小松法律事務所

第三者不貞行為慰謝料1000万円請求に対し50万円のみ認めた地裁判決紹介


○令和2年3月、当時60歳の原告が29歳のC女と結婚しましたが、被告がCと不貞行為をしたと主張し、被告に対し、不法行為に基づく慰謝料1000万円と弁護士費用200万円の合計1200万円を損害賠償請求しました。

○被告とCの関係により、原告とCの婚姻関係は破たん離婚に至り、これによって原告が多大な精神的苦痛を受けたことは間違いありません。しかし、Cは原告から約2000万円にも及ぶ多額の経済的援助を受けながら、原告と知り合う前から関係を結んでいた被告との交際を、原告との婚姻が決まった後も婚姻後も解消することなく継続し、Cは、婚姻後もCの都合を理由に何度も原告にC宅を来訪しないよう申し述べて、被告をC宅に招いて、Cのために多額の金員を費消しました。

○さらにCは、原告が産むよう懇請したにもかかわらず、被告との間の子である可能性があることを理由に中絶しており、原告が、30歳年下の女性と婚姻して子供を授かったと思い、欣喜雀躍し、他人に誇らしげに触れ回ったであろうことは想像に難くなく、不貞行為を知って被った精神的苦痛が甚大であることは認められるとしながら、この精神的苦痛の大半はCによる経済力のある原告の婚姻願望・実子願望を逆手に取った背信的行為によるものというほかなく、被告がこのような状況まで認識したうえでCと不貞行為に及んでいたことは認定できないなどとして、原告の慰謝料請求を50万円しか認めなかった令和4年2月24日東京地裁判決(LEX/DB)を紹介します。正に怖い女の典型事案です。

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主   文
1 被告は,原告に対し,55万円及びこれに対する令和2年3月10日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し,その1を被告の,その余を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,1200万円及びこれに対する令和2年3月10日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告が原告の元妻と不貞行為をしたと主張し,被告に対し,不法行為に基づく慰謝料及びこれに対する原告と元妻の婚姻日からの遅延損害金を請求する事案である。
1 争いのない事実等(当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
 原告は,C(以下「C」という。)と令和2年3月10日に婚姻した。原告は初婚で当時60歳,Cは再婚で当時29歳であった。
 原告とCは,同年7月16日に離婚した。
 被告はCと肉体関係があったことを認めているが,その回数や時期については当事者間に争いがある。

2 当事者の主張
(1)原告の主張
ア 原告は,Cを原告が経営する会社が所有する東京都大田区α×-××-×a×××号室(以下「C宅」という。)に住まわせていた。
 被告は,C宅を昼夜を問わず頻繁に訪れ,頻繁にCと外出して飲食をともにし,原告の所有する車両でCとともに出かけ,それらの機会にCと肉体関係を継続していた。

 原告は,令和2年7月11日に所有する車両のドライブレコーダーの内容を点検していたときに,同年5月5日に被告がCとドライブに行っていた事実を知った。同年7月11日,Cは原告に外出すると告げて原告が経営する会社の所有する車両で出かけていたため,原告がCに電話をしたところ,Cは被告と一緒にいることを認めたが,なかなか帰宅しなかった。

原告が警察に連絡したところ,同日午後11時頃,羽田日航ホテルの前で,原告の所有する車両内にいる被告とCが発見された。被告はそのまま蒲田警察署で事情を聞かれたが,捜査員に対し,Cと肉体関係を継続したことは認めつつも,原告とCが婚姻する前からCと関係を持っていたから,被告の方が原告より優先すると述べ,また,妻と別れてCと結婚すると述べた。

 原告は,被告とCの関係を知り,同月16日に協議離婚した。
 以上からすると,被告が原告とCの婚姻関係を破壊した当事者であることは明らかである。

イ 原告の損害
 原告は、60歳と高齢であったのに加え,身体的に不自由なところもあったが,それらを乗り越え,Cのような若い女性と婚姻できたことに非常な喜びを感じていた。原告はCを原告の経営する会社の従業員として雇い,婚姻前から給与を払っていたが,婚姻後は,それとは別に月々40万円をCのみが使える生活費として与えていた。しかしながら,このような原告の誠意にもかかわらず,被告とCは,原告がCと婚姻したとの事実を意にも介さず,肉体関係を継続していた。これを知った原告が受けた精神的衝撃は計り知れないほど大きかった。かかる事実を知った原告が,Cと婚姻した意味について深く思い悩み,悲しんだのは当然である。 

 また,原告は,令和2年3月頃,Cから妊娠したと聞かされた。原告は,Cのような若い女性と婚姻できたことに加えて,60歳で初めて自分の子ができたことを知り,さらに喜びが増すばかりであった。そして,妊娠したことにより一層Cを大切にし,体のことも心配し,無事出産するよう祈っていた。しかしながら,原告は,Cと被告の不貞行為が発覚したことから疑念を持ち,Cに妊娠中の子が誰の子かを尋ねたところ,Cは,どちらの子か分からず,原告の子である確信がない,そのため中絶したいと述べた。

原告は,自分の子である可能性もあり,その場合は60歳にして初めて授かった子であるから,Cに対して中絶はせずそのまま産むよう何度も要請し,生まれた子供は自分が責任を持って育てると伝えたが,Cの中絶の意思は固く,原告に承諾を求め,結局原告も承諾せざるを得ず,Cは同年7月20日に中絶手術を行った。このような不幸な結果に至ったのは,被告がCと関係を続けていたことが原因であることは明らかであり,原告はこのような結果がもたらされてしまったことに対し,不貞行為発覚に基づく精神的苦痛に加え,さらに大きな悲しみを負うに至った。

 さらに,原告は大田区五ヶ浦漁業組合連合会会長及び内湾警備株式会社代表取締役の地位にあり,政財界にも知己が多く,それらの人々にCとの婚姻を報告したところ,招待されて心から祝福され,歓待してもらった。しかしながら,上記のような事情によって原告がCと離婚したことにより,原告はその事実を知った各界の人々から軽視されるに至り,それらの人々に対して面目を失い,会社経営者としての信用も失墜した。

そのため,それらの人々から依頼のあった会社業務も減少し,経営が苦しい状況になっている。このような事実についても,原告は精神的に大変苦しんでいる。このような原告の苦境は,被告がCと関係を継続していたことが原因でもたらされたことは明らかである。
 ところが被告は,現時点に至ってはCとの肉体関係を否認するなど,全く自己の責任を省みる様子がない。

 以上からすれば,原告とCの婚姻関係は短かったとはいうものの,被告の不法行為は非常に悪質である。原告がそれまで結婚生活の経験がなく,婚姻当時60歳と高齢で体も不自由であったにも関わらず,Cのような若い女性(婚姻当時29歳)が結婚を希望してきたということからすれば,被告とCが共謀して原告から金を出させて2人の遊興や関係継続のために使っていたのではないかと疑われるところですらある。

それにより原告が被った精神的苦痛は極めて大きいというべく,原告の年齢や身体的ハンディ,Cの中絶による精神的ショック,被告の現時点での態度等も考慮すれば,その精神的損害としては1000万円を下らないとみるべきである。
 また,原告は本件訴訟を提起せざるを得なかったから,その弁護士費用200万円は,被告の不法行為によって原告に生じた損害といえる。

(2)被告の主張
ア 原告の主張のうち,被告がC宅を数回訪れたこと,被告とCが,令和2年5月5日にドライブに行き,同年7月11日にともに出かけており,同日原告からCに電話があり,被告とCが一緒にいたこと,蒲田署に赴いて事情聴取を受け,Cとの肉体関係があったことを認めたこと,以上の事実は認め,その余の事実は否認ないし不知,主張は争う。

 被告とCの肉体関係は,同年2月の1回限りであり,原告とCの婚姻前であるから,原告に対する不法行為とはならない。被告とCは,同年3月以降は仲の良い友人として互いの悩みを相談し,助け合う仲であった。被告はC宅を訪れていたが,これは,被告が自宅での在宅勤務は子供がいるため集中できないと打ち明けたところ,CがC宅で仕事をするよう勧めてくれたことによる。

また,被告は友人としてCとドライブをすることがあったが,Cから悩みを打ち明けられたときなど場を和ませるために真実と異なる発言をしたことがあった。乗車中の車にドライブレコーダーが搭載されていることは一目瞭然であるところ,やましいことがあればそのような会話をあえて行うことは通常考え難く,車内の会話がそのまま真実であるとはいえない。さらに,被告は,蒲田署においてCとの肉体関係を認めたが,1回だけであると述べ,原告を刺激するような発言はしなかった。

 また,被告は,Cに経済的援助を行っている者の存在は知っていたが,その者とCが婚姻していることは同年7月11日まで知らなかったし,C宅には,原告とCの婚姻関係を示すものはなく,原告とCの婚姻の前後でC宅に何ら変化はなかった。
 したがって,被告には故意も過失もない。

イ 原告の主張する損害は,否認ないし争う。
 原告が主張するCの中絶について,本件との関連性はうかがわれない。また,原告の事業と本件との関連性についても具体的に示されていない。したがって,慰謝料1000万円は法外な額というべきであるし,弁護士費用もその2割を主張している点において相当性がない。
 また,Cが中絶を行う前の段階で,原告は被告に対して1000万円を,Cに対しては2000万円を請求することや,Cの姉をも巻き込むとの発言を行っており,Cは,もはや原告との婚姻共同生活を営むことはできないと判断して中絶を決意したのである。当時,被告及びDは,原告の言動に対して恐怖を感じていた。これらの事情から,仮に不法行為が認められるとしても,Cの中絶とは因果関係が認められない。

 さらに,被告は,原告から1000万円という多額の金員を請求され,令和2年7月11日から同月15日までの5日間に原告から多数回の電話連絡や勤務先の会社への連絡を受けた。また,原告が被告から無理やり番号を聞き出した被告の妻の携帯電話に電話をかけ,被告の家庭は崩壊した。被告はこれらの事情から自律神経失調症を患うことになったが,本件においては,このような事情も考慮されるべきである。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲5,甲6,甲8ないし甲16,乙2,E供述,原告供述,被告供述)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,原告とCが婚姻する前からCと肉体関係に及んでおり,原告とCが婚姻することを,週に2回程度訪れていたC宅内の様子やCの言動から認識していたにもかかわらず,その肉体関係を継続し,令和2年5月5日には原告の所有する車両でドライブに出かけ,同年7月7日及び同月11日には原告が経営する会社の所有する車両でドライブに出かけて,同11日には千葉県内のホテルを訪れるなどしていたこと,同日原告が被告とCとの関係を認識するに至ったことから,原告とCの婚姻関係はわずか4か月で破たんし,同月13日にCはC宅から引っ越し,同月16日に原告とCは協議離婚するに至ったこと,以上の事実が認められる。

したがって,被告の行為は原告に対する不法行為ということができる。当該不法行為に基づく損害賠償請求権の起算点は原告とCとの婚姻の日(同年3月10日)とするのが相当である。

 被告は,在宅勤務をC宅でしていたにすぎない,友人としてドライブに行っていたにすぎない,肉体関係は原告とCの婚姻前の1回限りにすぎないと主張するが,あまりに不自然な主張であって,到底採用できるものではない。

2 被告とCの関係により,原告とCの婚姻関係は破たんし,これによって原告が精神的損害を被ったことが認められる。ただし,原告の供述によれば,C(当時29歳)は,原告(当時60歳)が営む会社とは別の会社に勤めていたところ,仕事の関係で原告と知合い,原告に前夫との離婚に関する相談をしたり前夫と離婚するために500万円を拠出させたりするなどした上,原告と婚姻したい旨告げ,原告に住居(C宅)と月額40万円の生活費(給与とは別)を提供させ,原告の営む会社に転職した後は給与として別途40万円を支払わせていたこと,このような事情がありながら,Cは,原告と知り合う前から関係を結んでいた被告との交際を,原告との婚姻が決まった後も婚姻後も解消することなく継続したこと,Cは,婚姻後もCの都合を理由に何度も原告にC宅を来訪しないよう申し述べて,被告をC宅に招いていたこと,原告はCのために約2000万円を費消したこと,Cは,原告が産むよう懇請したにもかかわらず,被告との間の子である可能性があることを理由に中絶したこと,以上の事実が認められる。

 以上の認定事実からすれば,原告が,30歳年下の女性と婚姻して子供を授かったと思い,欣喜雀躍し,他人に誇らしげに触れ回ったであろうことは想像に難くなく,不貞行為を知って被った精神的苦痛が甚大であることは認められるものの,当該精神的苦痛の大半はCによる経済力のある原告の婚姻願望・実子願望を逆手に取った背信的行為によるものというほかない。

そして,被告がこのような状況まで認識した上でCと不貞行為に及んでいたことは認定できない。なお,原告は,Cと被告が共謀して原告から金を引き出させて2人の遊興や関係継続のために使っていたことが疑われるとも主張するが,何ら裏付けがないため,同主張は採用しない。


 したがって,前記1の認定事実,被告の否認状況,被告とCの関係が発覚した6日後に協議離婚していること,その他本件においてうかがわれる一切の事情を考慮しても,被告が払うべき原告の慰謝料としては50万円が相当である。また,弁護士費用相当額は,これに伴い5万円が相当である。

3 よって,原告の請求は55万円及びこれに対する遅延損害金の請求の限りで理由があるからその限りで認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用について民事訴訟法61条,64条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第32部 裁判官 大濱寿美