小松法律事務所

債務超過状態での財産分与が詐害行為に当たらないとした判例紹介


○多額の負債を抱えて倒産した夫が、協議離婚の際に財産分与として、妻が家業としておこなってきたクリーニング業の基盤となる夫名義の不動産を譲渡したことに対し、夫の債権者が、同譲渡が詐害行為に当たるとしてその取消しを求めました。

○これに対し、分与者が債務超過であるという一事によって、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、分与者が債務超過である場合であってもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないと解すべきであるから、分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消しの対象となりえないとした昭和58年12月19日最高裁判決(判時1102号42頁、判タ515号93頁)全文を紹介します。

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主   文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理   由
 上告代理人○○○○、同○○○○の上告理由第一点及び第二点について
 離婚における財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上の共同財産を清算分配するとともに、離婚後における相手方の生活の維持に資することにあるが、分与者の有責行為によつて離婚をやむなくされたことに対する精神的損害を賠償するための給付の要素をも含めて分与することを妨げられないものというべきであるところ、財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によつて得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法768条3項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによつて、なんら異なる趣旨のものではないと解される。

 したがつて、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によつて、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であつてもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。

 そうであるとするならば、分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。

 そこで、右のような見地に立つて本件についてみるに、原審の確定したところによれば、
(1) Aは、昭和22年7月25日被上告人と婚姻し、昭和31年から、兵庫県津名郡北淡町室津174番2の土地上のAの父B所有の建物でクリーニング業を始めたが、昭和49年ころからはクリーニング業は被上告人に任せ、自らは不動産業、金融業を始めるようになつた、
(2) そして、Aは、同年9月17日上告人と信用組合取引契約を締結し、上告人より手形貸付、手形割引等を受け、更に有限会社寿宝商事あるいは富洋設備という会社を設立して右会社名義においても上告人と信用組合取引契約を結び一時は盛大に事業を行つていたが、昭和51年11月手形の不渡を出して倒産するに至つた、
(3) 被上告人とAとの間には二男三女があるが、Aは、Cと情交関係を結んで子供まで儲けたうえ、多額の負債をかかえて倒産するに及んだので、被上告人は、その精神的苦痛だけではなく、経済的にも自己及び子供の将来が危ぶまれると考えて離婚を決意し、Aと協議の結果、被上告人においてこれまで子供らとともにやつて来た家業であるクリーニング業を続けてやつて行くことによつて二人の子供の面倒をみることとし、その基盤となる本件土地(前記174番2の土地、前同所174番3の土地の2筆の土地)を慰藉料を含めた財産分与としてAより被上告人に譲渡することになつた、
(4) そこで、被上告人は、昭和51年12月22日Aと離婚し、本件土地について代物弁済を原因とする被上告人のための所有権移転登記がなされた、
(5) 本件土地のうち、174番2の土地は、昭和35年ころ家業のクリーニング業の利益で買つて昭和51年5月31日所有権移転登記手続をしたものであり、174番3の土地は、昭和43年6月ころ同じくクリーニング業の利益で取得したものであつて、いずれもAの不動産業とは関係なく取得したものである、
(6) 被上告人らが住みクリーニング業を営んでいた家屋は、Bの所有であつて174番2の土地上にあつたが、室津川の河川改修のため兵庫県より立退きを迫られ、本件土地の一部は国に売却し、一部は他人の所有地と交換したため、結局被上告人は、分筆後の174番3の土地と交換により取得した前同所172番5の土地を所有することになつた、
(7)そこで、被上告人は、昭和52年3月前記家屋を取り毀し、同年11月ころ右両土地上に本件建物を代金1900万円で建築し、同年12月1日被上告人名義に所有権保存登記をしたが、被上告人は、右建築代金のみならず、設計料及び旧家屋取毀費用もすべて自ら完済しているので、本件建物は建築の当初から被上告人の所有に属しているものである、
(8)本件土地はAの唯一の不動産ではないが、同人所有の不動産であつて上告人のために担保として提供されている財産はごく僅かな価値しかないため、唯一に近い不動産であり、その価格は約989万円であるが、被上告人は174番2の土地に対する根抵当権を抹消するため約536万円を支払つた、というのであり、原審の右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし肯認することができる。

 そして、右の事実関係のもとにおいて、本件土地は被上告人の経営するクリーニング店の利益から購入したものであり、その土地取得についての被上告人の寄与はAのそれに比して大であつて、もともと被上告人は実質的にAより大きな共有持分権を本件土地について有しているものといえること、被上告人とAとの離婚原因は同人の不貞行為に基因するものであること、被上告人にとつては本件土地は従来から生活の基盤となつてきたものであり、被上告人及び子供らはこれを生活の基礎としなければ今後の生活設計の見通しが立て難いこと、その他婚姻期間、被上告人の年齢などの諸般の事情を考慮するとき、本件土地がAにとつて実質的に唯一の不動産に近いものであることをしんしゃくしてもなお、被上告人に対する本件土地の譲渡が離婚に伴う慰藉料を含めた財産分与として相当なものということができるから、これを詐害行為にあたるとすることができないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第三点について
 被上告人に対する本件土地の譲渡が詐害行為にあたるとすることができないとした原審の認定判断が正当として是認することができるものであることは、前記に判示するとおりであるから、論旨は、ひつきよう、原判決の傍論部分の不当をいうものにすぎず、採用することができない。
 よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮崎梧一 裁判官 木下忠良 裁判官 塩野宜慶 裁判官 大橋進 裁判官 牧圭次)