家事事件手続法の基礎の基礎-家事審判総論備忘録1
○家事事件は、非訟事件
訴訟事件との区別は、当事者が主張する既存の権利義務の存否を確定させる裁判は訴訟事件として最終的には訴訟手続によるが、当事者の権利義務が存在することを前提にその具体的な内容を裁量的に形成する裁判は非訟事件となる。
非訟事件は、原則として裁判所法3条の「法律上の争訟」ではなく、憲法82条「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」が適用されない。
○最高裁二分論
第一に、訴訟事件は、実体的権利義務自体に争いがある場合にこれを終局的に確定するもので、非訟事件は、実体的権利義務があることを前提に裁判所が後見的見地から裁量権を行使してその具体的内容を形成するもの
第二に、憲法32条・82条に基づき、裁判の公開・対審・判決による保障を受けるのは、争訟事件のみであり、非訟事件は憲法32条・82条の対象外
第三に、非訟事件の裁判が確定しても、実体的権利義務の存否について、別に訴訟で争うことができる
○非訟事件とされる事件は、その紛争性の程度の差異から非争訟的非訟事件と争訟的非訟事件に分けられるが、両者の差異は相対的なもの
非争訟的非訟事件は、紛争性が希薄である非訟事件のことでは司法には該当せず、むしろ行政に含まれるが、沿革的又は政策的な理由により裁判所の権限に属するとされる
EX.非訟事件手続法、家事事件手続法別表第一に列挙される審判事項等
争訟的非訟事件は、紛争性が高い非訟事件のことで、紛争性が高いがゆえに訴訟との区別が問題となる
EX.家事事件手続法別表第二に列挙される審判事項、DV防止法に規定する保護命令等
○家事事件手続法別表第一類・第二類区別概要
旧家事審判法では甲類・乙類と分類されていたものにほぼ一致、甲類は争訟性がなく二当事者対立構造を取らない事件類型、乙類は争訟性があり複数関係人の利害が対立し得る事件類型
家事事件手続法での第一類・二類の区分は、基本的には旧法甲類・乙類の区分を承継しているが、一部異なる例もある
第一類は家事調停をすることができず、第二類は家事調停をすることができる事件類型
第一類は、後見開始(民法第7条)から始まり134件、第二類は、夫婦間の協力扶助(民法第752条)から始まり17件
以下、第二類のみ掲載
別表第二(第3条の8、第3条の10―第3条の12、第20条、第25条、第39条、第40条、第66条1第71条、第82条、第89条、第90条、第92条、第150条、第163条、第168条、第182条、第190条、第191条、第197条、第233条、第240条、第245条、第252条、第268条、第272条、第286条、第287条、附則第5条関係)
項、事項、根拠となる法律の規定
婚姻等
一
夫婦間の協力扶助に関する処分
民法第752条
二
婚姻費用の分担に関する処分
民法第760条
三
子の監護に関する処分
民法第766条第二項及び第三項(これらの規定を同法第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)
四
財産の分与に関する処分
民法第768条第二項(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)
五
離婚等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
民法第769条第二項(同法第749条、第751条第二項及び第771条において準用する場合を含む。)
親子
六
離縁等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
民法第808条第二項及び第817条において準用する同法第769条第二項
親権
七
養子の離縁後に親権者となるべき者の指定
民法第811条第四項
八
親権者の指定又は変更
民法第819条第五項及び第六項(これらの規定を同法第749条において準用する場合を含む。)
扶養
九
扶養の順位の決定及びその決定の変更又は取消し
民法第878条及び第880条
十
扶養の程度又は方法についての決定及びその決定の変更又は取消し
民法第879条及び第880条
相続
11
相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
民法第897条第二項
遺産の分割
12
遺産の分割
民法第907条第二項
13
遺産の分割の禁止
民法第907条第三項
14
寄与分を定める処分
民法第904条の二第二項
特別の寄与
15
特別の寄与に関する処分
民法第1050条第二項
厚生年金保険法
16
請求すべき按あん分割合に関する処分
厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)第78条の二第二項
生活保護法等
17
扶養義務者の負担すべき費用額の確定
生活保護法第77条第二項(ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(平成20年法律第82号)第21条第二項において準用する場合を含む。)