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2度の接触しない合意反故に対し700万円慰謝料請求に50万円認めた判例紹介

○原告が被告に対し、被告が、原告の妻との間で不貞行為をしたことに基づき合意された原・被告間の2度にわたる示談の後、被告は原告の妻と再度不貞行為を行ったことから、原告が被告に対して、原告の貞操権を侵害したことに基づき、慰謝料700万円等の支払を求めた事案において、不貞行為の存在を認め、これによる慰謝料は50万円が相当であるとして請求を一部認容した平成26年12月24日東京地裁判決(ウエストロー・ジャパン)を紹介します。

○被告男性は、原告妻A女と男女関係となり、原告からの追及に対し、いずれも公正証書で
①平成24年10月30日、慰謝料200万円分割支払、今後Aとは一切接触しないとの合意
②平成25年1月23日、慰謝料200万円分割支払、今後Aとは一切接触しないとの合意
をしたにも拘わらず、平成25年3月29日,Aと不貞行為をしました(本件不貞行為)。

○被告男性は、合計400万円も分割支払を約束し、且つ、今後Aとは一切接触しないとの合意しながら、2回目の合意の僅か2ヶ月後にA女と不貞行為をしています。激高した原告は、被告に対し700万円もの慰謝料請求をしましたが、認容額は50万円でした。

○被告男性は、既に400万円も支払義務を認め誠実に分割支払を継続しているのだから、これ以上支払を認めなくても良いでしょうとの答弁をしており、私も、A女が自由意思で被告男性と関係をもったのだから、被告男性の主張に同感しますが、判決は50万円の支払義務を認めました。原告男性が、A女と離婚しないのが不思議であり、美人局の感がしないでもありません(^^;)。

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主  文
1 被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成25年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを100分し,その93を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

 被告は,原告に対し,700万円及びこれに対する平成25年3月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,原告が被告に対し,被告が,原告の妻であるA(以下「A」という。)との間で不貞行為をしたことに基づき合意された原・被告間の2度にわたる後記各示談(以下一括して「本件各示談」という。)の後の平成25年3月29日に再び不貞行為をし(同日の不貞行為を以下「本件不貞行為」という。),原告の貞操権を侵害したことに基づき,慰謝料700万円及びこれに対する不法行為の日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提となる事実(争いのない事実と,括弧内の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,括弧内に証拠等の記載のないものは当事者間に争いがない。)
(1) 当事者の地位

ア 原告とA(両名を一括して「原告夫婦」という。)は,平成18年12月24日に婚姻して子をもうけた夫婦である(甲10,弁論の全趣旨)。
イ 被告は,本件不貞行為の当時,原告夫婦と勤務先会社を同じくする既婚男性であり,原告夫婦が婚姻する前からの共通の知合いである。

(2) 本件各示談の成立
ア 本件示談1
被告は,平成23年12月頃から平成24年10月までの間にAと不貞行為をし,同期間中の不貞行為に関して,同月30日,原告との間で,被告が原告に対して上記不貞行為を認めて謝罪した上,不貞行為による慰謝料200万円を分割して支払うこと(年に2回の賞与支給月には月額5万円ずつ,その余の月に月額1万円ずつ),今後Aとは一切接触しないこと等を合意し(以下「本件示談1」という。なお,同示談には違約金についての合意はなかった。),その旨記載された公正証書が,原告及び被告の嘱託により作成された(東京法務局所属公証人B作成平成24年第0239号和解契約公正証書(乙1))。

イ 本件示談2
被告は,本件示談1の後にもAと接触して不貞行為をし,平成25年1月23日,原告との間で,被告が原告に対し,被告が本件示談1の後にその合意に違反してAとの接触を繰り返したことを認めて謝罪した上,同合意違反による慰謝料200万円を分割して支払うこと(年に2回の賞与支給月には月額5万円ずつ,その余の月には月額1万円ずつ),今後Aとは一切接触しないこと等を合意し(以下「本件示談2」という。同示談においても,違約金についての合意はなかった。),その旨記載された公正証書が,原告及び被告の嘱託により作成された(東京法務局所属公証人B作成平成25年第0007号和解契約公正証書(乙3))。

(3) 本件不貞行為
 被告は,平成25年3月29日,Aと不貞行為をした(本件不貞行為)。

2 争点
 本件の主要な争点は,
①本件不貞行為が婚姻関係破綻後になされたものとして違法性が阻却されるか(争点1),
②違法性が阻却されるとはいえない場合において,本件不貞行為による慰謝料額はいくらが相当か(争点2)である。

(1) 争点1(本件不貞行為が婚姻関係破綻後になされたものとして違法性が阻却されるか)
(被告の主張)
過去2回にわたる不貞行為の発覚により,本件不貞行為の時期においては,原告夫婦の婚姻関係は既に破綻していたから,本件不貞行為は,新たに原告に対する不法行為を構成するものではない。

(原告の主張)
本件不貞行為が行われた平成25年3月29日は,原告が被告との間で本件示談2を結んだわずか2か月後であり,当時,原告は,建築中の自宅の間取りや家具選びについてAの意向を聞き入れるなどして夫婦関係を良好なものとするための努力をしていた。よって,本件不貞行為の当時,原告夫婦の婚姻関係が破綻していたということはない。

(2) 争点2(本件不貞行為による慰謝料額はいくらが相当か)
(原告の主張)
①被告とAの不貞関係が複数年にわたっていたこと,②被告は原告が慕っていた職場の先輩であったこと,③被告が,Aとラブホテル等で継続的に不貞をしたのみならず,勤務時間中に社内のトイレにAを呼び出して性的な行為を強要していたこと,④被告の不貞行為が本件各示談に反するものであること,⑤被告の不貞が原告に発覚した後,被告が,自己の責任を免れようとして,上記不貞をAが主導していたかのようなメールを書くよう同人に強制するなどして,原告との協議を有利に進めようと画策したことから,原告が本件各示談以降の被告の不貞行為により被った精神的苦痛は甚大であり,本件各示談により原告の被告に対する合計400万円の債権が生じていることは,本件における慰謝料額に影響を与えるものではない。以上の事情によれば,本件不貞行為による慰謝料額は700万円を下らない。

(被告の主張)
本件不貞行為が新たな不法行為を構成するとしても,①平成23年12月頃から平成25年3月29日までの一連の不貞行為により原告の夫としての地位を侵害したものであり,原告が主張する事実は,本件各示談で合意された合計400万円の慰謝料により評価され尽くしていること,②本件各示談により被告が負担した400万円の慰謝料は高額すぎること,③Aとの関係は,Aの主導により続いたものであり被告の帰責性が小さいこと,④原告が,Aと離婚せずにおり,同人を宥恕しているために,同人に慰謝料の支払を請求していないこと,⑤被告が経済的に逼迫している中で本件各示談による慰謝料の分割金を誠実に支払い続けていること,⑥被告が勤務先会社内で短期間に2回の異動を命じられ,事実上の制裁を受けていることから,被告は,既に本件各示談により負担した400万円を超える慰謝料支払義務を負担しない。

第3 争点に対する判断
1 前提となる事実
,証拠(甲1ないし8,10ないし13,乙2,4ないし22(ただし,これら書証のうち枝番が付されたものはすべての枝番を含む。),証人A,原告本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,本件の全証拠中にはこの認定に反する証拠は見当たらない。
(1) 原告,被告及びAは,十数年前に同じ店舗で稼働してその後別の店舗での稼働が続いていたところ,平成22年11月頃から被告とAが再び同じ店舗で稼働するようになった。被告とAは,その後個人的に親しくなり,平成23年12月27日に最初の不貞行為に至ってそれ以降も交際を続け,平成24年9月頃,そのことが原告に知れた。このため,同年10月30日,被告が原告との間で本件示談1に係る合意をすることで一応の解決が図られた。

(2) ところが,被告とAは,本件示談1の合意に反して交際を続け再び不貞行為に及び,そのことが,平成25年1月8日に原告に知れた。当時,原告とAは,自宅を新築中で,その上棟式を控えていたが,上記の不貞の発覚のために,Aがその実家に一時的に身を寄せ,数日後,Aが自宅に戻って再び一家で同居をするようになった。原告は,Aが被告との関係を終わらせて原告との関係を修復するつもりで帰ってきたものと思い,今後Aとの婚姻関係を維持していくつもりで,被告との間で,同年1月23日に本件示談2に係る合意をし,その後,完成した上記新居にAと共に転居した。

(3) 一方,被告とAは,原告に本件示談1の後の不貞行為のことを知られてからも互いの配偶者から隠れて頻繁に連絡をとり,本件示談2を経ても交際をやめることなく平成25年3月29日の本件不貞行為に至り,その後も原告や被告の妻に上記交際の継続を知られた同年5月頃まで頻繁に連絡をとりあっていた。

2 原告が争点2において主張する③の事実(被告のAに対する性的行為の強要)及び⑤の事実(被告のAに対するメール作成の強制)については,証人Aが,これら主張事実に沿う証言をしており,同人の陳述書にも同様の陳述があるが,被告はこれらを否定しており,本件の全証拠中には上記証言及び陳述を裏付けるのに足りる証拠は見当たらないから,上記各事実を認めることはできない。

 被告が争点2において主張する③の事実(Aによる一連の不貞行為の主導)については,両名の交際の経緯は前記1で認定したとおりと認められ,これを全体として考察すると,Aが被告に宛てた電子メールや手紙の内容(乙4ないし15(枝番が付されたものはすべての枝番を含む。),20,21,23)を考慮しても,Aが一連の不貞行為を主導したとまでは認められないから,これを認定できない。

3 争点1(本件不貞行為が婚姻関係破綻後になされたものとして違法性が阻却されるか)についての判断
 前記1の認定事実によれば,本件不貞行為が行われたのは,一時実家に戻ったAと原告が再び同居を始めてからわずか約2か月後のことで,当時,少なくとも原告においては,Aとの婚姻関係を修復するつもりで同人と夫婦として生活していた時期であったものと認められるので,本件不貞行為がなされたときに,原告とAの婚姻関係が破綻していたものとはいえない。
 よって,争点1についての被告の主張には理由がなく,本件不貞行為の違法性が阻却されるものとはいえない。

4 争点2(本件不貞行為による慰謝料額はいくらが相当か)についての判断
 前記1の認定事実によれば,原告が,本件不貞行為により,本件示談2を経た後に新たに貞操権を侵害され,精神的苦痛を被ったことが明らかに認められる。ここで,被告は,本件不貞行為については,本件各示談で高額な慰謝料が合意されたので既に慰謝されている旨を主張するのであるが,本件各示談の合意当時には,被告とAの不貞関係が続くことは前提とされず,むしろ,同関係を絶つことが合意されていたのであるから,被告が原告に対して本件各示談に基づき高額の慰謝料支払債務を負担したことにより原告の上記精神的苦痛が既に慰謝されたものとは評価できず,被告は原告に対し,本件各示談により負担した慰謝料とは別に,本件不貞行為による慰謝料を負担するべきである。

 そして,上記慰謝料額の判断にあたっては,本件不貞行為が2度にわたる本件各示談に違反する形で行われ,また,それが,原告がAとの婚姻関係の維持を期待して同居を再開した矢先に行われたものであるために,本件不貞行為によって原告が被った精神的苦痛が甚大といえること,一方,原告が主張する本件各示談の成立以前の不貞行為や接触行為については,本件各示談によって定められた慰謝料によって既に慰謝されているといえること,本件示談2の成立以降の不貞行為は1回であり,本件示談2以降の交際期間は長くはないことを総合的に考慮するべきものと解され,そうすると,本件不貞行為による慰謝料額は,50万円とするのが相当である(なお,被告が争点2において主張する④,⑤及び⑥の事実は,原告の慰謝料額を上記認定額以上に減額するべき事情とはいえず,上記判断を左右しない。)。

5 小括
 以上の検討によれば,原告は,被告に対し,本件不貞行為による慰謝料として50万円及びこれに対する本件不貞行為の日である平成25年3月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を取得したものと認められる。

第4 結論
 以上によれば,原告の本件請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判官 作原れい子)

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