復縁工作委託契約支払済み代金返還請求を認めた地裁判決紹介
○原告が被告に対し代金116万4000円で、対象者と原告の関係を従前の交際関係に戻すため契約期間3ヶ月の間に合計12回の復縁工作をするとの復縁工作を依頼して、代金全額を支払うも、被告は契約期間3ヶ月の間に4回、対象者親族が経営する飲食店で飲食しただけで債務を履行していないとして代金全額の返還を求めたものです。
○被告は、原告が指示を出すまで復縁工作をしないように要求し、また、原告は被告に対し支払を約した経費を支払わなかったので債務不履行は原告の責めに帰すべきもので代金返還義務はない等の抗弁を出しましたが、裁判の途中から出頭しなくなり、判決は債務不履行として支払代金返還を認めました。
○原告は復縁工作委託契約について、金銭等の対価を得て個人の間の恋愛感情等に干渉するものである等を理由に公序良俗違反で無効と主張しましたが、この点についての判断はせず、債務不履行を理由に請求を認めました。
********************************************
主 文
1 被告は,原告に対し,116万6400円及びこれに対する平成29年5月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文と同旨
2 請求の趣旨に対する答弁
(1)原告の請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1)平成28年11月23日,原告は,被告に対し,次のとおり業務を委託した(以下この契約を「本件業務委託契約」という。)。
ア 代金(報酬)
116万6400円
イ 期間
3か月
ウ 委託の内容
契約期間3か月の間に,合計12回の復縁工作を実施する。
(2)上記(1)と同じ日,原告は,被告に対し,本件業務委託契約に基づく報酬として,116万6400円を支払った(以下この支払を「本件支払」という。)。
(3)
ア 公序良俗違反
本件業務委託契約の委託の内容は,原告と対象者との間の関係を従前の交際関係に戻すよう復縁工作をするというものであって、金銭等の対価を得て個人の間の恋愛感情等に干渉するものであることに加えて,対象者に別の交際相手がいれば別れさせることにもなる点で,いわゆる別れ屋に準ずるものであるところ,一般社団法人日本調査業協会は別れ屋が公序良俗に反するなどとして加盟店に対する自主規制を施していることを考えると,本件委託契約は,公序良俗に反し,無効である(民法90条)。
したがって,本件支払は,無効な本件業務委託契約に基づいてされたものであって,法律上の原因がない(民法703条)。
イ 委託業務の不履行
被告は,本件業務委託契約に基づく業務を遂行しなかった。すなわち,被告は,契約期間3か月の間,4回,対象者の親族が経営する飲食店に赴いて飲食しただけであって,これは,回数,内容ともに,本件業務委託契約に基づく債務の履行とはいえないものであった。
本件業務委託契約は,報酬支払の合意がある委任契約又は準委任契約であって双務契約であると解すべきところ,上記のとおり,本件支払の反対給付である被告の業務の遂行がされないまま,期間満了により本件業務委託契約が終了し,上記の被告の債務は履行不能により消滅したから,被告の債務と対価関係にある本件支払に係る報酬請求権も消滅したことになり(民法536条1項),本件支払は,法律上の原因がなかったことになる(民法703条)。
(4)平成29年5月12日,原告は,被告に対し,本件支払に係る116万6400円の返還を請求した。
(5)よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,本件支払に係る116万6400円及びこれに対する催告の日の翌日である平成29年5月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否
(1)請求原因(1)(2)の事実は認める。
(2)請求原因(3)アは争う。本件業務委託契約は公序良俗に反するものではない。
(3)請求原因(3)イの事実(被告が遂行した業務)は認めるが,後記3(抗弁)のとおり,報酬請求権の消滅は争う。
(4)請求原因(4)の事実は認める。
3 抗弁(請求原因(3)イに対し)(原告の責めに帰すべき事由)
(1)本件業務委託の契約期間中,原告は,被告に対し,原告が指示を出すまでは復縁工作をしないように要求し,被告は,原告に対し,契約期間の3か月が経過すると復縁工作を12回できなくなると言ったが,原告は上記のとおりの要求をした。
(2)原告は,被告に対し,本件業務委託契約において,経費を支払う旨を約し,経費を支払わなければ被告は業務を遂行できない旨を確認したにも関わらず,被告からの経費の請求に応じなかった。
(3)よって,被告が本件業務委託契約に基づく債務を履行することができないまま,契約期間が満了したのは,原告の責めに帰すべき事由によるものであったというべきであるから,被告の債務の対価である報酬請求権は消滅しない(民法536条2項)。
4 抗弁に対する認否
(1)抗弁(1)の事実は否認する。
(2)抗弁(2)の事実は否認する。
理 由
1 請求原因について
請求原因(1)(2)の事実,同(3)イの事実,同(4)の事実は,いずれも,当事者間に争いがない。
2 抗弁について
(1)抗弁(1)の事実は,これを認めるに足りる証拠がない。かえって,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,原告は,復縁工作の具体的な内容を被告に任せ,その進捗状況を被告に確認等したが,被告において復縁工作を円滑に進めず,原告の確認等に誠実に対応していなかったことがうかがわれる。
(2)抗弁(2)事実も,これを認めるに足りる証拠がない。かえって,原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被告が原告に経費を請求していなかったことがうかがわれる。
3 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を,仮執行の宣言について同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。なお,被告は,本件第2回口頭弁論期日(平成30年3月28日)において期日指定の告知を受けながら,本件第3回口頭弁論期日に出頭せず,同期日において,原告は,民訴法244条ただし書所定の終局判決を求める旨の申出をし,当裁判所は,口頭弁論を終結した。
東京地方裁判所民事第48部 裁判官 氏本厚司