小松法律事務所

不貞行為相手への夫との面会・同棲差止請求を棄却した地裁判決紹介2


○「不貞行為相手への夫との面会・同棲差止請求を棄却した地裁判決紹介」の続きで、妻が原告として、夫Aの不貞行為相手方女性を被告として、慰謝料の他に不貞行為・同棲・面会の差止を求めた事案についての平成26年7月10日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

○原告において、その夫であるAと被告が不貞行為を行い、その後も不倫関係を継続していることにより平穏な婚姻生活や家族生活を侵害され、精神的損害を受けたと主張し、不法行為に基づく損害賠償請求として、被告に対し慰謝料1000万円の支払を求めるとともに、事後の金銭賠償による保護では十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別の事情があると主張して、被告に対しAとの不貞行為、同棲又は面会の差止めを求めました。

○これに対し、判決は、平成25年初頭から被告がAと不貞行為を開始し、現時点においてもその状況が改まらないことで、原告の家庭関係が崩れることになり、原告が大きな精神的損害を被ったことは明らかとして250万円の慰謝料は認めました。しかし、不貞行為・同棲・面会の差止については、精神的な平穏の侵害にとどまり、一般に、事後の金銭賠償による保護で足りるというべきであり、本件においてこれと異なる判断をすべき特別の事情は見当たらないとして請求を認めませんでした。

***************************************

主  文
1 被告は,原告に対し,250万円及びこれに対する平成25年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成25年9月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告とAの婚姻が継続している間,Aと不貞行為,同棲又は面会をしてはならない。

第2 事案の概要
 本件は,原告において,その夫であるA(以下「A」という。)と被告が不貞行為を行い,その後も不倫関係を継続していることにより平穏な婚姻生活や家族生活を侵害され,精神的損害を受けたと主張し,不法行為に基づく損害賠償請求として,被告に対し1000万円及びこれに対する平成25年9月4日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,事後の金銭賠償による保護では十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別の事情があると主張して,被告に対しAとの不貞行為,同棲又は面会の差止めを求めた事案である。

1 争いのない事実及び証拠等により容易に認定できる事実
(1) 原告(昭和50年○月○日生)は,平成17年9月29日に,A(昭和40年○月○日生)と婚姻し,Aは,同日,原告と前夫との間の子であるB(平成12年○月○日生)と養子縁組し,また,原告とAとの間には平成20年○月○日に長女Cが出生した。

(2) 被告(昭和38年○月○日生)は,Aの高校の2年先輩で,婚姻し,長女が出生したが,平成24年秋頃,同窓会活動を通じてAと出会い,遅くとも平成25年初頭には男女関係を伴う交際をするようになった。なお,被告は,平成25年9月17日に前夫と離婚し,長女の親権は前夫が持つが,監護権は被告が持つこととして,現在,住所地で長女と同居している。

(3) 原告は,Aに対し,平成25年6月6日付で夫婦関係等調整調停(円満)を申し立てたが,話し合いが付かず,調停不成立となり,現在は,婚姻費用分担請求の調停が続けられている。Aは,遅くとも同年6月下旬以降,徐々に自宅に戻らなくなり,現在は,原告とは別居状態にある。

(4) 被告とAは,現在も交際を継続しており,Aは,仮に被告宅で同居してはいないとしても,頻回に被告宅を訪れている。

2 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 争点1(不貞行為以前の婚姻関係破綻の存否等)
(被告の主張)
 Aと原告は,かねてより夫婦仲が悪く,数年前から家庭内別居状態が続き,被告がAと交際を開始した平成25年初頭には,既に婚姻関係は破綻していた。したがって,原告とAの婚姻関係は,Aと被告が交際を開始する以前から,事実上破綻していたのであるから,被告の行為は,法的に不貞行為という評価を受けるものではなく,また,婚姻関係破綻の原因となったものでもない。

(原告の主張)
 原告とAの婚姻関係が破綻していることは否認する。平成25年初頭には,原告夫婦に多少の不和はあったとしても,別居はしていないし,家庭内別居状態にもなかった。また,その後も,Aが離婚の意思を明確に持っていたというわけではなく,現時点においても,婚姻関係の回復の見込みがないわけではない。

(2) 争点2(損害等)
(原告の主張)
 原告は,被告の不法行為により甚大な精神的苦痛を受け,その結果,うつ病の診断を受けるに至っており,また,被告は,本件訴訟提起後も,原告からの求めにも応じようとせず,Aとの不貞関係を継続しているのであるから,原告の被った精神的苦痛は,被告のこのような対応により更に増大したというべきである。このような原告の精神的苦痛を慰謝するための損害金は,1000万円を下回らない。

(被告の主張)
 原告の主張する損害を争う。

(3) 争点3(差止請求の可否)
(原告の主張)
 本件においては,原告一家の家族の崩壊をくい止め,婚姻共同生活の平和を維持するためには,事後の金銭賠償による保護では十分でなく,事前に被告に対してAとの不貞行為,同棲又は面会の差止めを求めるに足りる特別の事情が認められるというべきである。

(被告の主張)
 一般に,不貞行為により,夫婦関係が事実上破綻し,家族崩壊が起き,離婚に至ったり,日常的共同生活環境が失われることがあるのは通常のことであり,本件においても同様であるから,本件において不貞行為等の差止めを認めるべき特別の事情があると認めることはできない。また面会については,違法性を認めることはできないから,いずれにしても差止請求は成り立ち得ない。

第3 当裁判所の判断
1 争点1(不貞行為以前の婚姻関係破綻の存否等)

 上記第2の1(2)及び(4)のとおり,本件においては,被告とAは,平成24年秋頃,同窓会活動を通じて出会い,遅くとも平成25年初頭には男女関係を伴う交際をするようになり,現在も交際を継続していることは当事者間に争いがない。

 被告は,Aと原告は,かねてより夫婦仲が悪く,被告がAと交際を開始した平成25年初頭には,既に婚姻関係は破綻していた旨主張するが,原告は,Aとの婚姻関係が既に破綻していたことを否認し,通常の婚姻関係が継続していた旨陳述(甲5),供述しているし,他方,原告とAの婚姻関係がその当時から破綻していたことを示す外形的事情や客観的証拠は何も存在しない。

被告の供述もAからそのように聞いていた旨を述べるにとどまるものにすぎず,たとえ,仮にAが原告との婚姻生活を継続する意思を一方的に失っていたとしても,それによって婚姻関係の破綻が認められるわけではないのであるから,本件において,婚姻関係の破綻に関する被告の主張を採用することはできないというべきである。

2 争点2(損害等)について
 上記1において判示したとおり,本件は,被告において,妻子がいることを知りながらAとの交際を継続し,現時点においてもその状況が改まらないという事案であるから,このような被告とAとの違法な関係の継続により,原告の家庭関係が崩れることになり,原告が大きな精神的損害を被ったことは,明らかというべきである。

 そうすると,現時点における原告の心情としては,今もなお,Aとの婚姻関係が完全に破綻したとは認識しておらず,離婚を求めるものではないなどの事情を最大限被告に有利に勘案したとしても,本件における諸事情を総合勘案すれば,原告が被った精神的損害を慰謝するためには,250万円をもってするのが相当というべきである。

3 争点3(差止請求の可否)について
 原告は,本件において,原告一家の家族の崩壊をくい止め,婚姻共同生活の平和を維持するためには,事後の金銭賠償による保護では十分でなく,事前に被告に対してAとの不貞行為,同棲又は面会の差止めを求めるに足りる特別の事情が認められるというべきである旨主張する。

 しかしながら,被告が主張するとおり,Aとの面会については,それ自体違法なものと認めることはできないから,原告が主張する差止請求はその根拠を欠くというほかないし,Aとの不貞行為や同棲についても,その行為の性質が原告の身体や財産を直接侵害するというものではなく,侵害を受けるのは結局は原告の精神的な平穏にとどまると解さざるを得ないことにかんがみると,精神的な平穏の侵害については,一般に,事後の金銭賠償による保護で足りるというべきであり,本件において,これと異なる判断をすべき特別の事情は見当たらない。したがって,いずれにしても,本件において原告主張の差止請求を認めることはできない。

4 以上によれば,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却して,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第30部 (裁判官 菅野雅之)