小松法律事務所

不貞行為第三者勤務先へ架電・投書を不法行為と認めた地裁判決紹介


○原告夫が、被告と原告の妻Aとの不貞行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、慰謝料500万円の損害賠償を求め、被告が、原告により被告と本件妻との不貞行為等を勤務先に通知されたことなどによってプライバシーを侵害され、名誉を棄損されたなどとして、原告に対し、200万円の損害賠償を求めました。

○この事案について、被告と本件妻Aとの交際期間を平成21年9月からと認定し、その交際当初から同妻が結婚していることを知っていたとの被告の自白を撤回することは許されず、被告らの不貞行為が原告に発覚したことによってその婚姻関係が破綻したと認めるなどし、原告に対する慰謝料を150万円と認定し、被告勤務先に対する電話等の原告の行為は、被告が不貞行為をしていることを不特定の者に告知するもので、少なくとも被告の名誉を毀損する行為であると認め、慰謝料10万円等を被告の損害と認定した平成25年1月17日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)関連部分を紹介します。


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主    文
1 被告は,原告に対し,150万円を支払え。
2 原告は,被告に対し,11万円及びこれに対する平成24年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の本訴請求及び被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを25分し,その13を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
 
事実及び理由
第1 請求

1 本訴
 被告は,原告に対し,500万円を支払え。
2 反訴
 原告は,被告に対し,200万円及びこれに対する平成24年5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,本訴が,原告が,被告と原告の妻との不貞行為により,精神的苦痛を受けたとして,被告に対して,不法行為に基づく慰謝料500万円の損害賠償を請求した事案であり,反訴が,被告が,原告により被告と原告の妻との不貞行為等を勤務先に通知されたことなどによって,プライバシーを侵害され,名誉を毀損され,また,原告から被告への深夜の架電により私生活の平穏を害されたとして,原告に対して,不法行為に基づく200万円の損害賠償及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成24年5月12日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求した事案である。

1 前提事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。)
(1)
ア 原告は,A(以下「A」という。)と平成2年11月25日に婚姻し,婚姻後,Aと共にAの母の住居に住み,平成4年○月○日には,Aとの間に,長女をもうけたが,平成23年4月中旬から,A及び長女と別居している。
イ 被告には,平成21年9月当時,妻がいたが,平成23年2月頃,当時の妻に対して離婚を申し入れ,平成23年9月7日,当時の妻と協議離婚した。被告は,株式会社a(以下,同会社及び同会社の経営するスーパーを「aスーパー」という。)の社員である。

(2) Aは,平成19年頃から錦糸町の複合商業施設内にあるスーパー(aスーパー○○店)で,パートとして稼働するようになった。

(3) 被告は,平成21年3月1日,Aが勤務していたaスーパー○○店に異動となり,その頃,Aと知り合った。被告は,同年9月1日,aスーパー△△店に異動になった。(乙15)

(4) 被告は,Aと遅くとも平成21年9月頃から交際を始めていた。

(5) Aは,原告に対し,平成23年3月11日,離婚をしたいと申し入れた。

2 争点
(1) 被告とAとの交際期間,不貞関係の成否とその期間

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告とAとの交際期間,不貞関係の成否とその期間)について

(1) 前記第2の1(3),(4)の事実及び弁論の全趣旨によれば,被告がAと交際を始めたのは平成21年9月頃からと認められる。
 この点,原告は,Aが,平成20年9月頃から,毎週火曜日と水曜日に必ず出掛けるようになったとして,被告とAとの不貞関係も同時期に始まっていたと主張するが,証拠(乙15)から認められる,前記第2の1(3)の被告の異動の経緯に照らして,平成21年3月以前に被告とAが知り合っていたとは認められず,同月よりも前から被告とAとの交際が始まったと認めることもできない。また,被告とAが知り合った,同月以降,平成21年8月までの間に,被告とAとの交際が始まったことを認めるに足りる証拠もない。

(2) 被告は,Aとの交際を始めた平成21年9月頃には,すでに原告とAとの婚姻関係は,破綻していたと主張するが,被告の主張する事情に鑑みても,Aは,前記第2の1(5)のとおり,原告に対し,平成23年3月11日に離婚を申し入れるまでは,離婚を申し入れておらず,平成21年9月頃までに原告とAとの婚姻関係が破綻していたとは認められない。

(3) 被告は,第1回口頭弁論期日で,Aとの交際当初から,同人が結婚していることは知っていたと自白している。
 その後,前記第2の2(1)被告の主張ウのとおり,これと異なる主張をしているが,被告が,Aと交際を開始した当時,同人が既婚者であることを知らなかったことを認めるに足りる証拠はないから,前記自白の撤回は許されない。
 そして,被告とAとの交際は,男女関係に及んでいたことは争いがないから,その交際当初から不貞行為であったと認められる。

(4) 前記第2の1の事実,前記(1)ないし(3)の事実,証拠(甲1,2,7,13,乙17,18,証人A,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告とAとの不貞行為が原告に発覚し,これによって,原告とAとは,平成23年4月中旬頃別居するに至ったことによって,原告とAとの婚姻関係が破綻したものと認められる。

2 争点(2)(原告の損害)について
 前記1で認定した被告の不法行為によって,原告に生じた精神的な損害に対する慰謝料としては,150万円が相当である。
 原告は,被告の不貞行為により,不安神経症及びうつ病と診断され,不眠等の症状に苦しんでいると主張するが,証拠(甲3)によれば,原告は,不安神経症及びうつ状態(うつ病ではない。)と診断されているものの,被告の主張等に照らして,これらの症状が,被告の不貞行為と因果関係のあるものかどうかは明らかではなく,原告の性格等に起因するものとも考えられるところであり,150万円を超える損害が発生しているとは認められない。

3 争点(3)(原告の被告勤務先に対する電話,訪問及び投書によるプライバシーの侵害,名誉毀損の成否)について
 原告が,①平成23年4月17日頃,aスーパーのお客様相談室へ架電し,被告とAが不貞関係にあることを告げたこと,②同年5月2日頃にもaスーパーのお客様相談室へ架電したこと,③同月頃,被告が勤務するaスーパー◎◎店のお客様の声ボックスへ,被告と原告の妻とが不貞行為をしていることがわかる内容の投書(乙2)をしたこと,④同年8月6日頃,被告の勤務するaスーパー◎◎店に架電したこと,⑤同年10月17日頃,同店に赴き,買い物をして,レジの店員に対し,被告が同日同店にいるかどうかを尋ねたこと,⑥同年12月29日頃,aスーパー本社に架電し,被告に裁判所へ出頭するよう伝言を要求したことは原告も認めており,この範囲で争いはない。この争いのない範囲を超えて被告が主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

 そうすると,前記①,③の行為は,被告が不貞行為をしていることを不特定の者に告知するもので,少なくとも被告の名誉を毀損する行為であるといえる。また,前記⑥の行為は,前記①,③の行為と相まって,被告が不貞行為を理由に訴えを提起されていることを通知するものであって,前記①,③の行為と併せて不法行為を構成するものといえる。

 この点,原告は,原告の行為の違法性は軽微であり,また,その軽微な違法性も,より重大な違法行為を防止するための正当行為として治癒されると主張するが,そもそも,原告の行為の違法性は軽微であるというのは独自の見解であって採用することができず,また,原告の行為が,被告の不法行為を防止する意図にでたものであるとしても,その方法としての相当性を欠くものであって正当行為には当たらないから,原告の主張は理由がない。


4 争点(4)(原告の被告に対する,深夜の架電による私生活の平穏の侵害の成否)について
 証拠(乙7,17,)によれば,原告が,被告に対して,平成23年12月3日,15回にわたり,架電した事実が認められるが,この架電が深夜に行われたことまでは明らかではなく,これらが私生活の平穏を侵害する行為であるとまでいうことはできない。

5 争点(5)(被告の損害)について
 前記3で認定した原告の不法行為によって,原告に生じた精神的な損害に対する慰謝料としては,原告の行為の態様,原告の行為が被告の不法行為に起因していること等諸般の事情を考慮すると,10万円が相当であり,被告が反訴を提起するために要した弁護士費用としては1万円が相当である。

6 したがって,原告の本訴請求は,150万円の支払を求める限度で理由があるから,この限度でこれを認容し,その余の原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し,被告の反訴請求は,11万円とこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成24年5月12日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,この限度でこれを認容し,その余の被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第33部 (裁判官 佐々木清一)