小松法律事務所

7年以上別居後も婚姻費用分担義務継続すべしと離婚請求棄却高裁判例紹介2


○「7年以上別居後も婚姻費用分担義務継続すべしと離婚請求棄却高裁判例紹介」の続きです。平成30年12月5日東京高裁判決(判タ1461号126頁)ですが、裁判所の判断の事実経過認定部分で(中略)として、省いた部分にも重要な事実認定がありました。

○後に代理人を辞任した一審原告代理人が、妻に離婚を勧める通知をしており、その通知文内容がほぼ全文掲載されています。離婚を頑として拒む相手に理屈をこねた文章を送ってもなんの役にも立たないことを判らせるためにわざわざ掲載したとすれば、ちと嫌みが感じられますが、代理人として心すべきところです。

○一審原告の実父が、息子の嫁である被告から献身的な介護を受け続け、それもあってか、被告を養子縁組するなどして被告側に全面的に協力していること、また2人の子供も両親の離婚に反対し、被告側に同調していることなども控訴審の判断に影響を与えたと思われます。

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(6)第1審原告は,離婚について弁護士と相談し,弁護士からのアドバイスにより,別居をある程度長期間継続すれば必ず裁判離婚が実現できるので別居を継続すること,離婚の際の財産分与の額は別居時の夫婦財産が基準となるので,新田のマンションの価額の半分を分与すればよく,将来の退職金や今後の貯金を分与する必要はないこと,離婚が成立するまでは子らと原則として会わないこと,亡一郎及び第1審被告とも原則として会わないこと,亡一郎と子らの面倒をみるのは全部第1審被告の負担とすること,月額20万円程度の婚姻費用を第1審被告に送金することを基本方針として実行することにした。

 第1審原告の代理人弁護士(当時)は,平成23年11月,第1審被告を相手方として東京家裁に夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てた。平成24年1月に第1審原告代理人弁護士(当時)から第1審被告に送付した文書(甲5)には,下記のような記載がある。

 記
 別居が一定期間継続すれば,二郎氏(第1審原告)は,裁判により離婚することができます。別居が一定期間継続した後に,行われる離婚の訴訟では,貴女が離婚をしたくないと主張をしたとしても,裁判所は,婚姻を継続し難い重大な事由があるとして,離婚を認めることになります。すなわち,貴女が離婚をしたくないと考えたとしても,日本の法律のもとでは,離婚が認められてしまうことになるのです。裁判所が,離婚を認めた場合には,裁判所が,二郎氏(第1審原告)と貴女の間の法律関係・財産関係を法律に基づいて,機械的に処理することになります。

(中略)財産分与は,結婚から別居までの婚姻期間中に形成された財産を分けるものですので,別居後に増えた財産は対象となりません。そのため,いつ離婚をしたとしても財産分与の額が増えることはありません。もっとも,不動産については,清算を行う時点で評価を行いますので,築年数の経過により,不動産の価値が減少し,財産分与の額は減少することになります。

(中略)貴女と二郎氏(第1審原告)が離婚を避けることはできず,裁判による離婚では,財産分与及び養育費はおおむね機械的に定められることになりますが,当方としては,貴女及びお子様達の今後の生活を考慮し,離婚に関する問題について話し合いを行うことを前提に,以下のご提案をさせていただきます。

(中略)二郎氏(第1審原告)も,現時点では,法律に従い,不動産を売却して売却益を折半とする方法での財産分与を考えております。もっとも,離婚を協議で進めていただけるようでしたら,売却益の折半よりも貴女に有利な方法での財産分与を行うこともやぶさかではありません。

(中略)裁判により離婚が成立することになりますと,養育費は算定表に基づいて金額を定められることになり,二郎氏(第1審原告)と貴女の場合には,18万円程度となります。養育費は,お子様の生活にかかる費用を負担するものですので,婚姻費用よりも金額が下がりますが,協議による離婚であれば,婚姻費用に近い額で養育費を定めたいと考えております。

(中略)先日,貴女から,なつこ様(二女)が二郎氏(第1審原告)に会いたいとおっしゃっているとお電話でお聞きをしましたが,離婚について争いがある現状では,二郎氏(第1審原告)もお子様とスムーズにお会いできない状況にあります。当方としては,1日も早く離婚を行うことがお子様の安定にもつながるものと考えております。

(7)平成24年6月に亡一郎が調停委員会に提出した手書きの文書(乙31)には,要旨,「① 第1審被告に渡していた月額10万円のことを第1審原告は知らないと思っていた,② 第1審原告と孫2人及び亡一郎がいつでも話せる携帯電話がほしい,③ 亡一郎の通院のため乗用車を購入してほしい,④家族が絆を断つことなく家族の許に戻り今迄通り幸せに仲良く暮らす事を強く願う。」という記載がある。第1審原告は,亡一郎の願いを一切かなえなかった。

 その後,調停は不調となり,第1審原告の代理人弁護士(当時)は,平成24年10月に第1審被告を被告として東京家裁に離婚訴訟を提起した。この訴訟で,第1審原告は,第1審被告と子ら2人だけがシンガポールから日本に帰国した平成19年3月以降,夫婦関係は悪く,別居状態にあった旨の虚偽主張をして,第1審被告の心情をいたく傷つけた。第1審判決では,婚姻関係を継続し難い重大な事由はないと判断されて,第1審原告の請求が全部棄却され,平成25年10月30日には控訴棄却判決が言い渡されて確定した。

 この間,平成24年12月21日,第1審原告が第1審被告に対して月額25万円の婚姻費用を支払う調停が成立し,履行されている。また,第1審被告は,体調の不良により検査を受けたところ,変形性頚椎症,脊柱管狭窄,神経根症の診断を受けた(乙44)。

 亡一郎は,自己や孫2人の面倒を一生懸命みてくれる第1審被告の将来を気にして,亡一郎と第1審被告との養子縁組の同意署名を求めて第1審原告に連絡をとったが,弁護士に電話せよというばかりで直接の連絡を拒絶された(乙26,27)。亡一郎は,第1審被告や孫2人の将来をますます案じて,第1審原告に連絡をとらないまま,栃木県所在の実家不動産の売却余剰金を第1審被告に贈与し,生命保険の保険金受取人を子ら(春子と夏子。亡一郎の孫)に変更し,平成25年10月には,亡一郎と第1審被告との養子縁組の届出をした。

(8)第1審原告は,平成25年に長崎に転勤し,平成26年4月に東京(本社)に転勤し,平成28年5月には宇都宮(現勤務地)に転勤したが,転勤の事実及び転勤先における住所・連絡先を第1審被告及び亡一郎ら家族に知らせなかった。

 第1審被告及び亡一郎は,平成26年以降も,第1審原告の代理人弁護士(当時)や勤務先に宛てて,子らの写真及び手紙などを送付するなどして連絡をとろうとしていたが,直接の対応は全部拒絶された。
 第1審被告は,平成27年5月頃,被扶養者として第1審原告の健康保険組合の手続をする過程で偶々第1審原告の居住先を知り,亡一郎を伴って同所を訪れたが面会できなかった。その後まもなく,1回目の調停及び訴訟を担当し,前記文書(甲5)を第1審被告に送付した弁護士が,第1審原告の代理人を辞任した(乙28~30)。

(9)亡一郎は,第1審被告の献身的な介護を受け続けて,平成28年11月28日に死亡した。葬儀に訪れた第1審原告は,第1審被告と亡一郎との養子縁組,亡一郎の生命保険の受取人の変更及び実家の売却金の第1審被告への贈与の事実を聞かされた。第1審原告の現在の訴訟代理人は,第1審被告を相手方として平成29年1月30日に東京家裁に夫婦関係調整(離婚)調停を申し立てたが,同年4月26日に不成立となった。

(10)第1審原告の現在の訴訟代理人は,平成29年6月6日に本件訴訟を提起し,さらに,第1審被告を相手方として婚姻費用減額調停を申し立てた。
 同年11月1日に,第1審原告と第1審被告との間で,①同月分以降の婚姻費用を20万円に減額すること,②二女の塾の費用,高校の学費及び進学に伴う特別の出費を要する場合には,その負担につき当事者間で別途協議して定めること,③第1審被告及び二女の病気,事故等特別の出費を要する場合には,その負担につき当事者間で別途協議して定めること,④第1審被告の居住するマンションの今後の固定資産税を第1審原告が負担することを内容とする調停が成立した(乙21)。

 長女は私立高校を卒業した。二女も同じ私立高校への入学を希望したが,第1審原告から,婚姻費用とは別に学費を負担することを拒否された。そこで,二女は,平成30年4月から,都立高校に通学している。
 現在,第1審原告の離婚の意思は強固である。第1審被告は,第1審原告から正直に話してもらえれば,話し合いながら婚姻関係が改善していくと考えている。

(11)長女は,就職して就職先の寮に居住し,経済的に自立している。二女は,第1審被告と同居し,平成30年4月から都立高校に進学し,現在,塾代を第1審被告が負担している。
 子らは,いずれも,第1審原告が突然別居を開始して第1審被告に対して離婚を求めて以降,第1審被告が苦労している状況を直接見ており,亡一郎の介護に協力してきたもので,現在でも,両親の離婚に強く反対している。
 第1審被告は,平成29年5月に不整脈の診断を受けて大学病院での治療を指示され,膝関節痛もある。第1審被告は,現在も無職であり,就業することによって身体に負担がかかり,体調が悪化することを懸念されている。

 他方,第1審原告は,現在もA株式会社に勤務しており,平成28年度の収入(課長職)は1112万6964円である(甲7)。