小松法律事務所

離婚訴訟に併合提起した損害賠償請求の訴えを適法とした地裁判決紹介


○「離婚訴訟に併合提起した損害賠償請求の訴えを適法とした最高裁判決紹介」の続きで、その一審判決である昭和30年2月22日福岡地裁判決(家庭裁判月報10巻1号21頁)の事実部分を紹介します。

○「離婚訴訟に併合提起した損害賠償請求の訴えを適法とした最高裁判決紹介」の事案を確認するための紹介で、事案概要は以下の通りです。
・s22.3.19原告X女と被告Y1結婚、Y1実父被告Y2方に同居
・被告Y2は、Xに対し、ひどいセクハラ行為を繰り返し、それを夫Y1に訴えるもY1は何らの対処をしなかった
・Xは、徐々にY1に愛想をつかし、愛情を失い、s27.7.18家出して別居し、離婚調停申立するも不調に終わる
・Xは、Y1に離婚と、Y1とY2に慰謝料として連帯して16万5000円を請求、
・合わせてY1に財産分与16万円、Y2にY1が有する不当利得返還請求権を代位行使して訴訟提起
・Y1らは、Xの主張を争い、Y1はXに対し慰謝料10万円の支払を求める反訴を提起


○原告Xの夫Y1に対する離婚・慰謝料・財産分与請求の訴えと、原告Xの義父Y2に対する慰謝料請求の訴えが併合して審理され、結論としてY1・Y2に対し連帯して慰謝料金10万円の支払が認められ、訴訟費用も5分割し、4をYらの負担とされていますので、大旨、Xの主張が認められたようです。昭和30年頃の10万円は、物価指数では、平成28年頃の60万円程度であり、Xの主張を前提とするとY2に対する慰謝料金額としては安すぎるような気もします。

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主   文
原告(反訴被告、以下単に原告という)と被告Y1(反訴原告、以下単に被告という)とを離婚する。
被告等は連帯して原告に対し金10万円を支払え。
原告のその余の請求及び被告Y1の反訴請求を棄却する。
訴訟費用は本訴反訴を通じこれを5分しその1を原告の負担としその余を被告等の連帯負担とする。

事   実
 原告訴訟代理人は、本訴請求の趣旨として、「主文第一項同旨及び被告等は連帯して原告に対し金32万5000円を支払え。訴訟費用は被告等の連帯負担とする。」との判決を反訴について、「被告の請求を棄却する。反訴訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、本訴請求の原因として、「原告は、昭和22年3月19日訴外A政助の媒酌により被告Y1と婚姻し、爾来被告Y1の実父である被告Y2夫婦の許に同居し、家業の農業に従事していた。

 ところが、生来酒癖が悪く且つ多情である被告Y2が、昭和25年末頃不意をついて原告に接吻してからというものは、毎夜の晩酌後に機会を見ては「Y1ではつまらないから俺が子供をつくつてやる」とか、或は乳房を探らんとし、或は陰部へ向けて手を差しのべる等の色情的言動を繰返し、原告としては、その実力行動に出でられるを極力警戒してはいたものの、何分原告を侍らせての晩酌中に不意に且つ強引に襲いかかられては手に負えず、結局接吻されたこと数回に及び、又昭和26年8月の或る夜被告Y1不在なるを奇貨として晩酌中に不意に襲いかかられて正にその自由を奪わられようとしたが、原告の必死の抵抗でようやくことなきを得、更に又昭和27年6月29日夜も家人不在中晩酌途中で強引に原告を抱き寄せその股間に足を差入れ身体を浮ばせて陰部に手を当てる等、被告Y2の言動たるや真に目に余る有様であつた。

 そこで、原告は、当初はもとよりその後も執ようなほどただ唯一の相手である被告Y1にるるとその苦悩を訴えたのであるが、元来が意思薄弱で積極性に乏しい同被告のこととて、これに何等の処置を取り得ないのみかその反応すら示さない仕末で、しかも、親と名のつく被告Y2の言動故他に訴えるのも恥かしく、全く日々を苦悶の裡に過すうち、遂には被告Y1に愛想をつかし漸次同被告に対する愛情すら失うに至り、これが苦悩を脱するため秘かに離婚を決意し、昭和27年7月18日家を出てその実姉の許である訴外B方に身を寄せた。

 そして、原告は、昭和27年8月20日福岡家庭裁判所に離婚の調停申立をしたが、被告Y1が離婚は己むを得ないといいながらも被告Y2を憚かつてこれを承諾しないため、結局同年12月15日不調に終つた。かくて、原告は、現在被告Y1と婚姻を継続する意思は毛頭なく、被告Y1においても同様で既に他の女性を娶つて同棲しているほどであるから、以上の事実は正に被告Y1との婚姻を継続し難い重大な事由に該当し、ここに被告Y1との離婚を求める。


 又、前述のような被告等の所行により5年有余の間全く苦悶の裡に日を過し、挙句の果には離婚の破局に陥つた原告としては、その受けた精神上の苦痛は真に甚大であつて、被告Y2が田2反歩、畑5反余及び家屋敷を所有し、米麦等の外花の裁培をし、且つパチンコ遊戯場を経営し、以上の収入相当な高額に上り、被告Y1は無資産なるも右の農耕に専ら従事しているものである事情に照し、右の慰藉料は金16万5000円が相当であるから、共同不法行為者である被告等に対しこれが連帯支払を求める。

 更に又、原告は、被告Y1と共に5年4箇月の間専ら右農耕に努力してきたものであるから、被告Y1に対し離婚に伴う財産の分与として金16万円の支払を求める。

 なお、被告Y1は被告Y2と同居して前叙のように専ら被告Y2の農耕に従事し、それによる収益は全部被告Y2が収得しているのであるから、被告Y2は、法律上の原因なくして被告Y1の労務によつて不当に利得し被告Y1に損害を及ぼしているわけであり、その額は少くとも金16万円は存在するので、被告Y1は被告Y2に対しこれが返還請求権を有するものである。

 ところが、被告Y1は該権利を行使しないし、且つ同被告が全然無資産であることは前叙のとおりであるから、原告は、被告Y1に対する右財産分与としての金16万円の債権者として、該債権保全のため被告Y1に代位して、被告Y2に対し金16万円の返還を求める。
 以上のため本訴請求に及んだ。」と陳述し、

 被告の反訴請求に対する答弁として、「被告主張の事実中、原、被告がその主張の日婚姻し、爾来同居していたこと、原告が被告主張の日家出したことは認めるけれども、その余を否認する。原告が家出するに至つた事情は、原告が本訴において主張した事情に基くものであつて、被告主張の事情では全然ない。」と述べた。

 (省略)

 被告等訴訟代理人は、本訴について、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を、被告Y1の反訴請求の趣旨として、「被告Y1と原告とを離婚する。原告は被告Y1に対し金10万円を支払え。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本訴請求に対する答弁として、「原告主張の事実中、被告Y1が原告と原告主張の日訴外Aの媒酌により婚姻し、爾来被告Y1の実父Y2の許に同居していたこと、原告が原告主張の日家出し訴外B造方に身を寄せたこと、原告主張の調停事件が不調に終つたこと、被告Y2が原告主張の田畑(但し畑は3反歩余)、家屋敷を所有し、パチンコ遊戯場を経営していること、及び被告Y1が無資産でその家業の農業に従事していることは認めるけれども、その余を争う。

 従つて、原告から、被告Y1に対して離婚を求める理由はないばかりでなく,かえつて、被告Y1が反訴請求において述べるように同被告から、原告に対して離婚を請求する理由があるから、原告の本訴請求は理由がない。」と陳述し、

 被告の反訴請求の原因として、「被告Y1は、昭和22年3月19日原告と婚姻し、爾来被告Y2等と同居し家業の農業に従事してきた。ところが、原告は、当初からとかく農業に従事することを嫌つて家婦としての努めを怠り最近に至つて訴外C夫婦の誘惑により安易な生活への方法として被告Y1に対し被告Y2から財産の分与を受けて夫婦のみで他の仕事に転換すべきことを奨め、親孝行者である被告Y1においてこれに応じなかつたところから、遂に意を決し昭和27年7月18日無断家出し、C方に身に寄せるに至つた。そこで、被告Y1は、同Y2等と共に原告に情を尽してその不心得を悟し帰宅を促したのであるが、原告において強情にこれに応ぜず、果てはその居所を転輾として行衛をくらまし、遂に施す術もなくなつて現在に至つている。

 かような次第で、原告は被告Y1の妻としての努めを果さないのであるから、被告Y1には原告との婚姻を継続し難い重大な事由があるわけである。よつてここに原告との離婚を求める。

 又、被告Y1は、右の原告の不法行為により離婚の己むなきに至り、そのために原告との婚姻に関し要した諸費用及び原告に与えた衣類代合計金5万円の損害を蒙つたからこれが賠償と被告Y1が蒙つた精神上の苦痛に対し慰藉料として金5万円の支払を求める。」と陳述した。

 (省略)

理   由

(省略)

(裁判官 中池利男)