小松法律事務所

準強姦逮捕不起訴処分者に対する損害賠償請求棄却地裁判例紹介


○女性ジャーナリストと元TBS記者との損害賠償請求事件判決が話題になっていますが、準強姦が争点の民事事件を判例データベースで検索すると余り数はありません。この種事件は、泣き寝入りで訴訟事件になる数が少ないと思われます。以下、準強姦で逮捕され不起訴処分となった相手に対する損害賠償請求が棄却された平成19年2月9日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)判断部分を紹介します。

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主   文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,342万9840円及びこれに対する平成16年2月22日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,被告に準強姦されたと主張する原告が,被告に対し,損害賠償を求めた事案である。
1 前提事実

         (中略)

第3 当裁判所の判断
1 本件における当事者双方の具体的事実主張は,細部にわたって対立しており,原告本人,被告本人の各供述も,同様に多数の点で食い違い,いずれについても客観的な裏付けがないものが多く,いずれかをもって真実と断定することができない点が少なくないが,被告による不法行為として原告が主張する前示請求原因事実が認定し得るか否かを以下検討する。

(1)事前の背景事情について
① 原告が被告と肉体関係をもつに至った経過について,原告本人は,原告は,平成15年11月17日ころから,ナイジェリア人らが経営するaでホステスとして働くようになり,フロアマネージャーであったナイジェリア人である被告を知り,同年12月前半から被告と交際するようになり,被告と計10回以上肉体関係をもった,場所はホテルである,被告に妻子がいることは後に警察官から教えられるまで知らなかった,しかし,特に結婚を前提として被告との関係をもったわけではない,平成15年12月7日,気管支喘息により呼吸困難となり,救急車で恭和記念病院に搬送され,平成15年12月15日まで,同病院に入院した,退院後1週間ほどは被告との関係をもってない旨供述する。

 これに対し,被告本人は,被告に妻子があることは,原告は,被告との交際に入る前から知っていた,それは,aのホステスと互いに連絡をとる必要があることから全員携帯電話の番号を教え合っていたが,被告の携帯電話のディスプレイには,被告の子供の写真が表示されており,原告に対しても,それが被告の子供だという話をしてあるので,当然原告は,被告に妻子があることを知っていた,原告と最初に肉体関係をもったのは,原告が恭和記念病院を退院した後であり,同年12月17日か18日の閉店後,被告が伝票整理をしているところへ原告から電話があり,日本人の客から逃れたいので,家まで送ってほしいと頼まれ,アパートに送ったときである,以後,原告と6回ほど関係をもった旨供述する。

 上記各供述によると,原告が平成15年11月後半からナイジェリア人らが経営するaでホステスとして働くようになり,フロアマネージャーであったナイジェリア人である被告を知り,同年12月から被告と肉体関係をもったことは認められるものの,被告に妻子がいることを原告が知っていたか,知らなかったかは,いずれであったか断定し得るだけの的確な証拠がない。原告本人は,上記のとおり,特に被告との結婚を意識して被告と肉体関係をもったわけではないというのであるが,そうであったとしても,上記事情は,後に,原告が妊娠したことを知り,これを被告に告げた際の被告の態度がどうであったか,原告の受け止め方がどうであったかの認定に関わる事情ということができるが,いずれとも断定することができない証拠状況である。

② 原告が被告に対し,妊娠したことを告げた経過について,原告本人は,平成16年1月19日に妊娠していることに気づき,直ぐに被告に告げたところ,被告から「シングルマザーになりたいの。」と言われてしまい,被告が中絶を望んでいることを知り,被告に対し,失望感と幻滅を感じた,子供を堕したくはなかったが,被告に責任をとるつもりがない以上,中絶するしかないと思った旨供述する。

 これに対し,被告本人は,原告から妊娠していると告げられたのは,平成16年2月4日の仕事が終わってからであり,妊娠3か月だと言われた,原告供述のようなことは言っておらず,むしろ,中絶には反対したが,原告が,自分に持病があることと被告が結婚していることから,自ら希望した旨供述する。

 上記言い分の違いについても,いずれが真実であるの決め手となる証拠があるわけないが,女性である原告が自ら中絶を進んで希望したかのように述べる被告本人の供述は,かなり不自然であり,原告本人の述べる経過の方が通常あり得る事実経過と解され,特に,後記のとおり,原告が中絶手術後,被告を避けており,被告と話もしなかったとの事実は,被告本人も認めるところであるから,この事実と併せると,上記時点で,既に,原告の被告に対する感情が相当消極的なものとなっていたことは,これを窺うことができる。

③ 中絶費用について,原告本人は,平成16年2月4日に中絶手術を受けることになった後,被告に対し,病院から受け取っていた書類を見せて約30万円が必要であると話したところ,被告から,5万円か10万円のはずだと言われてショックを受けた,被告からは,同月3日に10万円を受け取った旨供述する。これに対し,被告本人は,妊娠3か月だと言われたが,時期からして被告の子ではないと思ったが,関係を継続していたことは事実であったため,中絶費用14万円が必要と言われたうちの9万円を原告に支払った旨供述する。

 原告が中絶手術に要した費用は30万円に近く,上記会話,金銭支払の時期が現実の入院,手術の時期に極めて近いこと,原告の手術が喘息の持病との関係で複数の医師によるもので,入院を要することも事前に分かっていたと認められることからすると,被告本人の上記供述は不自然であり,原告本人の上記供述の方が信用性が高いと判断される。

④ 中絶の経過とその後の被告に対する感情と関係について,原告本人は,喘息の持病があることから特に辛い手術であったこと,初めての妊娠で子供を堕さなければならなかったことから,被告に対して,憎しみと強い嫌悪感すら抱くようになった,また,平成16年2月7日に退院したが,担当医から,胎児の身体の一部が体内に残っている可能性もあり,出血の可能性もあるので,3か月間は性交渉をしないように注意された,自分自身としても,もう二度とセックスはしたくないと思っていた,退院後,一度だけ手術費用について被告と話をしたが,28万円余の領収証を見せたところ,被告は,残りの18万円余は,2回に分けて支払うと言い,自らそのことを紙に書いた,その後は,本件事件まで,被告と話をすることはなかった,退院した翌日(同月8日)からaに復帰して働いたが,初めは飲酒しなかったものの,同月19日ころから,子供を殺したという意識が苦しく,飲酒するようになった旨供述する。これに対し,被告本人は,原告が,退院した翌日(同月8日)からaに復帰して働いたことを否定し,被告が原告の姿を見たのは,2月10日に,bの前にいたとき,近くを原告が通りかかったのを目撃したのが最初であり,原告がaで働くのを再開したのは2月14日であると供述し,退院後,原告は,被告を避けており,手術費用の話も聞いていないし,被告が話しかけても,原告は返事もしなかったと述べる。

 原告に喘息の持病があったことから,原告が受けた妊娠中絶手術が3人の主治医によった行われたことは,甲第11号証によって認められるところであり,原告本人の供述によれば,当該手術が原告にとって相当辛い手術であったことが認められるところ,上記各供述によれば,原告が中絶手術を受けた後,被告を避け,話もしようとしなかった事実を認定することができるが,その余の経過については,細部にわたると食い違いのある上記各供述のいずれを真と解すべきかについて,的確な裏付証拠は,原告本人の供述にもない。原告本人は,手術に要した金員の領収証を見せたところ,被告が2回に分けて支払うと言って紙に書いたと述べるが,当該の紙なるものは証拠提出されていない。

(2)当日の経過について
① 原告本人は,aに再度勤め始めて15日後であるという平成16年2月22日から23日にかけての状況に関し,22日午前4時半ころ(陳述書)又は午前3時半ないし4時ころ(尋問における供述)aの仕事を終え,着替えや食事をした後,bに行き,ルーマニア人の同僚女性2人と飲酒した,bにはときどき行ったことがあり,被告も来ていたことがあるのは知っているが,被告とともに行ったことはない,午前8時ころ,被告が酔って「こんにちは」と声をかけてきたので,露骨に嫌な顔をして逃げるように席を移動したが,被告は,つきまとって何度も話しかけてきた,以前被告からもらった2000円のタクシー代とクリスタル製の地球儀を被告に突き返してbを逃げ出したが,被告に追いかけられ,寿司店の前で被告に捕まえられ,「話がある」と言われ,以後,記憶がとぎれとぎれになる,ラブホテルに行き,被告におぞましい性行為をされたことは一部記憶があるが,その後の記憶は途切れてしまっている,当日夜,新宿駅で妹に電話をした記憶はあるが,翌日,歌舞伎町のdで目を覚ますまでの記憶がない,その後,東京女子医科大学病院の一般外来に行き,精子を確認する検査を求めたが,待つ間に倒れてしまい,警察に連絡するように言われて,警察に電話し,新宿警察署に行って事情聴取を受け,被害届を出した,その後,警察官と一緒に歌舞伎町を回り,ラブホテルが「ホテルc」であることが分かった,その後,四谷にある東京警察病院に行って,膣内の検査をしてもらい,後日,警察官から精子が検出された旨聞いたと供述する。

 これに対し,被告本人は,平成16年2月22日午前5時30分ころ,伝票整理の仕事を終えて,bに行き,ダーツをした後,原告に対し,寿司を食べに行こうと誘い,二人でbを出て,近くの寿司店に行き,寿司を食べ,1杯ずつビールを飲み,帰宅する前に「ステイしよう」と言ったところ,原告が「どこ」と尋ねるので,「探そう」と言って,二人で寿司店を出ると,前記ホテルに入った,「ステイする」という表現は,原告との間で,ホテルに行って肉体関係をもつことを意味していた,被告が屡々bに行っていることは原告も知っており,原告と二人で行ったこともある,また,bは交差点の向かいに交番があり,現場の人通りも多い,ホテルでは,原告が部屋を選び,説明が日本語で掲載されていたので,原告が説明を読んで,支払は上でするのだなどと説明した後,部屋に入り,原告も承諾の上で性行為をした,行為中も原告が拒否するようなことはなかった,午前9時15分ころ,原告と二人で上記ホテルを出て,新宿駅東口まで行き,そこで別れた,翌日,原告も出勤していたが,被告が出勤したときは客が多く,原告と話す機会はなかった旨供述する。

 上記部分が本件における争点に関わる核心となる事実経緯であるが,被告本人がかなり具体的に事実関係を述べているのに対し,原告本人の供述は,相当部分について具体的な記憶がないというのであり,また,原告の上記供述中,東京警察病院で検査を受けたとの供述部分は,甲第3号証と符合するが,東京女子医科大学病院を受診した日は,甲第4号証によると,平成16年2月22日であって,23日ではなく,原告の上記供述では辻褄が合わない。被告との本件性行為について,原告本人は,被告に対する嫌悪感があり,中絶手術後間もなかったので,同意することはあり得ないと供述し,当日が原告が退院してから2週間ほどしか経っていない時期であること,原告が退院後,被告を避け,殆ど話もしていないことは被告本人も認めるところであるから,原告が被告の「ステイしよう」という誘いに喜んで応じたかのごとき被告本人の供述は,相当に不自然であるということができ,これに対し,原告の上記供述部分は自然なものとして理解することが可能ではあるが,他方,後記のとおり,原告は,当時酔って記憶をなくすような状態にあったとは認められないことからすると,核心部分について記憶がないと述べる原告本人の供述をそのまま採用することは到底困難である。

 また,本件後1日経った後,原告が警察署に赴いて被害を訴え出たことも,何らトラブルなく肉体関係をもっただけであるかのような被告本人の供述の信用性を疑わしめる事情であるということができるものの,被告本人が尋問に際して記載した地図上の位置関係によれば,bは,交番と交差点の向かいあわせにあるというのであり,付近の人通りも多かったというのであるから,被告が原告の意に反して上記ホテルに原告を連れ込んだりしたと認めることまでは困難である。遡って,2月22日の終業後,原告が同僚と出向いたbは,被告本人の供述によれば,被告が閉店後,伝票整理等を終えた後屡々立ち寄っていた店であるというのであり,原告本人の供述によっても,原告は,そのことを知っていたと認められるところであるから,同店に行くことは,被告と出会うことを当然に予期,予想させるものであったと解され,被告に会いたくないと思っていたとの原告本人の供述は不自然の感を免れない。

② aを辞めた経過について,原告本人は,平成16年2月23日,被告が来店する前にaに行き,経営者に辞める旨告げて荷物を纏めて店を出た旨供述するが,これに対し,被告本人は,原告がaを辞めたのは同月28日であり,翌日から,原告は,eで働くようになった旨供述する。
 上記食い違いについても,いずれかが真であると判断し得る的確な裏付証拠がない。

③ 原告の酒量について,原告本人は,尋問時には,シャンパンを750ミリリットルのボトルで5本くらいと述べ,また,ビールで泥酔したことはないと述べており,bを出るときは,同僚の女性達に先に帰る旨声をかけて出たというのであって,酔っていたようには述べていなかったものである。しかるに,原告が本件審理の最終段階において提出した甲第14号証(平成18年12月8日付陳述書)には,実は,酔いが一気に回ってきたような気がしますとの記載がある。しかし,原告本人の本人尋問における供述内容に照らし,追加提出された上記陳述書の記載をにわかに措信することはできない。

(3)事後の経過について
① aを辞めた後の経過について,原告本人は,翌日である平成16年2月24日から,ナイジェリア人が経営する歌舞伎町のeで働くようになった,黒人を見ると精神的に具合が悪くなったが,aと同様,黒人が経営する黒人を客とする店に勤めたのは,被告がどこに行くか分からないので,見張るためであり,被告が逮捕されるまで被告の情報を掴んでおくためである旨供述する。これに対し,被告本人は,原告がaを辞めたのは2月28日であり,eに勤めるようになったのは翌日からである旨供述し,eに勤めるようになった原告が同店で働いているナイジェリア人であるAやBとデートしているのを見かけている旨供述する。

 上記各供述によれば,日にちはともかく,原告がaを辞めた翌日からaと同種の営業をしているeに勤めるようになった事実,eが,原告が,自ら,見ただけで具合が悪くなると主張し,供述している黒人が経営し,黒人を客とする同種の店である事実が認められるが,その後,長期間にわたって同種店に勤めたことと,原告が主張し,供述する本件による被害の結果とするものとの間には,整合性を欠くと疑うべき理由があるといわざるを得ない。

② 原告は,前提事実記載のとおり,本件当日である平成16年2月22日から東京女子医科大学病院で診療を受けており,また,翌日には東京警察病院救急センターを受診し,被告による準強姦につき被害届を出し,告訴をしており,被告が,原告に対する準強姦容疑で逮捕,勾留されたものの,結局不起訴となったのに対し,更に検察審査会に審査の申立をし,起訴相当の議決がされなかったところ,本件訴えを提起したものであって,また,東京女子医科大学病院で本件を原因とするPTSDと診断されているのであり,このような経過は,原告が被告に対する強い被害感情をもっていることを示しているということができる。

 しかしながら,このような被害感情が,どの段階で,どのような原因によって生じたのか,すなわち,原告が主張するように被告による準強姦行為によって生じたのか,あるいは,中絶についての被告の態度や中絶後の被告の対応等の経過,あるいは本件性行為自体又は前後の被告による何らかの言動等,原告の意に沿わない,あるいは意に反する原因によって生じたのかを具体的事実として確定することができるだけの証拠は結局ないというほかはない。


2 本件の証拠関係は以上のとおりであり,本件証拠によっては,本件請求原因事実である「原告が酩酊して意識が朦朧としていたことに乗じて,原告との性行為を開始し」た事実も,「その後,意識を回復した原告が被告に対しやめてほしいと泣いて訴え,必死の抵抗を試みたにもかかわらず,原告を力ずくで押さえつけて性行為を続行した」事実も,これを認めるに足りないといわざるを得ない。

3 よって,原告の請求に理由があるということはできない。 (裁判官 松本光一郎)