小松法律事務所

二宮周平教授ら”ジェンダー法学の10年”掲載不貞行為論文一部紹介


○「不貞行為第三者に対する慰謝料請求に関する二宮周平教授コラム紹介2」の続きで、ジェンダーと法№10「ジェンダー法学の10年」に掲載されている二宮周平教授と原田直子弁護士共著論文「貞操概念と不貞の相手方の不法行為責任」から不貞行為の法的構成等についての「5 比較法的検討」の記述を紹介します。

・ドイツ
ドイツ民法には、「夫婦はお互いに婚姻共同生活に対する義務を負う」(1353条1項)と規定されているが、義務の履行は「自由な倫理的な決定に依拠している婚姻の考え方によってのみ強制されうる」ことから、判例は、不貞配偶者、その相手方いずれに対しても不法行為責任を否定し、間男に対する損害賠償請求について「婚姻妨害は配偶者の一方の協働なくばなしえず、従って、不法行為の法的構成要件の保護目的に入らない」との判例もある。

・オーストリア
夫が妻の不貞を知ってうつ状態になったことから生じた健康被害に関して、オーストリア最高裁判決は、婚姻義務違反(不貞行為)によって苦痛を被ったときも、夫婦の一方は他方に対し損害賠償(慰謝料)請求ができないのだから、婚姻義務にかかわりのない第三者の責任を根拠づけることはできないとして、妻の不法行為責任を否定。「失われた愛情」について慰謝料は成立しない。

・フランス
フランス民法には「夫婦は相互に貞節、扶助及び協力の義務を負う」(212条)と規定されているが、現在では、不貞の相手方の不法行為責任は否定され、その理由は、婚姻生活を尊重する義務は夫婦の義務であり、第三者に他人の婚姻関係を尊重する一般的な法的な義務はないからとする。貞節義務違反は、離婚理由になるが、離婚後の共同親権が実現し、争いの激化を避けるため有責性の探究をせず、離婚による経済的困窮者には補償給付の拡充で対応し、夫婦間の慰謝料としては殆ど考慮されない。

・イギリス
1970年1月1日法により、夫から妻の姦通(不貞行為)相手方に対する損害賠償請求訴訟が廃止された。この訴権は夫のみに認められていた不合理さ、不法行為訴権としての姦通は実務上殆ど問題になっていなかったこと、姦通が理由での離婚・裁判別居の経済的損失は離婚給付の問題として対応でき、慰謝料を認めることは、賠償というより復讐の性質を訴訟に求めることとなり、望ましいことではないとされたからである。

・オーストラリア
離婚に関する1975年制定「連邦家族法」で12ヶ月別居を唯一の離婚原因とし、実質審理抜きに離婚判決が出るようになり、別居理由や当事者の帰責事由も問われず、離婚慰謝料の概念も存在しないことから、不貞の相手方に対する慰謝料請求を認める余地もない。

・アメリカ
間男・間女に対する損害賠償請求訴訟(姦通訴権)は、当初夫に、後に妻にも認められていたが、姦通訴権を廃止する州が増加し、その理由は、濫用されやすいこと、恐喝や脅迫の材料となること、全くの金目当てか復讐という動機でなされること、良識者はこのような訴訟は起こさないこと、この訴訟は予防的意味を持たないこと、損害額の正確な算定が困難なこと等により、現在は、離婚法が破綻主義化されたため、判例は、配偶者に対しても、その不貞行為相手方に対しても、慰謝料請求を否定している。


○以上の国々の他に北欧三国やロシヤ・中国等も不貞行為損害賠償請求は認められていないと聞いていますが、二宮周平教授らの論文には、上記6カ国しか記述がありませんでした。アメリカで、慰謝料請求が否定された理由の「濫用されやすいこと、恐喝や脅迫の材料となること、全くの金目当てか復讐という動機でなされること、良識者はこのような訴訟は起こさないこと、この訴訟は予防的意味を持たないこと、損害額の正確な算定が困難なこと」は、全く同感です。