小松法律事務所

未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定した高裁決定説明


○「未成年者祖母を民法第766条1項監護者と指定した高裁決定紹介」の続きで、この令和2年1月16日大阪高裁決定(判タ1479号51頁)の内容・意義等についての説明です。

○事案概要は以下の通りです。
・未成年者を事実上監護している祖母が,未成年者の実母及び未成年者と養子縁組をした養父を相手方として,未成年者の監護者を祖母と指定することを求めた
・一審大阪家裁は,祖母を未成年者の監護者と指定する旨
・本決定は,実母及び養父の抗告を棄却する旨の決定をした。


○本件の論点は,
①事実上の監護者である祖父母等は,監護者指定の申立権を有するか,
②有するとして,どのような場合に祖父母等を監護者として指定し得るか
という点です。

○①について、民法766条1項の法意に照らし,事実上の監護者である祖父母等も,子の監護者指定の申立てをすることができる,
②について、上記祖父母等を監護者と指定するためには,親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても,子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要する
と判断し
本件については、抗告人ら(実母及び養父)の親権の行使が不適当であるため,未成年者を抗告人らに監護させた場合,未成年者の精神状態が著しく悪化し,小学校に通うことができなくなるなど未成年者の健全な成長を阻害するおそれが十分に認められるなどとして,事実上の監護者である祖母を未成年者の監護者と指定するのが相当であるとしました。

○事実上の監護者である祖父母等の第三者が監護者指定の申立権を有するかについては、学説は、一部消極説がありますが、近時の通説は積極説であるとされていました。現在の家裁実務では、消極説の高裁決定例があり、特に「父母以外の親族に民法766条類推適用を否定した高裁決定紹介」で紹介した平成20年1月30日東京高裁決定(抗告審、家庭裁判月報60巻8号59頁)により、消極説での運用をしている裁判官も居て、祖父母等両親以外の申立は、家事審判事項には当たらず、不適法な申立として却下せざるを得ないとしていました。

○平成20年1月30日東京高裁決定に対しては,家裁実務の到達点を無視するものである、形式的な文理解釈に終始しているなどといった批判があり、令和2年1月16日大阪高裁決定はその批判に沿うものです。事実上の祖父母等に監護者指定の申立権を認める場合,その根拠をどのように解するかにつき,民法766条説,民法766条・819条6項類推適用説,民法766条・834条類推適用説等がありますが、大阪高裁決定は,民法766条1項の法意を根拠としました。但し、本件事案は、事実上の監護者である祖母の申立てに係るものでしたが、未成年者を現に監護していない祖父母等の親族や親族以外の第三者にも申立権を認めるのかという点については、さらに慎重な検討を要するとの説明もあります。

○どのような場合に祖父母等を監護者として指定し得るかについては、民法834条「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは」家庭裁判所は親権喪失の審判をすることができると規定や、監護権と同じく親権の一部である管理権の喪失の審判を定める民法835条は「父又は母による管理権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは」家庭裁判所は管理権喪失の審判をすることができると規定していることが参考になります。本決定は、祖父母等を監護者と定めることは親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなるという観点から、親権者に子を監護させると子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれがあることなどを要件としています。