小松法律事務所

扶養的財産分与はあくまで補充的なもの2


○現在、扶養的財産分与義務の有無が争いになっている事案があり、「扶養的財産分与はあくまで補充的なもの」の続きです。「扶養的財産分与はあくまで補充的なもの」では、「離婚後扶養は、夫婦財産の清算と慰謝料を認めてもなお配偶者の一方の生活が困窮する場合に,他方の財産状態の許す限りで認められるに過ぎない補充的なものです。これを離婚後扶養の補充性と言います。」と説明していました。

○この説明を裏付ける裁判例を探すと、古い判例では、昭和46年1月21日東京家裁審判(判タ271号380頁)は、「財産分与請求権の性格については、種々の見解が対立しているが、当裁判所は、財産分与請求権は、離婚に際して夫婦財産の清算を請求する権利(清算的財産分与請求権)を中核とし、これに離婚後の扶養を請求する権利(扶養的財産分与請求権)および離婚そのものによる慰謝料請求権とが複合する包括的な離婚給付請求権であると解するのが相当であると思料する。」としています。この判例では、財産分与請求権は、離婚に際して夫婦財産の清算を請求する権利を中核とするとしている点が重要です。

○この見解を前提として、「かかる見解によつて、本件をみるに、申立人は、前記認定事実によれば、既に一定の職業を有し、相当の収入を挙げているのであるから、離婚後の扶養を考える必要はなく、また、前記認定事実によれば、本件離婚は、直接には申立人の不貞行為によつて招来され、申立人が主要な責任を負うべきであるというべきであるから、申立人が離婚そのものによる慰謝料を請求することができないことは明らかであり、したがつて本件の財産分与においては、もつぱら夫婦財産関係の清算のみを考慮すれば足りるというべきである。」としています。

○平成18年5月31日名古屋高裁決定(家庭裁判月報59巻2号134頁)は、「夫婦が離婚に至った場合,離婚後においては各自の経済力に応じて生活するのが原則であり,離婚した配偶者は,他方に対し,離婚後も婚姻中と同程度の生活を保証する義務を負うものではない。しかし,婚姻における生活共同関係が解消されるにあたって,将来の生活に不安があり,困窮するおそれのある配偶者に対し,その社会経済的な自立等に配慮して,資力を有する他方配偶者は,生計の維持のための一定の援助ないし扶養をすべきであり,その具体的な内容及び程度は,当事者の資力,健康状態,就職の可能性等の事情を考慮して定めることになる。」としています。

○この判例では、「離婚後においては各自の経済力に応じて生活するのが原則であり,離婚した配偶者は,他方に対し,離婚後も婚姻中と同程度の生活を保証する義務を負うものではない」と一般論を述べている点が重要です。

○但し「婚姻における生活共同関係が解消されるにあたって,将来の生活に不安があり,困窮するおそれのある配偶者に対し,その社会経済的な自立等に配慮して,資力を有する他方配偶者は,生計の維持のための一定の援助ないし扶養をすべき」と補充的に扶養的財産分与の必要性を認めています。

○扶養的財産分与義務者とされる配偶者については「資力を有する他方配偶者」とされている点も重要です。また、「その具体的な内容及び程度は,当事者の資力,健康状態,就職の可能性等の事情を考慮して定める」とされており、扶養的財産義務者とされる配偶者の「資力」の外に「健康状態,就職の可能性等の事情」等収入状態も考慮されることになります。