小松法律事務所

元妻が元夫に対して申し立てた年金分割請求を却下した家裁審判紹介


○「離婚時年金分割制度と民法の財産分与制度とは別物」に、「家裁実務では年金分割は財産分与とは異なる制度であり、財産分与よりも2分の1の原則性が強いと考えられている」と記載したとおり、年金分割は原則として50%で、よほどの事情がない限り、それ以下に下がることはありません。

○婚姻の届出をし、その後離婚訴訟の確定判決により離婚した元夫婦の間において、元妻である申立人が、婚姻期間における年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるよう申し立てしました。

○これに対し、年金分割は被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得補償としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特段の事情のない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当としながら、申立人の言動は、当初から夫婦が協力して生活をするというものではなく、相手方は精神的に著しい苦痛、ストレス状態に長期間置かれ、一方的な負担を強いられるものであったと認められ、本件の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の50%とみることは相当ではないし、婚姻期間中に申立人の寄与があることがうかがえないことなどからすると、婚姻期間中の相手方の保険料納付に対する申立人の寄与を同等と見ることが著しく不当である特段の事情を認めるのが相当であるとして、申立人の請求を却下した令和4年4月22日千葉家裁審判(判タ1515号59頁、家庭の法と裁判48号91頁)全文を紹介します。

○この審判は、事案からはやむを得ない判断と思われましたが、申立人が抗告した東京高裁で覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 本件申立てを却下する。
2 手続費用は,各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨等
1 申立人

 申立人と相手方との間の離婚成立日,離婚時年金分割制度に係る第1号改定者及び第2号改定者の別,対象期間及び按分割合の範囲は,別紙1記載のとおりである。
 よって,主文同旨の審判を求める。

2 相手方
 本件では,申立人の保険料納付についての寄与を相手方と同等とみることが著しく不当と考えるべき特段の事情が存在するため,申立人に対する年金分割は認められるべきではない。
 その経緯は,別紙2「回答書別紙」記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 認定事実

(1)申立人と相手方は,平成15年ころから交際を開始したが,平成17年に相手方が両親との二世帯住宅を完成させると,申立人は,平成18年12月,自宅マンションを売却して,相手方の事前の了解なく,突然,相手方の海外出張で留守にしている間に,大量の荷物を運びこんで相手方との同居を開始した。自宅建物は,1階の大部分は,相手方の両親の居住スペースであり,相手方と申立人の居住スペースは,1階玄関から階段で2階に上がった場所であった。申立人が荷物を収納するスペースとしては,1階の階段下部分にある約6・5畳の広さのあるウォークインクローゼットと申立人のみが使用する5・5畳の部屋の収納を用意していた。

しかし,申立人が持ち込んだ荷物が大量であり,2階のリビングはテレビの前2畳ほどを残して,申立人の荷物が入った段ボールで埋め尽くされた状態となり,寝室も半分以上のスペースが申立人の荷物で埋め尽くされた。相手方は,驚き,申立人に対し,荷物を片付けるよう求め,申立人も片付けると言ったため,これを信じて同居を続けた。この時点では,まだ,廊下や階段にまでは荷物はなく,台所も普通に使用できる状態であった。

(2)相手方は,申立人から入籍を求められても,荷物を整理するまで入籍しないつもりであったが,同居期間が長くなったことや入籍をすれば,申立人も相手方の求めに応じて,荷物を整理してくれるだろうとの期待もあり,平成24年4月7日に婚姻届を提出した。

(3)ところが,その後も,申立人は,荷物を整理することはなく,どんどん新たな物の購入やゴミを散乱させる行為をエスカレートさせた。相手方が荷物を片付けるよう依頼しても,申立人が片付けることはなく,かえって,相手方がごみや空の容器を捨てようとすることを禁じた。平成26年3月には,申立人は,相手方に対し,「冷蔵庫にはっていた,初代の○○のマグネットがひとつなくなっている! おまえが捨てたな。ごみ袋を下に置くんじゃねぇ 何か捨ててやる」とメールを送信した(乙9)。

(4)以後,申立人は,荷物を片付けることなく,相手方に対し,「最低の保険代もくれないなら帰宅時までに部屋を壊す。」(平成26年9月24日),「これから絶対にわたしに渡す分を考え,給料を残すこと!900万あるなら出来ないはずがない 出来ないようなら車を破壊,お金かかりそうなものを破壊する。」「離婚で構わないから慰謝料を家を売ってでも支払えー」(平成26年12月29日)などのメールを送信し,平成27年2月26日には,「家を売る」「なら家を売れ か 死んでしまえ」とのメールを送信した(乙10)。

(5)相手方の自宅は,申立人の荷物(申立人が購入する衣服,靴,バッグ,食器類など)が増加し,また,申立人が処分を許さない空のボトル等の空き容器などが大量に放置されたまま、1階の玄関,廊下,ウォークインクローゼット,2階は,書斎を除いてほぼ全域におかれ,足の踏み場もない状況にまでになった(自宅室内の状態や不便な生活状況については,乙3,4の相手方陳述書,写真は,乙5から8)。

(6)相手方は,離婚を求めて,平成27年11月30日,当庁に夫婦関係調整調停事件を申立てたが,平成28年4月26日,不成立となった。相手方は,平成28年6月2日,当庁に離婚訴訟を提起し,平成31年1月31日,離婚を認容する判決が言い渡されたが,申立人が控訴し,控訴審が令和元年9月4日に控訴を棄却し,申立人が上告及び上告受理申立てをしたが,申立人が提出期限までに上告理由書の提出をせず,上告等が却下となり,同月20日に離婚が確定した。

(7)控訴審判決は,自宅に物が散乱した状態について,通常の衛生感覚を有する者にとってその中で生活することが著しく苦痛である程度のものであったとし,それにもかかわらず,申立人は,相手方から繰り返し,荷物の整理を求められながら,これに応じず,かえって相手方が整理しようとすると物がなくなったと非難し,相手方が片付けることを妨害し,さらには,脅迫ともとれるメールを送信しているとして,婚姻関係破綻についてのより大きな責任は,申立人にあると認定した。

(8)離婚後の現在でも,申立人は,申立人の大量の荷物を一向に撤去せず,相手方は,そのような自宅での生活を送ることを余儀なくされている。婚姻関係が継続していた間,申立人は,自身の衣服は自ら大量に購入していたが,自宅での食費,住宅ローン,水道光熱費,固定資産税等の負担は,すべて相手方が負担し,申立人が家計を負担することはなかった。なお,相手方は,裁判所で定められた婚姻費用を支払い続けていた。

(9)離婚調停の申立て以降,相手方は,申立人から理不尽な怒りをぶつけられる時以外は,会話もなく,食事も別であり,寝室も別であった。相手方は,婚姻中の心情について,訴訟提起後も,建物内の状況がどんどん悪化しており,物理的に別居している場合よりも,一層苦痛な毎日を強いられ,精神的なストレスが限界を超えていると述べている(乙4)。

(10)申立人からは,定められた期限(令和4年2月10日)までに相手方の主張や提出資料に対する反論はなく,かつ,申立人は,当庁からの電話に応答せず,審理終結日(同年4月8日)までに一切の連絡がない。

2 判断
(1)年金分割は被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得補償としての社会保障的機能を有する制度であるから,対象期間中の保険料納付に対する寄与の程度は,特段の事情のない限り,互いに同等とみて,年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定めるのが相当であるところ,その趣旨は,夫婦の一方が被扶養配偶者である場合についての厚生年金保険法78条の13(いわゆる3号分割)に現れているのであって,そうでない場合であっても,基本的には変わるものではないと解すべきである(大阪高等裁判所平成21年(ラ)第499号,第607号同年9月4日決定・家庭裁判所月報62巻10号54頁参照)。
 そして,上記の特別事情については,上記年金分割の制度趣旨に照らせば,保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的事情がある場合に限られるというべきである。

(2)ところで,本件では,同居の開始も相手方の同意なく,海外出張中に申立人が大量の荷物を持ち込んだというものであり,婚姻届の提出も,申立人が荷物を片付けるという期待から行ったというものである。しかしながら,婚姻届出後も申立人は荷物を片付けるどころか,さらに申立人が購入した物が室内に増え続けていたのであり,ごみを捨てることもなく,相手方が空の容器を捨てることを禁じ,また,相手方に対し,自分の荷物を捨てたとして脅迫的なメールを送り,その内容も次第にエスカレートしている。

(3)申立人の言動は,当初から夫婦が協力して生活をするというものではなく,相手方は,物が散乱した自宅内での生活を余儀なくされ,精神的に著しい苦痛,ストレス状態に長期間置かれ,一方的な負担を強いられるものであった。

 そうだとすると,本件の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の50%とみることは相当ではないし,平成24年4月7日の婚姻から令和元年9月20日の離婚確定までの約7年5月の婚姻期間中に申立人の寄与があることがうかがえず,申立人からの反論もないことからすると審問をするまでもなく,婚姻期間中の相手方の保険料納付に対する申立人の寄与を同等と見ることが著しく不当である特段の事情を認めるのが相当である。

3 よって主文のとおり審判する。

別紙
1〈省略〉
2 回答書別紙〈省略〉