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(従前ホームページから)

不貞行為期間8年間の不貞行為第三者への150万円の支払を認めた判例紹介

○不貞行為第三者への判決を集めていますが、残念ながら、現時点では、学説の主流である不貞行為第三者無責任説に立った判例は見つかっていません。日本の裁判官には、兎に角、他のこれまでの裁判例集積に反する判決を出すことについて、根強い抵抗感があることを示しています。

○東京高裁昭和60年11月20日判決(判時1174号73頁)は、まだ学説の主流が不貞行為第三者無責任説になっていない時期と思われますが、「婚姻関係の平穏は,第一次的には配偶者相互間の守操義務,協力義務によって維持されるべきものであり,この義務は配偶者以外の者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なると解するのが相当であるから,合意による貞操侵害の類型においては,不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり,不貞の相手方の責任は副次的なものと見るべきである。」と不貞行為第三者責任について真っ当なことを言っています。

○しかし、同判決は「副次的」と言いながらも500万円の慰謝料請求に対し200万円も支払を認めています。この東京高裁判決を引用し、同様に「不貞の相手方の責任は副次的なものと見るべきである」と言いながら、8年の不貞行為継続について300万円の請求に対し150万円の支払義務を認めた平成28年9月30日東京地裁判決(TKC)を紹介します。私の感覚では、まだ高すぎますが。

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主   文
1 被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,原告の夫との間で不貞行為を行った被告に対し,当該不貞行為の結果,原告夫婦の婚姻関係が破綻したとして,不法行為に基づき,慰謝料300万円及び催告による損害賠償金の支払期限の翌日(最終不貞行為日の後)である平成27年9月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる事実)
(1)ア 原告(昭和35年生まれの女性)とC(昭和34年生まれの男性。以下「C」といい,原告及びCを合わせて「原告夫婦」ということがある。)は,昭和57年7月に婚姻し,昭和61年○月に長男が,平成元年○月に長女が出生した。
 Cは,平成4年,東京都清瀬市に自宅として土地及び建物を購入し,以後,原告夫婦,長男・長女及びCの両親が同所に居住していた。(甲1)
イ 被告は,昭和43年生まれの独身女性である。

(2)Cと被告とは,平成14年,被告が当時ホステスとして働いていた店にCが来たことから知り合いとなった。(甲9,被告本人)

(3)Cは,平成17年,新宿区α町にラーメン店「よか楼」を開店し,Cの両親とともに営業をしていた。この頃,Cは,同店の裏手にワンルームマンションを借りており,前記自宅に帰ることができないときには,同マンションに泊まることもあった。(甲4,9)

(4)Cは,平成19年頃,被告との交際を開始し,被告と肉体関係を持ったこともあった。(証人C,被告本人)

(5)Cは,平成23年6月,民事再生手続開始決定を受けて返済を開始し,同年末頃,再起を図るため,α町の前記ラーメン店を閉店し,埼玉県熊谷市に新たにラーメン店「よか楼」を開店した。この際、Cは,いったんは前記自宅に戻り,当初は自宅から通勤をしていたものの,その後,同店の近くにマンションを借りて生活を開始した。もっとも,1週間に一度は自宅に帰宅していた。(甲4,5,9,証人C)

(6)被告が平成27年7月,原告の携帯電話に電話を掛けたことから,被告とCとの交際関係が発覚し,Cは,原告に対し,被告と不貞関係にあったことを認めた。原告とCとは,現在,離婚協議中である。(甲2)

(7)原告は,同年8月28日,被告に対し,内容証明郵便により,同郵便到達後10日以内に不法行為による慰謝料300万円を支払うように求め,同郵便は,同月31日,被告に到達したが,被告はこれを支払わない。(甲3の1,3の2)

2 争点及び当事者の主張

    (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告夫婦の婚姻関係破綻の有無)について

 被告は,被告とCが不貞関係になった平成19年頃には,原告夫婦の婚姻関係は破綻していたと主張する。
 確かに,Cは,平成17年にα町にラーメン店を開店し,同店の裏手にマンションを借りており,同マンションに泊まることもあった(前提事実(3))のであるから,原告夫婦は,毎日同居をして共同生活をしているわけではなかったと認められる。もっとも,当該別居は,Cが家計を維持するためにラーメン店を営業する必要があったことによるものであって,決して,原告,Cのいずれも,夫婦共同生活を継続する意思がなくなったことによるものであるとは認められない(平成23年末,埼玉県熊谷市にラーメン店を新規開店し,別居を継続した点についても,同様である。)。
 このことは,平成22年に長女が成人を迎えた際に,自宅の前で家族そろって写真を撮影していること(甲7の1,7の2),平成27年に至っても,正月には自宅で原告夫婦,Cの両親がともに食事をしていること(甲8の1から8の4まで),そして,同年7月7日,Cと被告との不貞行為が発覚するまでは,原告もCも,全く離婚の意思を有していなかったこと(弁論の全趣旨)からも明らかである。

 これに対し,被告は,Cが複数の女性と半同棲して不貞関係を持ち,外泊,遅い帰宅,休日の外出で自宅にいないことが多かったこと,原告とCとの間には,10年位の間,性的接触がなかったこと,Cの被告に対する言動から,Cに原告との離婚意思があったことなどを根拠にして婚姻関係の破綻を主張するけれども,Cが被告以外の女性と半同棲をしていた事実を裏付ける証拠はない(乙第1号証によれば,Cは,平成23年以降,戸籍の附票上の住所を自宅のある東京都清瀬市から東京都新宿区α町,同区β等に3回変更している事実が認められるところ,その経緯は明らかではないが,少なくとも女性との半同棲に伴って戸籍の附票上の住所を変更することは考え難いから,これが前記の証拠とはならないというべきである。)し,性的接触がないことから直ちに婚姻関係が破綻しているともいえないことは明らかである。

 また,前記事実関係に照らせば,仮に被告の主張するように,Cが被告に対し,「妻から離婚話が出るのを待っているんだ。仮面夫婦なんだよ。」と言った事実があったとしても,これは,Cが被告の気を引こうなどの考えから言ったにすぎないというべきであり,Cが真に原告との離婚を希望していたとは考え難い。

 以上によれば,原告夫婦の婚姻関係が破綻していたとの被告の主張は,採用することができない。

2 争点2(被告の故意・過失)について
(1)被告は,被告がCとの不貞行為を開始した当時,被告はCが婚姻していることを知らなかったと主張する。
 しかし,証拠(甲9,証人C)によれば,Cは,平成14年頃,被告がホステスをしていた店や被告の友人の店を飲み歩いており,それらの店で,Cは犬を飼っているとか,高校生の子どもがいるとかいう話をしていたこと,被告も,Cは離婚するようなタイプの人ではないなどと言っていた事実が認められ,これによれば,被告は,Cとの不貞関係を開始した平成19年の時点において,Cが婚姻していた事実を知っていたと認めることができる(なお,被告は,これを否定するけれども,Cは被告から訴訟告知を受けており,被告が本訴訟で敗訴すれば,被告から求償請求を受けかねない立場にあることからすると,Cが被告に不利な虚偽の証言をするとは考え難く,Cの証言には基本的信用性が認められる。これに対して,被告の供述は,全体的に客観的裏付けに乏しいものであって,これを直ちに措信することはできない。)。
 したがって,被告がCとの不貞行為を開始した時点において,被告には,当該行為が不法行為に当たることについての故意があったと認められる。

(2)また,仮に被告が不貞行為を開始した時点では,Cが婚姻していることを知らなかったとしても,被告自身が認めるとおり,被告は,Cとの交際が始まってから約1,2年経った頃,周囲の噂などからCが結婚していることに気付き(被告本人),その後の平成23年頃,Cから婚姻している事実を告げられており,これにより,Cが婚姻関係にあることを知りながらCとの不貞関係を継続したと認められるから,少なくともこの点については,原告に対する不法行為責任を負うというべきである。

 これに対し,被告は,Cから婚姻していることを告げられると同時に,原告との婚姻関係は既に破綻している旨告げられ,これを信じたから,被告には故意が認められないし,過失もないと主張する。
 そこで検討するに,婚姻関係にある者と不貞行為を行ったとしても,当該婚姻関係がその当時既に破綻していたときは,特段の事情のない限り,不法行為には該当しない(最高裁平成8年3月26日第三小法廷判決・民集50巻4号993頁)から,本件において,被告が,原告とCとの婚姻関係がその当時既に破綻していると信じ,また,そのように信じたことについて過失がない場合には,不法行為についての故意・過失を欠くというべきである。

 これを本件について見ると,被告は,平成23年頃,Cから,原告との婚姻関係について,「会話もない,愛情もない。でも,資産を取られるから,妻から離婚話が出るのを待っているんだ。仮面夫婦なんだよ。」と打ち明けられたことから,原告とCとの婚姻関係が破綻していると信じた(乙2)と述べるけれども,不貞行為の相手方が,不貞行為を続けたいがために婚姻関係が破綻している旨の嘘を言うことは社会通念上散見されることと考えられる。また,被告は,Cが両親とともに経営するラーメン店に出入りすることもあった(被告本人)というのであるから,Cの婚姻関係について両親に確認しようと思えば確認することもできたはずであるが,そのようなこともしていない。これらの点に照らすと,何らの確たる裏付けなく被告がCの前記発言を信じたことについては,過失があるといわざるを得ない。

(3)したがって,本件の不貞行為に関し,被告に故意・過失がないとする被告の主張は,採用することができない。

3 争点3(慰謝料の額)について
(1)以上によれば,被告は,故意又は少なくとも過失によりCとの不貞行為を行ったと認められる。そして,当該不貞行為が原告に判明した結果,原告は,Cとの婚姻関係を継続する意思を失って離婚協議をするに至っており,原告夫婦の婚姻関係は破綻したといえるから,被告は,原告に対し,当該破綻により原告が被った精神的損害について,不法行為に基づく損害賠償義務を負うと認められる。

(2)これに対し,被告は,仮に被告が不法行為責任を負うとしても,本件の不貞行為に関する被告の責任は,Cに比して低いので,慰謝料額も減額されるべきであると主張する。
ア そこで検討するに,被告も指摘する東京高裁昭和60年11月20日判決・判時1174号73頁が判示するとおり,婚姻関係の平穏は,第一次的には配偶者相互間の守操義務,協力義務によって維持されるべきものであり,この義務は配偶者以外の者の負う婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なると解するのが相当であるから,合意による貞操侵害の類型においては,不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり,不貞の相手方の責任は副次的なものと見るべきである。

 さらに,不貞に至った点やその態様に鑑みて,不貞の相手方の責任が不貞を働いた配偶者に比して低いと認められることなども,慰謝料額を減額すべき一事情として考慮するのが相当である。

イ これを本件について見ると,証拠(証人C)及び弁論の全趣旨によれば,本件の不貞行為は,債務処理の問題に迫られた被告に対し,Cが弁護士を紹介するという関係を利用し,Cが被告を誘って開始されたものであったことが認められる。また,被告が主張するように,被告がCから暴力を受け,Cに利用され,騙され続け,傷付けられたなどの事実(争点3に係る被告の主張イ(ア)ないし(エ))については,被告の供述以外にこれを認めるに足りる証拠はなく,直ちにそのような事実全てがあったとまでは認めることができない。

 しかし,他方,証拠(甲2,原告本人)によれば,被告は,平成27年7月7日,原告に対し電話を掛け,「Cさんに紐みたいなホストみたいなことさせない方がいいですよ。お金ないんなら貸しますよ。」などの発言を留守番電話に録音している事実が認められ,弁論の全趣旨に照らしても,被告は,Cに対し,相当な悪感情を有していると認められるのであって,これらの事情を併せ鑑みると,Cが被告に対していかなる態度で接していたかの詳細な認定は措いたとしても,少なくとも,Cが被告に対し,金銭的に依存しているような状況にあったことのほか,Cが被告の意に反して不貞関係を継続することを強要させることなどがあって,被告がCに対するいわば報復として,原告に対して前記の電話をしたことがうかがわれるというべきである。以上によれば,本件の不貞行為に関する被告の責任は,Cの責任に比して低いと認めるのが相当である。

 また,被告は,Cの婚姻関係が破綻しているという趣旨のCの発言を聞き,それを信じてCとの不貞行為を継続していたと認められるところ,Cの発言を信じた被告に少なくとも過失が認められることは前記2(2)のとおりであって,当該事情が不法行為の成立を否定する要素となるものではないけれども,慰謝料額の算定の段階においては,これを,慰謝料額を減額するに際して斟酌すべき一事情と解するのが相当である。

(3)以上を踏まえ,本件で被告が原告に対して支払うべき慰謝料額について検討すると,原告とCとの婚姻関係は,昭和57年から始まって,約30年以上,格別の問題なく円満に継続してきた(別居等の事実がこの判断を左右しないのは前記1のとおりである。)にもかかわらず,本件の不貞行為(約8年間という長期間にわたる。)が発覚したことによって,原告は,Cとの婚姻関係を終わらせる意思を強固にしているのであって,いまだ離婚には至っていないものの,原告とCとの婚姻関係は,確定的に破綻したと認められ(前記(1)),原告が被った精神的苦痛は,非常に大きいということができる。
 そうすると,前記(2)のとおり,本件の不貞行為そのものについて,被告の責任がCに比して低い点などを考慮してもなお,被告が原告に対して支払うべき慰謝料としては,150万円を認めるのが相当である。


第4 結論
 よって,原告の請求は,主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第42部 裁判官 中畑洋輔

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