小松法律事務所

特有財産借地権について一部財産分与を認めた地裁判決紹介


○「財産分与対象財産としての建物評価について判断した家裁審判紹介」の続きで、配偶者の一方が相続した借地上に夫婦で建築した建物(一方配偶者名義)がある場合に、一方配偶者の特有財産である借地権についても、他方の配偶者の適切な管理によって借地権が維持されたとして、他方配偶者への財産分与を認めた平成15年4月11日東京地裁判決(ウエストロージャパン)関連部分を紹介します。

○原告妻は、本件各建物の建築(取得)、維持管理についての原告の貢献を考慮すれば、本件各建物のすべてが原告に分与されるべきであると主張しましたが、判決は、本件各建物の維持管理に係る原告の貢献については相応の考慮をすべきであるが、被告夫が本件各建物の敷地として本件各借地を提供してきたことにより、原告は、本件賃料を得ることができ、これにより本件借入金1ないし3の返済や本件各借地の地代の支払を行うことができたことなどを考慮すれば、原告が本件各建物の維持管理について上記のような貢献をしてきたことにより、その持分の各4分の1に相当する価額を分与財産の決定に当たり加算するのが相当であるとして、原告と被告とがその協力によって得たものと認められる本件各建物の分与に当たっては、本件各建物の維持管理に係る原告の貢献を考慮して、その価額の各4分の3に相当する財産を原告に分与するのが相当としました。

○本件建物の借地権は、被告夫の特有財産でしたが、判決は、本件各借地権が被告の特有財産であることをもって、その価額を財産分与に当たって全く考慮しないことは公平に反するというべきであり、本件各借地権の合計価額(ただし、本件各建物と共に分与対象財産に含まれる使用借権相当額を除く価額)の4分の1に相当する価額を、被告が原告に対して分与すべきものとするのが相当であるとしました。建物・借地権等が問題になる財産分与の考え方について参考になる判例です。

*********************************************

主  文
1 原告と被告とを離婚する。
2 被告は、原告に対し、金3500万円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 主文1項と同旨
2 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載1ないし3の各建物並びに別紙借地権目録記載1及び2の各借地権を財産分与せよ。
3 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載1ないし3の各建物について、財産分与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
4 被告は、原告に対し、金300万円を支払え。

第2 事案の概要
1 前提事実

 原告と被告とは、昭和47年5月30日に婚姻の届出をした夫婦であり、両者の間には、長男A(昭和50年4月1日生。以下「A」という。)がある(弁論の全趣旨)。

2 原告の主張(請求原因)


         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 事実経過



         (中略)

3 財産分与について
(1) 分与の対象、割合について
ア 資産状況等について
 原告及び被告の資産状況等について検討すると、前記1の認定事実に加え、証拠(後記のもののほか、甲67、乙12、14)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。
(ア) 被告名義の資産等
a 本件各建物
(a) 原告と被告とが、その婚姻中であり、かつ、同居期間中に新築した被告名義の不動産として、本件借地2の上に建築された本件アパート(甲5の2、甲18の1、甲19の1)、本件借地1の上に建築された本件自宅(甲5の1、甲18の2、甲19の2)、本件借地1の上に建築された本件マンション(甲5の3、甲18の2、甲19の3)がある。

(b) 平成12年度の固定資産税評価額は、本件自宅が283万4000円(甲7の1)、本件アパートが196万9600円(甲7の2)及び本件マンションが493万4000円(甲7の3)である。
 株式会社総武不動産鑑定が平成14年12月12日に作成した不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)における評価額は、本件自宅(その敷地利用権が使用借権である場合)の評価額が575万円、本件アパート(その敷地利用権が使用借権である場合)の評価額は554万円、本件マンション(その敷地利用権が使用借権である場合)の評価額が1510万円である(乙13)。

b 本件各借地権
(a) 被告名義の資産としては、被告が昭和48年にその父が死亡したことにより相続した本件各借地権がある(甲3、甲4の1及び2)。

(b) 本件鑑定書によれば、本件借地権1のうち本件自宅の敷地部分の評価額が1588万円、本件マンションの敷地部分の評価額が4003万円であり、これらの合計額は5591万円であり、本件借地権2の評価額が3230万円である(乙13)。

c 本件各建物の建築資金の借入金
 被告は、以下のとおり、本件各建物の建築資金を借り入れ、原告は、本件賃料から、以下の各借入金を完済している(甲19の1ないし19の3、甲20、甲21の1ないし21の3、甲22、甲36の1ないし3、甲37の1ないし3、甲50の1及び51の2、甲53の1及び53の2)。
(a) 株式会社bセンターから昭和56年4月に本件アパートの建築資金として1300万円

(b) 商工組合中央金庫から昭和58年8月から9月に本件マンションの建築資金、上記(a)の本件アパートの建築資金の借入金の借換え及びa建設の運転資金として3500万、1140万円及び480万円の合計5120万円(以下「本件借入金1」という。)

(c) 株式会社住宅金融公庫から本件自宅の建築資金として640万円(以下「本件借入金2」という。)

(d) 年金福祉事業団から昭和59年4月に300万及び220万の計520万円(以下「本件借入金3」という。)

(イ) 賃料収入等
 原告の平成12年度(平成12年1月1日から同年12月31日まで)の本件アパート及び本件駐車場の賃料収入の金額は合計546万1000円、本件借地2の地代その他の経費を控除した後の所得金額(所得税控除前)は396万4263円である(甲58の2)。
 原告の平成12年度の本件マンションの賃料収入の金額は771万3400円、本件借地1の地代その他の経費を控除した後の所得金額(所得税控除前)は526万6794円である(甲58の1)。

イ 財産分与の可否及び割合について
 裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、財産分与の可否、額及び方法を定めることができるので(民法768条3項)、前記1の認定事実及び前記アの認定事実(以下「前記認定事実」という。)を前提に財産分与の可否及び割合を検討する。
(ア) 本件各建物について
a 前記認定事実によれば、本件各建物は、いずれも原告と被告とがその婚姻中であり、かつ、同居期間中にその協力によって得た財産であるから、本件各建物の名義人である被告から原告に対して分与されるべき財産に当たり、分与すべき財産の価額は、一方がその形成、維持に特に貢献したなどの特段の事情のない限り、本件各建物の価額の2分の1と認めるのが相当である。

b この点について、原告は、本件各建物の建築(取得)、維持管理についての原告の貢献を考慮すれば、本件各建物のすべてが原告に分与されるべきであると主張するので、以下検討する。
(a) 原告は、本件各建物の建築(取得)に当たり、原告が積極的に本件各建物の建築を提案し、本件各建物の建築資金の借入れについての交渉や本件各借地の賃貸人の承諾を得るなどの準備をすべて行ったと主張し、これに沿う原告の陳述書(甲67)を提出する。しかしながら、本件各建物は、いずれも原告と被告との同居期間中に建築されたものであり、かつ、被告が本件各建物の敷地としてその特有財産である本件各借地を提供し、本件各建物を担保として被告名義で建築資金の借入れをしたからこそ、本件各建物の建築は可能となったことは明らかである。

そして、原告がその本人尋問期日に出頭せず、原告代理人が原告本人尋問を経ることなく弁論を終結することを求める文書を当裁判所に提出したことは当裁判所に顕著であることからすれば、上記陳述書(甲67)のみによって、原告が本件各建物の建築(取得)に当たり、財産分与において考慮すべきような貢献をしたと認めるには足りないものというほかはない。

(b) 原告は、本件各建物の維持管理についての原告の貢献が多大であると主張する。
 前記認定事実によれば、原告は、本件アパートについては、これが新築された昭和56年6月ころから現在まで20年以上、本件マンションについては、これが新築された昭和59年3月ころから現在まで17年以上、これらを賃貸住宅として管理し、賃借人の募集、賃借人との対応、賃料の受領や催促等を行ってきたものであり、このように原告が管理をしてきたからこそ、本件アパート及び本件マンションから安定した賃料収入が得られたものということができ、また、原告は、本件賃料により、本件各建物の建築資金として借り入れた本件借入金1ないし3を完済したほか、本件各建物の敷地である本件各借地の地代を支払い、かつ、本件各建物を適切に修繕するなどして維持管理に努めてきたものといえる。これらの原告の努力により、現在においても本件各建物が資産として維持されているものということができ、これに対し、被告は、本件各建物の管理をすべて原告に任せきりにしてきたものということができる。

 もっとも、被告が本件各建物の敷地として、その特有財産である本件各借地を無償で提供しているからこそ、原告と被告とは、本件各建物を建築(取得)することができ、本件アパート、本件マンション及び本件駐車場を賃貸し、本件賃料を得ることができたのである。そして、原告の生活費等も本件賃料により賄われているのであるから、原告の主張するように被告が原告に対して原告の生活費等を支払う代わりに本件各借地を転貸したのと同様の関係にあるとの原告の主張は採用できないし、また、本件借入金1ないし3の返済や本件各借地の地代の支払についても、本件賃料により、これが行われたのであって、原告固有の資産等により行われたものではないから、本件借入金1ないし3の返済や本件各借地の地代の支払について原告の貢献を過大に評価することは相当ではない。

 以上の事情を総合すれば、本件各建物の分与の割合を決定するに当たって、本件各建物の維持管理に係る原告の貢献については相応の考慮をすべきであるが、被告が本件各建物の敷地として本件各借地を提供してきたことにより、原告は、本件賃料を得ることができ、これにより本件借入金1ないし3の返済や本件各借地の地代の支払を行うことができたことなどを考慮すれば、原告が本件各建物の維持管理について上記のような貢献をしてきたことにより、その持分の各4分の1に相当する価額を分与財産の決定に当たり加算するのが相当である。

c したがって、原告と被告とがその協力によって得たものと認められる本件各建物の分与に当たっては、本件各建物の維持管理に係る原告の貢献を考慮して、その価額の各4分の3に相当する財産を原告に分与するのが相当である。


(イ) 本件各借地権について
a 前記認定事実によれば、本件各借地権は、被告がその父から相続した被告の特有財産であるから、原則として、分与の対象となるものではない。
 原告は、被告が本件各借地権を放棄したに等しい状況にあった上、被告が原告に対して原告の生活費等を負担する代わりに本件各借地権を転貸したと考えられることからすれば、原告が本件各借地の転借権を時効取得し得るのと同様の利益状況が存在する旨主張するが、前記認定事実によれば、被告が本件各借地権を放棄したといえないことは明らかであるし、また、原告は、原告と被告とがその協力によって得たものと認められる本件アパート及び本件マンション並びに被告の特有財産である本件借地2の空地部分の本件駐車場から得られた本件賃料により、原告の生活費等を賄っており、被告が原告の生活費等を負担していなかったともいえないから、被告が原告に対して本件各借地を転貸したと考えられる旨の原告の主張は、その前提を欠き失当である。

b もっとも、前記認定事実によれば、被告の同意の下に、本件各借地上に、原告と被告とがその協力によって得たものと認められる本件各建物が建築されたことからすれば、本件各建物が何の敷地利用権を伴わない存立の基礎を欠くものとみるのは相当ではないから、本件各借地権の価額のうち使用借権に相当する価額は、本件各建物と共に、上記(ア)cの割合により原告に分与すべきである。

c また、原告は、本件賃料により本件各借地の地代等を滞ることなく支払ってきたものであるが、既に説示したとおり、本件賃料を安定して得ることができたのは、原告の前記のような貢献によるものであることは否定できない。仮に、原告が本件アパート、本件マンション等の管理を適切に行わず、ましてやこれを放棄したならば、本件各借地の各地代の支払が滞り、本件各借地権がいずれも消滅するような事態も想定し得ないわけではないのであり、原告が本件アパート、本件マンションを適切に管理し、本件各借地の地代の支払をしてきたからこそ、本件各借地権が維持されているという側面は否定できないのである。他方で、被告は、本件自宅を出た昭和63年以降、本件各借地権の維持に資する行為を一切せず、本件各借地の地代の支払等を原告に任せてきたものといえる。

 以上の事情を総合すれば、本件各借地権が被告の特有財産であることをもって、その価額を財産分与に当たって全く考慮しないことは公平に反するというべきであり、本件各借地権の合計価額(ただし、本件各建物と共に分与対象財産に含まれる使用借権相当額を除く価額)の4分の1に相当する価額を、被告が原告に対して分与すべきものとするのが相当である。

         (後略)