小松法律事務所

祖母から実父母への子の引渡保全処分を却下した家裁審判紹介


○「生後小学生まで監護継続祖父母に実父への子の引渡命じた高裁決定紹介」に関連する続きです。現在、子の引渡に関する事件を扱っており、関連判例を色々探しています。

○両親の未成立の離婚問題に絡んで申立人祖母のところに預けられた子らについて、申立人祖母が、父親の暴力行為や性的行為の可能性があることを理由に第三者を監護者に指定するよう家庭裁判所に申立して同時に審判前の保全処分を申し立てしました。

○これについて、暴力行為及び性的行為のあったことは否定し難いものの親権者が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しくかけるところがあり親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害するような特段の事情が存することを疎明するに足りる資料があるか疑問があり、また子らが父母の下に戻ったとしても直ちに生命・身体等に著しく影響するほどの保護の緊急性があるのか疑問が残るとして却下した平成14年7月19日福岡家裁久留米支部審判(家庭裁判月報55巻2号172頁)を紹介します。

○この審判で使えるのは、「家庭裁判所に対し子の監護者の指定の申立てをすることができるのは,子の父と母であり,第三者にはその指定の申立権がないとも解せられるところ,申立人は事件本人らの祖母であって第三者であるから,本件の子の監護者の指定の申立権がないといえなくもない。しかし,子の親族や事実上の監護者にも,民法766条の規定の趣旨を類推し,子の監護者の申立権を認める見解も存しないではないので,ここではこの問題は一応さておき審判前の保全処分の当否について検討することとする。」としている点です。

○この審判は、抗告審平成14年9月13日福岡高裁決定(判タ1115号208頁)で一部覆されており、別コンテンツで紹介します。

*********************************************

主   文
本件申立てをいずれも却下する。

理   由
第1 申立ての趣旨及理由

 別紙「審判前の保全処分申立書」及び「準備書面」記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 本件記録によれば,事件の事実経過として,以下の事実が認められる。
(1)相手方好井Y1(以下「相手方Y1」という。)は,相手方好井Y2(以下「相手方Y2」という。)と平成2年4月16日に婚姻し,両者間に,平成3年4月11日に長女の事件本人好井あやの(以下「事件本人A」という。),平成4年5月9日に二女の事件本人好井B(以下「事件本人B」という。)が出生した。なお,申立人は,相手方Y2の実母である。

(2)相手方Y1は,当時○○薬品工業株式会社○○工場の産業医として勤務しており,相手方Y2及び事件本人両名と山口県光市で一緒に生活していた。ところが,相手方Y2は,相手方Y1との夫婦喧嘩やその際の自分及び事件本人両名に対する暴力等を原因として,平成13年8月30日,事件本人両名を連れて,申立人肩書住所地の実家に戻り,申立人と同居した。そして,同年9月には,山口家庭裁判所徳山支部に離婚調停を申し立てたが,同年11月にこれを取り下げた。

(3)事件本人両名は,平成13年9月から久留米市内の○○小学校に通学していた。ところが,申立人と相手方Y2は,生活する過程で何かと意見が相違し,口喧嘩も生じ,その間がぎくしゃくとするようになった。そのような中,申立人は,心臓病のため,平成14年1月30日から同年3月7日まで入院した。

(4)相手方Y1は,前記○○工場の産業医を退職して,平成14年2月1日,その肩書住所地に転居し,京都府内の○○病院に勤務した。このころより相手方Y2と縒りを戻すことを考え始め,久留米市を訪れ,相手方Y2らと接触をとるようになった。そして,相手方両名は,同年4月27日,その肩書住所地で再び同居を始めた。

(5)これに伴い,相手方両名が事件本人両名を連れて行こうとしたことから,事件本人両名は,平成14年3月16日から久留米児童相談所に一時保護されることとなった。しかし,同年5月26日に同相談所から逃げ出して,申立人方に戻り,再び○○小学校に通学していた。すると,同年6月4日,相手方両名が,小学校から事件本人両名を連れ出し,その肩書住所地で一緒に生活を始めた。

ところが,事件本人Aは,同月8日そこを逃げ出して,申立人と北九州市内のホテルにいるところを○○警察署に保護され,翌9日から再び久留米児童相談所に一時保護されることとなった。一方,事件本人Bは,事件本人Aが父母宅を逃げ出した際,行動を共にしておらず,また,事件本人Aが○○警察署に保護された際も,結局,父母と共に京都の父母宅に戻っている。

(6)事件本人Aは,現在久留米児童相談所に一時保護されて,自習をしたり自由な時間を過ごしたりするとともに,家庭教師による教育を受けている。そして,相手方Y1から,事件本人両名が暴力行為のほか,身体を触られるなどの性的行為をされた旨訴えていたことから(ただし,性行為はない。),精神科にも通院してカウンセリングを受けている。同相談所では,処遇方針が決まるまで一時保護を継続する積もりであるが,長期化するようであれば施設委託も検討する考えである。なお,事件本人Aは,相手方両名特に相手方Y1との同居を強く拒んでおり,申立人との生活を望んでいる。

 また,事件本人Bは,現在相手方両名とその肩書住所地で同居しており,不明な点はあるものの,京都市内の△△小学校に休まずにともあれ元気な様子で登校している。そして,平成14年6月7日に申立人が△△警察署に相手方両名が事件本人両名を虐待している旨通報したことを契機として,京都児童相談所において,事件本人Bに関与しており,相手方Y1による性的虐待(疑い)について相手方両名及び事件本人Bと接触を持っていく予定である。

2 ところで,家庭裁判所に対し子の監護者の指定の申立てをすることができるのは,子の父と母であり,第三者にはその指定の申立権がないとも解せられるところ,申立人は事件本人らの祖母であって第三者であるから,本件の子の監護者の指定の申立権がないといえなくもない。しかし,子の親族や事実上の監護者にも,民法766条の規定の趣旨を類推し,子の監護者の申立権を認める見解も存しないではないので,ここではこの問題は一応さておき審判前の保全処分の当否について検討することとする。

 一般に審判前の保全処分の申立てを認容するためには,本案審判の申立てが認容される蓋然性があること及び保全の必要性があることが疎明されることを必要とする。そして,子の監護者の指定の審判の保全処分の必要性としては,「事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」と定められている(家事審判規則52条の2)。

 そこで,本件につきこれをみるに,第三者に対する子の監護者の指定をする審判の申立てを認容するための要件として,親権者が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり,親権者にそのまま親権を行使させると子の福祉を不当に阻害するような特段の事情が必要であると解する余地もあるところ、本件では,相手方Y1による事件本人両名に対する暴力行為や性的行為があったことは否定し難いものの,それ以上に相手方両名いずれについても,上記のような特段の事情の蓋然性を疎明するに足りる資料があるか疑問がないではない。

それのみならず,事件本人Aに関しては,現在相手方の手元には居らず,久留米児童相談所において,児童福祉法の規定に従い一時保護されている状況にあり(なお,一時保護中の児童について,引渡しを命じる判断を行なえるかの問題もある。),仮に相手方両名の下に戻ったとしても,直ちに生命・身体等に著しく影響するほどの保護の緊急性があるのか疑問が残る。また,事件本人Bに関しては,現在相手方両名の下で生活しているが,そこから小学校にともあれ元気な様子で通学しており,しかも京都児童相談所がこれに関与・接触していく状況にあり,保護の緊急性があるのか疑問が大きい。

3 そうだとすれば,申立人の本件申立ては,本案審判の申立認容の蓋然性だけでなく,保全の必要性も疎明がないことに帰するので,これをいずれも却下することとし,主文のとおり審判する。