小松法律事務所

不貞行為損害賠償請求事件の地裁から家裁への移送認めた地裁決定紹介


○原告Xが被告Yに対し、原告妻Aとの不貞行為を理由に横浜地裁に慰謝料請求の訴えを提起したところ、被告Yからの地裁から家裁への移送の申立がなされ、その移送を認めた平成30年4月18日横浜地裁決定(最高裁判所民事判例集73巻2号112頁、家庭の法と裁判21号68頁)全文を紹介します。

○原告Xの妻Aは、Xに対し、横浜家裁に離婚訴訟を提起し、Xは、Aは有責配偶者であり、信義則上離婚は認められないとAの請求を争い審理が続いていたところに、原告Xが妻の間男である被告Yに慰謝料請求の訴えを提起し、被告Yが「原告とAのこれまでの婚姻関係、及び被告とAの不貞の有無が、共に重要な争点になると思われる。そうすると、いずれも原告、被告、Aの尋問は不可欠と思われ、本訴でもAには当初から関与して主張等をしてもらった方が、真相の把握に資する。」として、地裁から家裁への移送を求めました。

○移送によって、「移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。」とされ、AからXへの離婚訴訟と、XからYへの慰謝料請求訴訟が併合審理されて、真相解明に資することになり、訴訟経済上合理的です。妥当な決定と思います。

人事訴訟法第8条(関連請求に係る訴訟の移送)
 家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2 前項の規定により移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。


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主   文
基本事件を横浜家庭裁判所に移送する。

理   由
1 申立ての趣旨及び理由

 本件移送申立ての趣旨及び理由は,別紙「移送申立書」の写しに記載のとおりである。

2 当裁判所の判断
 一件記録によれば,
(1)基本事件は,相手方が,申立人に対し,相手方の妻であるA(以下「A」という。)との不貞行為に基づく損害賠償を求める事案であること,
(2)Aが,相手方に対し,民法770条1項5号所定の離婚事由に基づく離婚,離婚慰謝料を求め,養育費及び財産分与の附帯処分を申し立てた訴訟が横浜家庭裁判所に係属
しているところ(横浜家庭裁判所平成29年(家ホ)第341号),同訴訟において,有責配偶者からの離婚請求として信義則上許されないかどうかが主要な争点となっており,これについて争点及び証拠の整理が行われていることが認められる。

 これによると,基本事件に係る請求は,人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求」に当たるというべきであり,同項に基づき,基本事件を横浜家庭裁判所に移送するのが相当である。 

 これに対し,相手方は,基本事件に係る請求は,人事訴訟法8条1項にいう「人事訴訟に係る請求の原因である事実」を基礎とするものとは評価できず,同項にいう「相当と認めるとき」にも当たらないと主張する。

 しかしながら,上記認定事実によれば,横浜家庭裁判所に係属する離婚訴訟において,有責配偶者からの離婚請求として信義則上許されないかどうかが離婚原因の存否に直結する主要な争点となっているというのであり,このような場合において,離婚訴訟の被告が,その配偶者との離婚を希望しないことから離婚請求等の反訴を提起することなく,不貞行為の相手方に対する損害賠償請求に係る訴えを提起するときは,その請求を「人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた」ものと解するのが相当である。

 また,横浜家庭裁判所における離婚訴訟の審理経過その他一件記録に現れた一切の事情を考慮しても,移送の相当性に関する上記判断を左右するものはない。相手方の主張は採用できない。

3 よって,本件移送申立ては理由があるから,人事訴訟法8条1項に基づき,主文のとおり決定する。
(横浜地方裁判所第2民事部)

別紙

平成30年(ワ)第556号 損害賠償請求事件

原告 Y
被告 X

移送申立書
平成30年3月12日
横浜地方裁判所第2民事部ろ係B 御中
被告訴訟代理人 弁護士 ○○○○

第1 申立ての趣旨
 本件を横浜家庭裁判所に移送する。
との裁判を求める。

第2 申立ての理由
1 人事訴訟法8条1項は,「家庭裁判所に係属する人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求に係る訴訟の係属する第一審裁判所は、相当と認めるときは、申立てにより、当該訴訟をその家庭裁判所に移送することができる。この場合においては、その移送を受けた家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。」とし、同条2項は、「前項の規定により移送を受けた家庭裁判所は、同項の人事訴訟に係る事件及びその移送に係る損害の賠償に関する請求に係る事件について口頭弁論の併合を命じなければならない。」とする。

2 横浜家庭裁判所では、原告の妻であるA(以下「A」という)から原告に対する離婚等請求事件(平成29年(家ホ)第341号。甲5)が係属しており、同時に御庁においては、本訴が係属している。この両訴訟においては、原告とAのこれまでの婚姻関係、及び被告とAの不貞の有無が、共に重要な争点になると思われる。そうすると、いずれも原告、被告、Aの尋問は不可欠と思われ、本訴でもAには当初から関与して主張等をしてもらった方が、真相の把握に資する。また、訴訟経済、判断の矛盾の防止、当事者の負担の軽減等も考慮すれば、移送・併合審理が適切である(横浜地決平成25年2月20日(裁判所ウェブサイト掲載裁判例)参照)。

3 よって、申立ての趣旨に記載の通り、申し立てる。
以上