小松法律事務所

妻名義預金に半分について共有財産と認めた家裁判決紹介


○離婚事件の財産分与について購入代金一部が父からの贈与金であった場合の共有不動産・特有不動産の認定割合等が問題になっている事案を扱い、参考判例を探しています。父親所有不動産に居住し、その賃料相当額を積み立てした預金について、共有財産・特有財産のいずれかが争いになり、半分を共有財産と認めた令和2年3月30日東京家裁判決(ウエストロー・ジャパン)財産分与関連部分を紹介します。

○離婚にあたり、被告夫が原告妻に対し、財産分与として約300万円の支払を求めましたが、判決は請求の1割相当額の300万円しか認めませんでした。夫が妻に財産分与を求めるのは珍しい事案です。3000万円もの財産分与請求根拠は、判決文では不明です。

○原告妻の父所有不動産に居住し、その賃料相当額を積立した預金について、被告夫は自分の給与を積立金に充てたのだから全額共有財産として財産分与対象になると主張し、原告妻は賃料積立金は父親からの自分への贈与金であり全額特有財産と主張しました。この預金について、判決は、夫婦共有財産たる側面と,原告の父の援助を受けた原告の特有財産たる側面を併せ持つというべきところ,以上認定の諸事情を勘案すると,上記預金のうち,5割は財産分与の対象となる夫婦共有財産であり,5割はその対象とならない原告の特有財産と認めるのが相当であるとしました。

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主   文
1 原告と被告とを離婚する。
2 原告と被告との間の長女A(平成18年○月○日生)及び長男B(平成19年○月○日生)の親権者をいずれも原告と定める。
3 被告は,原告に対し,前項の子らの養育費として,本判決確定の日の翌日から同人らがそれぞれ満20歳に達する日の属する月の末日まで,毎月末日限り,子一人につき1か月7万円の割合による金員を支払え。
4 原告は,被告に対し,300万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告と被告との間の別紙1年金分割のための情報通知書記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合を0.5と定める。
6 被告のその余の反訴請求を棄却する。
7 訴訟費用は,本訴反訴を通じてこれを3分し,その1を原告の負担とし,その2を被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求等

1 本訴
(1) 主文第1,2,5項と同じ
(2) 被告は,原告に対し,本判決確定の日から,長女及び長男がそれぞれ満20歳に達する日の属する月まで,毎月末日限り,1か月当たり14万円を支払え。

2 反訴
(1) 主文第1項と同じ
(2) 原告は,被告に対し,500万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 原告は,被告に対し,財産分与として,3036万6548円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,妻である原告が夫である被告に対し,被告の性行為の強要,暴言,暴行等により婚姻関係が破綻したとして,子らの親権者を原告と指定した上での民法770条1項5号に基づく離婚を求める本訴を提起するとともに,養育費の支払及び年金分割を求める附帯処分を申し立てたのに対し,被告が原告に対し,原告の性行為の拒否,被告の自尊心を傷つける言動により婚姻関係が破綻したとして,民法770条1項5号に基づく離婚並びに慰謝料500万円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める反訴を提起するとともに,財産分与として3036万6548円及びこれに対する本判決確定の日から支払済みまで前同様の遅延損害金の支払を求める附帯処分を申し立てた事案である。

         (中略)

(3) 争点③(財産分与及び年金分割)について
(被告の主張)
ア 別紙2「婚姻関係財産一覧表」(以下「本件一覧表」という。)の「被告主張額」及び「被告主張特記」欄記載のとおりである。
 財産分与の基準時は別居時とすべきであり,財産分与の割合は,原告が任意の財産開示に応じず,調査嘱託にも非協力的であり,未開示の財産の存在が推測されることなどから,原告4割,被告6割とするのが相当である。

イ 年金分割についての請求すべき按分割合は争う。

(原告の主張)
ア 別居時である平成28年10月5日時点の分与対象財産は,本件一覧表の「原告主張額」及び「原告主張特記」欄記載のとおりであるが(詳細については,「第3 当裁判所の判断」の中で説示する。),別居以降,原告が受け取っている月額10万円の婚姻費用は,従来の生活を維持するには不十分なものであり,原告は別居時の資産を取り崩して生活せざるを得ない状況にあることなどからすると,財産分与の基準時を別居時とすることは公平ではないから,離婚成立時を基準時とすべきである。

イ 年金分割についての請求すべき按分割合は,0.5が相当である。

第3 当裁判所の判断
1 認定事実


         (中略)

(3) 争点③(財産分与及び年金分割)について
ア 財産分与について
(ア) 財産分与は,夫婦が婚姻生活中に形成した財産を対象としてこれを清算するものであり,対象財産の基準時は,原則として,別居等によって経済的な共同関係が消滅した時点とすべきであるところ,以上認定の諸事情に照らすと,本件における対象財産の基準時は,被告が別居をした平成28年10月5日とするのが相当であると認められ,原告指摘の別居時の資産の取崩しについては,これをどのように取り扱うか別途考慮すれば足りるというべきである。

(イ) 平成28年10月5日その時点における分与対象財産の存否及びその評価額については,以下のとおり補足するほかは,本件一覧表の裁判所認定額欄及び認定根拠欄記載のとおりである(以下,財産一覧表記載の資産・負債については,その名義と財産一覧表記載の番号によって「原告1-1」のようにいう。)。

(ウ) 原告1-1,1-2の預金について
 原告は,原告1-1,1-2の預金について,原告の父の所有する不動産に居住する対価として同人に毎月7万円を支払うべきところ,同人の指示により,同人が通帳や銀行印を管理する上記預金に原告が入金していたものであるから,原告の父の財産であると主張するところ,確かに,原告の父は,原告及び被告と同居するため,1000万円程度の費用をかけて自宅のリフォームをしているのであるから(甲5,被告本人[21頁]),原告及び被告に一定程度の負担を求めても不合理ではなく,また,原告及び被告が婚姻した直後の平成16年11月に新規開設された原告1-2の預金には同月から平成26年10月まで,平成17年10月に新規開設されながら平成26年10月までに残高が11円となっていた原告1-1の預金には同年12月から平成28年8月まで,ほぼ毎月7万円ずつが入金されている(乙3・No.1,2)。

しかし,原告の父が真に原告及び被告から原告の父の所有する不動産に居住する対価の支払を受けるつもりであったのであれば,わざわざ原告名義の預金を新規開設させてそこに対価を入金させるのではなく,現金ないし原告の父の預金への振込等によってその支払を受けたのではないかと考えられ,さらに,上記預金の通帳の表紙に,それぞれ,手書きで「(家賃口)」と記載されているほか,原告1-1の預金の通帳の表紙には「(B)」と,原告1-2の預金の通帳の表紙には「(A)」と,原告及び被告の子らの名が記載されていること(乙3・No.1,2)や,上記の毎月7万円の入金が原告1-2の預金から原告1-1の預金に切り替わった理由の説明がないことに照らし,原告の父は,本来は,原告及び被告から原告の父の所有するリフォーム済みの不動産に居住する対価の支払を受けてもおかしくないところを,原告に対し,原告が被告と築く家庭の将来の糧とするため,対価相当額を原告名義の預金に貯蓄しておくことを求め,原告は,原告の父の求めに応じて原告1-2の預金を新規開設し,ここに被告の収入を原資として毎月7万円を入金し,長女の出生後は,長女のための貯蓄を意識して同様の入金を続け,原告1-2の預金の残高が600万円を超えた平成26年12月以降は(乙3・No.2),長男のための貯蓄を意識して原告1-1の預金に同様の入金をしたのではないかと推察される。

 いずれにしても,上記預金が原告名義のものであり,上記預金に対する入金の原資が被告の収入であるとすると,仮に,上記預金の通帳や銀行印を原告の父が管理していたとしても,それだけでは,上記預金の預金者を原告の父とみることはできず,これが同人の財産であるとする原告の主張をそのまま採用することはできない。

 もっとも,上記の推察を前提とすると,上記預金は,直接的には被告の収入によって形成されたものであるものの,間接的には原告の父が原告及び被告から原告の父の不動産に居住する対価の支払を受けずに済ませたことによって形成されたとみることもでき,後者は,原告の父の原告に対する援助と評価するのが相当である。

 そうすると,上記預金は,夫婦共有財産たる側面と,原告の父の援助を受けた原告の特有財産たる側面を併せ持つというべきところ,以上認定の諸事情を勘案すると,上記預金のうち,5割は財産分与の対象となる夫婦共有財産であり,5割はその対象とならない原告の特有財産と認めるのが相当である。

(エ) 原告1-4の預金について
 原告1-4の三菱UFJ信託銀行の定期預金口座には,基準時において876万9460円の残高が認められるところ(調査嘱託の結果),そのうち260万8181円は,原告が婚姻時に既に同口座に有していた合計260万8181円の定期預金に由来するものである(甲55,乙3・No4)。

 また,原告は,婚姻から約1年2か月後である平成17年9月30日に464万円のワリコーを有していたことが認められ(弁論の全趣旨),これについては,婚姻から約1年2か月の間に,そのような多額の資産を形成したとは想定し難いことなどからすると,原告が婚姻前に既に購入していたもの又は原告の両親がその原資を支出したものであることが推定される。

そして,原告は,平成19年3月6日,当該ワリコーを解約して463万3653円を取得し(甲14),同月14日,そのうち400万円を原告1-5の三菱UFJ信託銀行の普通預金口座に入金し,同月29日に,原告1-5の口座から600万円を引き出し,同日原告1-4の口座に600万円の定期預金を作成したのであるから(甲55),ワリコーを解約して取得した金銭の一部である400万円が,原告1-4の口座の600万円の定期預金の原資となっているといえ,原告1-4の定期預金のうち,400万円は原告の特有財産であると認められるが,それ以外の200万円が原告又は被告の特有財産であることの裏付けはない(なお,被告は,原告1-9に婚姻後入金された300万円は被告の特有財産であり,そのうち200万円が原告1-4の定期預金の原資となっていると主張するが,そのことを認めるに足りる証拠もない。)。

 したがって,原告1-4の口座のうち,上記の260万8181円及び400万円の合計である660万8181円は原告の特有財産であるから,基準時の残高である876万9460円から,これを控除した残額である216万1279円が財産分与の対象財産であると認められる。

(オ) 原告が基準時後に被告名義の預金口座から取得した金銭について
 原告は,基準時以降通帳を被告に返却するまでに管理していた被告名義の預金から,9万5807円(被告1-7),180万0427円(被告1-9),27万9573円(被告1-11),13万6255円(被告1-12)の合計231万2062円を取得している(乙3No8,10,12,13,弁論の全趣旨)ことについて,これを子らの学費等として費消したなどと主張する。

 被告は,年間約848万円の給与所得があり(乙5の10),長女の私立中学校への進学希望について特段の反対をしていなかったのに(被告本人[18頁],月額10万円という,標準より低額な婚姻費用を支払うのみであったから(上記1(10)),原告が上記の各金銭を取得したのは,被告からの婚姻費用の支払が子らの学費等を賄うには不十分であることからやむを得ずしたものであり,その取得金額は必要最低限のものというべきであるから,原告が基準時以降に被告名義の預金から取得したこれらの金銭を,原告名義の資産として財産分与の対象とすることは相当ではない。

(カ) 分与額について
 原告名義の資産の合計は約2186万円,被告名義の資産の合計は約1587万円と認められるところ,夫婦の共有財産形成に対する原告と被告の寄与の割合を等しいものとみて(なお,被告は,分与割合を被告6割,原告4割とすべきと主張するところ,夫婦の財産形成に関する寄与度については,特段の事情のない限り双方の寄与度は等しいものと考えられ,本件において,夫婦の財産形成に関する寄与度を5対5としない特段の事情があるとは認められない。),原告名義の資産と被告名義の資産の合計額約3773万円の5割に当たる約1886万円から,基準時の被告名義の資産約1587万円を控除すると約299万円となるところ,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,原告から被告に対し,財産分与として,300万円の支払を命ずるのが相当と認められる(なお,財産分与に対する遅延損害金の起算日は,判決確定日の翌日からとするのが相当である。)。

イ 年金分割について
 年金分割についての請求すべき按分割合は,特段の事情がない限り,0.5と定めることが相当であるところ,本件において,上記特段の事情を認めるに足りる証拠は存在しない。

3 結論
 よって,主文のとおり判決する。
 東京家庭裁判所家事第6部  (裁判長裁判官 石橋俊一 裁判官 堂英洋 裁判官 山田将之)
 〈以下省略〉