小松法律事務所

第三者への子の引渡請求を家裁審判事項とした家裁判例紹介1


○子を夫婦や指定監護権者以外の第三者が事実上監護している場合、監護権者からその第三者に対する子の引渡請求は、家裁審判事項ではなく、民事訴訟事項とされています。しかし、別居夫婦の間でした、母が子を養育監護する旨の協議は適法であり、かつ、その場合父は監護権能を行使し得ないと判示した上、父の委託により事実上右子を監護している第三者に対し、民法766条により監護に関する処分として子の引渡を命じた昭和40年3月26日東京家裁審判(判タ187号215頁)を紹介します。

○民法第766条の規定は以下の通りです。
第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。


○事実上子のの監護している者が、父母であろうと、第三者であろうと、事実上監護者に対する引渡請求の適否の判断は、何より、その子の福祉に適うかどうかの判断が最も重要です。子の福祉に適うかどうかの判断に当たっては家裁調査官の調査が必須です。民事訴訟の場合、家裁調査官を関与させることができません。

○本件では、相手方が、父Bからの委託を受けて事実上監護しており、民法第766条に準じて従って、家庭裁判所に対し子の監護をすべき者を変更し、監護について相当な処分を求めることもできるとして、家事審判事項としました。子を夫婦や指定監護権者以外の第三者が事実上監護している場合であっても民法第766条により家裁審判事項として家裁調査官を関与させるべきであり、妥当な判断です。

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主   文
相手方はA(昭和33年4月27日生)を申立人に引渡せ

理   由
 申立人は主文同旨の審判を求め、その理由として次の(一)ないし(四)のとおり述べた。
(一)、申立人はBと昭和24年9月婚姻し、昭和25年3月10日長女C,同27年1月19日二女D、同33年4月27日長男Aを儲けた。
(二)、右Bは昭和29年頃からD女と知合い家庭を顧りみないようになつたので、申立人はBと別居するの已なきに至り、昭和35年6月18日札幌家庭裁判所室蘭支部に於て、次のような調停が成立した。すなわち、申立人とBは別居し、申立人が右一男二女を引取り養育監護すること、Bは申立人に対し生活費として昭和35年7月以降毎月金6000円を支払うこととする調停が成立した。
(三)、申立人は昭和40年1月病気したので、右一男二女を一時、北海道稚内の申立人の姉に預けたところ、Bは申立人に無断で同年3月3日長男Aを連れ出し前記D女の父親である相手方に預けたものである。
(四)、申立人は、Aが4月から室蘭市の小学校に入学するので、急いで上京し相手方にAの引渡方を求めたがBから依頼されたからと称し応じないものである。

よつて案ずるに、申立人、相手方及びBの各審問の結果と家庭裁判所調査官伊藤よねの報告書によれば申立人の主張する事実をすべて認めることができる。右事実によれば、申立人とBとは、前記調停において、別居のためその子女を共同して監護することができないので、その親権のうち子の監護につき申立人においてこれをなすべく協議したものと認められる。

かような協議は勿論適法であつて、別に協議し直すか、民法第766条に準じ家庭裁判所の処分によらない限り、Bは監護の権能を行使し得ないものと考えざるを得ない。従つて、Bが相手方にAを引渡しその監護を委託したとしても、相手方は正当に監護する権能をうるものでないので、相手方がAを留めおくことは、申立人のAに対する監護を妨げているものというほかない。

かような場合に、申立人は、そのAに対する親権の行使を相手方が妨げているものとして相手方に対し妨害排除を求めうることは勿論であるが、相手方が事実上Aの監護をなしていることを基礎として、民法第766条に準じて、家庭裁判所に対し子の監護をすべき者を変更し、監護について相当な処分を求めることもできるものと考えざるを得ない。


しかして、本件申立は右相当な処分を求めるものと解せられるところ、前記各審問の結果によれば、Aが申立人の許にあつてその監護を受けることが、相手方或はBの許にあつてその監護を受けるよりも、よりAの幸福に副うものと認められるし、また、Aは昭和33年4月27日生で未だ自己の意思で相手方に留つているものでないことが認められるので、申立人をAの監護者とすることが相当であり、相手方にAを申立人に引渡さしめることが相当であると考えられる。

しかして、前記調停において、申立人がAの監護者であることが明らかであるので、主文でこれを明らかにする要のないものと認め、本件申立を相当と認め主文のとおり審判する。(家事審判官 脇屋寿夫)