤することもある。
 相手方は,未成年者らと一緒に朝食を取り,休日は一緒に遊んだり,夜は未成年者らと入浴や就寝するなどしている。

ウ 相手方の父は,不定期でシルバー人材センターの業務に従事している。
 相手方の父は,平成27年×月上旬にメニエル病を発症したが,同年×月末ころにはほぼ回復して,症状もみられなくなり,現在,日常生活や自動車の運転等に支障はない。
 相手方の母は,無職であり,健康状態に問題はない。相手方の母は,実家の近くに居住し,ひきこもり状態である相手方の弟の食事の世話をしている。
 相手方の父母は,相手方が仕事をしている間,未成年者らの食事や入浴等の世話,二男の幼稚園への送迎等の監護補助をしており,今後も監護補助を行う意向を有している。

(11)申立人は,平成28年×月×日から,○○に勤務している。
 申立人は,現在,実家の近くにある賃貸マンションに1人で居住している。
 申立人の父は公務員であり,申立人の母は無職である。申立人の父母は,申立人が未成年者らを養育する場合には監護補助をする意向を有している。

2 前記1の認定事実に基づき,未成年者らの監護者として申立人と相手方のいずれを監護者と定めるのが相当かについて検討する。
(1)未成年者らの監護について,未成年者らの出生以来,平成27年×月×日に未成年者らが相手方の実家に行くまでは,主として申立人が未成年者らを監護してきたと認められる。もっとも,申立人が,平成27年春ころから,長男及び二男を自宅に残して,複数の男性と会うために夜間外出や外泊を繰り返していたことからすれば、そのころの申立人による監護は,適切さを欠くものであったといわざるを得ない。

(2)現在の相手方による監護は,申立人の父の同意はあったものの,申立人の明確な同意なく開始されたものであるといえるが,長期にわたって申立人が長男及び二男を自宅に残して深夜外出していたこと,及び別居直前に,申立人が相手方に対して「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」とメールを送ったことを踏まえると,申立人の監護養育に看過できない問題があっての別居であると認められるから,相手方による監護の開始に違法性があるとは認められない。
 

 そして,平成27年×月×日に未成年者らが相手方の実家に行った後は,相手方が,相手方の父母の監護補助を得ながら,未成年者を監護しているところ,相手方の監護態勢については,相手方の仕事柄,相手方の父母による監護補助に頼らざるを得ない部分が大きいが,相手方の父母は,今後も監護補助を行っていく意向を有しており,相手方の母親が,ひきこもり状態である相手方の弟の世話をしていることを踏まえても,相手方の父母による監護補助に特段問題があるとは認められない。

そして,未成年者らは,現在,主たる監護者であった申立人と引き離されてはいるが,上記のとおり,平成27年春ころからの申立人の監護状況は適切さを欠くものであったこと,及び,未成年者らは,現在の環境に十分適応しながら,健康で順調に発育しており,未成年者らの現状を変更する必要性があるとは認められないことからすれば,申立人が主張する諸事情を考慮しても,現状の監護態勢を維持することが未成年者らの福祉に資するというべきである。

(3)以上によれば,相手方を未成年者らの監護者と認めるのが相当である。
 よって,申立人の本件各申立ては理由がないからいずれも却下することとし,主文のとおり審判する。