小松法律事務所

強制認知の訴えを立証無しとして棄却した家裁判決紹介


○「強制認知の訴え-親子関係の立証程度と方法」に、血液鑑定・DNA鑑定技術が確立されていない時代の父子関係立証方法について
①母の懐妊時に被告と性関係があったこと
②子と被告との間に血液型の食い違いがないこと
③指紋・掌紋・足紋などによる比較、人類学的特徴

によって父子関係の存在を普通の人であれば誰でも疑いを差し挟む余地が無い程に立証を尽くす必要があるとされていました(昭和50年10月24日最高裁判決)。
と記載していました。

○この強制認知について、原告法定代理人親権者母は、原告を出産したところ、原告が、被告に対し、原告の認知を求めた先ず調停が不成立で、強制認知の訴えを提起しましたが、被告とされた男性が、期日に不出頭でした。

○この強制認知の訴えについて、被告は、適式の呼出しを受けたが、本件では、被告の不出頭により、原告と被告との間の生物学的父子関係が存在するか否かについて、DNA鑑定の実施によってこれを把握することはできておらず、原告母は、原告と被告の顔を比べると鼻などが似ている旨供述するが、それぞれの顔貌に関する証拠は一切なく、両者に生物学的父子関係があることを推認させるに資するほどの特徴的な共通点があるとは認められず、また、原告の血液型は不明であるというのであって(原告母本人)、血液型の点においても、原告と被告との父子関係を推認させる証拠はないことから、被告が、原告母による出産の当否について母に相談していること、原告母とともに水天宮に安産祈願に訪れたこと、出産費用として10万円を支払っていることなどの事情を踏まえても、これらは、あくまで、自身が父親である可能性について心当たりがある状況を前提にした行動にとどまるといえることからすると、なお、原告と被告との生物学的父子関係を認めるに足りないといわざるを得ないとして、原告の請求を棄却した令和4年12月9日さいたま家裁判決(LEX/DB)全文を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 原告が被告の子であることを認知する。

第2 事案の概要
1 原告法定代理人親権者母(以下「原告母」という。)は、令和3年○月○○日、原告を出産した(甲1)。

2 本件は、原告が、被告に対し、原告の認知を求めた事案である。

3 被告は、適式の呼出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しなかった。
 なお、本件訴えに先立ち、原告は、被告に対して、原告の認知を求める調停を申し立てたが(当庁令和3年(家イ)第1679号)、令和3年10月26日、調停不成立により終了している(甲4)。

第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲2、5、6、原告母本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。なお、以下に示した月日は、すべて令和2年である。
(1)原告母と被告は、友人の紹介で知合い、6月頃から交際を開始し、7月終わり頃に肉体関係を持った。
(2)原告母は、9月2日に妊娠を知り、その後、被告にその旨を伝えた。被告は、被告の母とこの件について話をして、出産について反対の意向を伝えられたことから、9月25日に、その旨をLINEのメッセージで原告母に伝えた。
(3)原告母は、10月21日、被告とともに、その妹及び母らと初めて会い、母は、原告母に対し「息子をよろしくお願いします」などと告げた。
(4)被告は、11月15日、原告母とともに水天宮を訪れ、安産祈願を行った。
(5)原告母は、通っている医療機関(産婦人科)から、出産の予約金として10万円が必要であると言われた旨を被告に伝え、これを支払うよう求めたところ、被告は、12月19日までに合計10万円を支払った。

(6)原告母は、被告との間で、12月26日までLINEでメッセージのやり取りを行っていたが、同日のやり取りの中で、原告母が「このままの状況が続くなら別れたい」とのメッセージを送ると、被告は「わかった、俺も自分の子供かどうか証拠がないのに金払ってるのも嫌だったから、幸せにできなくってごめんね」との返信をした。その後、原告母は、被告と連絡がとれなくなり、上記(1)のとおり被告を紹介した友人との連絡もとれなくなった。

2 原告と被告との間の生物学的父子関係が存在するか否かについて検討するに、本件では、被告の不出頭により、DNA鑑定の実施によってこれを把握することはできていない。

 そうすると、他の方法により立証をなし得ているか検討すべきことになる。この点、原告母は、原告を懐妊した当時は被告との間でしか性交渉はなく、他の男性と性交渉に及んだのは4月であった旨供述しており、原告母が原告を懐妊した当時、他の男性との性交渉があったことについて証拠はないが、一方で、他の男性と性交渉がなかったと積極的に認めるに足りる証拠もない。

 これを踏まえてさらに検討するに、原告母は、原告と被告の顔を比べると鼻などが似ている旨供述するが、それぞれの顔貌に関する証拠は一切なく、両者に生物学的父子関係があることを推認させるに資するほどの特徴的な共通点があるとは認められない。また,原告の血液型は不明であるというのであって(原告母本人)、血液型の点においても、原告と被告との父子関係を推認させる証拠はない。

 以上のとおりの事情からすれば、他方で、被告が、原告母による出産の当否について母に相談していること、原告母とともに水天宮に安産祈願に訪れたこと、出産費用として10万円を支払っていること、12月26日には自らの子かどうか証拠がない旨言及するも、それまでの間にこうした言動に及んだ形跡はないことなどの事情を踏まえても、これらは、あくまで、自身が父親である可能性について心当たりがある状況を前提にした行動にとどまるといえることからすると、なお、原告と被告との生物学的父子関係を認めるに足りないといわざるを得ない。
 

3 したがって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
さいたま家庭裁判所家事部 裁判官 古賀秀雄