小松法律事務所

1回の不貞行為で110万円の慰謝料支払を認めた地裁判決紹介


○原告夫が、被告と原告妻Cとの不貞行為により婚姻関係が破壊され離婚を避けられない状況となり、妻と別居後子との面会交流も制限され、且つ、被告は当初不貞を認めたのに後になって否認して悪質であるとして、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、330万円慰謝料等及び遅延損害金の支払を求めました。

○これに対し、被告は、不貞行為の事実を否認し、原告と原告妻Cの婚姻関係が破綻したのも当事者間の問題であると主張しました。これに対し、不貞行為は1回はあったと認定し、その慰謝料として110万円の支払を認めた令和2年10月14日東京地裁判決(LEX/DB)理由部分を紹介します。

○原告と原告妻Cの婚姻中に、被告は少なくとも1回は肉体関係を持つに至ったこと、また,被告は,Cとの婚姻中の不貞関係を否定し続けていることを理由に110万円の慰謝料支払を認めています。1回の不貞行為に慰謝料110万円は高すぎるように感じますが、残念ながら、これが相場と考える裁判官がまだ多そうです。

********************************************

主   文
1 被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成30年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,330万円及びこれに対する平成30年7月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告と原告の妻との不貞行為により精神的苦痛を被ったとして,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料等330万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年7月8日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがない事実のほかは,各項に掲記の各証拠に弁論の全趣旨を総合して認める。)


     (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(不貞行為の存否)について
(1)原告は,平成30年2月16日及び同年7月5日に,被告はCと肉体関係を持ったとし,さらに,同年2月16日から同年7月までの約半年間にわたり,被告はCと肉体関係を含む性的関係を持った旨主張する。

(2)まず,平成30年2月16日については,被告は,職場を中抜けして帰宅し,同日午後零時過ぎから同日午後2時頃まで,被告宅において,被告宅を訪れたCと二人で過ごし,被告は職場に戻り,ピアノ教師をしているCはレッスンに間に合うようにタクシーで帰ったことが認められる(甲2)。

そして,Cは,同日午後6時5分頃に「お風呂でポカポカで(タクシー)暑かった!いっつも20秒しか入らないから」というメッセージを被告に送っていることからすると(甲2),Cはタクシーに乗る前に被告宅で入浴したことが窺われるといえる。

さらに,
〔1〕被告においてCに「温泉企画もしなくちゃ」とメッセージを送り(同日午後6時7分頃),Cも「温泉(引用者注:絵文字は省略する。以下同じ。)!」と返していること(同日午後6時57分頃),
〔2〕Cの被告に対する「じゃあ,今度,お昼作ってようか笑」というメッセージ(同日午後7時38分頃)に対して,被告はCに「良いかも~ 裸にエプロンでお願いしまーす」とメッセージを返し(同日午後7時45分頃),Cは被告に「わあーーー」とメッセージを返していること(同日午後8時3分頃),
〔3〕被告はCに「カレーとか,イチャイチャしながら作りたい~」とメッセージを送り(同日午後9時32分頃),Cも被告に「一緒に作ろう」とメッセージを返していること(同日午後9時37分頃),
〔4〕被告の「ただいま,お洗濯中~」というメッセージ(同月17日午前零時6分頃)に対し,Cは「お洗濯増えちゃったねぇ~~」とメッセージを返していること(同日午前零時8分頃),
〔5〕Cの「俳句までやってしまった 今度こそ,おやすみ~」というメッセージ(同日午前零時49分頃)に対して,被告は「おはよん~ 俳句まで~!!しかし,家事から仕事から趣味からエッチから,盛りだくさんで偉いな~!!」というメッセージを返し(同日午前7時42分頃),更にCが「俳句は締め切りがあるからね,,,(汗)10句投句しないといけなくて,即興絞り出し!で提出!笑」と返し(同日午前7時46分頃),被告が「10句も~!!やるな~」と返したのに対して(同日午前7時48分頃),Cは「日々感じることが多いので笑 余裕!?」(同日午前7時49分頃),「エッチな句にならないように気をつけます!?」(同日午前7時50分頃)と返し,更に被告が「感性豊かなのは凄いなー!!エッチな感性も~ 素敵」と返したのに対して(同日午前7時53分頃),Cは「また感性ちょーだい」と返していること(同日午前9時8分頃),
〔6〕被告は,Cに「一緒にお風呂入る~!?」とメッセージを送り(同日午後2時22分頃),Cは「はいる~」と返していること(同日午後2時48分頃)が認められる(甲2)。

 このように,被告は,平成30年2月16日の午後零時過ぎから午後2時頃まで,Cと被告宅で二人きりで過ごし,その間にCが被告宅の風呂を利用したことに加え,その後の被告とCとの間の上記のLINEのやり取りの内容も併せかんがみれば,被告は,同日,被告宅において,Cと肉体関係を持ったものと推認できる。

 なお,被告は,甲第2号証について,原告又は第三者が改変した可能性があるとし,原告において入手経緯についても修正が加えられていないことについても立証されていない以上,被告とCとのやり取りが具体的に甲第2号証のとおりであったことについては疑義がある旨主張する。しかし,被告は,本人尋問において,CとLINEで甲第2号証記載のようなやり取りをしたことについて概ねは認めると述べていること(被告本人)に加え,少なくとも平成30年2月16日から同月17日にかけてのやり取りについては,各メッセージの内容についても,各メッセージの流れについても,格別不自然なところは見受けられないことからすれば,抽象的に修正の可能性を指摘するにとどまり,証拠としての信用性を失わせるとはいえない。

(3)次に,平成30年7月5日については,被告がCと肉体関係を持ったことを認めるに足りる証拠がない。

(4)さらに,原告は,平成30年2月16日から同年7月までの約半年間にわたり,被告がCと肉体関係を持った旨主張するが,同年2月16日と同年7月5日以外は抽象的な主張にとどまり,被告とCが肉体関係を持ったことについて何ら具体的に主張立証をしない(なお,被告は,原告による同月25日の原告,C及びEとの間の話合いの録音反訳書(甲3)の基となる録音データ(甲7)の提出について,時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨申し立てるが,被告が上記反訳書の正確性を争うことは格別,原告の上記録音データの提出が訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。)。

(5)以上によれば,被告は,平成30年2月16日に,Cと肉体関係を持ち,不貞行為をしたものと認められる。

2 争点(2)(因果関係の有無)について
 前記前提事実,証拠(甲6,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成30年7月に,Cと被告の不貞を疑い,Cに対してLINEのトーク履歴を全て見せるように求めたが,Cはこれを拒否したこと,Cは,同年11月30日にEとDを連れて別居し,その後離婚調停を申し立てたこと,原告はC及びDとの別居により精神的苦痛を被ったことが認められ,上記事実に照らせば,同年2月16日の被告とCの不貞行為と原告の精神的苦痛との間には相当因果関係があるものといえる。

 被告は,Cにおいて,原告がCのLINE上でのやり取りを無断で見たことが許せず,原告に対する嫌悪感を募らせ、離婚意思を示して別居したとみるのが自然であるなどと主張するが,Cが別居した理由が上記の点にあることについて何ら証拠はなく,上記結論を左右するに足りない。

3 争点(3)(損害の有無及びその額)
 被告は,Cが既婚者であることを十分認識していたにもかかわらず,婚姻中に少なくとも1回は肉体関係を持つに至ったことが認められ,これにより原告とCは平成30年11月に別居するに至ったものであるといえ,Cからは離婚調停を申し立てられており,また,被告は,Cとの婚姻中の不貞関係を否定し続けているのであって(被告本人,弁論の全趣旨),これにより原告は精神的苦痛を受けたものと認められる(甲6,原告本人)。

そして,原告とCの婚姻から別居までの期間,Cと被告が不貞行為(肉体関係)に及んだ期間及び回数,Cと被告が不貞行為に至ったことについては両者ともそれなりの積極性があったことは否めず,被告とCには同程度の帰責性が認められること(甲2),原告は精神的苦痛を受けたのは被告の行為によるものであるとしてCに対しては慰謝料の支払を求めていないことに加え,本件に顕れた諸般の事情を総合すれば,原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては100万円が相当であると認める。


 また,原告が被告に対し本件訴訟を提起,追行するために弁護士を選任したことは記録上明らかであり,弁護士費用のうち10万円は本件と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

 原告は,被告の不貞行為により,Cとの離婚を避けられない状況にあり,また,実子であるDとの面会交流も,長期間にわたり毎月1回2時間程度の短い時間に制限されていることをもって,離婚を前提とした慰謝料が認められるべきであるなどと主張するが,Dとの面会交流の制限については本来的には原告とCの夫婦間における問題であることからすれば,これをもって慰謝料の増額事由になるとはいえない。

また,原告は,慰謝料請求に対する被告の対応を論難するが,被告は慰謝料請求について争うことができることからすれば,原告本人及び原告代理人からの慰謝料請求に対応しなかったことをもって慰謝料の増額事由になるとはいえない。

 なお,被告は,Cが前夫との婚姻中に原告がCを妊娠させ,Cの離婚後に婚姻したものであり,原告はCの前夫から慰謝料請求を受けていないことを主張するが,原告と被告との間の本件訴訟に何ら影響を与えるものではない(原告は,被告の上記主張に関わる被告第4準備書面における主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たる旨申し立てるが,被告の上記主張が訴訟の完結を遅延させるものとは認められない。)。

4 結論
 以上によれば,原告の請求は,110万円及びこれに対する平成30年7月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第31部 裁判官 島根里織