小松法律事務所

不貞行為第三者責任を否定したおそらく唯一の地裁判決結論部分紹介


○「間男・間女は原則責任ありとの昭和54年3月30日最高裁判決紹介」で紹介した最高裁判決は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持つた第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によつて生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被つた精神上の苦痛を慰藉すべき義務がある」として、以来、間男・間女の責任追及事件は、弁護士稼業にとって貴重な事件となって、ネット上には多くの間男・間女責任追及専門弁護士が登場し、間男・間女の責任を認めた裁判例が山のように堆積しています。

○この昭和54年3月30日最高裁判決(判時922号3頁)を真っ向から否定した、おそらく、唯一の裁判例が、平成25年7月24日神戸地裁判決(平成24年(ワ)第1983号損害賠償請求事件)です。たまたまこの判決全文を入手しましたが、以下、その結論部分のみ紹介します。

○「夫婦それぞれは独立対等の人格的主体であって、相互に身分的・人格的支配を有しないのであるから、夫婦の一方が自らの意志決定に基づき不貞行為に関わった以上、加担した第三者に「配偶者としての地位」の損害を理由として賠償責任を導くのは適切ではない」との論旨は至極妥当で、先進諸国の常識です。しかし、日本では未だに上記最高裁判決の縛りに拘束され続けています。お陰で間男・間女責任追及事件は、弁護士の貴重な飯のタネになっているのが、痛し痒しです。

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2 次に、予備的請求について判断する。
 本件においては、前記前提事実のとおり、原告の妻であった○○と被告とが不貞行為に及んだことは当事者間に争いがなく、そのことが発覚してすぐに原告と○○が別居を開始し、平成××年×月×日に両者が離婚したことが認められる。

 そして、「夫婦の一方配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、右他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰謝すべき義務がある」(最高裁判所昭和54年3月30日判決)というのが現在までの多くの裁判例の見解である。

 しかし、そもそも、夫婦それぞれは独立対等の人格的主体であって、相互に身分的・人格的支配を有しないのであるから、夫婦の一方が自らの意志決定に基づき不貞行為に関わった以上、加担した第三者に「配偶者としての地位」の損害を理由として賠償責任を導くのは適切ではない(不法行為法では個人の権利侵害に対する救済が目的とされるのであるから、夫婦関係自体あるいは家庭の平和を被侵害利益とみるのは正当ではなく、これらの侵害を理由にするのは失当である。)。したがって、上記最高裁判決のように、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求権を認めること自体相当ではないというべきである。

 そうすると、原告の妻であった○○と被告との不貞行為によって原告と○○の婚姻関係が破綻したとしても、原告の被告に対する本件の予備的請求を認める余地はないと言うべきである。