小松法律事務所

不貞行為慰謝料請求通知書勤務先等宛送付行為に慰謝料を認めた判例紹介


○原告が、被告において原告と被告の夫Aが不貞をしたという虚偽の内容を記載した内容証明郵便を原告の勤務先や実家に送付して原告の名誉を毀損し、さらに原告の勤務先に脅迫電話をかける等したと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料560万円の支払を求め(第1事件)、これに対し、被告が、原告に対し、原告と被告の夫が不貞行為をしたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料500万円の支払を求めました(第2事件)。

○これに対し、平成27年6月3日東京地裁判決(TKC)は、被告は、弁護士を通じて原告宛てに内容証明を発送しながら、その回答や対応を確認することなく、同日のうちに、自分自身で原告の勤務先に宛てて内容証明を発送したことが、方法として相当性を欠くものであり、原告の名誉を毀損する不法行為を構成するというべきであると認定し、原告の請求のうち11万円の支払を認めました(第1事件)。

○しかし、第2事件について、原告とAが不貞関係にあったことが認められるとして、被告の請求のうち150万円の請求を認めました。平成27年6月3日東京地裁判決(TKC)の主に名誉毀損関係部分を紹介します。

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主   文
1 被告は、原告に対し、11万円及びこれに対する平成26年5月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第1事件における原告のその余の請求を棄却する。
3 原告は、被告に対し、150万円及びこれに対する平成25年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 第2事件における被告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、第1事件・第2事件を通じてこれを100分し、その65を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
6 この判決の第1項及び第3項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 第1事件
 被告は、原告に対し、560万円及びうち70万円に対する平成26年5月14日から、うち70万円に対する同月20日から、うち70万円に対する同月21日から、うち350万円に対する同月14日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 第2事件
 原告は、被告に対し、500万円及びこれに対する平成25年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 第1事件は、原告が、被告において原告と被告の夫が不貞をしたという虚偽の内容を記載した内容証明郵便を原告の勤務先や実家に送付して原告の名誉を毀損し、さらに原告の勤務先に脅迫電話をかけるなどしたと主張して、被告に対し、不法行為に基づき、慰謝料や逸失利益等合計560万円の損害賠償を求める事案である。附帯請求は、内容証明郵便が到達した日あるいは電話があった日からの遅延損害金である。

 第2事件は、被告が、原告に対し、原告と被告の夫が不貞行為をしたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料500万円の損害賠償を求める事案である。附帯請求は、最初の不貞行為の日からの遅延損害金である。

1 前提となる事実(当事者間に争いがないか、記載した証拠により明らかである。)
(1) 原告(昭和47年○月○日生まれ)は、平成22年10月からa生命保険株式会社(以下「a生命」という。)静岡支社に勤務する女性であり、被告の夫であるA(以下「A」という。)が経営するb株式会社(以下「b社」という。)の営業担当者であった。
 原告は、離婚をした後は原告肩書き住所地において息子と二人暮らしであり、同住所地の建物の1階は、原告の両親が居住する原告の実家である(甲17)。

(2) 被告(昭和45年○月○日生まれ)は、平成11年5月16日、A(昭和43年○月○日生まれ)と婚姻した女性である。被告とAの間には、平成13年○月○日生まれの長男B、平成19年○月○日生まれの二男Cがいる(乙1)。
 Aは、原告が保険の営業を担当するb社の代表取締役である(証人A)。
 被告及びA家族は、b社の2階の自宅に居住している。

2 争点及びこれに関する当事者の主張

         (中略)


第3 当裁判所の判断
1 認定事実

 前記前提となる事実と証拠(後掲のもののほか、甲17、28、乙5、14、証人F、同A、原告本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告とAは、平成25年3月ころに原告がb社の営業担当者となる前後から親しくなって、電子メールやフェイスブック、ライン等でやり取りするようになり(甲19~22)、原告は、Aに妻子があることを知っていた。

    (中略)

(7) 平成26年5月13日、K弁護士は、被告の代理人として、a生命静岡支社の住所(静岡市〈以下省略〉)の原告宛てに、原告がAといわゆる不倫関係を継続したことから被告が著しい精神的苦痛を被っており、不法行為に基づき慰謝料500万円を請求すること、A及びその家族、会社とは公的私的を問わず一切の接触をせず、被告の家族及び会社に危害を加えないことを誓約されたい旨の内容証明郵便を発送したが(乙3の1。以下「内容証明①」という。)、同郵便は宛名違いで返送された。

(8) 一方、被告は、内容証明①と同日の平成26年5月13日、a生命静岡支社のD支社長宛てに、原告がAと不貞行為をしていたことが判明したため、a生命においても、原告の使用者としての責任に鑑み、原告に厳正な処分をするほか、原告が公的にも私的にもAと今後一切関係を持たず、Aの会社に出入りせず、被告、被告の家族、自宅及びAの会社に近づいたり連絡したり危害を加えたりせず、法人会に出入りしないことを誓約するよう、a生命として誠実な対応をお願いしたい、また、被告側の個人情報が原告に知られており、原告が自宅近くまで来ようとしたりして家族が怖い思いをしているため、個人情報についてa生命がどのような対応をするかを検討の上、速やかに報告されたい旨の内容証明郵便を発送した(甲1。以下「内容証明②」という。)。D支社長は、同月14日、同郵便を受け取り、本社の人事担当部署等に報告・相談するとともに、E課長とともに原告から事情聴取をするなどした。

(9) K弁護士は、上記(7)の原告宛ての内容証明郵便が返送されたことから、原告の住所をハローページ(乙11)やAへの確認等で調べた後、平成26年5月19日、原告肩書き住所地のうち最後の「2F」を除いた住所の原告宛てに、上記(7)と同内容の内容証明郵便を発送した(甲2、乙3の2、乙4。以下「内容証明③」という。)。同郵便は、同月20日、原告肩書き住所地の建物の1階に住む原告の両親が受け取り、原告の両親がその記載内容を知った。

(10) 被告は、平成26年5月21日、a生命D支社長に電話し、1週間経っても回答がないが、どういう対応をするつもりか、いつ回答がもらえるのかなどと激しく問いただしたが、D支社長は、本社と相談するなどと答えるにとどまった。被告は、その後何度かD支社長と電話で面談の日程を調整するなどした。

(11) 平成26年6月2日、K弁護士が、被告の代理人としてa生命静岡支社を訪れ、同社内でD支社長及びE課長と面談し、内容証明郵便への回答を求めた。D支社長らは、原告がAとの不貞を認めていないことなどを説明した。

2 事実認定の補足説明

      (中略)


3 第1事件について
(1) 名誉毀損行為その1について
ア 前記1の認定事実(8)によれば、被告がa生命静岡支社のD支社長宛てに原告とAとの不貞行為の事実を摘示した内容証明②を送付したことにより、同事実がD支社長を通じてa生命の本社人事担当者やE課長ら不特定の者に伝播し、原告の社会的評価が低下したことが認められる。

イ 被告は、内容証明②は特定人に対する文書である旨主張し、確かに内容証明②はD支社長という特定人宛ての封書であるが、会社としての対応を要求している以上、原告の不貞の事実が社内の必要な部署に伝播することは当然に想定されていたといえる上、現実に伝播していることは上記説示のとおりである。また、被告は、a生命の保有する被告家族の個人情報が心配であり、かつ、原告の勤務先を通じてしか不貞関係を断つことができないと考えて勤務先に内容証明②を送付した旨述べるが(被告本人)、被告は、K弁護士を通じて原告宛てに内容証明①を発送しながら、その回答や対応を確認することなく、同日のうちに、自分自身で原告の勤務先に宛てて内容証明②を発送していることなどからすると、勤務先に不貞の事実を認識させることにより原告に社会的制裁を加える意図も有していたことがうかがわれる。

 そうすると、原告とAの不貞関係が事実であることや、原告とAの関係がa生命の営業担当者と取引先という関係であって、a生命に対し管理監督責任を追及したり会社としての対応を求めたりすること自体は直ちに不当とはいえないことなどを考慮しても、被告による内容証明②の送付は方法として相当性を欠くものであり、原告の名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。

ウ 上記不法行為により低下した原告の社会的評価を金銭的に評価すると、上記認定説示の内容証明②の内容や送付態様など一切の事情を総合考慮すれば10万円が相当であり、これと相当因果関係のある弁護士費用としては1万円が相当である。
 原告に体重減少や過敏性腸症候群の疑い(甲3)、子宮頸がんの疑い(甲34)などの症状があることは認められるが、これらが被告の上記不法行為と相当因果関係があるとは認められない。また、原告は、本件訴訟の判決を報告することでa生命を退職することが決まっていると述べるが(原告本人)、そのとおりの事実が認められるとしても、原告主張の得られたはずの給与や退職金といった逸失利益が被告の上記不法行為と相当因果関係のある損害であるとは認められない。

(2) 名誉毀損行為その2について
 原告は、K弁護士を代理人として内容証明③を原告の実家に送付したことが被告による名誉毀損行為に当たると主張する。
 しかしながら、そもそも、一般に弁護士は、法律の専門家として委任者とは独立した地位をもち、委任の趣旨に反しない限り相当広範な裁量権をもって行動することが許されているものであるから、K弁護士による内容証明郵便の内容や送付態様が仮に違法であったとしても、直ちに委任者である被告の違法行為とはいえない。

 のみならず、K弁護士が内容証明③を原告の実家宛てに送付したのは、原告の正確な住所を把握していなかったためであり、しかも、その宛先住所も「2階」との記載が抜けていただけである上、名宛人として原告を明示した内容証明郵便の封書として送付しているのであるから、その内容が1階に居住する原告の両親やその他不特定多数の者に伝播するとは通常考えられないし、現に、原告の両親以外の不特定又は多数の者に伝播したとの事実は認められず、原告の社会的評価が低下したとはいえない。したがって、いずれにせよ、K弁護士による内容証明③の送付は、原告の名誉を毀損する被告の不法行為には該当しない。この点の原告の主張は採用しない。

(3) 脅迫行為について
 原告は、被告がa生命に電話をかけて、原告の不貞の事実を法人会や全世界に言いふらすなどと告げて脅した旨主張するが、被告が原告主張の脅迫言辞をa生命の従業員に告げたことを認めるに足りる証拠はないし、被告はあくまでD支社長に電話をして会社としての対応を追及していたものであって、これが原告に対する脅迫行為となることを認めるに足りる証拠もない。D支社長及びE課長による文書(甲32)も内容は明確でなく、上記認定を左右するものではない。この点の原告の主張は採用しない。

(4) 第1事件のまとめ
 以上によれば、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、11万円及びこれに対する不法行為の日である平成26年5月14日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。その余の原告の被告に対する請求はいずれも理由がない。

4 第2事件について
(1) 原告とAが不貞関係にあったことは、前記1の認定事実のとおりである。これは、被告に対する不法行為を構成し、原告は、被告の被った損害を賠償する責任を負う。

(2) 損害額につき、もともと被告とAの夫婦関係が悪かったといった事情は見当たらず、被告は、原告との不貞関係の発覚を機にAと家庭内別居状態となり、今後Aとの離婚を考えていること(証人A、被告本人)、前記前提となる事実のとおりの被告とAの婚姻期間や家族構成、前記認定の不貞行為の期間や回数など、本件において認められる一切の事情を考慮すると、原告の不法行為により被告が被った精神的損害を慰謝するに足る金額としては、150万円が相当である。

(3) したがって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、150万円及びこれに対する不法行為の開始時である平成25年12月7日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。その余の被告の原告に対する請求はいずれも理由がない。

5 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判官 劔持淳子)