小松法律事務所

18年間性交渉無し夫婦の不貞行為責任有無を判断した地裁判決紹介1


○原告妻が、原告の夫である被告Bが被告Cと不貞行為をし、これにより原告の婚姻共同生活の平穏が侵害されたと主張し、被告らに対し、不法行為に基づき損害賠償として、慰謝料400万円と調査費用・弁護士費用等合計約524万円の支払を求めました。

○これに対し、被告夫Bは、原告との結婚1年後に原告から今後一切性交渉はしたくないので、子供は要らないし、外でセックスしても構わないと言われ、その後18年間一度も性交渉には及んでなく、また原告の態度が悪くて、被告Bの父から離婚を強く望まれるなど、原告と被告B夫婦間は破綻した後の不貞行為なので責任はないと主張しました。

○被告Bと性関係を結び被告Bの子供を産んだ被告Cは、原告と被告Bとは,長期間性交渉がなく,他の女性との性交渉を原告が容認していて,夫婦関係として異様であり,そもそも貞操義務違反など観念できず,夫婦関係が事実上破綻しており、破綻していると信じたことに過失もないので、責任はないと主張しました。

○被告らの主張に対し、原告は、性交渉はなくても原告と被告B夫婦間は円満であり、他の女性と性行為をすることまでは了解していなかったところ、原告と被告Bとの夫婦関係が被告らのために破綻に追い込まれたので責任はあると主張し、被告らに対し上記の通り慰謝料等524万円の支払を求めました。

○果たしてこのような事案で、原告の請求が認められるか、認められるとして金額はいくらかを判断した令和3年10月29日東京地裁判決(LEX/DB)の結論は別コンテンツで紹介し、先ず当事者の主張を紹介します。東京地裁にはホントに多種・多様な事案が提訴されます。

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主   文

         (中略)


事実及び理由
第1 請求

 被告らは,原告に対し,連帯して524万5968円及びこれに対する被告B(以下「被告B」という。)については令和2年2月23日から,被告C(以下「被告C」という。)については同月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は,原告の夫である被告Bが被告Cと不貞行為をし,これにより原告の婚姻共同生活の平穏が侵害されたと主張して,原告が,被告らに対し,不法行為に基づき,損害賠償金524万5968円及びこれに対する不法行為後の日(訴状送達の日の翌日。被告Bにつき令和2年2月23日,被告Cにつき同月24日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(根拠を括弧内に示す。)
(1)原告と被告Bの婚姻
 原告は,被告Bと平成13年3月4日に婚姻した。夫婦間に子はない。(争いのない事実,甲1)

(2)被告らの性交渉の開始と妊娠,出産
ア 被告らは,平成29年12月頃から,性交渉を持つようになった(争いのない事実)。
イ 被告Cは,被告Bとの子を妊娠し,平成31年○月○日に出産した。被告Bは,この子について,平成30年8月15日,胎児認知をした。(争いのない事実,甲4)

(3)別居
 被告Bは,遅くとも平成30年12月中旬頃から,原告と別居を開始した(争いのない事実。ただし,別居の開始時期は争いがある。)。

3 争点
(1)平成29年12月頃までの婚姻関係破綻の有無
(2)被告Cにおける夫婦関係破綻に対する信頼及びその過失の各有無
(3)損害額

4 争点についての当事者の主張
(1)争点(1)(平成29年12月頃までの婚姻関係破綻の有無)について

(被告Bの主張)
 被告Bは,原告と結婚した約1年後に苗場にスキー旅行に行き,性交渉をしようとした際,今後一切性交渉をしたくない,子供はいらない旨,被告Bが外でセックスをしてもかまわない旨を告げられた。それ以降の約18年間,原告と被告Bは,一度も性交渉に及んでいない。
 加えて,原告は,自宅外で酩酊して自宅マンションの建物入口等で寝る,所持品を紛失する,警察に保護されるなどの結果に至ることが多く,また,被告Bの親族と不和を起こし,特に被告Bの父から離婚を強く望まれることとなっていたのであり,被告Bは,単に社会的信用の低下等を避けるために離婚を踏みとどまったにすぎない。
 このように,原告と被告Bの婚姻関係は,不貞行為がされる時期には,すでに破綻していた。

(被告Cの主張)
 原告と被告Bとは,長期間性交渉がなく,他の女性との性交渉を原告が容認していて,夫婦関係として異様であり,そもそも貞操義務違反など観念できず,夫婦関係が事実上破綻していたと評価すべきである。

(原告の主張)
 原告と被告Bは,ともにゴルフを趣味として頻繁にゴルフ場に赴き,誕生日や結婚記念日に贈答しあい,特段の喧嘩もしておらず,夫婦関係は極めて円満であった。
 原告は,苗場において,性交渉が精神的に辛いことを相談し,早く子供がほしいのであれば原告と離婚して他の女性と結婚することも一つの方法であるとは伝えたが,被告Bは,離婚は考えていない,原告の意思を尊重したいと述べたのである。原告は,被告Bが他の女性と性行為をすることを了承していないし,苗場での話合い以降18年の間に,性交渉を何度か試みたことはある。

(2)争点(2)(被告Cにおける夫婦関係破綻に対する信頼及びその過失の各有無)について
(被告Cの主張)
 被告Cは,被告Bから交際を申し込まれる前から,原告と結婚して間もなく性交渉の拒否を宣言されてその後性交渉は一度もない,互いに気持ちもなく夫婦としては終わっている,原告が自宅で料理をしないし,食事は別々にとり,一緒に寝てもおらず,単に居所を同じくする存在である旨を聞いていた。こうしたことなどから,被告Cは,夫婦関係が破綻していると信じた。
 そして,こうした事情からして,被告Cがそのように信じたことに過失はない。

(原告の主張)
 被告Cは,被告Bと遅くとも平成29年12月頃から不貞関係にあったから,被告Bが原告のいる自宅に何度も帰宅し,原告とゴルフ等に出かけていることを当然に認識していたのであって,実際に夫婦関係が破綻していないことを容易に認識し得た。
 また,被告Cは,原告と被告Bの婚姻関係が破綻している旨を被告Bから伝え聞いていたと言うに終始し,被告Bに対し,婚姻関係の破綻につき,積極的に確認してもいない。
 こうした状況で,婚姻関係の破綻を過失なく信じていたとは到底いえない。

(3)争点(3)(損害額)について
(原告の主張)
ア 慰謝料 400万0000円
 婚姻期間が長期間に及んでいること,不貞相手との間に子が生まれ,なお不貞関係を続けていること,被告Bの行為の悪質性のほか,原告が被告Bからの一連に言動によりストレス性突発難聴を発症したことなどからすれば,原告の精神的損害に係る慰謝料は上記冒頭額を下回らない。

イ 調査費用 76万9062円
 原告は,被告Bから突然に離婚を申し出られ,原因が判然としなかったことから,やむを得ず,探偵に浮気調査を依頼した。その費用は上記冒頭額である。

ウ 弁護士費用 47万6906円
 原告は,被告らの不貞行為等によって弁護士に依頼せざるを得なくなった。上記ア及びイの合計額の1割に相当する上記冒頭額は,被告らの不貞行為により通常生ずべき損害である。

(被告らの主張)
 争う。