小松法律事務所

未成年者一時保護を理由に養育費支払判決を一部取り消した高裁決定紹介


○「未成年者一時保護を理由に養育費支払判決を一部取り消した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の令和4年12月15日東京高裁決定(判時2614号31頁、判タ1526号115頁)を紹介します。

○原審審判は、養育費支払を命じた判決の取り消し開始日を未成年者の一時保護が開始した日の翌日としましたが、東京高裁決定は取消しの始期については,具体的な養育費分担義務は審判によって形成されるものであることに加え,未成年者は,令和3年9月15日時点では児童相談所に一時保護されたにとどまることなどの本件における事情の下では,相手方が横浜家庭裁判所に対して本件養育費減額審判を申し立てた令和4年5月17日からとするのが相当としました。

○抗告人(元妻)は、一時保護にすぎず、一時保護中も費用を負担していることを理由に養育料支払の取り消しを不当と主張しましたが、1年以上保護が続いていること、未成年者親権者が抗告人から相手方に変更する審判が出たこと等を理由に取り消しが相当としました。親権者変更審判が決定的理由と思われます。抗告人元妻は親権者でなくなりましたので、養育監護権者でもなくなったからです。

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主   文
1 原審判を,以下のとおり変更する。
2 当事者間の東京高等裁判所平成*年(ネ)第*号離婚等請求控訴事件,同第*号離婚等反訴請求事件について,平成22年12月22日にされた判決主文第4項を,令和4年5月17日以降分につき,取り消す。
3 手続費用は,第1,2審を通じて,各自の負担とする。

理   由
第1 本件抗告の趣旨及び理由

 本件抗告の趣旨及び理由は,別紙即時抗告状及び同即時抗告理由書に記載のとおりであり,これに対する相手方の意見は,別紙主張書面1に記載のとおりである。

第2 事案の概要
1 本件は,平成19年に婚姻し,平成20年*月*日に未成年者をもうけたものの,平成23年8月3日に裁判離婚した夫婦の元夫である相手方が,元妻である抗告人に対し,東京高等裁判所が平成22年12月22日に言い渡した判決(同裁判所平成*年(ネ)第*号,同第*号。以下「前件判決」という。)のうち,相手方に対して未成年者の養育費として,毎月末日限り,前件判決確定の日の翌日から平成40年*月*日まで1か月16万円の割合による金員を抗告人に支払うよう命じた主文第4項について,取消しを求めた事案である。

2 原審は,未成年者は,令和3年9月15日以降,D児童相談所により一時保護されており,同月16日以降,抗告人の監護養育下にないので,前件判決主文第4項の同日以降の養育費の定めを取り消す旨の審判(原審判)をしたところ,抗告人が,これを不服として即時抗告した。

第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,前件判決主文第4項を,令和4年5月17日以降分について取り消すのが相当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

2 認定事実
 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1)抗告人と相手方は,平成19年5月1日に婚姻し,平成20年*月*日,未成年者をもうけた。

(2)相手方は,東京家庭裁判所に対し,抗告人を被告として離婚等請求訴訟を提起し,同裁判所は,平成22年6月25日,相手方と抗告人とを離婚する,未成年者の親権者を抗告人と定める旨の判決をした。
 これに対し,抗告人は,同判決を不服として控訴するとともに,控訴審において,相手方との離婚を請求し,併せて離婚に伴う附帯処分として,未成年者の養育費の支払及び財産分与を求める旨の反訴を提起した。東京高等裁判所は,平成22年12月22日,〔1〕抗告人の控訴を棄却する,〔2〕抗告人の反訴請求に基づき,抗告人と相手方とを離婚する,〔3〕未成年者の親権者を抗告人と定める,〔4〕相手方は,抗告人に対し,毎月末日限り,判決確定の日の翌日から平成40年*月*日まで1か月金16万円の割合による金員を支払え(主文第4項)との判決(前件判決)をした。

 これに対し,抗告人は上告及び上告受理の申立てをしたが,最高裁判所は,平成23年8月3日,反訴に係る離婚請求部分につき,上告を却下する,その余の上告を棄却する,本件を上告審として受理しない旨の決定をした。

(3)抗告人は,未成年者を小学校及び中学校に通わせず,家の中には腰付近まで生活ごみが積み重なって散乱するなど,未成年者を適切に監護養育してこなかった。このため,未成年者は,令和3年9月15日,D児童相談所に一時保護され,令和4年1月13日から,Eセンターに一時保護委託され,同年3月11日から,〈省略〉ようになった。

(4)相手方は,令和3年11月18日,横浜家庭裁判所に対し,抗告人を相手方として,親権者変更調停を申し立てたが,同調停は不成立となり,審判手続に移行した。そして,同裁判所は,令和4年9月2日,未成年者の親権者を抗告人から相手方に変更する旨の審判をした。これに対し,抗告人は,上記審判を不服として即時抗告をし,現在,東京高等裁判所に係属中である。

(5)相手方は,令和4年5月17日,横浜家庭裁判所に対し,抗告人を相手方として,本件養育費減額審判を申し立てた。

3 検討
(1)家庭裁判所は,養育費に関する判決が確定した場合であっても,その判決の基礎とされた事情に変更が生じ,従前の判決の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至った場合には,事情の変更があったものとして,その変更又は取消しをすることができる(民法880条)。

(2)前記認定事実によれば,抗告人は,令和3年9月15日に未成年者が児童相談所に一時保護されて以来,現在に至るまで,未成年者を現実に監護養育していないこと,横浜家庭裁判所は,令和4年9月2日,未成年者の親権者を抗告人から相手方に変更する旨の審判をしたことが認められる。

 以上によれば,相手方に対して未成年者の養育費として月額16万円を抗告人に支払うよう命じた前件判決主文第4項は,実情に適合せず相当性を欠くに至ったと認められるので,これを取り消すのが相当であり,取消しの始期については,具体的な養育費分担義務は審判によって形成されるものであることに加え,未成年者は,令和3年9月15日時点では児童相談所に一時保護されたにとどまることなどの本件における事情の下では,相手方が横浜家庭裁判所に対して本件養育費減額審判を申し立てた令和4年5月17日からとするのが相当である。

(3)これに対し,抗告人は,
〔1〕未成年者はあくまでも「一時保護」されているにすぎず,一時保護が解除されれば再び抗告人が未成年者を監護養育することになること,
〔2〕抗告人は一時保護中の未成年者に面会に行く際,未成年者が欲しがっていたものを用意して持って行くなど,一時保護中であっても一定の費用を要していること
を理由に,前件判決主文第4項を取り消すのは不当である旨主張する。

 しかしながら,上記〔1〕については,抗告人は,令和3年9月15日に未成年者が児童相談所に一時保護されて以来,1年以上にわたって未成年者を監護養育していないことや,横浜家庭裁判所が未成年者の親権者を抗告人から相手方に変更する旨の審判をしたことは,上記(2)で説示したとおりであり,現時点で,未成年者が抗告人の下に戻る見通しは立っていないことをも併せ考慮すると,前件判決主文第4項は,実情に適合せず相当性を欠くに至っており,これを取り消すのが相当であるというべきである。

 また、上記〔2〕についても,抗告人が現在,未成年者を現実に監護養育しておらず,前件判決の基礎とされた事情に変更が生じ,前件判決主文第4項の内容が実情に適合せず相当性を欠くに至ったと認められることは,上記(2)で説示したとおりであり,仮に抗告人が未成年者との面会の際に物品を差入れることがあったとしても,上記判断を左右するものではない。 
 したがって,抗告人の上記主張は,いずれも採用することができない。

4 結論
 以上によれば,本件申立てについては,前件判決主文第4項を令和4年5月17日以降分について取り消すのが相当であるところ,これと一部異なる原審判は,その限度で相当でないのでこれを変更することとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大竹昭彦 裁判官 神野泰一 裁判官 土屋毅)