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(従前ホームページから)

メール等送信で離婚原因を作ったとして慰謝料請求し棄却された判例紹介

○「職場上司の妻への性行為強要を理由とする損害賠償請求棄却判例紹介」と同じ日の判例ですが、東京地裁には様々な事案の判例があるものだと実感する判例を発見しましたので紹介します。

○原告Xが、妻Bと離婚するに至ったのはかつて交際していた被告Yが妻Bにメール等を送信して脅迫したことが原因であるとして慰謝料500万円の損害賠償を求めたところ(本訴)、被告Yは、離婚の原因は性格の不一致等が明らかであるから本訴提起は裁判権の濫用であるとして慰謝料等75万円の損害賠償を求めました(反訴)。

○事案は以下の通りです。
・被告Y(カナダ国籍の女性)は,平成20年8月中旬頃に原告Xと知り合い,同年12月頃まで原告Xと交際
・原告Xと被告Yとの間には,子であるC(平成21年○月○日生。以下「C」という。)がいる
・原告Xは,平成23年8月5日,アメリカ合衆国籍のBと,アメリカ合衆国オハイオ州の方式により婚姻
・被告Yは,平成23年12月頃から平成24年9月までの間,B及びその父に対し,メールやスカイプメッセージを繰り返し送信
・原告XとBは、平成24年12月13日,離婚
・Bは,平成25年4月22日,オハイオ州において,原告との性格の不一致を理由として離婚を認める旨の判決
・原告Xは、平成27年3月、被告Yに対し慰謝料500万円の支払を求める本訴提起
・被告Yは、原告Xの訴え提起は裁判権の濫用として慰謝料等75万円の支払を求める反訴提起


○これに対し平成28年12月27日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)は、BがXに対して行った離婚訴訟の内容によれば、本件離婚の原因はXB間の性格の不一致であって本件送信ではないとして本訴請求を棄却し、Xは、本訴で主張した権利・法律関係が事実的根拠を欠くことを知りながら、Yから慰謝料名目で金員の支払を受けることで、XY間の子Cの養育費の支払を事実上免れることを目的としてあえて本訴を提起したことが推認されるので本訴提起は違法であるとして、原告Xに対し被告Yの反訴請求約45万円の支払を認めました。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 原告は,被告に対し,45万4450円及びこれに対する平成27年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告のその余の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 本訴
 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成24年12月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 反訴
 原告は,被告に対し,75万4450円及びこれに対する平成27年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,配偶者と離婚するに至ったのは,被告が同配偶者に対しメール等を送信して脅迫したことが原因であると主張して,被告に対し,不法行為に基づき,損害金500万円及びこれに対する上記離婚の日である平成24年12月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたところ(本訴),被告が,上記離婚の原因は被告によるメール等の送信ではなく性格の不一致等であり,本訴の提起は違法であると主張して,原告に対し,不法行為に基づき,損害金75万4450円及びこれに対する本訴提起の日である平成27年3月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。

1 前提事実
 以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 原告は,平成23年8月5日,アメリカ合衆国籍のB(以下「B」という。)と,アメリカ合衆国オハイオ州の方式により婚姻したが,平成24年12月13日,離婚した。
 被告は,カナダ国籍の女性であり,平成20年8月中旬頃に原告と知り合い,同年12月頃までの間,原告と交際していた。
 原告と被告との間には,子であるC(平成21年○月○日生。以下「C」という。)がいる。

(2) 被告は,平成23年12月頃から平成24年9月までの間,B及びその父に対し,メールやスカイプメッセージを繰り返し送信した(以下「本件送信」という。)。(甲3ないし甲19)

(3) Bは,平成25年4月22日,オハイオ州において,原告との性格の不一致を理由として離婚を認める旨の判決を受けた(以下,原告とBが離婚したことを「本件離婚」という。)。 (乙27)

2 争点
(1) 本訴関係

ア 被告の不法行為(本件離婚の原因)
(原告の主張)
 被告は,原告がBと婚姻したことを知り,離婚させることを目的として,本件送信をし,B及びその父を脅迫ないし誹謗中傷したため,Bは,原告との婚姻関係を継続することが困難であると判断し,本件離婚に至った。

(被告の主張)
 本件離婚の原因は,原告・B間の性格の不一致,原告がBに対し極めて残酷な行為をし婚姻上の義務を全く果たさなかったこと及び不倫をしたことであって,本件送信ではない。

イ 原告の損害
(原告の主張)
 原告は,本件送信により,本件離婚を決断せざるを得なかったのであり,これによる精神的苦痛を金銭に換算すると,500万円を下らない。

(被告の主張)
 否認ないし争う。

(2) 反訴関係
ア 原告の不法行為(本訴提起が違法か)
(被告の主張)
 原告は,本件離婚の原因が原告・B間の性格の不一致等であり本件送信ではないことを認識しながら,本訴を提起して虚偽の主張をしたもので,本訴の提起が原告・C間の父子関係がDNA鑑定により証明された直後であり,養育費の支払に対する対抗措置としてされたものといえること等からすれば,本訴の提起は,裁判権の濫用である。

(原告の主張)
 本訴は,本件送信と本件離婚との間に因果関係があるかという法的評価が争点となっている事案であり,その提起は違法ではない。

イ 被告の損害
(被告の主張)
(ア) 弁護士費用 23万6000円
(イ) 調査費用 1万8450円
 原告がオハイオ州におけるBの原告に対する離婚訴訟の訴状を一部黒塗りにして証拠として提出したため(甲22),被告が上記離婚原因を調査するために要した費用
(ウ) 慰謝料 50万円

(原告の主張)
 否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断
1 本訴について

 前提事実,証拠(甲22,乙25ないし乙28)及び弁論の全趣旨によれば,Bは,平成24年12月10日,オハイオ州の裁判所に対し,原告を相手方として,離婚訴訟を提起し,離婚原因として,原告との性格の不一致や,原告が被告に対し非常に残酷な行動を取り,義務を果たさず,不倫もしていたなどと主張したこと,上記裁判所は,平成25年4月22日,原告が裁判所から呼び出しを受けたにもかかわらず答弁をせず最終弁論期日にも出席しなかったため,訴状記載の事実を真実であると認め,Bが原告との性格の不一致を理由として離婚することを認める旨の判決をしたことが認められる。これによれば,本件離婚の原因は,原告・B間の性格の不一致であって,本件送信ではないというほかはない。

 原告は,Bとの婚姻中に不倫をしたことやBとの性格の不一致を否定し,本件離婚の原因が本件送信である旨を陳述(甲25)ないし供述(原告本人)している。しかし,前記認定のとおり,Bは,離婚原因として原告・B間の性格の不一致や原告の不倫等を主張していたところ,原告はこれを争わなかったことに加え,証拠(乙28)及び弁論の全趣旨によれば,Bは,前記離婚の訴えと合わせ,原告を相手方として,原告がBに対しハラスメント,虐待又は脅迫行為をしてはならない旨の禁止命令等を求める旨の保護命令の申立てをしていることが認められることや,Bが前記離婚の訴えを提起する前後において本件送信について悩んでおりこれが本件離婚を招来したことをうかがわせる事情は見当たらないことからすれば,訴状や判決に記載された離婚原因がオハイオ州法で定められた離婚の要件として抽象的に列挙されたものにすぎないとの原告の主張を考慮してもなお,原告の前記陳述・供述を信用することはできない。

 なお,原告は,本件離婚の原因が本件送信(これによる脅迫)にある旨のB名義のメールを証拠として提出しているが(甲24の1・2),原告は,もともと前記離婚の訴えの訴状のうち離婚原因(原告・B間の性格の不一致や原告の不倫,原告のBに対する非常に残酷な行動)が記載された部分を黒塗りにしたものを証拠として提出しようとしたところ(甲22,甲23),被告が独自に入手した上記訴状及び離婚訴訟の判決により離婚原因を明らかにされたため(乙25,乙27),これら証拠が取り調べられた期日から約5か月も経過後に作成された上記メールを追加して提出したものであることに加え,同メールは,アドレスの一部が黒塗りとされていることや,誰もがアカウントを容易に取得できるグーグルメールを使用したものであること(乙32)からすれば,それ自体,違法に作成・収集された証拠であるとまでいえるかは格別,その内容において信用することはできず,証拠価値を有しないというほかはない。

 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。

2 反訴について
(1) 民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において,右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的,法律的根拠を欠くものであるうえ,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁)。なお,本訴はいまだ確定していないが,前記認定説示のとおり,原告の本訴請求には理由がないから,上記基準は本件においても妥当すると考えられる

 前記認定説示のとおり,本件離婚の原因は,原告・B間の性格の不一致であって本件送信ではないから,被告に対し本件送信により本件離婚に至ったことを請求原因として慰謝料を請求する本訴は,事実的根拠を欠くものといえる。そして,前記認定説示のとおり,Bが提起した前記離婚訴訟において,Bに原告との性格の不一致を理由とする離婚を認める旨の判決がされており,原告はその当事者であるわけであるから,このことを知っていたものと推認され,少なくとも容易に知り得たものといえる(被告ですら判決書等を容易に入手し,これを証拠として提出している。)ことに加え,証拠(乙2の1ないし乙12の8,乙16,乙18,乙56の1ないし乙57の2,乙67の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,被告がCを妊娠したことを知った後,それが自身の子であることを否認するなどしたほか,父子関係を明らかにするべくDNA鑑定に協力し父子関係が確定すれば相応の責任を取る旨を表明したものの,海外に移住するなどして行方をくらますなどしたこと,Cが原告の子であることを認知する旨の裁判,原告にCの養育費の支払を命じる裁判がされ,平成27年1月26日にはDNA鑑定が実施され,原告・C間の父子関係が科学的にも証明されたにもかかわらず,被告に対する養育費の支払を停止したことが認められるところ,本訴の提起が同年3月27日にされたことも併せ考慮すると,原告は,本訴において主張した権利・法律関係が事実的根拠を欠くものであることを知りながら,被告から慰謝料名目で金員の支払を受けることで養育費の支払を事実上免れる効果を得ることを目的とするなどして,あえて本訴を提起したことが推認されるというべきである(なお,仮に上記目的が認められないとしても,前記認定説示からして,本訴の提起が違法であるとの結論を左右しない。)

(2) そして,被告は,原告による本訴の提起に対応するため,被告訴訟代理人を選任したところ,その着手金及び代理援助実費の合計が23万6000円であることが認められるから(乙31),同金額が被告の損害であると認められる。また,前記認定説示のとおり,被告は,原告が前記離婚訴訟の訴状について離婚原因が記載された部分を黒塗りにして証拠として提出したため,同訴状や判決書等を入手する必要が生じ,平成27年12月7日にそのために150ドルを支出したことが認められ(乙29),これを円に換算すると1万8450円となるから(150ドル×123円(同日における1ドル当たりの為替レート。乙30))同金額も被告の損害であると認められる。

 さらに,前記認定説示のとおりの本件における一切の事情を考慮すると,被告が本訴の提起により被った精神的苦痛を慰謝するには,20万円が相当である。
 以上によれば,被告の損害は,45万4450円となる。

第4 結論
 よって,原告の本訴請求は,理由がないからこれを棄却すべきであり,被告の反訴請求は,原告に対し,45万4450円及びこれに対する平成27年3月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所民事第6部(裁判官 舘野俊彦)

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