小松法律事務所

減収・再婚等による事情変更による養育費減額を認めた家裁審判紹介


○申立人父と相手方母が離婚するに際し、3人の子の親権者を相手方母とし、養育費を子1人当たり5万円の合計15万円と定め、但し、申立人父が相手方母及び3人の子が居住する建物の住宅ローン月額10万円を差し引き、実質毎月5万円を支払うとの内容の公正証書を作成していました。

○その後、申立人は、本件公正証書により養育費を定めた平成28年に比べて収入が大きく減少し、且つ、再婚し、再婚相手の子と養子縁組をし、再婚相手との間に子をもうけたため、申立人が養育費の金額を5万円から3万円に変更するとの養育費減額調停申立をして、審判に至りました。

○この申立について、本件公正証書により未成年者らの養育費を合意した背景が著しく変更されたものということができ、これに伴い、未成年者らの養育費も変更するのが相当であるとして、養育費額を1人当たり5万円から2万6000円に減額した平成31年3月26日平成31年3月26日千葉家庭裁判所佐倉支部審判(判例時報2443号18頁)全文を紹介します。

○これに対し、相手方母は、養育費1人当たり2万6000円では、住宅ローン返済分10万円を差し引くと実質ゼロになり不当であるとして抗告し、抗告審令和元年8月19日東京高裁で家裁審判が覆されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
1 J地方法務局所属公証人Gが平成28年7月8日作成した申立人と相手方間の平成×年第×号離婚給付等契約公正証書の2条1項により申立人が相手方に支払うべきものとされた未成年者らの養育費の額についての平成30年6月以降の定めを次のとおり変更する。
 「申立人(上記公正証書における甲。以下同じ。)は、相手方(上記公正証書における乙。以下同じ。)に対し、未成年者らの養育費として、未成年者ら(上記公正証書における丙、丁及び戊)がそれぞれ満20歳に達した後の最初の3月まで、毎月1日限り、1人につき月額2万6000円を、Hの相手方名義の普通預金口座(口座番号《略》)に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は申立人の負担とする。」
2 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第1 申立ての趣旨

 J地方法務局所属公証人Gが平成28年7月8日作成した申立人と相手方間の平成×年第×号離婚給付等契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)の2条1項により申立人が相手方に支払うべきものとされた未成年者らの養育費の額を未成年者1人につき3万円に変更する。

第2 当裁判所の判断
1 一件記録及び申立人の審問の結果によれば、次の各事実を認めることができる。


(1)申立人(昭和53年×月×日生)と相手方(昭和60年×月×日生)は、婚姻し、平成20年×月×日に長男Cを、平成23年×月×日に長女Dを、平成25年×月×日に二女E(以下「二女」という。)を、それぞれもうけた。

(2)申立人と相手方は、平成28年7月8日、本件公正証書により協議離婚することなどを合意し、同日、離婚し、未成年者らの親権者を相手方と定めた。

(3)本件公正証書には、概要、次の内容の定めがある。
ア 2条(養育費)
(ア)1項
 申立人は、相手方に対し、未成年者らの養育費として、平成28年8月から、未成年者らがそれぞれ満20歳に達した後の最初の3月まで、未成年者1人につき5万円の支払義務があることを認め、これを、毎月1日限り、相手方の指定する金融機関の口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は申立人の負担とする。

(イ)2項
 申立人及び相手方は、上記養育費について、申立人が〈1〉の建物(別紙物件目録《略》記載の建物。以下、本件公正証書中の表記に合わせて「本件住居」という。)に係る住宅ローン月額10万円を支払っている場合には、その支払った住宅ローンの金額を、上記養育費から差し引くものと合意する。この場合、差し引く金額は、未成年者ら3名の養育費について均等とするが、端数が生ずる場合には、その端数分は二女の養育費から差し引くものとする。

(ウ)3項
 申立人及び相手方は、上記養育費の終期について、未成年者らが高等学校を卒業して就職した場合又は大学等に進学した場合には、各学業終了日の属する月までを原則として、協議の上決するものとする。

イ 3条(住居の取扱い)
(ア)1項
 申立人は、相手方に対し、相手方が子供らとともに、申立人が共有持分を有する本件住居に無償で居住することを認める。

(イ)2項
 申立人は、相手方に対し、本件住居に関する住宅ローンの申立人負担部分(月額10万円)を、責任をもって完済まで支払うことを約束する。

(ウ)3項
 本件住居に関する住宅ローンが完済となった場合又はその他の事由により本件住居の所有権移転が可能となった場合には、申立人は、相手方に対し、本件住居(申立人の持分)を譲渡し、その所有権移転登記手続を行う。その登記手続に要する費用は申立人の負担とする。

(エ)4項
 第2条記載の養育費の支払が一部又は全部完了した後も本条第2項記載の住宅ローンの支払が残存している場合は、同住宅ローン又は第2条記載の養育費の金額を超える部分の住宅ローンは、相手方が支払うものとする。

(4)本件住居は、平成27年2月23日、新築され、相手方の父と申立人が2分の1ずつ共有持分を有している。そして、相手方の父と申立人は、その住宅ローンについて、株式会社Fに対して連帯債務を負っている。

(5)申立人は、タクシー乗務員としてタクシー会社に勤務し、給与収入を得ているが、その給与は、乗務員である申立人の売上げから経費を控除した金額の8割が申立人に配分される完全歩合給となっている。申立人の年収は、平成27年が731万1186円、平成28年が1040万3357円、平成29年が759万7281円、平成30年が875万9419円である。ただし、平成28年の売上金額は、勤務先会社の一過性のプロジェクトにより、申立人に高単価の仕事が優先的に配分されたために生じたものである。

(6)相手方は、給与収入を得ており、平成29年における年収は187万2000円である。

(7)申立人は、平成30年3月×日、婚姻し、その再婚相手の子(平成25年×月×日生)と養子縁組をしたほか、同年×月×日、再婚相手との間に、長男をもうけた。同再婚相手の平成29年における年収は286万3958円である。

(8)申立人は、当庁に対し、平成30年6月7日、養育費(減額)調停を申し立てたが(当庁同年(家イ)第339号ないし341号)、相手方は、調停期日に出頭せず、当庁は、同年10月31日、家事事件手続法284条に基づき調停に代わる審判を行ったが、相手方は、同年11月5日、異議を申し立てた。当庁は、同月21日、審判に移行した本件について、調停に付したが(当庁同年(家イ)第743号ないし745号)、相手方は調停期日に出頭せず、同調停は、平成31年1月11日、不成立となり、本件審判に移行した。

2 検討
 前記認定事実によれば、申立人と相手方は、本件公正証書により未成年者らの養育費を定めたが、その後、申立人は、本件公正証書により養育費を定めた平成28年に比して、その収入が大きく減少したのみならず、再婚し、再婚相手の子と養子縁組をし、再婚相手との間に子をもうけたから、本件公正証書により未成年者らの養育費を合意した背景が著しく変更されたものということができ、これに伴い、未成年者らの養育費も変更するのが相当である。

 そして、新たに未成年者らの養育費額を算定するに当たっては、義務者及び権利者の各基礎収入の額(総収入から税法等に基づく標準的な割合による公租公課並びに統計資料に基づいて推計された標準的な割合による職業費及び特別経費を控除して推計した額)を定め、その上で、義務者が未成年者らと同居していると仮定すれば未成年者らのために充てられたはずの生活費の額を、生活保護基準及び教育費に関する統計から導き出される標準的な生活費指数によって算出し、これを、権利者と義務者の基礎収入の割合で按分して、義務者が分担すべき養育費額を算定するとの方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)に基づいて検討するのが相当である。

 これを本件についてみると、申立人の年収の推移は前記認定事実のとおりであるが、平成28年における年収は特に一過性のものであり、また申立人の給与は完全歩合制であって、ある程度変動し得ることに照らすと、平成27年、平成29年及び平成30年の年収を平均化した金額を基に算定するべきである。

 そうすると、申立人の総収入は、788万9295円(1円未満切り捨て)と試算される。また、相手方の平成30年における年収は明らかではないが、同人の平成29年における年収は187万2000円である。そして、申立人の基礎収入割合を35%とし、相手方の基礎収入割合を39%とすると、申立人の基礎収入は276万1253円(1円未満切り捨て)となり、相手方の基礎収入は73万0080円となる。また、申立人の生活費指数を100とし、未成年者らの生活費指数をいずれも55とし、申立人の養子及び申立人と再婚相手との子の生活費指数をいずれも55とすると、未成年者らの生活費は、次の計算式のとおり、121万4951円となる。
(計算式)
276万1253円×{(55+55+55)÷(100+55+55+55+55+55)}=121万4951円(1円未満切捨て)
 よって,これを申立人と相手方の基礎収入で按分すると、申立人が負担すべき養育費は、次の計算式のとおり、96万0890円となり、これを12で除すると、8万0074円(1円未満切り捨て)となる。
(計算式)
121万4951円×{276万1253円÷(276万1253円+73万0080円)}=96万0890円(1円未満切り捨て)

 そうすると、申立人が負担すべき養育費は、未成年者1人につき、1か月2万6000円とするのが相当であって、本件公正証書第2条1項をそのように変更すべきところ、前記認定に係る経緯に照らすと、この変更の始期は平成30年6月とするのが相当である。 

 なお、本件公正証書2条2項には、申立人が本件住居の住宅ローンの負担分として10万円を支払っている場合には、その支払った金額を養育費額から差し引くことを合意する旨が定められている。これは、本件公正証書3条において、養育費とは別に、申立人と相手方が、申立人は本件住居の住宅ローンのうち10万円を相手方に対して支払うことを合意し、それを受けて、住宅ローンの支払と養育費の支払を精算する方法を定めたものであるが、他方、本件は申立人が養育費の減額を求めることの当否等を判断すべきものにすぎないから、当裁判所が、その精算の在り方について当事者が別途合意した内容に変更を加えることは、相当でない。
 よって、主文のとおり審判する。(裁判官 澁谷輝一)

別紙 物件目録《略》