小松法律事務所

株式配当金は婚姻費用分担基礎収入にならないとした家裁審判紹介


○婚姻費用分担額の算定において、義務者の株式配当200万円を収入として加算すべき旨主張するが、婚姻費用分担額は生計維持に充てられる収入を基礎として算定すべきところ、同居時において、株式配当が夫婦の生活費に供されていたことを認めるに足りる資料はなく、株式配当を本件婚姻費用分担額算定の基礎である収入と認めることはできないとした神戸家庭裁判所伊丹支部平成30年3月23日審判(判時2407号30頁)全文を紹介します。

○この家裁審判は、平成30年10月24日大阪高裁決定で変更されており、別コンテンツで紹介します。

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主   文
一 相手方は、申立人に対し、金14万5000円を支払え。
二 相手方は、申立人に対し、婚姻費用分担金として、平成30年3月から当事者双方が別居解消又は離婚する日の属する月まで、毎月末日限り金8万5000円を支払え。
三 手続費用は各自の負担とする。

理   由
第一 申立ての趣旨

 相手方は、申立人に対し、婚姻期間中の生活費として、毎月相当額を支払え。

第二 当裁判所の判断
一 一件記録によれば、以下の事実を認定できる。

(1)申立人(昭和××年××月××日生)と相手方(昭和××年××月××日生)は、平成27年××月××日に婚姻した夫婦であるが、平成29年××月××日頃から別居をしている。両名の間に末成熟子はいない。

(2)相手方は株式会社A(本店は相手方肩書住所地《略》,役員は相手方のみ。以下「A」という。)を経営しており、役員報酬は年額504万円(月額42万円)である。また、平成29年××月には自社株から200万円の配当を得ている。 

(3)申立人は、婚姻後はAにて年額96万円(月額8万円)の給与収入を得ていたが、平成29年9月30日付けで退職扱いとなった。同月までは同社から給与として毎月8万円が申立人名義の口座に振り込まれていたが、同年10月から平成30年1月までは、相手方から生活費として毎月8万円が同口座に振り込まれた。
 申立人は平成30年1月××日からパート就労(ホテルのハウスクリーニング)を開始するとのことである。

(4)申立人は、相手方に対し、平成29年××月××日、当庁において本件に先立つ調停を申し立てたが、同調停は平成30年××月××日不成立となり、審判手続に移行した。


(1)前記事実のとおり、申立人は、平成29年××月××日頃に相手方と別居をし、同月中に本件に先立つ調停を申し立てて婚姻費用分担金の支払を求める意思を明らかにしていることから、本件では婚姻費用分担の始期を平成29年××月と定めるのが相当と認める(同月分も日割計算はしない。)。
 そして、婚姻費用分担額の算定に当たっては、標準的算定方式に基づき定められた算定表(判例タイムズ1111号285頁以下参照)を用いることが裁判実務上合理的とされていることに鑑み、同算定表に則って検討する。

(2)まず申立人の総収入について、申立人はAを平成29年9月30日で退職しているところ、その退職後平成29年10月から平成30年1月まで無職であったことはやむを得ないというべきである。そして、同年1月25日に就労を開始したとのことであるが、その年齢等に照らし、直ちにAの頃と同様の年収96万円を得られるようになるとも考え難いことから、同年2月以降の総収入はその半額の50万円程度と見ることとする。

 次に相手方の総収入についてであるが、Aは実質的に相手方の1人会社であるとうかがわれるところ、相手方は、相手方及び申立人に対する報酬を、自身の世帯に帰属する収入としてAより支給させていたものと考えられる。
 そうすると、申立人に対する報酬も相手方に対する報酬と同視するのが相当であるから、相手方の総収入は600万円であると認定できる。
 この点、申立人は、相手方が得た株式配当200万円を収入として加算すべき旨主張するが、婚姻費用分担額は生計維持に充てられる収入を基礎として算定すべきところ、同居時において、かかる株式配当が夫婦の生活費に供されていたことを認めるに足りる資料はない。
 したがって、上記株式配当を本件婚姻費用分担額算定の基礎である収入と認めることはできず、申立人の主張は採用できない。


(3)上記各総収入を前記算定表(表10・夫婦のみの表)に当てはめると、平成29年10月から平成30年1月までが8万円から10万円の枠内のやや上寄り、同年2月以降が同枠内のやや下寄りの位置となる。
 そこで、相手方が申立人に対して支払うべき婚姻費用分担金は、平成29年10月から平成30年1月まで月額9万5000円、同年2月以降は月額8万5000円と定めるのが相当と認める。
 そして、平成29年10月から平成30年2月までについてはすでに履行期が到来しているところ、同期間に支払済みの婚姻費用分担金は前記一(3)のとおり32万円(8万円×4月)にとどまるから、14万5000円(9万5000円×4月+8万5000円-32万円)が未払いと認められる。

三 よって、相手方は申立人に対し、婚姻費用分担金として、14万5000円を直ちに、平成30年3月以降は毎月末日限り8万5000円を支払うべきものと認め、主文のとおり審判する。
(裁判官 西谷大吾)