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(従前ホームページから)

婚姻破綻不認定ながら不貞行為第三者責任を否定した判例紹介

○原告夫(整形外科医師)が、被告男性に対し、原告の妻Aと不貞行為をしたと主張して、慰謝料等の支払を求めるも、被告の不貞行為が開始される以前に、専ら原告のAに対する肉体的、精神的な暴力により、婚姻共同生活の平和を害する行為により婚姻関係を破綻に瀕する状況となり、原告の不適切な発言により訴外Aが離婚を躊躇しているに過ぎないことから被告の不貞行為により直ちに原告の法的保護に値する利益を侵害されたと認定するのは困難であるとして、原告の請求を棄却した平成26年9月11日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○被告男性は、原告夫の妻Aに対する暴力等で原告夫婦関係は破綻していたと主張しますが、判決は訴外Aは,現在に至るまで離婚を決断することができず,別居や離婚調停の申立て等,直ちに離婚することを前提とする具体的な行動を取らないまま,原告と子らと同居してその婚姻関係を継続していることが認められるから,現時点において婚姻関係が破綻したとまで認定することは困難であると認定しました。

○ところが、原告が婚姻共同生活の平和を害する行為をして婚姻関係を破綻に瀕する状況にし,原告の不適切な発言により訴外Aが離婚を躊躇しているに過ぎないにもかかわらず,被告の不貞行為により直ちに原告の法的保護に値する利益を侵害されたと認定するのは困難であるとして請求を棄却しました。

○「原告が婚姻共同生活の平和を害する行為をして婚姻関係を破綻に瀕する状況にし,原告の不適切な発言により訴外Aが離婚を躊躇しているに過ぎない」との事実は、訴外Aの陳述書・証言がないと立証出来ないはずです。訴外Aがこの立証に協力しながら離婚していない状況が不思議です。

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主  文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求

 被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成25年7月16日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告に対し,原告の妻と不貞行為をしたと主張して,慰謝料等550万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 これに対し,被告は,原告の妻と不貞行為をしたことは認めるが,原告の婚姻関係は既に破綻しており,原告の権利侵害はないなどと主張して争っている。

1 前提となる事実(争いのない事実及び後掲各証拠で容易に認定できる事実)
(1)
ア 原告(昭和34年生)は,平成17年から,整形外科医院を経営している医師である(甲10)。
 原告と妻であるA(昭和43年生。以下「訴外A」という。)は,平成6年10月25日に婚姻した。原告と訴外Aとの間には,長男B(平成8年生),二男C(平成10年生),長女D(平成14年生),二女E(平成15年生)がいる(甲1)。

イ 被告(昭和29年生)は,Fと称して占い師を業とする者であるが,絵画で優秀賞を受けた経歴がある(乙5,6,8,9)。

(2) 訴外Aが,平成23年1月,占い師である被告に電話で相談したことで,被告と知り合い,その後,被告と不貞関係に至り,その関係を継続している。

(3) 原告は,平成25年6月15日,被告宅に訪れ,被告に対し,言葉巧みに訴外Aを操ってマインドコントロールをしている,被告の目的は訴外Aに金を貢がせることになるなどと述べ,訴外Aと別れるよう求めたところ,これに対し,被告は,訴外Aと不貞関係にあることを認めたものの,訴外Aと婚姻するつもりであるなどと述べてこれを拒んだ。

(4) 原告は,被告に対し,平成25年6月18日付け書面において,不貞に基づく慰謝料請求をし,訴外Aとの交際を止めるよう求めたが,被告はこれを拒んだ。

(5) 原告は,同年7月4日,被告を相手取り,本件訴えを提起した。

2 争点

    (中略)


第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(不貞行為の開始時期)につい

 被告は,訴外Aと肉体関係をもった時期につき,平成24年末である旨主張し,平成23年末頃にラブホテルに行ったのは,性行為が目的ではなく,絵を描くためであり,性行為はしていないと供述する。

 しかしながら他方,被告は,平成23年8月頃には,占い師と顧客の関係ではなく,少なくともキスをする交際であり,同年末から訴外Aとラブホテルに行ったことを認める供述をしているもので,このような交際をしている男女が,二人でラブホテルに行けば性行為を行うのが通常である。仮に,被告が主張するとおり,絵を描く目的で訴外Aとラブホテルに行ったとしても,性行為をすることは可能であり容易であったのであるから,そのときに性行為をしなかったという被告の供述をたやすく信用することはできない。

 加えて,被告は,平成24年末以降は20回から50回程度は性行為をしたことを認める供述をしていることも併せ考えると,原告が主張するとおり,被告は,遅くとも平成23年末までには訴外Aと肉体関係にあったと考えるのが相当であるから,これに反する被告の主張を採用することはできない。

2 争点(2)(婚姻関係の破綻)について
(1) 前記前提となる事実,甲10,乙9,10,証人A,原告本人(一部),被告本人及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成7年から現在に至るまで,訴外Aに対して,日常的に,横柄な態度で訴外Aに接し,罵倒することも少なからずある中で,第2の2(2)被告の主張アのとおり,
①平成9年,当時1歳の長男を抱いていた訴外Aに椅子を投げつけ,
②平成21年1月2日,「俺を呼びつけやがって」と怒鳴り散らし,訴外Aらが帰宅した後,訴外Aの髪を掴んで引きずり回したため,長男が止めに入ると,今度は長男に馬乗りになって,その首を絞め付け,これを止めようとした訴外Aが原告の手の甲に傷がつく程,抵抗し(甲7),他の子供達がおびえて110番通報して「助けて,殺される」と訴えるにまで至ったこと(なお,長男は小学6年生のときに,友人から首を絞められたことで学校を怖がるようになり,結局2か月以上入院し,その後も学校を欠席した経緯があるため,訴外Aは,原告の人間性を全く理解できなくなった旨供述している。),また,原告は,
③平成23年2月,子供の喧嘩に腹を立て,次男のバッドで本棚を叩き壊し(乙1,2の1ないし3),
④同年11月,自宅で酔った際,訴外Aの腕を掴んで,壁に叩きつけ,これにより訴外Aの腕に皮下出血の傷害を負わせ(乙3,4),
⑤平成25年12月24日夜から明け方にかけて,原告と長男は,長時間にわたって訴外Aを室内に閉じ込め,殴る蹴るの暴力を加え(原告は,訴外Aの顔面を1回殴打しただけであると供述しているものの,長男の暴力を止めた形跡はなく,少なくとも長男とともに訴外Aに暴力を加えたことは認められる。),これにより,1か月程度の加療を要する顔面打撲傷,左目瞼挫傷,右前腕圧挫傷,頸椎捻挫,左下腿切創の傷害を負わせたこと(乙11),
そのほか訴外Aに対し,長時間,罵倒した後に性行為を強要することがあったことが認められ,
また,原告のかかる言動により訴外Aが心身に不調を来し精神科を受診することを希望したにもかかわらず,原告がこれを許可しなかったことからその症状はさらに悪化して,訴外Aは,都内の自由診療で精神科を受診せざるを得なかったことが認められる。

(2) これに対して,原告は,訴外Aに対して,理由なく暴力を加えたことはなく,横柄な態度を取ったり罵倒したことはないなどと主張する。

 しかしながら,訴外Aが,心身に不調を来したことにつき,各証拠によっても,原告の肉体的暴力及び精神的暴力のほかにその理由はうかがわれない上に,この点に関し,原告は何ら具体的に主張していない。

 また,原告は,訴外Aが精神科を受診することを希望しているのにこれを許可しなかったことが認められるが,これを正当化できる理由は通常考えられないから,かかる原告の行動は訴外Aに対する配慮が全くないことを強く推認させるものであり,訴外Aが心身に不調を来した原因が原告の言動にあることを裏付けるものである(なお,証人Aによれば,医師である原告は,原告が訴外Aに暴力を振るったこと等を,原告夫婦の居住地である浜松市内の精神科医に知られることを恐れて受診を許可しなかった可能性が認められる。)。

(3) 以上のように,原告の訴外Aに対する精神的,身体的な暴力等が認められ,その期間は平成7年頃から現在に至るまでという長期にわたっており,身体的な暴行も訴外Aが怪我を負う等,軽視できないものであることに加えて,精神的な暴力についても,日常的に横柄な態度を取り,性行為の強要をする等したものであり,これら原告の言動により訴外Aが心身に不調を来したにもかかわらず,訴外Aが精神科を受診することを許可せず,さらに心身の状態が悪化したことが認められることからすると,被告との不貞行為が開始した平成23年より前に,原告のかかる精神的,肉体的暴力により,原告と訴外Aの婚姻関係は破綻に瀕していたものと考えられる。

 しかしながら他方,訴外Aは,現在に至るまで離婚を決断することができず,別居や離婚調停の申立て等,直ちに離婚することを前提とする具体的な行動を取らないまま,原告と子らと同居してその婚姻関係を継続していることが認められるから,現時点において婚姻関係が破綻したとまで認定することは困難である。

 よって,これに反する被告の主張を採用することはできない。

3 争点(3)(原告の損害及びその額)
(1) 原告は,被告の不貞行為により,原告の平和な家族を半ば崩壊させ,原告の夫権を侵害されたと主張する。
 よって検討するに,前記前提となる事実,甲10,乙9,10,証人A,原告本人(一部),被告本人及び弁論の全趣旨によれば,前記のとおり,原告の訴外Aに対する肉体的,精神的な暴力により,訴外Aが心身に不調を来すまでに至り,婚姻関係が破綻に瀕するようになっていたところ,原告が,訴外Aの精神科への受診を許可しなかったため,訴外Aが,平成23年1月3日,占い師である被告に対し,原告との婚姻関係につき相談したことで知り合い,これを契機に,被告と不貞関係になったことが認められる。

 第三者が夫婦の一方と不貞関係にあることが他方配偶者に対する不法行為となるのは,それが他方配偶者の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為といえることによると解されるところ,前記のとおり,原告と訴外Aの婚姻関係は,被告の不貞行為が開始される以前に,専ら原告の訴外Aに対する肉体的,精神的な暴力により,既に婚姻共同生活の平和の維持が困難な状況になり破綻に瀕していたものであるといえる。

 そのような状況下であれば,婚姻関係が破綻するのが自然であるところ,訴外Aにおいて現在に至るまで婚姻関係を継続しているのは,原告が,訴外Aに対し,離婚をすれば,子らの養育費や住居費を十分には支払わないし,被告との関係を卑猥な表現で小学生の娘にも言うなどと不適切な発言をしたことが,訴外Aにおいて離婚を躊躇している大きな原因になっており(乙10,証人A),その婚姻関係がかろうじて保たれているに過ぎないから,これらの事情を前提にすると,婚姻関係の継続により保護すべき原告の利益が大きいものとはいえない。

 また,原告が,訴外Aが心身に不調を来しているのに精神科への受診を許可しなかったため,占いに興味がなかった訴外Aが,原告との婚姻関係を相談するために占い師である被告と知り合い,被告との不貞行為を開始したものであることからすると,原告の言動が訴外Aと被告との不貞行為を誘発した主要な要因であると言わざるを得ない。

 以上のことを総合考慮すると,原告が,婚姻共同生活の平和を害する行為をして婚姻関係を破綻に瀕する状況にし,原告の不適切な発言により訴外Aが離婚を躊躇しているに過ぎないにもかかわらず,被告の不貞行為により直ちに原告の法的保護に値する利益を侵害されたと認定するのは困難である。

(2) よって,これに反する原告の主張を採用することはできない。

4 以上のことから,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。(裁判官 今泉愛)

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