弁護士歴38年の豊富な経験と実績に基づきアドバイスします

(従前ホームページから)

バツイチと信じても配偶者を知って1年間不貞行為継続に賠償認容判例紹介

○原告が、被告に対し、原告の夫Aとの不貞行為を理由とする500万円の損害賠償を求めました。これに対し、被告はAをバツイチと信じており、不貞行為との認識はなかったと主張する等、これを争いました。

○この事案について、被告は、少なくとも、Aから原告との離婚手続が済んでいないと聞かされるまでは、Aに離婚していない配偶者が存在していることは知らなかったと認められ、かつ被告に何ら不注意はなかったと認められるが、客観的にAとの不貞行為の事実が明るみになった以降も約1年もの間不貞行為を継続し、結果として、原告とAとの婚姻関係の破綻を招来しているものと認められるとして、被告は原告に対し、不貞行為による責任を免れないとして、慰謝料50万円を認定した平成19年6月4日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)全文を紹介します。

**********************************************

主    文
1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成18年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成18年10月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,不貞行為を理由とする損害賠償を求めた事案であり,被告は,不貞行為との認識はなかったと主張するなど,これを争っている。
1 争いのない事実等
 原告とAは,昭和61年7月31日に婚姻し(甲1),両者の間にB(平成元年○月○日生)を儲けた。

2 原告の主張
(1) 原告とAは,共働きにより家計を維持し,20年近くに亘り,結婚生活を営んできた。
(2) しかし,被告は,Aが原告と結婚して家庭生活を営んでいることを知りながら,Aとの間で,交際を開始し,平成17年夏頃には,男女の関係となり,Aを被告宅に宿泊させるなどして,その関係を継続していた。
(3) 原告は,同年10月末頃,Aから,1年前から被告とつき合っていること,被告と結婚したいので原告と別れて欲しいことなどを言われた。原告は,返答に困っていると,Aは,原告に対し,被告から離婚届けを持ってこい,原告の勤め先の会社の前で自殺してやるなどと離婚を迫られていると言った。その後,Aは,同年11月初旬には,原告宅から出ていき,被告と同居するに至った。
(4) 原告及びAの親族が,Aに対し,被告との不貞行為を中止するように何度となく説得したが,Aは,これを聞き入れず,被告と同居し,不貞行為を継続している(甲3ないし5)。
(5) 原告は,Aと被告との不貞行為により,精神的苦痛を受け,それを慰謝するには500万円を下らない。
(6) 被告は,平成17年5月ないし6月頃,Aの実母の入院の際にAの実家に行っているし,実母とも会って話しをしていることに照らすと,Aに妻子がいることを知っていたはずである。
(7) Aは,原告に対し,被告と結婚すると通告した末,平成17年11月初旬,原告宅を出て,被告宅に行ったが,被告は,同月27日,Aの実家宛てに送ったFAXの中でAとの関係を続けていくと表明している(甲9)。さらに平成18年4月,被告は,Aとともに有限会社の取結役に就任し,ともに経営に関わっている(甲6)。
(8) 仮に,被告が,平成17年11月,Aに妻子がいることを初めて知ったとしても,その後もAとの不貞関係を継続している。Aは,平成18年4月1日に住所を被告宅に移し,その頃,被告とAは会社の経営を開始している。また,Aは,住民票の移動はなく,被告と同居している。
(9) 被告は,平成17年12月,Aと一緒に会社の設立パーティーを旗揚げし,平成18年4月,会社の登記をし,同年5月,勤務先の会社を退社している。

3 被告の主張
(1) 被告は,平成16年9月27日頃,Aと知り合った。その当時,Aは,被告に対し,2年ほど前に協議離婚したこと,その際,慰謝料と養育費を1500万円支払ったことなどいわゆるバツイチの独身であると言っていた。Aの同僚も,被告に対し,バツイチであると言っていたし,身なりも配偶者がいるようには見えなかった。

(2) 被告は,平成17年11月頃,Aと同居し始めたが,その頃,Aに配偶者がいると知ったものである。Aは,被告に対し,協議離婚したにもかかわらず,原告が離婚届を出していなかったなどと弁解し,再度,離婚手続をして貰ってくると言って出かけていったものである。

(3) 平成18年9月ないし10月頃,Aは,同居先から出ていったため,被告は,現在,Aとは同居していない。

(4) 被告は,Aから,離婚もしていないにもかかわらず,離婚していると嘘をつかれ,結果として,不貞の相手をさせられたものである。そして,被告は,Aのサラ金の借金を代わりに支払い,Aの車のローンの名義人にもなり,手持ちのお金も使い果たし,借金だけが残ったものである。このような嘘をつくAの配偶者が原告であるならば,原告にも夫婦として,連帯責任があるはずである。

(5) Aは,平成16年9月頃,被告と知り合うと,同年11月頃には,被告に対し,1日に10回以上も電話するようになった。同年12月には,Aは,被告宅の近くに来て車の中で寝るようになる。被告は,Aの服装が会社の作業服であったため,見かねてセーターとジーンズをプレゼントしたこともある。被告とAは,平成17年元旦の夜も初詣に一緒に出かけたりした。同月下旬頃,Aは,仕事の同僚の面前で,被告に対し,プロポーズした。このような中で,被告が,Aに配偶者がいないと思ったことは無理もない。

(6) 同年4月,Aは,被告に対し,婚姻届けを持ってきたし,同年5月,婚姻届けを提出しようと言われ,被告の友人夫婦に証人になって貰っている。その後,Aの母親が心筋梗塞により入院した際,被告は,何度となく,手伝いに行ったが,その際にもAに配偶者がいるとの話は一切なかった。

4 争点
 双方の主張を踏まえると,本件における主要な争点は,被告は,Aに配偶者が存在することを知りながら,または,不注意によりこれを知らないでAとの間で男女の関係を持ったか否かである。

第3 争点に対する判断
1 証拠(甲1ないし14,乙1ないし3,原告及び被告各本人尋問の結果)並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) Aは,学校を卒業後,生家である花屋の家業を将来継ぐ予定で,修行のため,鈴木フローリストなどの他の花屋に勤務した後,生家の花屋の手伝いをしていたが,その商売もあまり盛況ではなかったため,再度,他の花屋で働くようにより,平成16年頃には,花幹に勤務していた。

(2) 原告は,Aと婚姻後も日本IBMに勤務し,当初はアパート暮らしであったが,その後に一軒家を購入し,現在では,ローンの返済も完済している。

(3) 原告とAとの間は,特に離婚まで至るような出来事はなく,Bの入学式や卒業式などには夫婦揃って出席していた。

(4) しかし,Aは,原告に気づかれないように何度と無く,浮気を繰り返していた。

(5) 被告は,学校を卒業後,銀行に勤務した後,結婚したが,配偶者の両親の借金などが問題で離婚をし,その後,葬儀社で葬祭ディレクターの資格を取り,平成16年頃には,司会業などを勤めていた。

(6) 被告は,平成16年9月27日頃,川崎の寺で司会の仕事をしていた際,生花等の関係でその寺に出入りしたAと知り合った。

(7) その後,Aは,従前の浮気癖が再発し,営業と関連して,何度か被告と会っている中で,被告に対し,2年ほど前に協議離婚したこと,その際,慰謝料と養育費を1500万円支払ったことなどいわゆるバツイチの独身であると自己紹介をした。被告は,Aから,独身であると紹介されたことやAの勤務先の同僚などがAがバツイチであると言っていたことなどから,特に疑いもしないで,Aがバツイチであると思いこんだ。

(8) Aは,被告と知り合うと,同年11月頃には,被告に対し,1日に10回以上も電話するようになり,同年12月には,Aは,被告宅の近くに来て車の中で寝泊まりするようになった。
 被告は,当初,Aの行動を半信半疑に思っていたが,次第にAの熱心な行動に好意を抱くようになり,Aとの再婚を考えるようになった。

(9) 他方,原告は,Aが仕事の関係で泊まり込みなどがよくあることを聞いていたため,Aに外泊が多いことは気にしていなかった。

(10) 平成17年1月,被告は,Aの誘いを受け,一緒に初詣に出かけたり,同月下旬には,Aは,仕事の同僚の面前で,被告に対し,プロポーズしたこともあり,Aと再婚する気持ちになった。

(11) このような中で,同年3月,被告は,Aとの再婚話を恩人や住職にしたところ,正式に婚姻した方がよいとのアドバイスを受けたり,Aと一緒に墓参りなども行ったりしていた。

(12) 同年4月には,Aは,被告に対し,婚姻届けを持ってきたし,同年5月,婚姻届けを提出しようと言われ,被告の友人夫婦に証人になって貰った。しかし,婚姻届の記入方法に誤りがあったり,Aの母親が心筋梗塞により入院したなどの事情があったため,被告は,Aとの婚姻届を区役所に提出する機会を逃していた。
 なお,被告は,何度となく,Aの生家に手伝いに行ったが,その際,Aから,生家の両親に対し,被告を結婚相手であるとの紹介がなかったことから,生家の両親から,Aが未だ離婚していないなどの話を聞くことはなかった。

(13) 被告は,Aとの間で,婚姻の際の戸籍の表示などを区役所の職員などから聞き,同年10月頃には入籍を予定していたが(乙2),Aが父親が病気であるとの不合理な弁解をした。
 被告は,友人にAの上記弁解を話したところ,婚姻とAの父親の病気とは関係ないのではないかと言われたため,再度,同年10月,Aに対し,婚姻届の提出を迫ったところ,Aは,被告に対し,原告との間で協議離婚したが,原告が離婚届を出していなかったなどと弁解した。そして,Aは,被告に対し,原告との間で離婚手続をして貰ってくると言って出かけて行った。

(14) Aは,同年10月末頃,原告に対し,1年前から被告とつき合っていること,被告と結婚したいので原告と別れて欲しいことなどを言った。
 原告が返答に困っていると,Aは,原告に対し,被告から離婚届けを持ってこい,原告の勤め先の会社の前で自殺してやるなどと離婚を迫られていると言った。

(15) その後,Aは,同年11月初旬には,被告と結婚すると通告し,原告宅から出ていき,被告と同居するに至り,同月27日には,被告は,Aの生家に対し,FAXを送信したが,その中でAとの関係を続けていくと表明した(甲9)。さらに平成18年4月,被告は,Aとともに有限会社の取締役に就任し,ともに経営に関わっている(甲6)。

(16) 原告及びAの親族は,Aに対し,被告との不貞行為を中止するように何度となく説得したが,Aは,これを聞き入れず,被告と同居し,不貞行為を継続している(甲3ないし5)。
 しかし,Aは,平成18年9月ないし10月頃,被告との同居を解消し,同居先から出て行った(乙3)。

2 以上の事実が認められる。とすると,少なくとも,被告は,Aから原告との離婚手続が済んでいないと聞かされるまでは,Aに離婚していない配偶者が存在していることは知らなかったと認められる。
 この点,原告は,当初から,被告がAに配偶者が存在することを知っていたはずであると主張するようであるが,被告は,A自身からバツイチであると聞かされているし,Aの仕事仲間からも同趣旨の言動がなされていることを踏まえるならば,男女の関係の中で,見合いなど特段の事情のない限り,それ以上に相手方を詮索するような言動をしないことが通常であるから,Aの言動等を信じたとしても被告に何ら不注意はないと認められる。

 また,原告は,被告が,平成17年5月ないし6月頃,Aの実母の入院の際にAの生家に行っているし,実母とも会って話しをしていることに照らすと,Aに妻子がいることを知っていたはずであると主張するが,上記のとおり,Aは,生家の両親に対し,被告と結婚すると話していないこと,被告は,Aから,生家の両親に紹介されていないこと,Aが,被告に対し,配偶者の存在を秘匿しており,生家の両親にも悟られないように行動していたと思われることなどに照らすと,被告が,生家の両親から,Aに配偶者の存在を聞かされていなかったことは十分あり得る事態であると認められる。したがって,原告の上記主張は証明がなく,採用できない。

 さらに,原告は,Aの勤務していた花幹で原告の両親の葬式を頼んでおり,花幹の関係者はAに配偶者の存在することを知っていたはずであると主張するようであるが,上記葬式には別れた配偶者や子供も出席することがありうるから,そのことから,直ちに,花幹の関係者がAに配偶者が存在することを知っていたことにはならない。したがって,被告が,Aの同僚である花幹の職員からAがバツイチであることを聞いていたとの供述は虚偽であると認められない。

 もっとも,被告は,Aに配偶者が存在することを知ると,Aの協議離婚はしているが,離婚届は提出していないなどの言動を真に受け,Aの生家に対し,Aとの関係を続けていくなどと表明するなど,客観的にAとの不貞行為の事実が明るみになった以降も約1年もの間不貞行為を継続し,結果として,原告とAとの婚姻関係の破綻を招来しているものと認められる。この点において,被告は,原告に対し,不貞行為による責任を免れないものと認める。被告は,Aから,原告との婚姻事情をうち明けられるまではAとの婚姻を真に期待していたこともあり,Aの上記告白を受け,混乱していた事情などを踏まえると,原告に対する精神的苦痛を慰謝するには50万円を以て相当であると認める。それ以上の損害については,原告において,その証明がないものと認める。

 なお,Aと被告が,平成17年12月,一緒に会社の設立パーティーを旗揚げし,平成18年4月,会社の登記をし,同年5月,勤務先の会社を退社していることなどの事情については,会社設立の事情は第三者との関係があり,直ちに違法とは言えないこと,また,その後,被告は,会社から事実上撤退していることなどの事情を踏まえると,直ちに,原告に対する不法行為を構成するものではない。

3 結論
 以上のとおり,原告の請求は主文の限度で理由がある。 (裁判官 杉本宏之)

Page Top



Page Top

(従前ホームページから)
小松亀一法律事務所 Tel022-266-8257、Fax022-266-8255
〒980-0811仙台市青葉区一番町2-10-26-702旭コーポラス一番町