元妻が元夫に対して申し立てた年金分割請求を認めた高裁決定紹介
○婚姻の届出をし、その後離婚訴訟の確定判決により離婚した元夫婦の間において、元妻である抗告人が、婚姻期間における年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める申立をしました。これに対し、原審令和4年4月22日千葉家裁審判(判タ1515号59頁、家庭の法と裁判48号91頁)が抗告人の申立てを却下し、抗告人が即時抗告しました。
○抗告審東京高裁は、離婚時年金分割制度の趣旨に照らすと、夫婦の不和から相互扶助の関係が損なわれ、その原因が抗告人の言動・行動にあるとしても、それだけで直ちに、請求すべき按分割合を減ずるべきことにはなるわけではなく、本件における事情を総合的に考慮すると、対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度を同等と見るべきでないとする特段の事情があるとまでいうことはできず、本件については、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当で、これと異なる原審判は相当でないとして、原審判を取消し、元妻の申立を認めました。
○抗告人と相手方は,平成18年12月に同居開始、平成24年4月婚姻届出をして同居生活を続け、平成27年8月激しい喧嘩となり、その頃以降,夫婦関係は極めて険悪となり、相手方が同年11月に離婚調停申立をし、平成28年6月離婚訴訟を提起し,令和元年9月,相手方離婚請求判決確定により,離婚が成立しましたが、相手方は厚生年金保険法78条の2第1項所定第1号改定者,抗告人は同項所定第2号改定者であるとの事情は、特段の事情とは言えず、対象期間の保険料納付の夫婦寄与は平等としました。
○以下の厚生年金法の趣旨を徹底した決定です。
第78条の13(被扶養配偶者に対する年金たる保険給付の基本的認識)
被扶養配偶者に対する年金たる保険給付に関しては、第三章に定めるもののほか、被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に、この章の定めるところによる。
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主 文
1 原審判を取り消す。
2 抗告人と相手方との間の別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。
3 手続費用は,第1,2審を通じ,各自の負担とする。
事実及び理由
第1 事案の概要
1 本件は,平成24年4月7日に婚姻の届出をし,令和元年9月20日に離婚訴訟の確定判決により離婚した元夫婦の間において,元妻である抗告人が,令和3年9月17日,原審裁判所に対し,婚姻期間における年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるよう申し立てた事案である。
2 原審は,抗告人の申立てを却下したため,抗告人は,原審判を不服として即時抗告をした。
3 抗告の趣旨及び理由は,別紙抗告状及び同抗告理由書に記載のとおりであり,相手方の反論は,別紙答弁書に記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審と異なり,別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であると判断する。その理由は,次のとおりである。
2 厚生年金保険法78条の2第2項は,家庭裁判所は,対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して,請求すべき按分割合を定めることができる旨規定しているところ,老齢厚生年金は,その性質及び機能上,夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しており,離婚時年金分割制度との関係においては,婚姻期間中の保険料納付は,互いの協力により,それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価することができる。
この趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合における年金分割(いわゆる3号分割)について,「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について,当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に」,当然に2分の1の割合で分割されるとされていること(厚生年金保険法78条の13,78条の14)に現れており,いわゆる3号分割以外の場合であっても,基本的に変わらないというべきである。したがって,対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度は,特段の事情がない限り,互いに同等と見るのが離婚時年金分割制度の趣旨に合致するところであると解される。
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(1)そこで検討すると,一件記録によれば,抗告人と相手方は,平成18年12月に抗告人及び相手方の肩書住所地所在の自宅(以下「本件自宅」という。)で同居を始め,平成24年4月7日に婚姻の届出をして同居生活を続けたこと,抗告人は,平成27年8月相手方と激しい喧嘩となって警察に通報したが,その頃以降,抗告人と相手方との夫婦関係は極めて険悪となったこと,相手方は,同年11月に同居中の抗告人との離婚を求めて夫婦関係調整(離婚)調停を申し立て,次いで平成28年6月に離婚訴訟を提起し,令和元年9月20日,相手方の離婚請求を認容する判決の確定により,抗告人と離婚したこと,相手方は厚生年金保険法78条の2第1項所定の第1号改定者であり,抗告人は同項所定の第2号改定者であることが認められる。
(2)相手方は,抗告人が,上記の婚姻期間中,洗濯の一部を除いて何ら家事を分担しなかったばかりか,異常な量の衣服,靴,バッグ,食器類等を購入し続け,本件自宅内で正常な日常生活を送ることができない状態を作出し,これらを片付けようとする相手方に対して脅迫又は暴言に当たる電子メールを送信するなどして,相手方に対し,長年にわたり耐え難い苦痛を与え続けてきたのであるから,請求すべき按分割合を0.5と定めることは,著しく正義に反する結果を招来するとなることからすると,本件においては,相手方の保険料納付に対する抗告人の寄与を同等と見ることは著しく不当であるのであって,特段の事情があるなどと主張する。
一件記録によれば,確かに,遅くとも上記のとおり抗告人と相手方の夫婦関係が極めて険悪となった平成27年8月以降は,抗告人が相手方のために行う家事は洗濯程度にとどまる一方で,抗告人が購入した物品や使用済みの空き容器等の不要物等が,本件自宅の居室内,階段,玄関,台所等の生活スペースに大量に置かれ,そのため,快適かつ衛生的な生活が困難な状態になっていたこと,抗告人は,平成26年頃以降,上記の物品等を片付けようとする相手方に対し,乱暴な表現でこれを叱責したり詰問したりする内容の電子メールを送信したことがあったことが認められる。
しかしながら,離婚時年金分割制度の趣旨が前記2のようなものであることからすると,夫婦の不和から相互扶助の関係が損なわれ,その原因が上記のような抗告人の言動・行動にあるとしても,それだけで直ちに,請求すべき按分割合を減ずるべきことにはなるわけではない。
そして,一件記録(特に,当審において当事者双方から提出された資料)によれば,抗告人は,大量の荷物を搬入して本件自宅に引っ越す形で,平成18年12月に相手方と同居を開始したこと,相手方は,本件自宅内に抗告人の大量の荷物等が放置されたままの状態にあることを認識し容認しながら、平成24年4月に抗告人と婚姻する旨の届出をしたこと,抗告人と相手方は,平成24年4月から平成27年8月までの間については,抗告人の言動・行動が原因で,夫婦間に深刻な不和が生じたとまでは認められないこと,抗告人は,婚姻期間中もおおむね就労し,相手方との比較でいえば少額であるものの収入を得ており,これを抗告人自身の食費,携帯電話代,医療費,保険料等に充てることにより,家計の費用の一部を負担してきたといえること,抗告人は,○○に罹患しており,その他の疾病の治療のために要するものを含め,毎月相当額の医療費を支払っていることが認められるところである。
これらの事情を総合的に考慮すると,本件において,対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度を同等と見るべきでないとする特段の事情があるとまでいうことはできず,他に,そのように認めるに足りる的確な資料はない。
第3 結論
以上の次第で,抗告人の申立てについては,別紙記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であり,これと異なる原審判は相当でないから,原審判を取消し,上記のとおり按分割合を定めることとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 原克也 裁判官 土屋毅)
別紙 年金分割のための情報通知書(厚生年金保険制度)〈省略〉
抗告状〈省略〉
抗告理由書〈省略〉
答弁書〈省略〉