小松法律事務所

スマホアプリ性交渉記号での不貞行為を認定しない地裁判決紹介


○原告夫が妻のビジネスパートーナーを被告として、スマホのカップル専用アプリ上で性交渉を行った日を表す記号として用いられているハートマークを記載したこと、そのアプリで連絡を取り合っていたこと、その後ラブホテルの出入りしていたこと等から不貞行為があったとして、慰謝料・調査費用・弁護士費用等合計約900万円の支払を求めて提訴しました。

○妻も補助参加人として、スマホアプリ記録時は不貞行為はないとして争ったところ、妻の「それと不倫はイコールじゃ無いけど,」,「愛してるんだもーん」等とのメッセージを送信した部分が直ちに被告と補助参加人との間の不貞関係を指すものであるとか,被告を愛しているという趣旨であると認めることはできないとしてアプリ記録での不貞行為を否認し、その後のラブホテル出入り時には婚姻関係が破綻していたとして原告夫の請求を全て否認した令和2年3月17日東京地裁判決(ウエストロージャパン)全文を紹介します。

○スマホには色々なアプリがあるようですが、カップル専用アプリは、初めて知りました(^^;)。「【2020年】最新カップルアプリの人気おすすめランキングTOP13」というサイトでは、「2人のテンションが上がるデザインを選ぶことも大切」、「彼氏・彼女と一緒にカップルアプリを使って仲を深めよう!」なんて説明されており、このようなアプリを一緒に使っているだけで不貞行為が疑われます。

○しかし妻がそのようなアプリを使っていたことを夫が知ったのは、妻のスマホを盗み見し、写真撮影するなどして記録したものと思われます。そのような詮索までして訴訟にすること自体が嘆かわしい感がします。不貞行為慰謝料請求制度がなければこんな嘆かわしいことはしなくなると思うのですが。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,899万5448円及びこれに対する平成30年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の妻である補助参加人と不貞行為を行ったとして,民法709条に基づき,慰謝料500万円,調査費用相当額,調停手続弁護士費用,本件における弁護士費用相当額の損害賠償合計399万5448円並びにこれらの合計899万5448円に対する不法行為の日の後である平成30年10月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 補助参加人は,被告を補助するために本件に補助参加をした。

1 前提事実(いずれも当事者間に争いがない。)
(1) 原告(昭和44年生まれ)と補助参加人(昭和48年生まれ)は,平成12年3月6日に婚姻の届出をした夫婦であり,両名の間には,長男(平成16年生まれ)及び二男(平成20年生まれ)がいる。
(2) 原告と補助参加人は,平成30年1月29日に補助参加人が子らを連れて転居したことにより,別居を開始した。

2 争点及び争点に関する当事者の主張
(1) 被告と補助参加人の不貞行為の有無(争点1)
 (原告の主張)
 被告は,補助参加人が既婚者であることを知りながら,遅くとも平成29年7月末頃から現在に至るまで,同人と継続的に不貞行為を行っている。

 (被告及び補助参加人の主張)
 原告の主張は,否認する。
 被告と補助参加人は,互いに20代の頃に知り合い,友人グループで遊びに出掛けるなどしていたが,平成29年の秋頃,当時の被告の勤務先の近くで再会し,同年12月11日,同月7日に被告が設立した会社に補助参加人が新規顧客を紹介等するとの業務委託契約を締結した。
 したがって,被告と補助参加人は,ビジネスパートナーの関係にあり,不貞関係にはない。

(2) 原告と補助参加人の婚姻関係の破たんの有無(争点2)
 (被告及び補助参加人の主張)
 原告と補助参加人の婚姻関係は,遅くとも別居を開始した平成30年1月29日までに完全に破たんしていた。
 原告と補助参加人の間には,数年間も性交渉がなされておらず,補助参加人は,原告に対し,同月14日に離婚を申し出て,同月29日に別居を開始し,原告も同月30日に自宅の鍵を交換し,補助参加人及び子らが帰宅できない状況を作っていたのであり,原告に補助参加人との婚姻関係を維持する意思がなかったことを強く表している。

 (原告の主張)
 被告及び補助参加人の主張は,争う。
 原告は,補助参加人が別居当日に100万円以上の家財道具を持ち出したことから,原告の生活にさらなる支障が生じることを防ぐために自宅の鍵を交換したにすぎず,補助参加人を締め出したのはない。

(3) 損害の発生及びその金額(争点3)
 (原告の主張)
ア 慰謝料 500万円
イ 調査費用
(ア) 株式会社原一 51万8400円
(イ) 株式会社TeR 49万9280円
(ウ) 株式会社MR 162万円

ウ 夫婦関係調整調停弁護士費用 54万円

エ 本件訴訟弁護士費用 81万7768円

オ 合計 899万5448円

 (被告及び補助参加人の主張)
 原告の主張は,争う。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提事実,証拠(原告本人,被告本人,証人Zのほか括弧内に掲記した書証)及び弁論の全趣旨を総合すると,次の各事実を認めることができる。
(1) 補助参加人は,平成28年12月頃から,帰宅時刻が深夜や明け方に及ぶことがあり,原告は,同月29日から平成29年12月30日にかけて,携帯電話に補助参加人の帰宅時刻を記録した。(甲22)

(2) 補助参加人は,少なくとも平成29年7月から同年12月までの間,スマートフォーンの「○○:生理/排卵日予測 生理日管理アプリ」と題するアプリ(以下「○○」という。)を用いて,自らの生理日を記録するとともに,カレンダー上の合計38日について,同アプリ上において性交渉を行った日を表す記号として用いられているハートマークのアイコンを付して記録した。(甲2から4まで,33)

(3) 被告と補助参加人は,特定の2人の間でのみメッセージのやり取りをすることが可能な「カップル専用アプリ△△で記念日共有」と題するアプリ(以下「△△」という。)において,連絡を取り合い,補助参加人は,「Y君(注・被告を指す。)と話してるとなんでもうまく行く気がする」,「夫と話してると何も面白い事この先無いなって気がするだけ」とのメッセージを送信したり,「私が離婚考えてたのは随分前からだって事とその理由は 金銭感覚の事 妻として私に求めている事と私の感覚とのズレ 何よりこれからの人生考えた時に求める事がお互い違うと思う事」,「それと不倫はイコールじゃ無いけど,」,「それはたまたまで」,「でも,本当に家庭だけで幸せにだったら外に出なかったかも知れないし,元々20代の頃求めてたのは家に閉じこもる人生じゃなかったって思い出したからなのかもしれない」とのメッセージを送信し,被告は,「そうだね そっちに論点もって行った方がいいと思う」,「でも」,「(注・判読不能)なんもなかった気がする」と返信し,補助参加人は,「愛してるんだもーん」と返信した。(甲5の1,2,甲6)

(4) 被告は,平成29年12月7日,自身を代表取締役として,各種商品の企画,製造,販売及び輸出入を目的とする株式会社を設立し,上記会社と補助参加人は,同月11日付けで,上記会社が補助参加人に対し,上記会社の事業拡大に関わる各種支援業務や,顧客との面談等の設定等の業務を委託することを内容とする業務委託契約を締結した。(乙2,3)

(5) 補助参加人は,平成30年1月7日,被告と共に行くことを原告に秘して,被告やその知人と共に,イカ釣りに行った。(甲23,35,乙9)

(6) 補助参加人は,平成30年1月18日から19日にかけて,被告と共に行くことを原告に秘して,被告と共に,新潟県内にある会社を訪問した。(甲9,10,23,35,乙9)

(7) 補助参加人は,原告に対し,平成30年1月14日,離婚をしたいと申し入れた。これに対し,原告は,補助参加人に対し,離婚をするのであれば,子らは置いて行き,原告に財産を請求しないよう求め,補助参加人が薬物を使用していることを疑う発言をする等した。(丙12,13)

(8) 補助参加人は,平成30年1月29日,原告の不在中に,子らと共に転居し,原告との別居を開始した。補助参加人は,原告と同居していた自宅に代理人弁護士からの受任通知を残し,転居先の住所を秘して転居した。また,補助参加人は,従前使用していた家財道具等を持参して転居し,クレジットカードの家族カードを用いて転居先での家財道具を購入したところ,原告は,同日頃,自宅の鍵を交換し,上記カードの利用を停止する手続をした。(丙12,13)

(9) 補助参加人は,平成30年5月21日,原告を相手方として,離婚を求める内容の夫婦関係調整調停事件を東京家庭裁判所に申し立てた(同裁判所平成30年(家イ)第3793号)。(乙1)

(10) 原告は,調査業者に対し,平成30年6月25日から同年7月17日にかけて,被告及び補助参加人の行動調査を依頼し,同業者は,同年6月25日午前11時27分頃に被告と補助参加人がラブホテルに入り,同日午後5時47分頃に出る様子,同年7月9日午前11時16分頃に被告と補助参加人がラブホテルに入り,同日午後4時43分頃にそれぞれ別の出入口から出る様子,同月17日午前11時1分頃に補助参加人がラブホテルに入り,同日午後6時21分頃に被告と補助参加人が出る様子をそれぞれ観察した。(甲7,8)

2 争点1(被告と補助参加人の不貞行為の有無)について
 原告は,主として,①補助参加人が○○において,合計38日分について,同アプリ上において性交渉を行った日を表す記号として用いられているハートマークを記載したこと,②被告と補助参加人が△△を用いて連絡を取り合っていたこと,③被告と補助参加人が平成30年6月25日から同年7月17日にかけてラブホテルに出入りしていたこと等から,被告と補助参加人が遅くとも平成29年7月末頃から現在に至るまで,継続的に不貞行為を行っていると主張する。

 しかし,上記①については,前記1(2)のとおり,補助参加人は,○○のカレンダー上に,同アプリ上で性交渉を行った日を表す記号として用いられているハートマークのアイコンを付して記録しているものの,そうであるからといって,直ちに補助参加人が同アプリの用法のとおりに性交渉を行った日を記録したと認めることはできず,補助参加人が主張するとおり,排便をした日を記録するのに用いた可能性を否定することはできない。

 また,上記②については,△△が特定の2人の間でのみメッセージのやり取りをすることが可能なアプリであることや,被告と補助参加人が前記1(3)のとおりのメッセージのやり取りをしていたことからすると,被告と補助参加人がある程度親しい関係にあったと認めることができる。

 しかし,上記のメッセージの文脈や趣旨は必ずしも明確ではなく,補助参加人が「それと不倫はイコールじゃ無いけど,」,「愛してるんだもーん」等とのメッセージを送信した部分が直ちに被告と補助参加人との間の不貞関係を指すものであるとか,被告を愛しているという趣旨であると認めることはできず,上記のメッセージのやり取りのその他の部分を踏まえても,直ちに被告と補助参加人が性交渉又はこれに準ずる行為に及ぶ関係にあったと認めることはできない。

 そして,上記③については,前記1(10)のとおり,被告と補助参加人は,2人のみでラブホテルに長時間滞在しており,このことは,両名が性交渉に及んでいたことを相当程度推認させる事情ではあるものの,原告と補助参加人が平成30年1月29日に別居を開始してから約5か月後の出来事であって,後記3のとおり,原告と補助参加人の婚姻関係は,既に破綻に至っていたというべきであるから,この時点において被告と補助参加人が性交渉に及んでいたとしても,原告との関係で,婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害することにはならず,被告が原告に対して不法行為を負うことにはならない。また,上記のとおり被告と補助参加人がラブホテルに出入りしていたことをもって,それ以前の時点に両名が性交渉又はこれに準ずる行為に及ぶ関係にあったと直ちに推認することもできない。

 そのほか,平成28年12月頃から補助参加人の帰宅時間が遅くなることがあったこと,補助参加人が原告に秘して被告と外出をしていたこと等,原告が主張する点を考慮したとしても,被告と補助参加人が不貞行為に及んでいたと認めることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。

3 争点2(原告と補助参加人の婚姻関係の破たんの有無)について
 前記1(7)のとおり,補助参加人は,原告に対し,平成30年1月14日,離婚をしたいと申し入れたところ,原告は,補助参加人に対し,離婚をするのであれば,子らは置いて行き,原告に財産を請求しないよう求め,補助参加人が薬物を使用していることを疑う発言をする等して話合いがまとまらず,その後,同(8)のとおり,補助参加人は,同月29日,原告の不在中に子らと共に転居し,原告との別居を開始したことが認められる。

 そして,補助参加人は,原告と同居していた自宅に代理人弁護士からの受任通知を残し,転居先の住所を秘して転居しており,原告も,同日頃,自宅の鍵を交換し,補助参加人が所持していた家族カードの利用を停止する手続をしており,その後も,同年5月21日に補助参加人が原告を相手方として夫婦関係調整調停を申し立てるまで,両名の間で関係修復に向けた話合いが行われた形跡は認められないことからすると,遅くとも上記調停が申し立てられた頃には,原告と補助参加人のいずれも,もはや婚姻関係を継続する意思を有していなかったものと認められる。

 なお,原告は,補助参加人が別居当日に100万円以上の家財道具を持ち出したことから,原告の生活にさらなる支障が生じることを防ぐために自宅の鍵を交換したにすぎないと主張するが,家財道具の持出しを防ぐ目的であれば,代理人弁護士を通じて補助参加人にその旨を申し入れる等すれば足りるのであって,そのような措置を講じることなく自宅の鍵を交換したこと自体,補助参加人に対する不信感に基づく行動であるというべきであるから,上記主張を踏まえたとしても,上記判断を左右するには足りない。
 したがって,原告と補助参加人の婚姻関係は,遅くとも平成30年5月21日頃には,既に破綻に至っていたというべきである。

4 結論
 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第50部 (裁判官 髙橋祐喜)