小松法律事務所

配偶者慰謝料債務免除を不貞行為第三者慰謝料減額事由認定地裁判決紹介


○「不貞行為配偶者責任免除に関する平成6年11月24日最高裁判決全文紹介」で、不貞行為配偶者の責任を免除したとしても、不貞行為第三者(間男・間女?)の責任には、原則として影響がないとした平成6年11月24日最高裁判決(判タ867号165頁、判時1514号82頁)全文を紹介し、不貞行為配偶者の責任免除は、不貞行為第三者(間男・間女?)の慰謝料減額事由となるとして、実際減額している判例は多数ありますと説明していました。その判例として平成21年6月4日東京地裁判決(ウエストロージャパン)を紹介します。

○原告が、その妻Aと不貞行為に及び、原告とAの婚姻関係が破綻したとして、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料等500万円の支払を求めました。

○これに対し、東京地裁判決は、Aと同居生活を継続した被告の行為は、全体として違法な行為として評価される上、被告のAとの不貞行為も、原告の婚姻生活の平和維持という法的利益を侵害した違法なものであるとしながら、不貞行為又は婚姻破綻の主たる責任は不貞行為等を働いた配偶者Aにあり、その不貞行為等の相手方の責任は副次的なものにとどまると解されること、原告がAと離婚するに際しては、Aの慰謝料債務を免除したものであること等を考慮して、慰謝料50万円と認定ました。

○「不貞行為又は婚姻破綻の主たる責任は不貞行為等を働いた配偶者Aにあり、その不貞行為等の相手方の責任は副次的なもの」との考え方は、極めて合理的です。家族法学者の殆どは、更に一歩進めて、不貞行為即ち貞操義務違反は、配偶者にのみ生じるもので、不貞行為相手方は貞操義務違反はなく、配偶者が自由意思で性関係を結んだ場合、不貞行為相手方には配偶者の夫に対する責任は生じないと解釈しており、この考えが先進諸国では当然とされています。日本は不貞行為の考え方は先進諸国に入っていません。

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主   文
1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成20年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 当事者の主張
1 請求原因

(1) 原告は,平成14年10月20日,A(以下「A」という。)と婚姻し,平成○年○月○日,長女Bが出生した。
(2) Aは,平成17年1月30日,突如長女を連れて自宅を出て,当時の被告宅で被告との同居を開始した。当時の被告宅はワンルームマンションであり,被告とAが不貞関係にあったことは明らかである。
(3) 被告が上記(2)の不法行為に及んだ後,原告とAとの間の婚姻関係は破綻し,平成18年10月4日,裁判上の和解により離婚が成立した。
(4) 原告は,上記(2)の被告の不法行為により,Aとの婚姻生活が破綻し多大な精神的苦痛を受けたが,これを慰謝するには少なくとも500万円が相当である。
(5) よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,500万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成20年9月15日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)は知らない。
(2) 請求原因(2)のうち,平成17年1月30日よりAが当時の被告宅に居候した事実は認めるが,その余は否認する。
(3) 請求原因(3)(4)のうち,被告の不法行為については否認するが,その余は知らない。

第3 当裁判所の判断
1 請求原因(1)について

 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,請求原因(1)が認められる。

2 請求原因(2)(3)について
(1) 被告が平成17年1月30日から当時の被告宅でAとの同居生活を開始したことについては,当事者間に争いがないところ,上記同居開始時点では,原告とAとの間に婚姻関係があったものであり,しかも,証拠(乙2,3の1,4,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,Aに夫(原告)がいることを知りながら,6畳一間の狭い部屋でAとの同居生活を開始し,平成17年4月初旬ころまで同居生活を継続したことが認められる。
 他方で,Aは,被告との上記同居開始に伴って原告と別居するに当たり,妻(A)のことよりも自分の両親のことを大切にする原告の態度を見て,原告との離婚を考え始めるなど,原告と不仲になっていたものである(乙2,証人A1,2頁)が,この時点では,直ちに離婚に至るほど夫婦関係が客観的に破綻していたものではなく,Aが「別居後に原告と冷静に話ができると期待していた。」などと証言していること(証人A4,14頁)に照らしても,夫婦関係を修復する可能性が残されていたものと認められる。

 そして,原告が,Aとの別居生活が続く中,Aとの話合いを進めるため,平成17年3月末ころに家事調停を申し立てた後,Aは,同年4月初旬になって被告との同居生活を解消して,生活保護を受けると同時に足立区内の施設に入り,同年9月には原告に対し離婚訴訟を提起している(甲9,乙2,4,乙5,証人A17ないし19頁)が,原告とAは,平成18年10月4日,裁判上の和解により離婚するに至っている。
 以上によれば,約2か月余りにわたって狭い部屋にAを受け入れて同居生活を継続した被告の行為は,修復可能性の残されていた夫婦関係をさらに悪化させ,原告とAを離婚に至らせる重大な契機となったものと認められるから,原告の婚姻生活の平和維持という法的利益を侵害した違法なものであって,継続した同居関係が全体として違法な行為として評価されるべきである。

(2) さらに,原告は,被告が同居期間中にAとの性交渉(不貞行為)に及んだとも主張するところ,上記(1)のとおり狭い部屋での同居生活が約2か月余り続いており,Aが長女(B)を同伴していたとはいえ,被告がAと性交渉を持つことは十分可能であったこと,Aが別居に当たり自宅に残していた手帳(甲2)は,当時のAのスケジュール等を記した唯一の手帳であった(証人A10,11頁)が,同手帳のうち,平成17年1月8日の欄には「Bがもう少し眠っていたら,きっとSEXしてた。」と記載され,同月15日の欄には「C(被告の愛称)としちゃった。Cといるとほっとする。おちつく。すっごくいやされる。Cといたい。」と記載されていること等を総合すると,被告が同居期間中にAとの性交渉(不貞行為)に及んだものと推認される。Aは,上記手帳の記載につき「原告に嫉妬してほしくて書いた。」などと説明する(証人A4ないし6頁)が,その説明は合理的なものとはいえず,上記推認を覆すに足りない。

 そして,被告の上記不貞行為も,原告の婚姻生活の平和維持という法的利益を侵害した違法なものとして評価される。

(3) 以上によれば,請求原因(2)(3)が認められる。

3 請求原因(4)について
 上記2の認定事実によれば,原告は,被告の不法行為により精神的苦痛を被ったものであり,被告にはその慰謝料を賠償すべき責任が生じる。
 もっとも,本件の不法行為は,被告とAによる共同不法行為を構成し,各人の損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務の関係になるが,婚姻生活の平和は第一次的には配偶者相互の守操義務,協力義務によって維持されるものであって,不貞行為又は婚姻破綻の主たる責任は不貞行為等を働いた配偶者にあり,その不貞行為等の相手方の責任は副次的なものにとどまると解される。

そして,本件において,原告は,Aに対する反訴では,Aが被告と同居生活をし不貞行為に及んだことによる慰謝料500万円を請求していたのに,裁判上の和解によりAと離婚するに際しては,上記慰謝料等の離婚給付を特に定めず,上記慰謝料請求を放棄して,Aの慰謝料債務を免除したものである(甲3,乙5)。

 そうすると,不真正連帯債務の関係にあって主たる責任を負うAが,原告の債務免除により慰謝料債務を免れているにもかかわらず,副次的な責任しか負わない被告が高額な慰謝料債務を負担するのは公平ではない。加えて,本件訴えは,Aとの裁判上の和解による離婚で一旦紛争の解決をみてから約2年後に提訴されたものである上,その提訴の動機として,Aが養育監護する長女(B)との面接交渉がなかなか実施されないことへの不満があること(証人A20頁),被告は,平成17年4月初旬にAとの同居を解消してから,不貞行為等の関係を有した形跡が何らうかがわれないこと等の諸事情も総合考慮すると,本件で認容すべき慰謝料は50万円をもって相当と認めるべきである。

4 附帯請求について
 原告が申し立てた附帯請求の起算日は,本件訴状送達の日の翌日(平成20年9月15日)であって,被告による不法行為の開始日以降の日であることは明らかである。

5 結論
 よって,原告の本件請求は,慰謝料50万円及びこれに対する不法行為以後の日である平成20年9月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却することとして,主文のとおり判決する。 (裁判官 上拂大作)