小松法律事務所

内縁関係破綻慰謝料として100万円を認めた地裁判決紹介


○原告女性が、原告と被告男性との間に内縁関係が成立していたところ、被告の原告に対する暴力やモラルハラスメント行為により内縁関係が破綻したと主張して、慰謝料500万円の支払を請求をしました。

○これに対し、被告男性は、本件同居生活は、単に恋愛関係にある男女が同じ場所で生活した同棲生活で内縁関係はなく、生活費を折半にするなど原告と被告は経済的にも独立した関係で、被告の家族に原告を紹介したことはなく、同居期間も約1年だが、親子3人での実質同居期間は2,3週間程度で、原告と被告との本件同居生活は法的に保護を受け得る関係にはなかったとして争いました。

○これに対し、内縁関係の成立を認めるも、原告と被告の内縁関係が破綻した原因は原告と被告の双方にあるとして、被告に対し慰謝料100万円の支払を命じた令和5年12月7日東京地裁判決(LEX/DB)関連部分を紹介します。

○内縁とは、婚姻意思をもって夫婦の共同生活を送っているが、法の定める婚姻の届出を欠くために法律上は婚姻と認められない事実上の夫婦関係をいうとされていますが、子供をもうけて1年同居を継続すれば、その成立を認めるのは当然と思います。

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主   文
1 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する令和4年12月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する令和4年12月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等
1 事案の概要

 本件は,原告が、原告と被告との内縁関係は、被告の原告に対する暴力やモラルハラスメント行為により破綻したと主張して、不法行為に基づき、慰謝料500万円及びこれに対する令和4年12月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2 前提事実(争いのない事実及び証拠(枝番号があるものは枝番号を含む。以下同じ。)によって容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は昭和53年○月○○日生まれの女性であり、被告は平成53年○月○○日生まれの男性である。両者の間には令和2年○○月○○日生まれの子(以下「長男」という。)がある。(甲1)

イ 原告と被告は、雑誌の編集者とライターとして知り合い、平成26年頃から交際を開始し、平成28年の原告の妊娠とその後の中絶等を巡って関係が悪化し、その頃、原告と被告の交際関係は終了した。
 その後、原告と被告は、平成30年ないし令和元年頃から交際を再開した。

(2)原告と被告との同居生活
ア 原告と被告は、令和2年2月14日から、東京都世田谷区αの集合住宅(以下「a」という。)で同居生活(以下「本件同居生活」という。)を開始した。本件同居生活当時、原告は雑誌の編集者、被告はインテリアスタイリストとして稼働していた。
イ 原告は、令和3年5月上旬頃、長男を連れてaを出て、被告との本件同居生活を解消した。

3 争点及び争点についての当事者らの主張
(1)権利又は法律上保護される利益の有無(争点〔1〕)
(原告の主張)
 原告は、令和元年秋頃、被告から、一緒に住もう、子どもが生まれたら一緒に育てていこうなどと言われ、令和2年2月14日頃から、本件同居生活を開始し、内縁の夫婦となった。被告は、自らを未届けの夫(甲5号証の「見届け」は「未届け」の誤記である。)と述べ、「家族で散歩してくれますか」「事実婚も解消、離縁です」とのメッセージを送るなどしており、被告が内縁の夫婦として同居生活をしているとの認識を抱いていたことは明らかである。また、被告が原告の両親に挨拶を行い、被告の母や親族にも原告との結婚を報告しており、原告と被告との本件同居生活は法的に保護を受け得る内縁関係にあった。

(被告の主張)
 被告は、原告に対して一緒に住もうと提案して、本件同居生活を開始したが、この段階では将来結婚するか、子どもをどうするかなどの話は現実味のある話として全くされておらず、本件同居生活は、単に恋愛関係にある男女が同じ場所で生活するという、いわゆる同棲生活を始めただけであり、令和2年2月14日頃に内縁関係が成立したとはいえない。その後も内縁関係を成立させる合意は成立してないし、生活費を折半にするなど原告と被告は経済的にも独立した関係にあった。さらに、被告の家族に原告を紹介したことはなく、同居期間も約1年であり、出産後に原告が入退院を繰り返したり、実家に帰ったりしていた時期もあったことから、長男が誕生し3人で生活した期間に限れば、二、三週間程度であった。したがって、原告と被告との本件同居生活は法的に保護を受け得る関係にはなかった。

     (中略)

第3 当裁判所の判断
1 認定事実


     (中略)

2 争点〔1〕(権利又は法律上保護される利益の有無)について
(1)一般に、内縁とは、婚姻意思をもって夫婦の共同生活を送っているが、法の定める婚姻の届出を欠くために法律上は婚姻と認められない事実上の夫婦関係をいう。これを本件についてみると、原告と被告は、令和元年頃には性交渉を伴う交際関係にあり、令和2年2月14日から本件同居生活を開始している(認定事実(2)ア、イ)。

本件同居生活が開始された当時、原告と被告はいずれも41歳の男女であり(前提事実(1)ア)、本件同居生活開始直後(5日後)に長男の妊娠が判明したことから、被告は原告と一緒に原告の両親を訪ねて挨拶をし、近隣に住む原告の親族にも挨拶をした(認定事実(2)ウ)。

また、被告は、同月27日、原告との続柄について「夫(未届)」と記載したに転入届出を提出し(認定事実(2)イ)、その後も、自らが「未届けの夫」である旨のメッセージや「家族で散歩してくれますか」「事実婚も解消、離縁です」とのメッセージを送る(甲5)などしているのであって、これらの事実に照らせば、原告と被告は婚姻意思をもって夫婦の共同生活を送っていたものと認めるのが相当である。


 これに対し、被告は、生活費を折半するなど原告と被告は経済的にも独立した関係にあったなどと主張するが、生活費の分担の在り方は夫婦によってさまざまであるから、そのような事情により、内縁関係の存在が否定されるものではない。また、本件同居生活が短期間であることについても、当初から短期間の同居が予定されていたなどといった事情はうかがえず、上記判断は左右されない。

(2)以上によれば、原告と被告との間には内縁関係が成立していたと認められる。

3 争点〔2〕(被告の暴力及びモラルハラスメント行為の有無)について


     (中略)

4 争点〔3〕(損害)について
(1)上記3(1)記載のとおり、被告の原告に対する違法行為(暴力やモラルハラスメント行為)が認められ、原告は全治約2週間の頭部挫傷の傷害を負ったり、パニック障害を再発したりしている。また、原告は、被告の違法なモラルハラスメント行為により侮辱され、人格や価値観、行為を不当に否定されるなどしているのであって、被告の違法行為により原告が大きな精神的苦痛を被ったことは明らかである。

 他方で、原告と被告は本件同居生活開始直後から口論が絶えず、原告も被告を責めるようなメールを多数送ったり、被告に対して執拗に文句を言ってその場から開放しないこともあり、被告の暴力や暴言が原告の言動に起因している部分があることも否定できない。

また、本来であれば、原告と被告は、話合いを通じて育児や家事などに対する考え方や価値観をすり合わせ、口論の原因を取り除いて関係の改善を図るべきところ、育児や仕事が多忙なこともあり、十分な話合いができず、関係を改善できないまま別居するに至っている。

そうすると、原告と被告の内縁関係が破綻した原因は原告と被告の双方にあるというべきであり、その原因が被告の違法行為(暴力やモラルハラスメント行為)のみにあるとの原告の主張は理由がない。

(2)その他、本件にあらわれた諸事情を総合すると、被告の違法行為による原告の精神的苦痛を慰謝する慰謝料は100万円をもって相当と認める。


5 以上のとおりであるから、原告の請求は、被告に対し、慰謝料100万円の支払を求める限度で理由がある。

第4 結論
 よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第23部 裁判官 新城博士