小松法律事務所

別居父と未成年者の月1回3時間程度の面会交流を認めた高裁決定紹介


○「別居父と未成年者の月1回3時間程度の面会交流を認めた家裁審判紹介」の続きで、その抗告審令和4年12月21日福岡高裁決定(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○別居中の夫婦間において、相手方父が、未成年者らを現に監護している抗告人母に対し、未成年者らとの面会交流を求め、原審福岡家裁は、毎月1回、1回あたりの交流時間を3時間程度としたうえ、具体的な日時、場所、方法については、当事者間の協議により定めるものとするのが相当であるとして、相手方父の申立てを認容していました。

○これに対し、抗告人母が、長男が「PTSD再燃」との診断を受けていること、調査官が、相手方と未成年者らとの面会交流の実施に慎重な意見を述べていることなどから、現時点において、相手方と未成年者らとの面会交流を実施するのは、未成年者らの利益に反するとして福岡高裁に即時抗告しましたが、抗告審福岡高裁も、抗告人母の主張する事情を踏まえても、相手方父と未成年者らの面会交流を実施することが未成年者らの利益に反するとはいえないとして抗告を棄却しました。

○調査官の「長男が父(相手方)を拒絶するような言動を示すことはなく、意思疎通も円滑であった。」、「長女は、面会交流に消極的な姿勢を示したが、父を一方的に拒絶しているわけではない。長女は、同居親(抗告人母)の不安を察して、一連の発言に至ったものと考えられる。」との意見から、父母間に厳しい対立があっても、その事情が、父子間の面会交流実施について未成年者の利益に反するとは言えないと判断しており、極めて妥当な判断と思われます。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由

 抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告状」、同「抗告理由書」及び同「主張書面」(いずれも写し)に記載のとおりであり、相手方の主張は、別紙「抗告審主張書面」(写し)に記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断(以下、特に断らない限り、略語は原審判の例による。)
1 当裁判所も、原審判主文第1項のとおりに、相手方と未成年者らとの面会交流の時期、方法等を定めるのが相当と判断する。その理由は、次のとおり補正し、2のとおり抗告の理由に対する判断を加えるほかは、原審判「理由」欄の「第2 当裁判所の判断」の1及び2(原審判2頁8行目から13頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)原審判3頁12行目の「申立事件において、」の次に「家庭裁判所調査官(以下、単に「調査官」ということがある。)による」を加え、13行目の「調査結果のうち」を「令和3年3月31日付けの調査報告書によれば」に改め、14行目の「に関するもの」を削る。

(2)原審判5頁9行目の「申立人は、」の次に「上記手続代理人の許可を得て、」を加え、15行目の「ハグ」を「ハグ(抱き締めること)」に改める。

(3)原審判5頁16行目末尾を改行の上、次のとおり加える。
 「相手方は、面会交流を終了する際、未成年者らに対し、「また、遊ぼうね」、「ギブミーハグプリーズ」、「愛しているよ」、「アイラブユー」、「大好きだよ」などと声を掛けたところ、抗告人が、相手方に対し、「変なこと言わんで」などと述べたことから、抗告人との間で口論となった。」

(4)原審判5頁18行目の「4、」を「甲4。以下、この面会交流を「令和3年の面会交流」ということがある。」に改める。

(5)原審判6頁24行目の「…父親に」を「双子の妹よりできない事が多く、そのことで父親は本児により不機嫌になりやすく、父親に」に、7頁2行目の「「消えろ」」」を「「消えろ」」にそれぞれ改める。

(6)原審判8頁2行目の「当裁判所は」を「福岡家庭裁判所は、令和3年10月5日、調査官に対し、試行的面会交流の実施について調査を命じ、調査官は、同月28日付けの調査報告書において、抗告人は、長男がPTSDの疑いとの指摘を受け、「PTSD再燃」との診断を受けたことや、当事者双方の信頼関係がないことを理由に、直接的な面会交流は子の福祉に反する旨の主張をしていて、試行的面会交流の実施は困難である旨の意見を述べた。これを受けて、福岡家庭裁判所は、令和3年11月22日」に改める。

(7)原審判9頁8行目末尾を改行の上、次のとおり加える。
 「ウ 調査官の意見
(ア)長男が父(相手方)を拒絶するような言動を示すことはなく、意思疎通も円滑であった。父について、「怒る」、「トントンする」などと述べる場面はあったが、同居時にはそうしたことはないとも述べ、その態度等からも深刻さは見受けられなかった。もっとも、長男は、令和3年の面会交流の記憶が曖昧な部分があるとともに、医師からPTSD再燃との診断を受けていて、慎重な判断が必要である。

(イ)長女は、面会交流に消極的な姿勢を示したが、父を一方的に拒絶しているわけではない。長女は、同居親(抗告人)の不安を察して、一連の発言に至ったものと考えられる。

(ウ)父母の対立が続き、同居親である母の不安が払しょくされていない状況において、未成年者らの発言の一言一句を取り上げて面会交流の可否、方法等について判断するのは不相当である。

(8)原審判12頁2行目の「依頼していたこと」の次に「、令和3年の面会交流を終了する際、抗告人と口論したこと、さらには、通学中の未成年者らに接触し、未成年者らの様子を撮影したり、「ダディね、近くに住んでるんだ」、「ダディが住んでいるところ知りたい?」などと声を掛けたりしたこと」を加え、4行目の「これらはあくまで夫婦間の問題であって、」を「かかる事情は」に、12行目の「未成年者の利益」を「未成年者らの利益」にそれぞれ改める。

2 抗告の理由に対する判断
 抗告人は、
〔1〕長男が「PTSD再燃」との診断を受けていること、
〔2〕調査官が、相手方と未成年者らとの面会交流の実施に慎重な意見を述べていること、
〔3〕未成年者らが、現在も、月1回の頻度で、本件診療所に通院していること
からすると、現時点において、相手方と未成年者らとの面会交流を実施するのは、未成年者らの利益に反する旨
の主張をするが、抗告人の主張する事情を踏まえても、相手方と未成年者らの面会交流を実施することが未成年者らの利益に反するといえないことは、補正後の原審判の説示のとおりである。

3 よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。
令和4年12月21日 福岡高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官 森冨義明 裁判官 野々垣隆樹 裁判官 伊賀和幸