小松法律事務所

不貞期間6年・不貞継続宣言不貞行為者に慰謝料160万円を認めた地裁判決紹介


○原告が、被告に対し、被告が原告の夫Cと不貞行為に及んだことにより精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円と遅延損害金の支払を求めました。

○原告とCは、平成11年6月に婚姻届をした夫婦で、平成28年以降被告はCと不貞行為に及び令和4年まで6年以上不貞関係を継続し、且つ、今後もCとの関係を継続することを鮮明にし、実際関係は継続し、Cは令和3年7月、自宅を出て別居し、被告は、不貞行為開始時既に原告とC夫婦は婚姻破綻状態だったと主張しています。

○この事案で、平成28年当時、原告とCは、同居生活を継続し、その間、マンションのローンや日々の生活に必要な費用を負担し合っていたほか、被告がCと不貞行為に及ぶようになった以降も、連れ立って外出したり、家庭内でクリスマスを祝ったり、それぞれの親族を交えて交流するなどし、原告とCは生活費を負担し合う形で同居を継続していたので、原告とCが家庭内で一切会話を交わさないとか、けんかが絶えない状態にあるなど殊更不和であった様子もうかがわれないので、原告とCの婚姻関係が破綻に至っていたとは認められないとして、慰謝料160万円の支払を命じた令和4年11月29日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○原告の夫Cは被告側証人として被告に有利な証言していますが、原告はCと離婚していないようであり、Cに対し慰謝料請求をしているかどうかは判決文からは不明です。最も責任があるのはCと思われます。Cには証人として証言するに留まらず、原告に対し不法行為債務不存在確認訴訟を提起して本件と併合し共同当事者になる協力を求めて然るべきと思われます。

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主   文
1 被告は、原告に対し、160万円及びこれに対する令和3年10月7日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを15分し、その7を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和3年10月7日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、被告が原告の夫であるC(以下「C」という。)と不貞行為に及んだことにより精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年10月7日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告(現在55歳)とC(現在60歳)は、平成11年5月頃に同居を開始し、同年6月14日、婚姻の届出した。両名の間に子どもはいない。(甲1)
(2)被告(現在53歳)は、平成28年7月頃以降、Cと不貞行為に及ぶようになった。被告とCとの不貞関係は、現在も継続している。
(3)原告とCは、令和3年7月2日、Cが自宅を出る形で別居した。

2 争点及び当事者の主張

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実並びに証拠(後掲のほか甲2、5、乙1、2、証人C、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)原告とCは、会社の同僚として知り合うと、平成11年5月頃に同居を開始し、同年6月24日に婚姻した。両名は、いわゆる共稼ぎの夫婦であり、婚姻後に購入したマンション(原告の肩書住所地)のローンや、日々の生活に必要な費用をそれぞれが負担していた。

(2)Cは、平成13年以降、実家の一角を利用してカフェを経営していたが、平成21年頃から経営状況が悪化し、借金がかさむようになった。原告は、Cに対し、カフェの経営等に関して少なくとも150万円程度の資金援助をしている。

(3)Cは、平成22年12月、カフェを廃業し、以降、借金を返済するため複数のアルバイトを掛け持つ多忙な日々を送るようになった。
 なお、原告は、同月頃にCとけんかした際、カフェの経営等に関して援助した金銭を返還するよう求めたことがある。

(4)被告は、平成28年5月頃、かつて会社の同僚であったCと久しぶりに再会すると、同年7月頃以降、Cが既婚者であることを知りながら、同人と不貞行為を繰り返すようになった。
 なお、被告は、独身であり、死別した夫との間に生まれた3人の子どもを育てている。

(5)Cは、令和元年9月頃、被告のアドバイスを受け、任意整理を行ったが、原告にはその事実を明確には伝えなかった。

(6)原告は、令和元年11月頃、Cのデジタルカメラに記録されたラブホテルの写真を目にし、不貞行為を疑ってCを問いただした。Cは、写真に写っている人物(後に被告であると判明した。)は自身の交際相手であり、原告とは離婚したいと考えている旨述べた。
 原告は、令和2年1月、興信所にCの不貞調査を依頼し、Cの不貞相手が被告であることを把握した。

(7)原告は、令和2年2月、USBメモリに記録されたCと被告との不貞行為の写真を多数目にした。原告は、この頃、心療内科を受診している(甲4)。

(8)原告は、令和3年7月2日、通勤途中の被告を待ち伏せると、Cとの不貞行為をやめるよう求めたが、被告はCと不貞関係にあることを否定した。被告から原告の上記行為について聞かされたCは、同日、自宅を出て原告と別居した。

2 争点1(婚姻関係破綻の有無)について
 被告は、原告とCの婚姻関係について、被告がCと不貞行為に及ぶようになった平成28年7月に先立つ平成23年の時点で、既に破綻していたから、被告は原告に対して不法行為責任を負わないと主張する。
 しかしながら、原告とCは、平成11年5月頃に同居を開始して以降、令和3年7月2日まで同居生活を継続していたのであり(認定事実(1)、(8))、その間、マンションのローンや日々の生活に必要な費用を負担し合っていたほか、被告がCと不貞行為に及ぶようになった平成28年7月以降も、連れ立って外出したり(甲3の3、4)、家庭内でクリスマスを祝ったり(甲3の6)、それぞれの親族を交えて交流する(甲3の7~9)などしていたのであるから、原告とCの婚姻関係が平成23年ないし平成28年7月の時点で破綻していたとは、到底認めることができない。

 この点について、被告は、原告とCがお互いの経済状況や生活実態に無関心であったことや、Cが借金で苦しみ、過労状態であったにも関わらず、原告がCに対して何のサポートもしなかったことを、婚姻関係破綻を推知させる事情として摘示する。確かに、原告は、Cがカフェ廃業時にどのような債務を負っていたかなど、Cの経済状況を十分に把握していなかった様子であるし(原告本人)、複数のアルバイトを掛け持ち多忙な生活を送るC(認定事実(3))に対し、積極的かつ実効性のある支援を試みた形跡も見当たらない。しかしながら、先に説示したとおり、原告とCは生活費を負担し合う形で同居を継続していたのであって、原告とCが家庭内で一切会話を交わさないとか、けんかが絶えない状態にあるなど殊更不和であった様子もうかがわれないのであるから、被告摘示の事情を踏まえても、原告とCの婚姻関係が破綻に至っていた、すなわち、完全に復元の見込みのない状態に立ち至っていたとは認められないというべきである。

 なお、Cは、その証人尋問において、原告から援助金の返還を求められたことをきっかけに離婚を希望するようになったとか、原告との同居生活は夫婦というよりはむしろルームシェアのような感じであったなどと証言するが,このような証言は専らCの一方的な主観に基づくものであって、原告との婚姻関係の破綻を直ちに推知させるものではない。

また、被告は、その本人尋問において、Cに生活費や弁当を渡したり、Cの父の介護や実家の片付けを行ったりするなど、Cの妻としての役割を果たしていたなどと供述するが、これらはいずれも不貞行為開始後の事情である上、原告がこうしたCのための行為を殊更忌避して行わなかったなどの経緯があれば別論、そうでない以上、原告とCとの婚姻関係の破綻を直ちに推知させるものでもないから、被告の上記供述は、原告とCの婚姻関係の破綻を否定する先の認定判断を何ら左右しない。

 以上のとおりであるから、原告とCの婚姻関係について、被告がCと不貞行為に及ぶようになった平成28年7月に先立つ時点で既に破綻していたと認めることはできない。被告は、原告の配偶者であるCと不貞行為に及んだのであるから、原告に対し、不法行為責任を負うというべきである。 

3 争点2(慰謝料の額)について
 原告は、Cと20年以上にわたって婚姻関係にあり、Cの主観はともかく、今回の不貞行為が発覚するまでは、平穏な婚姻生活を営んでいた(認定事実(1)、弁論の全趣旨)。被告は、Cが既婚者であることを知りつつ同人と不貞行為に及んだのであって(認定事実(4))、原告がその事実を知るに至って以降は、原告とCとの間でいさかいが生じるようになり(認定事実(6))、原告が被告を待ち伏せ不貞行為をやめるよう迫ったことを機に、原告とCは別居をするに至っている(認定事実(8))。別居の原因が被告の不貞行為にあることは明らかであり、原告はCとの婚姻関係における平穏を大きく害されたというべきである。

 被告の不貞行為は、現在に至るまで継続しており、その回数も相当程度に上ると考えられる。さらに、被告は、その本人尋問において、Cとの不貞関係を今後も継続していく意向を鮮明にしている。原告は、心身の不調を訴えて心療内科に通院するなどしており(認定事実(7))、被った精神的損害の大きさがうかがい知れる。

 以上のような事情のほか、本件に表れた一切の事情を考慮すれば、被告の不貞行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、160万円と認めるのが相当である。

第4 結論
 よって、原告の請求は、不貞慰謝料160万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第7部 裁判官 松原平学