小松法律事務所

離婚後の再婚と養子縁組により養育費の減額を認めた家裁審判紹介


○「離婚後の再婚と養子縁組により養育費の減額を認めた高裁決定紹介」の続きで、その第一審である平成29年10月20日旭川家裁審判(判時2373号49頁)を紹介します。

○事案は、
・申立人と相手方は、平成24年×月に婚姻し、平成25年×月、長女A(未成年者)をもうけたが、平成27年×月、未成年者の親権者を相手方として、養育料月額金4万円をする公正証書を作成して協議離婚、
・申立人は、平成29年×月、再婚し、同月再婚相手の長男及び長女と養子縁組
・申立人は、相手方に対し、平成29年×月、旭川家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てたが不成立




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主   文
一 当事者間の旭川地方法務局所属公証人小鹿愼作成の平成27年××月××日付け子の監護に関する契約公正証書(平成27年第×××号)第二条に定められた未成年者の養育費の支払義務のうち平成29年××月分以降について、次のとおり変更する。
 「甲(本件申立人)は乙(本件相手方)に対し、丙(本件未成年者)の養育費(学費に要する養育費を含む。)として、平成29年××月から丙(本件未成年者)が満20歳に達する日の属する月まで、一か月金3万3000円ずつを毎月5日限り、持参又は乙(本件相手方)の指定する金融機関の乙(本件相手方)名義の預貯金口座に振り込んで支払う。
 振込手数料は甲(本件申立人)の負担とする。」
二 手続費用は、各自の負担とする。

理   由
第一 申立ての要旨

 申立人は、相手方に対し、未成年者の養育費を月額6616円に減額することを求めている。

第二 当裁判所の判断
一 認定事実

(1)本件記録によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 申立人と相手方は、平成24年××月××日に婚姻し、平成25年××月××日に長女A(未成年者)をもうけたが、平成27年××月××日に未成年者の親権者を相手方と定めて協議離婚した。

イ 申立人と相手方は、平成27年××月××日付け子の監護に関する契約公正証書(平成27年第×××号。以下「本件公正証書」という。)第二条において、未成年者の養育費について次のとおり合意した。
 「甲(本件申立人)は乙(本件相手方)に対し、丙(本件未成年者)の養育費(学費に要する養育費を含む。)として、平成27年××月から丙(本件未成年者)が満20歳に達する日の属する月まで、1か月金4万円ずつを毎月5日限り、持参又は乙(本件相手方)の指定する金融機関の乙(本件相手方)名義の預貯金口座に振り込んで支払う。
 振込手数料は甲(本件申立人)の負担とする。」

ウ 申立人と相手方は、上記イの養育費についての合意をする前に相手方の両親を交えて協議をし、相手方の両親が、調査した金額として養育費の平均が月額2万円から4万円であると述べたことから、一旦養育費の金額を月額3万円とすることで合意をしたが、公正証書を作成した当日、相手方の提案に基づき、月額4万円とすることで合意をした。

エ 申立人は、平成29年××月××日に再婚し、同月××日に再婚相手の長男及び長女と養子縁組をした。

オ 申立人は、平成27年に272万円の給与を得たが、平成28年××月に退職した後、平成29年××月に再就職し、月額20万円の給与を得ている。

カ 相手方は、平成27年に316万8000円の給与を得たが、平成29年××月から現在の職場に勤務するようになり、同年××月に従前の職場を退職した。相手方は、平成29年××月分から××月分までの給与として、それぞれ18万2910円、17万4603円、20万1320円、21万5125円、21万5740円の支給を受け、これらを年額に換算すると237万5275円(円未満四捨五入。以下同じ。)となる。
キ 申立人は、相手方に対し、平成29年××月××日に旭川家庭裁判所において養育費減額調停を申し立てたが(同裁判所平成29年(家イ)第×××号)、同調停は同年××月××日に不成立となり、審判手続に移行した。

(2)申立人は、相手方が平成29年××月以降も、自らが従前の職場に所属するものとして名簿に掲載されている一般社団法人Bの活動に参加し、平成29年××月号のフリーペーパーに従前の職場に所属するものとして掲載されているとして、これらのことを示すウェブサイトやソーシャルネットワーキングサービスの投稿記事を提出するが、これらをもって相手方が現在も従前の職場に勤務していると認めることはできない。

二 前記認定事実によれば、本件公正証書が作成された後、申立人が再婚相手の子らに対する扶養義務を負うに至ったことや当事者双方の収入が変動したことにより、本件公正証書において未成年者の養育費を決める際に前提とされた事情は変更されている。そこで、本件公正証書が作成された後の事情を考慮して未成年者の養育費を算定するのが相当である。
(1)まず、本件公正証書が作成された平成27年××月当時の双方の収入や扶養家族の状況を前提として、東京・大阪養育費等研究会による標準算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下参照)を参考に養育費の額を試算する。
ア 平成27年に申立人は272万円、相手方は316万8000円の給与収入を得ていることから、申立人の基礎収入を総収入の38パーセントに相当する103万3600円、相手方の基礎収入を総収入の38パーセントに相当する120万3840円とするのが相当である。

イ 本件では、義務者である申立人の基礎収入よりも権利者である相手方の基礎収入の方が高額となることから、双方とも申立人の収入と同額である場合に申立人が支払うべき費用を上限としつつ、未成年者が相手方と同居している場合の未成年者の生活費を基準とすべきである(判例タイムズ1111号291頁参照)。また、成人である申立人及び相手方の生活費割合を100とすると、未成年者の生活費割合は55となる。
 そうすると、未成年者が相手方と同居している場合に未成年者に割り振られるべき生活費は、次の計算式のとおり、42万7169円となる。
120万3840円×55÷(100+55)=42万7169円
 これを申立人と相手方の基礎収入に応じて按分すると、申立人が負担すべき未成年者の養育費は、次の計算式のとおり、19万7334円となる。
42万7169円×103万3600円÷(103万3600円+120万3840円)=19万7334円

ウ 他方、当事者双方とも申立人の収入と同額の103万3600円であるとした場合、未成年者に割り振られるべき生活費は、次の計算式のとおり、36万6761円となり、これを双方の収入で按分(いずれの収入も同額であるから、上記金額に二分の一を乗じることとなる。)すると、申立人が負担すべき未成年者の養育費は、18万3381円となる。
103万3600円×55÷(100+55)=36万6761円

エ 上記イの金額と比較して、上限となるべき上記ウの金額の方が低額となることから、未成年者の養育費の試算額は、上記ウの金額により、年額18万3381円(月額1万5282円)となる。

(2)次に、現在の双方の収入や扶養家族の状況を前提として、前記標準算定方式を参考に養育費の額を試算する。
ア 現在、申立人は月額20万円(年額240万円。なお、相手方は、申立人の現在の収入につき、残業代が全くなく、月収が一律である点が極めて不自然であるとし、現在も平成27年当時と同等の収入があるものとみるべきであると主張するが、申立人が実際に上記金額を上回る収入を得ていると認めることはできないことから、上記金額により算定するのが相当である。)、相手方は年額237万5275円の給与を得ていることから、申立人の基礎収入を総収入の39パーセントに相当する93万6000円、相手方の基礎収入を総収入の39パーセントに相当する92万6357円とするのが相当である。

イ また、成人である申立人及び相手方の生活費割合を100とすると、未成年者、申立人が養子縁組をした養子及び養女の生活費割合はいずれも55となるから、申立人の収入のうち未成年者の生活費に割り振られるべき金額は、次の計算式のとおり、19万4264円となる。
93万6000円×55÷(100+55+55+55)=19万4264円

ウ これを申立人と相手方の基礎収入に応じて按分すると、申立人が負担すべき未成年者の養育費の試算額は、次の計算式のとおり、年額9万7635円(月額8136円)となる。
19万4264円×93万6000円÷(93万6000円+92万6357円)=9万7635円

(3)上記(1)の養育費の試算額は月額1万5282円となるのに対し、当事者双方は、本件公正証書において、これを2万4718円上回る月額4万円の養育費とすることで合意しており、このことは、上記の養育費の金額が標準算定方式による試算額を上回る場合、その試算額に差額分(本件では2万4718円)を加算する趣旨であったと解することができる。
 そして、その後の事情の変更を考慮した上記(2)の養育費の試算額は月額8136円となるところ、現在における養育費の金額を決定するに当たっても上記の合意の趣旨を踏まえて同様の加算を行うのが相当であるから、加算後の金額は、月額3万2854円となる。

(4)以上を参考にしつつ、その他本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、申立人の負担すべき未成年者の養育費の額を月額3万3000円とし、同金額による養育費の支払の始期は、本件に先立つ調停が申し立てられた平成29年××月とするのが相当である(なお、上記金額は本件公正証書において定められた当初の養育費の金額を7000円下回るものであるところ、この差異は当初の養育費の金額の17・5パーセントに相当し、決して軽視することができず、当事者が当初の合意内容に拘束されることは著しく不当であるというべきであるから、上記のとおり減額をすることが相当である。)。

三 以上に対し、相手方は、
〔1〕本件公正証書において未成年者の養育費を定めるに当たり、申立人に再婚相手がいるか否か、扶養すべき子が何人いるかは合意の客観的基礎事情に含まれていないため、これらの事情の変更が客観的基礎事情の変更に該当しないこと、
〔2〕申立人の再婚及び養子縁組は、本件公正証書の作成当時において、容易に予見可能であったこと、
〔3〕申立人は、未成年者の養育費を減額させる意図で再婚及び養子縁組をしたものであり、婚姻制度及び養子縁組制度を濫用していること、
〔4〕仮に事情の変更により養育費を再度算定する場合であっても、申立人の再婚相手の収入を申立人の収入に加算する方法によるべきであること
等を主張する。

 まず,上記〔1〕の点については、義務者及び権利者の収入の多寡や扶養すべき子の人数は、子の養育費を定める際に考慮の対象となる基本的な事情であって、仮に当事者双方が本件公正証書の作成当時に標準算定方式による試算を行っていなかったとしても、上記各事情を当然の前提としていたものと考えられるから、上記各事情の変更が客観的基礎事情の変更に該当しないということはできない。

 また、上記〔2〕の点については、本件公正証書の作成当時、申立人が再婚相手から好意を持たれていることを認識していたことは認められても、同時点において申立人と再婚相手が恋愛関係にあったと認めることはできない上、申立人が自身と再婚相手の子らとが養子縁組をすることを予見し得るような事情があったということもできないから、申立人の再婚及び養子縁組は、当時予見し得なかった事情の変更に該当するというべきである。

 そして、上記〔3〕の点については、申立人がそのような意図により再婚及び養子縁組をしたと認めることはできない。
 さらに、上記〔4〕の点については、相手方が主張するような計算方法による場合、申立人の再婚相手の収入が、同人が何らの扶養義務も負わない未成年者の生活費として割り当てられる結果を生じることとなり、相当ということはできない。
 したがって、相手方の上記主張は、いずれも採用することができない。

四 よって、主文のとおり審判する。
(裁判官 高橋祐喜)